66話 獣人と人族
「あ、リサ、気付いた?」
目を覚ますと、ララがいた。
「ん?ここは、、、」
見た感じ、洞窟だ。
「まだイーファーの森よ。王都までリサを負ぶって帰ることも考えたんだけど、大雨になっちゃってね。スヴェンが危険と判断したのよ。」
「でも洞窟?テントは?使わないの?」
「まだキングフロッグが大量発生してるから、潰される可能性があるのよ。」
巨大ガエル、、、
先ほどの気持ち悪さを思い出して身震いする。
「リサはカエルが苦手だったんだな。」
ブルースが笑いながら言った。
「ゾンビもグールもあれだけサクサク倒しておいてそれはないですよ。」
ギルド職員のアルバンも笑っている。
「スヴェン達は?」
「3人で洞窟の入り口を見張ってるよ。カエルを一匹でも入れたら、魔術師がまた魔術を乱発するだろ。」
「あ、、、ごめんなさい。。」
見るとみんな、手足に火傷を負っていた。
「これ、もしかして私の電撃で、、、、?」
「はははっ。そうだぞ。ちょっと治癒かけてくれ。それでチャラだ。」
ブルースが悪戯に笑った。
私は一人一人に謝りながら治癒魔法をかけて回った。
洞窟の入り口にいる3人にも治癒魔法をかける。
「ほんと、ごめんなさい、、、」
「気にするなって。魔術師姉さんの可愛いところが見れて面白かった。」
ゲッツが笑いながら言った。
ゲロゲロ
森の方から鳴き声がし、キラリと光る目が見えた。
「イヤーーーーーーーー!!!!!」
私は思わず目の前のゲッツに抱きついた。
「お、本日二度目のラッキースケベ。」
「、、、二度目?」
私は訝しげに聞いた。
「俺がリサを負ぶったんだ。リサの胸が背中に当たってラッキー♪って。」
「、、、、、スパーーーク!!!!」
外のカエルが全滅した。
「さすが、すごい威力だな。俺たちが食らったのの何倍の威力だ?」
「おいゲッツ、魔術師を怒らせるなよー!今度は死ぬぞー」
スヴェンとトーマスが笑いながら言う。
「、、ごめんなさい、、もう言いません。。」
ゲッツはガタガタしていた。
ーーーー
雨も止まないのでそのまま洞窟で野営だ。
夜が明けるまで交代で見張りをする。
のだが、とにかくカエルが怖い私は、洞窟の入り口を上部に何十センチかの空気穴だけ残して土壁で塞いだ。
「魔術師ってずるい、、」
「巨大な土壁をこうもあっさりと、、」
「これなら見張りも楽だな。」
一応土壁が壊されることも想定し、見張りは必要だ。
「あ、すいませんが、僕は明日も仕事があるんで帰りまーす。」
ギルド職員のアルバンが手をひらひらさせた。
「アルバン、この雨の中一人で平気?」
ララが問いかける。
「ここ、イーファーですよ?大丈夫に決まってるじゃないですか。手足の怪我も治ったし、木を伝えば一瞬で抜けられますよ。じゃ、皆さんお疲れ様ー!」
そう言うと、アルバンはささっと土壁を登って、隙間から出て行った。
「速い、、、」
「猿の獣人はな。木登りも得意だし、木から木に飛び移ることもできる。鼻は効かないらしいが、耳も良いからな。諜報にはもってこいの種族なんだ。」
ブルースが言った。
「木登りなら私も得意よ。」
猫の獣人ララもドヤ顔で土壁を登った。
あっさりと攻略される土壁。
「、、、、土壁、もっと高くしとこうかしら、、」
隙間からカエルに侵入されたらたまったもんじゃない。
「キングフロッグはこの隙間はくぐれないぞ?」
「キングじゃないカエルもダメだから!!絶対入れたくないの!」
念には念をだ。
ーーーー
夜中、目が覚めるとブルースが見張りをしていた。
ブルースは最後の見張りだ。
夜明けも近いだろう。
目も覚めてしまったので、私はブルースに話しかけた。
「猿の獣人って初めて会ったわ。」
「そうか?王都にいる猿顔は大体猿の獣人だぞ。」
「猿顔、、、確かにいるわね。」
「あいつら、尻尾を隠せば普通に人族に見えるから、人族に馴染んでるのかもな。他の種族も、結構帽子を被ったり、尻尾を隠してるやつもいるぞ。」
王都には結構な数の獣人がいるのかもしれない。
「そういえば、王都にいる獣人は種類が限られてるって前に話してたじゃない?」
「ああ。5種くらいかな。」
「前に獣人が人族を恨んでるって話もしてたわね?それ、詳しく聞いてもいいかしら?」
「ああ、良いぞー。今日は満月じゃないしな。」
外の土壁の隙間から雨を見ながら、ブルースは話し始めた。
ーーーー
2000年前、勇者が魔王に敗れるまで、全ての種族は皆同じ国に、好きな土地に暮らしていた。
エルフは魔術を扱う。
今と同様、人族に敬われ、頼りにされる存在だった。
ドワーフも人族と対等に暮らしていた。
ドワーフが道具を作り、人族が道具を買う。
需要と供給。
こっちも今と対して変わらないか。
でも獣人と人族の関係は違った。
2000年前まで、獣人の扱いは酷いものだったらしい。
迫害されて、ほとんどが人族の奴隷となっていた。
ただ耳や尻尾が人と違うってだけでな。
豹や熊の獣人は人より速く走れたり、体が大きく乗り心地が良いと乗り物にされた。
猫や猿の獣人は高く跳べると首輪をつけられ、見世物にされていた。
犬や狼の獣人は鼻が効くと道具にされた。
兎や狐の獣人は一番酷かった。
毛皮が気持ちいからと犯され、子を沢山産まされ、殺され、皮を剥がされた。
完全に動物、、いや、それ以下の扱いだった。
獣人は人族より強い。
しかし、世界の種族の比率は、8割が人族だ。
知能が高く、集団である人族は恐ろしい。
獣人は人族に逆らうことができなかった。
エルフとドワーフは獣人よりも数が少ない。
エルフやドワーフの声も聞き入れられず、現状に目を瞑るしかなかった。
しかし、2000年前、転機が訪れた。
勇者が魔王に敗れたんだ。
世界は魔物に支配され、弱い人間達は大半が魔物に殺された。
そして獣人は愚かな人族達から解放された。
エルフ、ドワーフ、獣人らは、魔物から逃げる術を持たない人間を見捨て、それぞれの種族で集まり、生き延びた。
エルフには魔力の結界で守られたエルフの里が、
ドワーフには技術を活かして作った地下シェルターが、
獣人には聖獣の加護による聖域があったからな。
再び魔王が倒され、魔物がいなくなった後、
エルフは人族を守ろう増やそうと、生き残りの人族の集落を探して各地に散り、
ドワーフは質の高い武器や防具、技術を交易品とし、国を作り、独立した。
獣人は二度と人間に捕まるまいと、森の聖域に篭った。
エルフは魔術で、ドワーフは技術で身を守れるが、獣人は何も持ってなかったからな。
このまま怖い人族から離れて暮らすことを選んだ。
1000年くらい前だったか。獣人からサモンドが出た。
転生のサモンドだった。
剣士のサモンドで、8歳だった。
魔道具を辿って、森の聖域に勇者の一行が現れた。
勇者一行と言っても、獣人のサモンドはその代で2人目のサモンド。
サモンドは勇者だけで残りは王宮騎士だったそうだがな。
サモンドの獣人は王都に連れていかれた。
8歳の獣人ということで、人間からの扱いを心配したサモンドの家族や、獣人の何人かも共に王都に行った。
サモンドだった狼、
諜報役の猿、
好奇心旺盛な猫、
逃げ足に自信のあった豹、
強さに自信のあった虎の獣人だ。
それぞれ男女1組ずつ。
番いでくる理由はまぁわかるよな?
異種族でも別に子供はできるが、同種族の方が発情期が合うから子孫繁栄しやすい。
そんだけの理由だ。
聖域の守護者である獅子、慎重派の犬、人族が人一倍嫌いな兎と狐と熊の獣人は来なかった。
王都に向かう道中、やはり心無い人間に何度も狙われた。
勇者と王宮騎士団が守ってくれたらしいがな。
王都に着いてからも大荒れだ。
サモンドが獣人だなんて誰も思って無かったみたいでな。
貴族の間で、獣人のサモンドを認めないという派閥が出てきた。
でも、サモンドとなった時点で上級貴族並みの権力を持つ。
獣人のサモンドを認めようとしなかった貴族は消された。
そしてサモンドの獣人が、国王に直談判した。
獣人で、元人族のサモンド。
人族の心も獣人の心も良くわかっていた。
人族と姿が少し違うだけで、
人族の道具として扱うのは間違っている。
獣人は人族を恐れ、恨んでいると。
何故、耳と尻尾が違うだけでこんな扱いを受けなくてはいけないのかと、怒りをあらわにした。
人族は魔王討伐失敗後の150年でかなり減っていたし、王族も代替わりした。
新しい国王が人格者で、奴隷制度も一から定め直そうという方向になっていたからな。
その時の国王が獣人を徹底して守るよう定めた。
王都までの道中で意気投合した勇者や王宮騎士も、獣人を守ろうとしてくれた。
獣人の居住区に一緒に住み、他の獣人を守ってくれたらしい。
お陰で獣人は王都で子孫を残すことができた。
逆に、王宮騎士のいない他の街にはもう誰も行かない。
だから、獣人が住んでるのは、ほぼ獣人の森と王都だけなんだ。
ーーーー
「じゃあ本当に王都と聖域以外に獣人はいないの?」
「もし他の土地で獣人を見かけたとしたら、ただの変わり者か、過去に奴隷にされていた獣人の子孫だな。どこかでまだ奴隷となっている獣人もいるかもしれねぇ。
王都外の獣人については注意した方が良いかもな。人族のことをよく思ってないかもしれない。特に王都に居ない獅子、熊、兎、狐、犬に会ったら要注意だ。」
「へぇ、、、覚えておくわ。」
「さ、すっかり夜が明けたな。雨も上がった!みんなを起こすか!」
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朝一、王都に戻り、ギルドで報酬を精算する。
昨夜の私の電撃で100体近くの巨大ガエルを仕留めていたらしい。
もちろん私は討伐証明部位の確保には参加していない。
素材が売れるからと、ララブルはこと後リヤカーでカエル100体分の素材を取りに行くらしい。
「重力魔術、、、」と小声で言われたが、もちろん丁重にお断りした。
「あら、リサ!スヴェン!リサ達も泊まりだったの?あ、もしかして、私がパスしたゾンビ?」
早朝のギルドにエマがいた。
「あー!ゲッツー!」
「おー!ゲッツ!」
「よう!ゲッツ!」
「おう!みんな!」
どうやらエマは学校の同期とパーティを組んでお泊り冒険をしてきたらしい。
「リサ、昨日は雨で大変だったでしょー。ゾンビごめんねー」
「ゾンビ自体は大したことなかったわ。それに、こっちは大雨の時は洞窟にいたから、雨も平気だったわよ。エマの方は?」
「うちはこれがあるから平気。みんなで素材狩りに行ってたの。」
エマのパーティ、全員が同じレインコートを着ていた。
「そのレインコート。随分現代風ね。」
「いいでしょ、これ、私が開発したのよ。現代風レインコート。サンプルもバッチリだったし、これで量産するわ!リサもいる?」
「へー、ちょっと着てみて良い?」
エマのレインコートを借りて着てみる。
形は完璧に、現代のレインコートだ。
透明で撥水もバッチリそうなツヤツヤの素材。
着心地も軽くて動きの激しい冒険者には良さそうだ。
ん?こっちの世界で撥水素材の定番って何だっけな、、
確かに離乳食のお食事エプロンの開発で、、、
「生臭いな。」
「そうね。」
ララブルの嗅覚が反応した。
「これの素材って、、、」
私は今着ているレインコートの裾を持った。
「キングフロッグよ。私たちが昨日狩ってきたのもそいつらの皮。」
エマが袋いっぱいに詰まったキングフロッグの皮を見せてきた。
「、、、、、、」
「「「「「リサーーーー!!!!」」」」」
私は立ったまま失神した。