175話 結婚パーティー
式典5日目。式典最終日。
今日は双子エルフとフィーネの結婚式だ。
手に入れたばかりの馬車で教会に向かう。
私もアルクも馬車は扱えるが、さすがに様にならないので、御者はハッセル家の使用人をお借りした。
御者かー。やはり我が家の使用人を増やすべきなのか、、、
楽器部屋も増設して、使用人も増やすなら、使用人部屋も増設して、、、
あれ、段々と大豪邸になっていくぞ?
ーーーー
さて、結婚式の会場となる教会は、私達が式を挙げた所と同じだ。
王都の大教会だ。
そこにずらーっとフィーネの親戚にあたる王族と、
ずらーっとイシリオンとスーリオンの馴染みのエルフとサモンドとエドガーが並ぶ。
双子エルフ側は、
双子エルフの母スーリンド、双子の師匠ギルバート。
リンドールを含む王都エルフのパーティ5人、王都の魔導具店の店主2人、
工房エルフ3人と、エルフの病院のティリオンだ。
エルフの病院は診療のためにリンドールの母リンミュールが残っている。
王都に来たばかりで双子エルフに縁遠い、エルノアとハルラスも今日一日、病院を手伝うので欠席だそうだ。
上記11人と人族の私とアルクとエマとエドガー。
全部で17人。
王族の方も同じくらいだ。
もちろんハンスは王族側、1番前にいる。
『俺もそっち側が良いー』
ハンスが念話でわがままを言っている。
サモンドだけのグループ念話だ。
『王族側は全員、たくさんのエルフに囲まれて、緊張してるな。』
レオが言う。
『王族より高位で神聖な存在だから当然ですよぉ。』
『エルフに対して緊張してないのは、お前と国王くらいだな。』
レオは魔力で全員の緊張感がわかるようだ。
『へー、国王様、まだ見えてないけど、さすがね。』
『だが、別のことで緊張はしてる。』
新婦入場の声がかかり、
ドアが開きかけたところで、
ガンっ
新婦が入場してくるドアに何かがぶつかった音がした。
『国王が扉にぶつかった。』
へ?
ヴァージンロードを歩くフィーネと国王。
誰が見ても国王がガッチガチなのがわかった。
一歩一歩と歩くところを、一瞬ツカツカと歩こうとしてフィーネに引っ張り戻され、
今度は一歩一歩進む足がギクシャクしている。
額は脂汗でテッカテカだ。
『あ、新婦のドレス踏んだ。』
『エスコート慣れしてる貴族なのに、、、』
残念な国王だ。
『父上、家族のことになるとポンコツだからなぁ、、、』
ハンスが言った。
ーーーー
午後は披露パーティーだ。
午前に引き続き、子供の出席は不可。
子供達は一日中お留守番だが、昨日いただいた楽器で一日は飽きずに遊べるだろう。
私はアルクにエスコートされて会場に入る。
貴族のお作法はハッセル家でしっかり学んだが、
貴族のパーティーは自分の結婚パーティー以来、人生2度目だ。
不慣れだ。
「まずはフィーネ達に挨拶だ。」
「了解。」
旦那様の腕を取り、主役の3人の所まで行った。
「アルク様、リサ様、本日はお越しいただきありがとうございます。」
フィーネとイシリオンとスーリオンが笑顔で貴族の礼をする。
「この度はおめでとうございます。」
アルクがそう言い、2人で貴族の礼をすると、みんな笑った。
「堅いっすね。」
「いつもタメ口で話してるのに、畏まられると緊張するっすね。」
「ドレス姿のリサ様も新鮮ですわ。」
全員高貴なはずなのに、普段くだけた所でしか会ってないから、違和感しかないようだ。
それにしてもだ、
「結界、、、」
フィーネとイシリオンとスーリオンの立つ5メートル四方が結界の魔道具で囲われている。
サモンドやエルフは薄いガラスのような結界が張られているのがわかるが、何も見えていない人族のフィーネはさっきからガンガンあたっている。
「徹底されてますわよね。私の行動範囲はいつもこんな感じなんですの。
A級のエルフが2人も隣にいるのに過保護ですわよね。」
フィーネが言った。
結界の箱に入った箱入り娘だ。
暗殺を警戒してだろうが、行動範囲が制限されすぎてて可哀想だ。
「まぁ、俺らパーティーの主役なんで、基本ここから動かないっすから、問題ないっす。」
イシリオンが言った。
「ねぇ、あそこの王子は良いの?」
私はハンスの方を見た。
その王子、護衛はいつも1人だし、今も自由にうろうろしている。
「ハンスさんはもう、自分の身は自分で守れるからって断ってるっす。毎回毎回魔道具の設置面倒だろぉって言って。」
「魔法障壁使えないのに?」
「ハンスさんは騎士団長の攻撃も、飛んでくる弓もかわせるんで、一般人の攻撃なんて見なくてもかわせるっすよ。それでいてシールドが必要な状況ってなんすかねー?」
「、、、魔術か、魔物からの攻撃?」
ドラゴンのブレスとかだ。
「、、、ないわね。」
「そゆことっす。」
とことん野放しな王子だ。
ーーーー
挨拶が終わったので自由行動だ。
「あっちにスーリンドさん達がいるわ。」
「挨拶しに行こうか。」
スーリンドは花婿達の母だ。ご挨拶せねばだ。
スーリンドはギルバートとリンドールの母のリンミュールが3人で話していた。
「スーリンドさん、この度はおめでとうございます。」
「アルクさん、リサさん、ありがとう。」
スーリンドはにっこり礼をした。
「リンミュールさんもこんにちは!パーティーにはリンミュールさんが出るんですね。」
「ええ、午前の結婚式の時の診療は私がやったので、午後はティリオンと交代です。エルノアとハルラスの2人に人族相手の診察はまだ任せられなくて。」
病院は休むわけにはいかないので大変だ。
ちなみに、魔導具店のエルフ2人も出張充填やら仕立てやらで午後のパーティーは欠席、
工房エルフ3人は人見知りのため欠席。
「エルフってやっぱり貴族のパーティーって好きじゃないのね。」
「彼らは結婚式に出たからもう大丈夫なんですよ。パーティーは、人族の貴族のための、お披露目会という名の社交場ですから、断ってくれて良いと、イシリオンとスーリオンにも言われていたみたいですよ。私は式に出ていないので来ましたが。」
リンミュールが言う。
「リンドールは?」
「あっちでパーティのエルフとエマさんといらっしゃるわね。」
リンミュールがリンドール達のいる方向を向いた。
「若いって良いねー。」
「そうねー。」
男女でキャッキャしている若者を、
ギルバートとスーリンドが微笑ましくみる。
「リンミュールさんは、リンドールがどんな人と結婚して欲しいとかあるんですか?」
「そりゃギルセリオン君ですよ。」
ギルバートを見ながら言った。
これはあれだ。ただのヨイショだ。
「でも、サモンドですからね、、、今はたくさん恋愛して、結婚相手は魔王の討伐から帰ってきてからゆっくり選んだら大丈夫です。」
エルフは魔王の討伐がどれだけ危険か知っている。
まずは討伐から無事に帰ってくることが第一の願いだ。
「あ、レオ。」
レオがふらっと現れた。
「よろしく頼む。」
そう言ってスーリンドの手を取ると、手の甲にキスをする。
「、、、何してるの?」
「見ての通り、魔力を分けてもらったんだが?」
見てわからないし、それ、絶対キスする必要なくね?
「この五日間、私とレオさんはペアみたいなものでしたのよ。」
「なんの?」
「話したろ。バイトだバイト。今日なんかは上級貴族と王族の集まりだ。いろんな会話がぼんぼん出てきて、魔力の消費が半端ねぇんだ。」
人間盗聴器フル稼働中らしい。
「レオは全然パーティーを楽しめてないのね。」
「おかげでスーリンドと仲良くなれたからな。十分だ。」
イシリオンとスーリオンの母ですけど?
あ、この人、未亡人だ。レオの射程圏内なのか。
「私、明日中にイスートンに帰りますけどね。」
「じゃあ今夜にでもお邪魔するかな?」
何こいつみんなの目の前で堂々と口説いてるんだ。
エマはどうした。
これがゲスの極みってやつか。
「レオ、あっちのお嬢さん2人の視線が痛くないの?」
ギルバートに言われてふと横を見ると、
エマとリンドールがこちらを睨んでいた。
レオ、乙女の反感を買っているぞ?
「ははっおっかねぇな。じゃ、夜の話はまた後で。俺はバイトに戻るさ。じゃあな。」
レオが戻るのを見届けると、
戻った先にエドガーがいたので軽く手を振る。
この同い年コンビ、相変わらず仲良しだな。
「スーリンド、レオのことは相手にしなくて大丈夫だよ、、、」
ギルバートが呆れ顔だ。
「ふふっ。まぁ、悪い気はしませんから。」
「うちの子とスーリンドがライバルになるのは避けたいわね。」
リンミュールが笑いながら言った。
リンドールがレオに御執心なのも母は承知なのか。
ーーーー
新郎新婦と新郎の母へのご挨拶が終わったので一旦休憩だ。
新婦の両親、国王と王妃は早々に退出したし、新婦の弟のハンスは、せっせと挨拶回りをしていて忙しそうなので後回しだ。
ダンスを踊る気もないので、アルクと2人で壁の花になる。
、、、つもりだったのだが、
花になりきれてなかったようで、顔見知りの貴族たちに挨拶されまくる。
「リサはすごいな。転移してまだ2年なのに、知り合いがたくさんいて。」
「アルクも普通に話してるじゃない。」
「全員リサの知り合いだろ?」
確かに。私の隣にアルクがいるから、
まずアルクに声をかけてから私に話しかけるという図式になっているが、主に私の知り合いだ。ママ友だ。
「無愛想にしてた期間が長すぎたからな。俺がこういうパーティーで単独で声をかけられることはまずない。」
さすが、ハッセルの闇だ。
「やぁ、アルク。」
アルクが声をかけられた。
素早いフラグ回収だ。
「ああ、アベル兄さん。」
アルクの上のお兄さん、アベルだ。
「あれ?父さんと母さんは今日来ないのか?」
「次期国王の結婚パーティーは、次期当主が行ってこいって言われてね。今日は俺とベネディクタだけで出席だよ。」
「ああ。ベネディクタ義姉さんは?」
「あっちでアダム達といる。」
ベネディクタはアベルの妻、
アダムはアルクの下の兄だ。
「アルク、フィーネ王女にご挨拶に行きたいんだが、エルフ様2人はアルクが懇意にしてるんだろ?
俺は初対面だから紹介してくれないか?あっちのアダム達も一緒に。」
「ああ。わかった。リサ、ちょっと行ってくる。」
「わかったわ。」
アルクが離れて行った。
1人でポツンとするのも寂しいと思い、周りを見回すと、見知った顔に声をかけられた。
「リサさん!」
アルクの妹のナディアだ!
今日は子供の出席はご遠慮とのことなので、旦那のエルカルトと2人だ。
「アルクならお義兄さん達といるわよ。」
私がアルクのいる方向を見る。
「ええ、さっき見かけました!」
「兄弟で一緒にって、ハッセル家は、兄弟仲良いわよね。」
「ええ、子供の頃、アルク兄さんがアベル兄さんとアダム兄さんの面倒をみてたようなもんですから、2人とも懐いてるんですよ。」
逆だろ。
「俺も面倒見てもらってたよ?」
と言うナディアの旦那のエルカルトは、アルクの幼馴染だ。
「あいつは小さい頃、周りと距離を置こうとしてた癖に、なぜか世話焼きだったんだよな。」
エルカルトが笑いながら言った。
「本当に、学校では無口で無愛想で負のオーラ全開だったのに、家ではすごい優しくて。兄妹誰1人として『怖い』って言わないのを、周りの大人達が不思議がってたわよね。」
ネガティブキャンペーンしつつも、家族は大切にする。
実にアルクらしい。
「エルカルトさんはアルクと学校で同級生だったんですよね?アルクって、学校時代ってどんなだったんですか?」
貴族の学校に通っていた12歳までの様子をエルカルトに聞いてみる。
「アルクはねぇ、超ーーー優秀。転生者で中身大人だし、勉強大好きだから、テストは必ずトップ。勇者のサモンドだから運動神経抜群で、運動系何をやらせてもトップ。
ハッセル家の英才教育で楽器もなんでも出来たし、何故かはわからないが絵も上手い。もう、凄すぎて学校では俺以外、誰も近づかなかったよ。」
リアル出木杉くんだ。
「へー。誰も?」
「アルクから拒絶の意思を示してたってのもあるんだけどね、怖かったんだろうなー。負のオーラが凄くて。
でも俺とか兄妹とかと話してる時だけ、たまに笑うんだよ。それがまた可愛いって一部の女子がキャーキャーって。影でモテてたな。」
「まぁ、誰も話しかけれなかったから、結果ボッチだったんですけどね。」
ナディアが笑いながら言う。
「ボッチじゃないだろ。俺がいた。」
エルカルトが胸を張って言った。
二人組になる時はいつもアルクと組んでいたらしい。
そういう人、助かるよなー。
「アルク兄さんは、エルカルトと2人で、学校で2大王子ってよばれてたんですよね。」
「ああ、、、下の学年にいた本物の王子を押しのけてな。」
「あ!アルクが闇の王子って呼ばれてたっていう!」
前の馬術練習の時にギードから聞いたことがある。
「そうです。で、エルカルトが星の王子だったのよね?」
ベストセラーの絵本出てきたー!
「それな、何で俺まで?ほんと、すげー恥ずかしいー!!」
エルカルトが顔を抑えた。
「なんで星なの?」
闇と対にするならまずは光なんじゃなかろうか。
「エルカルトは、闇である兄さんといつも一緒にいる明るい存在ってことで、星だったらしいわ。」
「へー、、、、学校って12歳までよね?まさか、それ以降も、、?」
「王子って呼ばれてたのは学校の間だけですよ。卒業しても上級貴族相手にそんなあだ名付けてキャーキャーしてたら、その貴族に対しても王族に対しても不敬になりますから。
私はそんなエルカルトの婚約者で、ドヤーでしたけどね。」
ナディアが満面の笑みで言う。
「あ、“光の王子”がいらしたわよ。」
ナディアが私の後ろに目線をやった。
闇、星ときて、光の王子とは?
「おうリサ。それにエルカルトさんにナディアさん、本日は姉様達のためにわざわざお越しいただき、ありがとーございまーす。」
ハンスだ。
挨拶が適当だ。
「ハンスが光の王子???」
確かにこの人は間違いなく王子ではあるが。
「誰に対してもいつも笑顔で気さくに話しかけてくれて、王子がいるだけでその場が明るくなるから、そう呼ばれてるそうですよね。」
ナディアが言った。
「集団生活において、処世術は大事だろ。」
さすが、外面王子だ。
「ほら、闇の王子が戻ってきたよ。」
エルカルトの目線の先、
「、、、黒歴史だ。やめてくれ、、、」
アルクが顔を抑えた。