7話 王都でお買い物 -洋服篇-
無事仲直りを済ませ、
玄関でアルクに見送られて帰路についた。
「ただいま戻りましたー。」
「ママーおたえりー♪」
「お帰りなさい!」
リビングでエマと紗奈に迎えられる。
「どうだった?」
「無事、仲直りできたわ。」
「ママ、えらたったねぇー」
偉かったねだ。
「そっか。よかった!」
「エマもありがとう。おかげさまで次会った時に気まずくならずに済みました。」
「いえいえ。ご近所付き合いは大事ですからね。」
エマは笑った。
「じゃ、馬鹿の処理も済んだことだし、今から王都観光に行くわよ♪また商業区だけどね。」
「はーちゃんもー!」
エマはサバサバしてて、とても話しやすい。
出会ってすぐなのに、昔からの友達みたいな感じで接してくれる。
右も左もわからない異世界でとても心強い存在だ。
お世話係様様だ。
ーーーー
本日の王都観光の目的はショッピングだ。
着の身着のままで転移してきたので、日用品、衣類から衛生用品、全て一から揃えないといけない。
「私、お金持ってないんだけど、、」
「リサ達がこっちに来た時に倒したゴブリンの討伐報酬があるわ。それで足りない分は私が立て替えておくわ。」
転移時に私が無我夢中で倒したゴブリンを、わざわざ換金しておいてくれていたらしい。無一文だったのでありがたい。
「あとサモンドは国から初任給、、というか、こっちに来た見舞金のようなものね。それと、毎年上級貴族並みの年金が出るわ。そのお金がもらえるのは王との謁見後になるけどね。」
サモンドはかなり手厚い待遇を受けられるようだ。
徴兵令は絶対で、世界のために命を掛けてくれと言っているようなものだから、当然といえば当然なのだろうけれど。
夫婦ともに安月給で働いていて、結婚しても常に財布とにらめっこしていた前の世界と比べると、何もせずにお金が入ってくるなんて夢のようだ。
「この世界のお金ってどうなってるの?」
「あ、これがリサのゴブリン代が入ったマネーカード。」
お金の単位は“ルーク”で、世界共通らしい。
幸いなことに、1ルーク1円くらいの相場だ。
りんご1個100ルーク
米は2キロ1000ルーク
服は新品1着1500ルークから。
ゴブリンの討伐は一匹2000ルークで、
53匹いたそうで手持ちは10万6千ルークだ。
我ながら倒しまくった。
そして、この世界のお金はかなり電子マネー化が進んでいた。
マネーカードとよばれる魔道具をレジで精算用の魔道具にタッチするだけだ。
現金も存在するが、今は8割の人が電子マネーを使っているらしい。
「現金を使っているのは新しいものに抵抗があるお年寄りか、マネーカードを持てない子供くらいね。」
お金の価値を理解するのに現金は必要だ。
子供は10歳になるまでカードを持てないそうだ。
ーーーー
「ってことで、荷物持ちにアルクを呼ぶわよ!」
「え、さっき別れたばかりなんだけど、、」
「どうせ暇してるのよ。問題ないわ。確かギルドに行く用事もあったはずだし。」
アルクの家の前でエマが叫ぶ
「アールーク!あーそーぼっ!」
どこの小学生だよ。
すぐにアルクが窓から顔を出す
「買い物に行くよーー!荷物持って。」
「、、、うっす。念話使えよ、、」
慣れてる、、
多分毎回これなんだろう。
程なくしてアルクが出てきた。
「ゆうちゃちゃん!おててつーなーご♪」
アルクに懐いている紗奈は上機嫌だ。
商業区は活気があった。
フランスのマルシェのようなカラフルな市場、フリマのような古着屋、路面店も多種多様だ。エリアが変わればオートクチュールのドレスやジュエリーを扱うお店もあるそうだ。
「とりあえず買わなきゃいけないのは衣類、日用品、装備品くらいかしら。最低限はうちのメイドが揃えてくれてるから、リサの好みで選ぶ必要があるものだけ買いましょう。」
「装備品!」
異世界っぽいワードが出てきた。
「装備品って何を買えばいいの?」
「2人は魔術師になるから、とりあえず杖とローブね。この世界に魔術を扱うのはサモンドとエルフしかいないから、ローブは基本オーダーメイドになるわ。杖も同じ店に売ってるの。初心者用のを買っておくようにってギルさんに言われたわ。」
最初にエマおすすめの衣料品店に来た。
「やっぱり一番テンションの上がる服屋からね!」
「賛成!」
「あ、時間かかると思うから、アルクはギルドに行ってきていいわよ。用事があるんでしょ?」
「おう」
女の買い物は長い。
的確な判断だ。
この世界の服は意外と可愛い。
サモンドから縫製知識、裁縫技術がもたらされ、デザイナー、パタンナーも存在する。
今のファッションリーダーは俄然、エマらしい。
そしてエマはファッションデザイナーとしても活躍しているそうだ。
服のどこかに「em」と刺繍が入っているのがエマの作品らしい。
エマ、前世の名前のエミリー、どちらも「em」だからそうしたそうだ。
もちろんアルファベットはこちらの世界で通じない。
異世界人的にはお洒落なブランドロゴに見えるそうだ。
「前世ではね、昔からやってたダンスの道に行くか、昔から好きだったファッションの道に行くか悩んでた時期に死んじゃったのよ。ダンスは振りとか曲を理解してくれる仲間がいなかったから諦めたけど、まさかこんなにあっさりファッションの道に進めるとは思わなかったわ。」
享年16歳。
やりたいことも色々あったのだろう。
「ママも“でないなー”なんだよね?」
「そうよ。ジャンルは違うけどね。」
「え!?デザイナーだったの!?そういえば職業聞いてなかったわ!ジャンルは?もしかして服!?私、プロを前に偉そうに自分のデザイン自慢してた?!」
エマが顔を赤くさせている。
まさか私がデザイナーだとは思わなかったのだろう。
「あ、服じゃないわ、、ウェブよ。」
「ウェブ?、、、あー、インターネット。オタクの世界だと思ってたけど、リサみたいな普通の人もいるのね。」
なんだこの落胆っぷり!そして偏見!
こっちが落ち込むじゃないか!
オタクって何だ!私の先輩デザイナーも学校時代の友達も、みんな普通だぞ!
まぁ、社内にガチオタもいたが。
「じゃあ、デザイナーの先輩として、アドバイスを聞かせて!こっちでデザインを色々やらせてもらってるんだけどね、どうも前世で見たようなものばかりになるのよ、、」
エマはどうやらデザイナーとして煮詰まっていたらしい。
見せてもらった服はどれもオシャレで可愛いが、前世で見て可愛いと思ったデザインをアレンジしているそうだ。
「デザインなんてそんなものよ。私も人のデザインを真似て真似て、自分のものにしていったわ。今でも煮詰まるとすぐに人のデザインを見に行くし。」
“今でも”と言ったが、パソコンの無いこっちの世界でウェブデザインをやる事はもうないだろう。
「そっか。そんなもんか。安心したわ!」
「まぁ、そんな偉そうなこと言えるほどデザイナーをやってたわけじゃないけどね。」
歴としては7年だが、出産育児でブランクもある。
こっちの世界でファッションデザイナーを始めたエマと歴は大差なかった。
「この服可愛い!紗奈にぴったり!」
子供服コーナーで足が止まる
「ひらひらしゅきー♪」
「これも可愛いー!!どう?紗奈。」
「はーちゃんしゅきー!はーちゃん、ほれも!!」
「うん!可愛いー♪」
「、、、ねえ、さっきからサナちゃんの服ばっかりじゃない、、自分のは?」
紗奈を産んでから、ついつい子供服にばかり目がいく。
小さいサイズがさらに可愛く見えるのだ。
逆に自分の服にはかなり無頓着になった。
「何でもいい。安いの数着、適当に、、」
「女子力低っ!!」
「子持ち人妻は女子じゃないから。」
「自虐的、、アメリカのセレブ女優達はみんなおしゃれママだったわよ。」
どうせ紗奈と一緒にいると汚れるのだ。
安価で動きやすさ重視が一番だ。
もちろんそうじゃないママさんも沢山いたが、私はおしゃれママにはなれなかった。
「リサの分は私が選ぶ!」
エマは張り切って次々と買い物かごに入れていった。
いくつか試着してみる。
「ちょっと胸がきつい、、、」
「見つけた時から思ってたけど、、リサって、胸でかすぎ。。」
私は自他共に認める巨乳だ。
残念ながら昔からよく牛とあだ名を付けられる。
だいたい皆んな会って初めては胸を見てくるし、
気持ち悪い視線は日常茶飯事。
女友達からは羨ましがられるが、得をしたことは何一つない。
「大きいのも悩みの種よ。肩凝るし、将来垂れるし。」
「、、、それよ!リサがこの世界に来るときに付けていた下着を商業ギルドに提供して量産してもらいましょう!この世界の女性を救うと思ってさ!」
「それはちょっと。。。」
「知ってる?この世界のブラって、つけ心地最低よ」
「、、、」
「将来もっと垂れやすくなるわよ」
「、、、、貸すだけなら、、、。女性限定で。」
「やったーー!下着界の救世主!!」
私も商業ギルドに登録をすることになった。