4話 勇者アルク
[サモンド]
魔王の復活に合わせるように出現する、召喚されし者。
召喚者、召喚対象は不明。
召喚後、元の世界に戻れた者も存在しない。
今のところ完全な一方通行らしい。
転生者は前世で亡くなった者だが、転移者についてはまだ謎が多く、
転移元の世界の『本人』の状態はわからない。
その場で動かなくなったのか、体ごとワープしたのかも。
(死んでいるにしても、姿が消えたにしても、親達は心配しているだろうな、、、旦那のお葬式は、、してくれるよね、、)
この世界に来て色々なことが起こりすぎたからか、『旦那が死んだ』という溢れ出る悲しみが表に出てくることが無くなった。
消えたわけでは無い。今は自分が生きることに必死なのだ。
少なくとも棺の前の圧倒的な絶望感は無い。
「そもそも魔王ってなんなの?」
「『実態のない、見る者によって姿を変えるもの。空を曇らせ、魔物を降らし、瘴気で人を狂わせる。その姿で油断を誘い、心の隙を突く。強き剣の力と、強き聖の力、そして虚像を打ち破る力が無ければ倒せない。』冒険者の学校で教わった内容よ。よくわからないけど、強い魔物なんじゃないかしら?今度、どんなだったかちゃんと聞いてみるわね。」
わかんないんかーい!
ーーーー
「それで、この世界に呼び出されて、私たちは何をすればいいの?」
「魔王の復活に備えて鍛えることね。サモンドとしてこの世界に来たからには、魔王復活の際の討伐パーティに組み込まれると思っておいて。これはサモンドの義務なの。」
エマは言った。
魔王討伐、、、
それは死ぬ可能性もあるのでは無いだろうか?
「紗奈も」
「残念ながらサナちゃんも。でもこればっかりは復活する時期によるんじゃないかしら?いくらなんでも4歳の子供を魔王の元には行かせられないし、ヨボヨボのおじいさんも難しいでしょ。」
正直、紗奈に危険な戦いなどさせたくない。
でもそれは親だからであって、サモンドが戦わなければ、今居るこの世界が滅ぶと言われれば、命令に従うしかない。
エマの今世の両親も、エマを王都に送り出すのは苦渋の決断だったのかもしれない。
「続きはお昼ご飯を食べながら話しましょ。お昼は外食ね。ランチにおすすめのお店があるの。その後は王都観光ね!買い物もしなきゃいけないし。」
気づけば時刻は11時を過ぎていた。
窓の外から紗奈のはしゃぐ声が聞こえる。
いつの間に外に出たのだろう?
メイドではない男性と追いかけっこをしていた。
ーーーー
部屋の外に出た。
長い廊下にドアが並ぶ、屋敷という感じだ。
8LDKあるらしい。
エマはこの家で5人のメイドと住んでいるそうだ。
家を出たところで、紗奈と遊んでくれていた男性を紹介された。
年は20代中盤くらい、顔立ちの整った細マッチョで剣士風の格好をした男性。
●代目J魂兄弟の●ちゃんをハーフ系&無愛想にした感じだ。
つまり、かなりかっこいい若者だ。
「はじめまして。西條理紗と申します。娘と遊んでくださってたみたいで、ありがとうございます。」
初対面。私は深々と頭を下げた。
「うっす。」
「こら!アルク!ちゃんと挨拶しなさい!」
エマに怒られている。
「、、アルク・バルツァー・ハッセルだ。」
「こいつが、勇者素質のサモンドよ。」
この人が勇者様なんだそうだ。
「ごめんねリサ!こいつ、人見知りの口下手で。。でも勇者の素質なだけあって、戦闘に関しては抜群に強いのよ。性格に少々難ありなだけで。」
「うるさい。」
エマは言いたい放題言っていた。仲がいいのだろう。
「あの、森で助けていただいたみたいで。ハッセルさんもありがとうございました。」
「別に。義務だ。俺のことはアルクでいい。」
勇者はどこか表情に影のある人だった。