27話 ヴァンパイアの襲撃
※途中、暴力的な表現があります。R15の範囲内に収めたつもりですがご注意ください。
ギルバートが帰ってくるまでの1週間はエマの家に泊めてもらうことにした。
紗奈は久しぶりのエマの家にはしゃいでいた。
「エマおねえちゃんと寝りゅー♪」
ご飯もお風呂もずっとエマにべったりだった紗奈は、夜もエマと寝るとわがままを言っていた。
「ダメよ紗奈。わがまま言って、、」
「えーーーー、、、」
「いいのよ!リサはいつもサナちゃんと一緒に寝てるんでしょ?たまにはしっかり足を伸ばして寝たらいいわ!」
「いや、でもほんと、紗奈の寝相は悪すぎるから。。」
「大丈夫!寝相の悪いもの同士、仲良く寝れると思うわ」
「やったーー!」
そう言って2人はエマの部屋に向かっていった。
紗奈の蹴りがエマの顔に入る姿が目に浮かぶ。
無意識のカウンターを紗奈に食らわせない事を祈る。
1人で部屋に入り、何年振りかの静かな夜を過ごしていると、
コンコン
ドアがノックされた。
「はーい」
「リサ様、お休みのところ失礼します。ギルバート様がお見えになりました。お急ぎとのことでして、、」
エマの家のメイドに言われ、部屋のドアを開けると、魔物討伐に出たはずのギルバートが来ていた。
急いで来たのだろう。額に汗が滲んでいる。
「こんな時間に悪いね。緊急なんだ。」
「でしょうね。」
じゃなきゃこんな時間に押しかけて来ない。
「リサ達に渡したそのネックレス。術の甘い粗悪品だった。そのネックレスを付けた女性がヴァンパイアにやられたらしい。」
「え、、」
「2人とも無事でよかった。慌てて戻ってきた甲斐があったよ!すぐにこれに付け替えてくれないか。」
そう言ってギルバートは代わりのネックレスを差し出した。
「エマにも渡してくるから、リサは、すぐに付けるように。いい?」
「わかったわ。」
「夜遅くに悪かったね。」
そう言うとギルバートはドアを閉め、エマの部屋の方に歩いていった。
私は渡されたネックレスを付けようと、付けていたネックレスを外した。
キーーーン
「うっ、、、」
強い耳鳴りでその場にうずくまる。
外したネックレスが床に落ちた。
再びドアが開く。
そこにはエマの部屋に向かったはずのギルバートが立っていた。
否、ギルバートではない。
口に牙を生やし、目は紅く染まっていた。
「単純すぎる小娘だ。サモンドとは思えないな。」
「な、、に、、?」
私は金縛りのようにその場で動けなくなった。
「うっ!」
(助けを、、)
声が思うように出ない。
「サモンドの娘に産ませた子供は強大な力のヴァンパイアになると言われている。我の子供を産めることを喜べ」
ヴァンパイア、、、
今日話を聞いたばかりだと言うのに、なんて馬鹿な手に引っかかってしまったのか、、
自分に呆れながらも、念話でエマに助けを求めようと頭に魔力を込めた。
「、、、!?」
魔力を込めようと力を入れるも、体内の魔力が乱されて操作ができない。
「魔術を使おうとしたな?結界だ。この部屋の魔力を封印させてもらった。お前なんぞ、ネックレスと魔術さえ封じれば、そこらの小娘同然。あの子供も剣士も助けに来ることはない。」
(紗奈とエマに何を?!)
「ママーーー!!!!」
エマの部屋の方から紗奈の叫び声が聞こえた。
「さ、、な、、、!」
「娘の心配は不要だ。別のヴァンパイアが行っているからな。幼女は殺され、剣士の方はお前と同じ目に合うことだろう。
それにしても、こんなにあっさり捕まるなど、今期のサモンドは間抜けばかりか。」
鼻で笑われた後、私の体は抱えられ、そのままベッドに放り投げられた
「っ!!!」
「そうだ。折角、師の顔で来たんだ。どうせならこの顔で色々酷いことをしてやろう。二度と師の顔など見たくなくなるようにな。」
そういうとギルバートの顔のヴァンパイアは私に覆いかぶさった。
服はあっさり切り裂かれ、ヴァンパイアの手が触れる。
「ふふ、、」
ヴァンパイアが口角を上げいやらしく笑った。
「んんっ!」
抵抗しようとするも、魔力を封じられた今、魅了を受けた体と拙い筋力では全く歯が立たない。
「まあ、そう焦るな。」
ヴァンパイアはわざとらしく舌舐めずりをした。
「っつ!!」
ヴァンパイアの長い舌が私の首筋を舐める。
「ほう。敏感じゃないか。未亡人と聞いてはいたが、こっちの方で飢えていたのかな?それとも、こう言う状況の方が興奮する口か?」
そう言うと、ヴァンパイアは私の手首を魔術で拘束した。
「どの道動けないだろうが、良い絵面だろう。悪戯なお前の師もやりそうなことだ。そうだ。声だけ解放してやろう。好きなだけ喘ぐといい。」
ネチネチと私の体をヴァンパイアの指先が這う。
私は思わず声が出そうになるのを、ひたすら声を押し殺した。
「ははっ。どうだ。師に体を弄ばれる感覚は。」
「最低よっ、、、んっ!」
ギルバートの顔のまま私の唇をひと舐めする。
手の動きは止まらない。
「っ、、やめ、、」
「こんなに楽しいことをやめるわけがなかろう。大人しくしていればすぐ終わる。お互い気持ちよくいこうじゃないか。」
悔しい。涙が出てくる。
「さて。そろそろいいか、、」
「嫌っ、、!やめてーー!」
ヴァンパイアが私の脚に手をかけたその時だった
バンっ!!!
ドアが蹴破られた音と同時にヴァンパイアの首が飛んだ。
「馬鹿な!!!」
体と分離したヴァンパイアの頭部が喋った。
「我の魔力は隠蔽していた。貴様は我の存在に気づかないはず、、」
「馬鹿はお前だ。リサの魔力が急に消えれば、怪しむに決まってるだろ。」
「結界が仇となったか、、、っぐ、、おい、女!貴様の子を必ずや我が一族に!覚悟しておけ!」
そう言うとヴァンパイアは灰となって消滅した。
「っアルク!!!」
「リサ、大丈夫か!」
「、、あり、、がと、、」
怖かった。ダメだと思った。
身体の震えが止まらない。
「リサ、、、」
アルクの顔に汗が滲んでいた。
異常を感じ、剣だけ持って、着の身着のまま、エマの家に来てくれたのだろう。
アルクは私の方に歩いてきて、
そっと顔に触れようとする。
「嫌っ!!」
ヴァンパイアに襲われた反動で反射的に手を払い、拒絶してしまった。
「悪い、、。エマを呼んでくる。」
「、、ごめんなさい。あ、紗奈は連れてこないで。、、服、こんなだからさ。。」
「ああ。わかった。」
アルクは壁に掛けてあったローブを取り、私に掛けると、そのまま部屋を出て行った。
程なくして、エマが部屋に入ってきた。
「リサーー!!!」
エマに抱きつかれた。
「ごめんね!!ごめんね!!助けてあげられなくて!リサがピンチってわかったのに、私の部屋も襲われて、私、全く動けなくなって、、サナちゃんがいてくれなかったと思うと、、」
エマも震えていた。
私と同じように魅了の術にあったところを、紗奈が解呪の魔法で助け、エマがワンパンで葬ったそうだ。剣士相手だからか、魔力の結界はなかったらしい。
紗奈と一緒に寝ていたのが私だったら、紗奈共々魔力を封じられ、エマも魅了で動きを封じられ、もっとヤバい状況だったかもしれない。
エマは服を用意してくれ、震える私をずっとさすってくれた。
落ち着いてから、エマの部屋に紗奈の様子を見に行くと、紗奈がアルクに抱きつきながら、2人でスヤスヤと寝ていた。
紗奈も怖かったのだろう。
紗奈の寝顔もアルクの寝顔も可愛かった。
ーーーー
ヴァンパイアの襲撃のあった翌朝、
まだ寝ていたエマを残して一階に降りる。
ダイニングに紗奈とアルクがいた。
「ママ、おたよー♪」
「うっす」
アルクがこっちをみて会釈した。
やばい。アルクの顔が見れない。。
ヴァンパイアに騙された挙句、むざむざと犯されかけるという醜態を晒してしまった。
その上、助けてもらったのにひどい態度をとってしまったのだ。
なんと声をかけていいのかわからなかった。
「昨日のことは、、気にしなくていい。」
私が戸惑っているのを察したのか、アルクが言った。
「アルク、、その。。色々ありがとう。」
「うっす。」
少しの沈黙の後、
紗奈がニコニコしながら言った。
「ママ、ありがとうっていえて、えらいねぇー」
紗奈の言葉で場が和んだ。
「ははっ」
「ふふっ」
「えへへ♪」
みんな笑った。
ーーーー
ダイニングには、いつもいるはずのメイドさん達の姿がなかった。
思えば、昨晩の襲撃の際、見かけたのは偽ギルバートを案内した1人だけ。
あれだけ騒いでいたにもかかわらず、その1人も、襲撃後は出てきていない。
「メイド達は、昨日のヴァンパイアの魅了にやられて眠らされていたんだ。ヴァンパイア自体は倒したから異常は残ってないはずだが、念のため休ませている。」
「そうなんだ、、」
眠らされただけでよかった。
「ママー、ゆうちゃちゃんが朝ど飯ちゅくってくれたんだよ!」
紗奈が口をもぐもぐさせながら言った。
「え?!料理できるの?」
「そこかよ。」
「あ、いえ、紗奈のご飯用意してくれてありがとう。」
「リサもいるか?」
「いいの?」
「まぁ、ついでだし。」
「じゃあ、いただこうかな!勇者様の手料理♪」
「おう。」
アルクは手際よく朝食を用意してくれた。
白パンとハムエッグとサラダ。ドレッシングはまさかの手作りだった。
「ドレッシングを手作りって、私でもなかなかやらない。」
「誰でもできる。混ぜるだけ、大したことない。」
「いや、分量とかさ。料理に慣れてないとできないでしょ。」
「おやちゃい おいちいよ♪」
いつもは葉物野菜を残す紗奈が、サラダを完食していた。
「紗奈、全部食べたの!えらいわねー!」
「ゆうちゃちゃんのど飯、おいちいの♪」
「ありがと」
アルクは紗奈の頭を優しく撫でた。
先に朝食を終えた紗奈とアルクは、リビングに移動して遊びはじめた。
小さい人形でごっこ遊び。紗奈は嬉しそうだ。
思えば旦那は仕事が忙しく、なかなか紗奈と遊ぶ時間が取れなかった。
2人が遊ぶ姿は、旦那がやりたかったことを体現しているようだった。
「まるで親子みたいね。」
そう言って、エマがダイニングに顔を出した。
「あ、おはよー、エマ。昨日はありがとう。」
「リサ、大丈夫?」
「うん、最強女剣士様が添い寝してくれたおかげで安心してぐっすり寝れたわ。」
「それはそれは、お礼に何かご馳走してもらわないと。」
「、、、朝食作ってあげるね。」
「ok」
エマにもアルクが作ってくれたメニューと同じ朝食を用意した。
「あ、このドレッシング美味しい。さすがリサ!」
「それ、アルクの手作り。」
「え、マジ!?」
「マジ。」
「アルク、料理できたんだ。」
「そんなに不思議かよ」
リビングから声が聞こえた。
「だって、アルクの実家ってお貴族様じゃん?実家出てからもずっとメイドさん雇ってるし、料理する機会なんてないでしょ。」
「、、前世でばぁちゃんの手伝いをしてたんだよ。」
「あ、そう。」
アルクに前世の話はNGだった。
エマは興味なさそうに返事をし、
パパッと食事を終えると、洗い物を始めた。
「パパー!おちごと おちゅかれたま。どはん たべれりゅ?」
ままごとをしている紗奈の声がリビングに響いた。
アルクがポツリと呟いた。
「知りたい?俺の前世。」