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転移ママの異世界奮闘記  作者: 平館 あや
第9章 『新たなサモンド』
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74話 転移と転生

新たなサモンド、ハンス王子は、死んだ旦那だった。


西條悟理(さいじょう さとり)。享年32歳。

元SE兼プログラマー兼コーダー兼システム部部長。

真面目で責任感が強く、人に優しく自分に厳しい。

頼まれたら断れないタイプ。自分の事より人の事を優先する、かなりのお人好し。

でも妻にだけは亭主関白。外面王。子煩悩。

小さい頃からのあだ名はゴリ。漢字のままだ。

好きな食べ物はカレーとハンバーグとコーン。

カレーなら1日3食毎日食べられる。というか実際に1ヶ月毎日3食カレー生活をやったことがあるらしい。

嫌いな食べ物はオクラ。理由は昔、ピーマンだと思って食べたらネバっとしたから。

趣味は釣り、サーフィン。

そもそも、海無し県に住んでおいて、その2つを趣味にするのが間違っている上、

釣りは知識は多いがほとんど釣れない、波乗りしに海に行くと波は大荒れ。

基本、運が無い。



私のよく知るその人が、姿を変えてそこにいた。


「さとり、、、パパなの?」

「紗奈、そうだよ。大きくなったね。」


紗奈の頭を撫でる。

見た目は8歳の少年と6歳の少女。

兄妹のようだ。


「パパはちっちゃくなっちゃったね!」

「ははっ。そうだなぁ。紗奈は正直者だなぁ。」


紗奈は何故、小さくなった外国人のパパと、普通に接してるのか。

理解が追いつかない。


転移と転生ということがある世界で、確かに可能性はゼロではない。


でも、、、


私は転移で、彼は転生。

私との外見の年の差はすでに20歳以上ある。


「理紗は、変わらないな。」

「私、29になったのよ。もう来年は三十路よ。」

「変わらないよ。」


悟理は懐かしそうに私を見た。


「結婚指輪、まだしてくれてるんだな。2人で作ったやつ。」

「あなたと結婚してたこと、忘れたくなかったから、、、」


旦那が死んでも、既婚者だ。


「まだ、“西條”って名乗ってくれてるんだなぁ。」

「、、、西條だし。」


旦那が死んでも、旧姓に戻す必要はない。



旦那が、、、死んでも。



「俺さ、死んじゃったんだよな?多分、会社で。」

「ええ、心筋梗塞だったわ。」

「そうか。苦労かけたなぁ。」

「いえ、悟理が死んですぐに私たちも転移したから、、悟理のお葬式は義父さんたちがやってくれたと思うけど。」

「そっか。俺はとんだ親不孝者だなぁ。」

「私もよ。」


両親4人ともあっちの世界で生きている。

子供に先立たれた悟理のご両親の顔は目に焼き付いている。

自分の両親にも同じ顔をさせているかもしれないと思うと、胸が締め付けられる。


「紗奈の4歳の誕生日も祝えなかったなぁ、、ごめんな。」

「さーちゃんもうすぐ6歳だよ!」

「6歳なんだから、“私”って言えよ。」

悟理は笑いながら紗奈に言った。


「あたち!」

「滑舌悪いのは相変わらずだなぁ」

「これでも良くなったのよ。」


悟理は笑いながらボロボロと泣いていた。



「ぱぱー」

凪紗が悟理を指差す。


「凪紗、すごいなぁ!俺のことわかるのかぁ?」

「ごめん、違う。ただの“パパ”ブーム。私も紗奈もメイドさんもみんなパパよ。」

「、、そっか。」


悟理は見るからにしょんぼりした。

嘘でもわかるのよ?って言っておいた方がよかったかもしれない。


「凪紗、パパよ。抱っこしてもらいなさい」

「ぱーぱ」

「ちょ、いきなりかよ!子供を抱っこするのなんて何年か振りだぞ!俺の体だってこんなに小さい。」


凪紗は本当に父親と理解しているのか、人見知りせずしっかりと悟理にしがみつく。


「凪紗、初めましてだな。可愛いけどさ、笑っちゃうほど前世の俺に似過ぎだろ。将来ブサイクになっちまうなぁ。凪紗、悪いなぁ。」

「あなたはかっこよかったわ。凪紗も美人さんになるわよ。」

「お前は子供に『可愛い可愛い』しか言わないからなぁ。」



変わらぬ口調、変わらぬ仕草、

なのに見た目は8歳の外国人だ。



もし名探偵の小学生の正体が、幼馴染のお姉さんにバレたとしたら、そのお姉さんはどんな反応をするのだろう。

こういう時、どんな態度を取るのが正解なんだろう。


私は泣くでもなく、笑うでもなく、抱きつくでもなく、

ただ、“当たり障りのない対応” をしていた。



ーーーー


凪紗はすぐに悟理の抱っこから降り、

部屋をウロウロし始める。


「もうこんなにしっかり歩けるのか!さすがサモンドで俺の子だなぁ!」

「ぱーぱー」

「もう1歳3ヶ月よ、紗奈もこれくらいの頃は普通に歩いてたわ。」

「そうか。もうそんなに大きいのか。それにしても、可愛いなぁー。」


そう嬉しそうに話す悟理の姿は少年。

どうしても妹を見ているお兄ちゃんに見えてしまう。



頭が混乱する。



しばらくすると凪紗は1人遊びを始めた。

ひたすら高級そうな絨毯をむしろうとしている。

凪紗を止めようとすると、悟理が楽しそうだからやらせといて良いと笑った。


「紗奈はママが側にいないとすぐに泣いてたけど、凪紗はどうなんだぁ?」

「凪紗は平気。2人目は手がかからないって本当ね。紗奈もしっかりお姉ちゃんしてくれるし。」

「本当に良い子だなぁ。可愛いなぁ。」

「悟理も可愛いしか言ってないじゃない。」

「ははっ。そうだな。」



紗奈が悟理の腕をひっぱって話しかける

「ねーえーパパ!パパはハンス王子でこんにゃくしゃなの?」

「それは、、、」


婚約話。そんなのあったな、、

まさか婚約相手が親子だったなんて、、


「さーちゃん、アナだから、パパとけっこんする!」


悟理が悲しそうに紗奈に話す。

「紗奈、ハンス王子はパパだから、結婚できないんだ。」

「なんで?ハンス王子は悪い人だから?でも、さーちゃん、パパ、大好きだからけっこんしたい!」


紗奈は物語のハンス王子と混ぜこぜにして話すので分かりづらい。


「パパがね、紗奈と結婚したくないんだ。紗奈のパパだからなぁ。」


「じゃあパパはママとけっこんするの?」

「もうママとは結婚してるよ。、、、」


前世で。だ。


今世では結婚していない。ただの王子と一般庶民だ。

8歳と29歳だ。


悟理は困った顔をして私に言った。



「理紗は、もう一度、俺と結婚してくれる?」



ーーーー



、、、結婚、、、



「悟理は王子様でしょ。それは世間が許さないわ。悟理が成人する頃には私は36歳よ。狂った王子が2人も子供がいる年増を娶ったって笑われるわ。」


「そっか。理紗もショタコン扱いされちゃうなぁ。でも、紗奈とも凪紗とも結婚しない。俺から父、、国王にも話すから。」

「うん。ありがとう。」


「えー!さーちゃん、パパとけっこんできないの?」

「そうだぞ。ハンス王子だからな。婚約破棄だ!悪いやつだろぉ。」

ガオーのポーズで紗奈をこちょこちょする。


「やー!パパきらい!さーちゃん、ゆうしゃさんとけっこんする!」

「ん?勇者さんって、アルクさんか?」

「うん!さーちゃん、ゆうしゃさんも大好きだからけっこんするもん!ママもゆうしゃさん大好きなんだよね?」


答えにくい質問をされた。

一瞬目が泳ぐ。


「、、そうね。」


アルクには何度も助けてもらって、好意も十二分に感じていて、一緒にいて心地良いと感じているのは確かだ。

いや、回りくどい言い方をするのはやめよう。

私はアルクが好きだ。

死んだ悟理への罪悪感と子持ちという後ろめたさから、奥に踏み込まなかっただけだ。


浮気、、、という言葉が頭をよぎる。

悟理と目が合わせられない。


「そうだよなぁ。アルクさん強いし優しいしかっこいいもんな。俺なんて8歳のガキなんだもんなぁ。

せめて理紗と同じくらいの年齢に生まれ変わってたら、アルクさんと張り合うこともできたのに、、」

「、、、。」

私は何も言えなかった。



ダンっ!!!


突然、悟理が机を強く叩いた。

大きな音がした。


「ふえーーーーん」

「パパ、、ぅ、、うわーーん」

ビックリした凪紗と紗奈が泣き出した。



「なんでだよ!!なんで俺が転生でお前が転移なんだよ!!」



そのまま悟理は部屋を出て行った。



2人の子供の泣き声が部屋に響く。



『見た目は子供でも中身は大人だから、対応を間違えないように』

アルクに言われた言葉を思い出した。


思い出したところでどうにもならない。

体と心の違いについていけない。

私がそうなのだから、

本人はきっと、もっと、、、


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