3話 サモンドという存在
エマに用意してもらった服に着替えた。
紗奈の物にも似た、やはり町娘のようなフレアのワンピース。
さながら、美女と●獣のベルのコスプレ。
ちなみに私はディ●ニーが大好きで、プリンセスのDVDはコンプ、もちろん娘も洗脳済みだ。
紗奈がこの部屋を見て「お城」と言ったのも、部屋の雰囲気が某プリンセスの部屋に似ているからだと思う。
「そのワンピースは私がデザインしたのよ。元からあったもののアレンジだけど。」
エマが言った。
確かに、立体縫製、デザイン性の高い大きめの襟。
少し現代っぽい要素が混ざっている。
朝食は、洋風な部屋に反して、ご飯、焼き鮭、卵焼き、味噌汁にお新香と、、、完璧な和食だった。
私には箸、紗奈には木のスプーンとフォークが渡され、エマと3人で食事をした。
異世界ラノベでよくある、食事で苦労するとか、白米の味が悪いとかいうことはなく、どれも美味しかった。
ここがゴブリンのいるファンタジーな世界とは思えない、見慣れた日本の食事。
本当に転移してきたのか、疑うほどだ。
「この和食は、300年程前に前世で日本人だった転生者が伝えたものなの。とにかく食にうるさい人だったらしく、日本独自の調味料は揃ってるし、お米の品種改良も進んでるのよ。ここ数年は和食ブームで、うちの朝食はだいたいこんな感じ。嫌いならパンもご用意できるけど。」
「へぇー。ありがとうございます。美味しい、、」
「おいちいねぇー♪」
白米が大好きな紗奈はパクパク食べていた。
食事中、私は、この世界に来た経緯を説明した。
旦那の死、棺の前での転移。
「そう、ご主人が。。それで喪服だったのね。。」
「うん!パパ、ちんじゃったの!」
喪服は洗ってくれたのか、綺麗な状態で壁に掛けられていた。
ーーーー
食後、エマからこの世界の説明を受けた。
長い話になりそうだったので、紗奈には部屋の中で、メイドさんと遊んでもらうことにした。
この世界は、やはりファンタジー色の強い、剣と魔法の世界。
街から外に出ると魔物に遭遇する。
冒険者やギルドも存在するそうだ。
時折やってくる転生者や転移者によって新たな知識がもたらされるが、移動は基本、徒歩か馬か馬車。
車などのメカニックなものは、構想はあるものの、開発には至ってないらしい。
暦も過去の転生者によってもたらされ、
1年は365日、1週間は7日だ。
「エマさんは、魔法を使えるの?」
「ええ、私は剣士の素質だからそれ程多くの種類は使えないけれど一応使えるわ。あ、エマでいいわよ。私もリサって呼ぶし。それからタメ口でいいわ。多分同い年くらいだから。」
「、、、?わかったわ。」
エマは明らかに10代なのに、27歳の私と同い年はないだろうと内心つっこみつつも、日本人だから若く見えるのかな?と思っていた。
ーーーー
私やエマのような転移者、転生者は『召喚されし者』と呼ばれ、決して数は多くはないが、魔王復活が近づくと各地にポツポツと現れるらしい。
「私は前世で16歳の時に交通事故で死んだわ。そして、この世界でのエマの6歳の頃に転生したの。6歳までの記憶はそのままに、前世の記憶が蘇ったっていう感じね。」
今は転生してから10年経ったので、16歳+10歳で体感年齢は26歳とのこと。
確かに私と同い年くらいだ。
前世の生まれた西暦を聞いたら、一年違いだった。
ちなみに今の年齢も16歳。
今年、前世で亡くなった年齢に追いついたそう。
今、世界で確認されているサモンドは、私と紗奈を除いて3人。
エマを除いて2人だが。その2人ともすぐ会えると言われた。
次の魔王復活までに、最終的にサモンドは7人になるらしい。
「転移者は服装とかの見た目でわかるとして、エマみたいに、存在する人物に転生した場合はどうやって転生者って見分けるの?“転生しました詐欺” とかあるんじゃない?」
「ああ、それはね、、」
と言って、エマは前髪をあげて額を見せた。
「ん!」
エマが力を込めると、
エマの額に赤い紋章が浮かび上がった。
「魔力を込めると額に紋章が現れるの。これはサモンドにしかできない。ちなみに普通の人たちも体内に魔力は宿ってるけど、魔力を扱うということ自体がエルフとサモンドにしかできないわ。私達がリサとサナちゃんを発見した時、2人の額にも紋章が出てたわよ。」
「やってみていい?」
「ええ。額に『んーー』って力を入れるんだけど、、」
気になったので、私は棚に置いてある鏡を見ながら額に力を入れてみた。
エマと同様の、しかし、黄色の紋章が額に浮かび上がる。
「凄いわね!昨日転移してきて、いきなりそんな瞬時に紋章を出せるなんて。私なんて魔力の込め方が分からなくてかなり苦労したのに、、さすがは魔術師の素質ってことなのかしら?」
ちなみに、赤は剣士の素質、黄色は魔術師の素質。
紗奈には緑の紋章が出ていたらしく、回復魔術が使えるヒーラーの素質らしい。
勇者の素質というものもあり、それは青だそうだ。
「そういえば、あんな森の中でどうやって私たちを見つけたの?」
「それは、王宮に魔道具があるのよ。」
地図上の魔道具らしく、サモンドが現れる兆候があると、出現箇所が仄かに光りだすそうだ。
ちなみに現存のサモンドの現在地もしっかり把握されているらしい。下手に逃げ出したりはできない。
「今回もリサ達が現れる少し前から地図が光り出したからって、私たちは国王陛下の命令で森に向かったの。まさかあの広い森で、ピンポイントにゴブリンの巣の前に現れるとは思わなくて焦ったけどね。」
ゴブリンの群れを思い出して少し身震いした。
話を切り替える。
「全てのサモンドにお世話係がいるのよね?エマのお世話係は誰だったの?」
「150年前の魔王討伐の際の魔術師様が健在でね。200歳近いんだけど、長寿なエルフ族だからまだまだ元気なの。私はその人がお世話係だったわ。種族も年齢も違いすぎるし、ちょっと小言が多くて面倒な時もあるんだけどね。」
エマは笑いながら話した。
200近く年齢差があると、
「これだから最近の若いもんは」とすぐに言われそうだ。
「そういえば、言語、、、普通に日本語を話してるけど、日本語が共通言語なの?」
「違うわ。サモンドが話す“口”、聞く“耳”には自動翻訳機能が付いていると思ってくれればいいわ。文字もそう。元の世界で識字力があれば、この世界の文字も読めるし、文章を書くこともできる。」
サモンド、便利すぎる。
ということは、紗奈の舌ったらずな言葉も、わかりやすく聞こえているのだろうか?
「サナちゃんは最初チャナちゃんだと思ったわ。」
固有名詞は翻訳されないらしい。