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転移ママの異世界奮闘記  作者: 平館 あや
第1章 『異世界転移』
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6話 勇者の諭し方

「お待たせしましたー。チーズバーガーセットです」


重い空気を壊すように、店員が食事を運んできた。

だが、びっくりした紗奈は泣いたままだ。


「ゆうちゃちゃん、ほわたった、、ふぇ、、」

「、、大声出して悪かったな。」


アルクはそう言うと、紗奈の頭をさっと撫で、そのまま店を出て行ってしまった。


「アルク、あんたのチーズバーガー!、、、まぁいっか。」

エマは慣れた感じだ。



「リサ、サナちゃん、ごめんね。先に言うべきだった。アルクに前世の話は禁句なのよ。こっちの世界に来て、こっちの両親にも、お世話係にも誰にも前世のことを話してないみたい。私も昔、何度怒鳴られたことか。ここ最近はなかったんだけどねー。」


転移と違い、転生は、必ず「死」を伴う。

その死因や状況は、人によっては言いにくい事もあるだろう。


なんて馬鹿なことを聞いてしまったんだろう。

転移早々、勇者を怒らせてしまった。


ーーーー


「どうしよう、、これから仲間になるっていうのに、私、嫌われたかも。。」

「ふふっ。大丈夫よ。絶対そんなことないから!」

エマが自信満々に言った。



「お待たせしました。アボカドバーガー2つに、セットのポテトとチキンナゲット、こちらがグリーンサラダです。」

お店の人がハンバーガーを持ってきた。


「すいません。こっちのチーズバーガーのセット、包んでもらって良いですか?」

「畏まりました。」


アルクの分のチーズバーガーは包んでもらった。

後で持って行ってあげるのだろう。優しいエマお姉さんだ。


「アボカドバーガーおいしい!!!」

「でしょ?女性に人気なのよ。」

「はーちゃんのナゲットもおいちー!」

「よかった。ハッピ●セットだっけ?今度作っておくね。」

「やったーー!」

「サラダも付けるようにして欲しいわ。」

「了解よ。」


元の世界のファーストフードは、野菜が不足してるのが親的に不満だったのだ。


ーーーー


「リサ、悪いんだけど、サナちゃん預かっとくから、これ、アルクの家に持って行ってくれない?あいつ、ここのチーズバーガーが好きみたいでさ。」


エマが、お店で包んでもらったアルクの分のハンバーガーを渡してきた。


「え、私?でも、初対面の私が行くより、エマが行った方が、、」


「あいつ、勇者のくせにメンタル弱いからさ。多分、今頃、リサに謝らないとって一人でしょぼくれてるわ。でもきっかけがなくて引きこもってるだろうから、リサに行って欲しいの。叱られた息子を諭す感じでさ、お願い!」


ハンバーガーを渡すことは口実で、

私と仲直りさせるのが目的だった。

怒らせたのは私だ。

謝らなきゃいけない。



「ママ。いってらっちゃい!ゆうちゃちゃんとなたなおりちてね!」

「うん、仲直りしてくるね。」


紗奈の頭をひと撫でし、

アルクの家に向かった。


ーーーー


アルクの家、メイドさんに案内されて、

アルクの部屋の前に行く。


コンコン


「はい」

「アルク様、リサ様をお連れしました。」


扉が開いてアルクが顔を出した。

バツの悪そうな顔をしている。



「、、どうぞ。」


アルクの部屋に入れてもらった。



「アルク、これ、、」

そう言って私はハンバーガーの袋を手渡す。


「エマの差し金、、だよな。」

「ええ、まぁ。」


「ったく」

と、小声でつぶやいたその顔は、

冷たく怒鳴ったときの表情とは真逆の、穏やかなものだった。


「さっきはごめんなさい。聞かなくてもいい事を聞いて、不快な思いをさせてしまったわ。」

「リサは悪くない。怒鳴って空気を悪くしたのは俺の方だ。悪かった。」

アルクが頭を下げた。



「ここ、座って。」


ベッド脇のテーブルの椅子を引いてそう言うと、アルクは水差しの水をコップに注いで置いてくれた。



私は椅子に座り、アルクはベッドに腰掛けた。


「ごめんね、いきなり部屋にまで押しかけて。」

「いや、いいよ。リビングで改まってするような話じゃないし。」


アルクの部屋はあっさりしていた。

ベッドと一人用のテーブルと本棚以外何もなかった。


「お昼、食べた?」

「いや。」

「それ、食べてね。」

「あとで。」

「何してたの?」

「寝てた。」

「部屋、シンプルね。」

「寝るだけの部屋だ。ベッドさえあれば十分だ。」

「、、、」


これじゃ一問一答だ。会話じゃない!

さて、この後は何を話せばいいのだろうか。

私が戸惑っていると、

今度はアルクから口を開いた。


「魔力、、、」

「え?」

「綺麗な魔力をしてるんだな。」

「へ??」


いきなり異世界っぽい。難易度高い!!


「今まで出会った人の中で一番綺麗な魔力をしている」

「あ、、ありがとう。」


これ、褒められてる?異世界流のお世辞??


「魔力はさ、本人の性格が顕著に表れるんだ。

エマはサバサバしていて勝気だから流れが激しい。

サナは無邪気で素直だ。サナの表情に合わせて魔力が楽しそうに踊ってる。そして、今まで会ったどの子供よりも温かい魔力だ。優しい子なんだろうな。

ギルバートって魔術師は発言は適当だが、かなり真面目だ。魔力は落ち着いた静かな流れだ。

俺の自己診断だけどな。多分当たってるはずだ。」


今までの無愛想な口調が嘘のように滑らかに話した。


「リサは、綺麗だ。今まで会った人の中で一番綺麗だと思った。」


まっすぐ目を見て言われた。

思わず顔が赤くなる。


(落ち着け、これは魔力の話をしてるんだ!)


「きっと、とても純粋でまっすぐな性格をしてるんだろうなって思った。この世界に来て、初めて自分から『この人と話してみたい』って思ったんだ。」


アルクは照れ臭そうに言った。


「エマに頼みごとをしたのなんて初めてだったよ。リサと話すきっかけを作ってくれって。でも悪かったな。元の性格が邪魔して、いきなり不快な思いをさせた。」


そこまで話すとアルクは俯いた。



(叱られた息子を諭す感じか。)



「ふふっ」

思い出して思わず笑ってしまった。

エマも上手いことを言う。


そっと席を立ち、アルクの元に向かう。

アルクの頭を思いっきりわしゃわしゃして、笑顔でこう言った。


「もう、しょうがないなー。次やったらママ許さないんだからね!」

紗奈がやらかした後に許す時と同じように、だ。



アルクは困った顔をして言った。


「、、、あなたの息子じゃ無いんですけど。」


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