44話 紗奈の親
「紗奈、歯ブラシあったわよ。」
ギルバートの部屋に紗奈の歯ブラシを届けた。
「お部屋のお風呂楽しかった?ギルバートに迷惑かけてない?」
「ばいぼーぶ!はーちゃんね、ギルちゃんにチュエをどうじょちたんだよー!」
「杖をどうぞ?」
「お風呂に入るのに義足を外した後、杖を忘れたのに気づいたんだけど、サナが取ってきてくれたんだ。サナがいてくれて助かったよ。」
そうか。義足を外さないとお風呂に入れないのに、紗奈を任せてしまった。
本当に申し訳ない。
「ギルバート、片足で大変なのに、お風呂まで入れてもらってごめんなさい。」
「どってことないよ!重力魔術である程度カバーできるしね。」
「紗奈、明日はママと一緒に大きいお風呂入りましょうね。」
「僕はまたサナと一緒で良いよ。」
「でも、、」
「はーちゃん、おおちいお風呂はいりゅーー!」
「ははっ。大きさで負けちゃったか。」
ギルバート少し寂しそうな顔をした。
「紗奈、歯磨き、仕上げはお母さんするから、終わったらこっち来て。」
「やだ!ギルちゃんにやってもらう!」
「ダメよ。ママがやるの。」
「リサ、僕だってそれくらいできるから。やらせてよ。」
「ギルバート、本当にありがとう。」
「ギルちゃん、あーー!」
紗奈は横になって大きく口を開け、
ギルバートは、手際よく紗奈に歯磨きをしていく。
「リサはさ、子育てを全部一人でやろうとしてるよね。僕みたいなベテランもいるし、エマやアルクみたいな遊んでくれる人もいるのに。」
「でも手がかかるし、走り回るし、わがまま言ったり、大変でしょ?」
「全然大変じゃないよ。楽しいさ。でももしリサが育児を大変って思ってるなら、その負担を僕に分けてくれたら、少しは楽になるんじゃない?もっと頼っていいんだよ。母親だけが親じゃなく、側にいる人みんなが親で良いじゃない。僕にも紗奈の親をやらせてよ。」
ギルバートが優しい顔で言った。
「はい、サナ、終わったよ。」
「ありがとー!ふちゅふちゅぺしてくりゅ!」
紗奈は部屋の露天風呂の洗い場まで口をすすぎに行った。
「サナは『ありがとう』が言える良い子だね。きっと、親の育て方がいいんだね。」
助けてくれる。褒めてくれる。
ギルバートの言葉一つ一つが心に染みる。
7児の母はやはり伊達じゃない。
「ギルバート、ありがとう。」
紗奈の親が増えた。
「あとさ、リサの浴衣姿、エロすぎだよ。そりゃアルクも欲情しちゃうよ。」
「え、、、、、」
「お酒を飲んでる時のアルクは要注意だよ。」
「お酒?」
あ、水だと思ってたものはお酒だったのか。
確かにお風呂でもみんな飲んでる風だった。
全然気づかなかった。
「でもいいなー。浴衣。僕は必ず男物を用意されるから、女物の浴衣は一度も着たことが無いんだ。」
ギルバートが物欲しそうに私の浴衣を見てきた。
「えっと、、私の今着てるので良かったら着てみる?」
「いいの???」
ギルバートが一瞬乙女の顔をした。
私は着ていた浴衣を脱ぎ、ギルバートに浴衣を着つける。
髪も整え、男っぽさを無くすと結構な浴衣美人になった。
「ギルちゃんちれー!」
「似合う、、、」
とても普段男装をしているとは思えない程だ。
「僕もこういうの欲しいな。女って世界的にバラしたら。」
「世界的に?!」
「僕は世界中で有名だからね。大騒ぎになるだろうね。」
「さすが英雄、、、」
「でさ、ついでにリサの胸、触ってみていい?女性同士♪」
「え、、、、、何のついで?!」
「脱いだついで?」
この人は相変わらずこの手のスキンシップが多く、
本当に女かまだ疑わしい。
胸があるとはいえ、推定Aカップだし。
いや、下が無いのも確認済みか。
「エルフの女性はみんな胸が小さいからねー。前世はバインバインだったんだけどね。」
「え!?爆乳!?」
「上から下まで。」
それは、ただのfatだ。
ーーーー
翌日、朝からアルク達はトロール退治に出発した。
「馬車があるから、夕方くらいには戻れると思うよ!フージの街は見るもの食べるもの面白いと思うから、ゆっくり楽しんできて!」
とギルバートに言われ、ティアナ、私、紗奈の3人でフージの街を観光した。
「あれは何??いい匂い!」
「たい焼きね。」
「あれは?綺麗ー!」
「べっこう細工ね。」
「あれは?素敵な音がする。あとその隣の可愛い!」
「風鈴ね。隣はガラス細工。」
「あれは??細かーい!」
「飴細工ね。」
「はーちゃんあめはべたい!」
「私も食べたい!」
ティアナは初めて見るフージの文化に興味津々だ。
加えて紗奈もテンションが高い。
それはいつものことか。
露店を巡り、お昼にはお蕎麦を食べ、呉服屋を周り、甘味処で休憩をし、寺や神社を観光。
「楽しかったー!1日じゃ周りきれない!」
「ほんとね。」
「はーちゃんまたみちゅまめ食べたーい!」
まるで京都の街でも観光しているような気分で過ごした。
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夕方、宿に戻り、女部屋で過ごしているとエマが戻ってきた。
「おつかれー。トロールどうだった?」
「気持ち悪かった、、」
「そうなの?!」
トロールと言えば、私はD社のア●雪に出てくる石の小人や、超有名スタジオのとなりのト●ロみたいなものを想像してしまうのだが、
そんなのもがA級の魔物の訳もなく、
体長10メートル強の、獰猛でしかもちょっと臭い魔物なんだそうだ。
その上、再生能力があるため普通の剣では傷もつけられないそうだ。
そんなものが8匹も森の浅い所にいたそうだ。
「私とエドガーの剣じゃ全く歯が立たなかったわ。アルクが一体だけ聖剣で弱点の頭を叩き斬ってたけど、体長が10メートルもあるのよ!あんなの、魔術の方が断然有利よ。ほぼスーリオンの独壇場だったわ。」
私としては、どうやってアルクが体長10メートルを登ったのかも気になるが。
「スー君、有言実行ね!エマちゃんにかっこいい所見せれたのね。」
「確かに、魔術を使うところだけは凄かったわね。」
「だけ?」
「寝不足だったらしくて、足を踏み外して崖に落ちかけたり、猟師の罠にかかって怪我してりして、イシリオンの治癒を受けてたわ。」
夜通しデートプランでも考えていたのだろうか。うっかりしすぎだ。
「はー、もう、身体中トロール臭いわ!夕食まで時間あるでしょ?お風呂行かない?」
「ええ、そうしましょう。」
「やったー!おおちいおふろー!」
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「お、皆さんもお風呂っすか?奇遇っすね!」
お風呂の前でイシリオンとスーリオンに会った。
「あら?エド達は?」
「聞いてないっすか?エドガーさんとアルクさんとギルさんで、町長の所にトロールの討伐の報告に行ってるっす。」
フージの街に冒険者ギルドはない。
討伐報告は明日、ノースルのギルドにしに行くのだが、街の脅威であったトロールを討伐したことだけは町長に伝えておこうと、3人で報告に行ったらしい。
つまり、エマとイシリオンとスーリオンは3人で帰ってきたことになる。
エドガー達のエルフ2人への計らいだろう。
「エマさん!良かったら、お風呂の後、俺らと庭園散歩しないっすか?」
「俺ら?3人で?」
「そうっす!」
「ふふっ仲良しね。いいわよ!」
「「よっしゃーー!!!」」
お風呂から上がり、エマに浴衣を着つけると、
エマはルンルンで双子エルフの所にいった。
なんだかんだ、今日の討伐で3人の距離は近くなったようだ。
ここから1組と1人になる未来は想像つかないが。
「リサちゃん、これ、できてる?」
「完璧!素敵よ。」
ティアナは昨日だけで自分で浴衣を着られるようになっていた。
帯の結び方も今日呉服屋で複数教えてもらい、しっかりマスターしていた。
「はーちゃんじんべーなの!」
紗奈には今日、子供用の甚平を買ってあげた。
可愛い。
ちなみに私も自分の浴衣を買った。
時々日本を思い出して着たいと思ってだ。
決してアルクを欲情させたいわけではない。
「リサちゃんの今日買った紺色ベースの浴衣もやっぱり素敵ね!昨日の白地の浴衣も似合ってたけど、紺はさらに妖艶さが増すわね!そのうなじだけで男はみんなイチコロよ♪」
決して欲情させたいわけではない!