142話 ハンスとリンドール
寝てしまったアルクは放っといて、飲み会を続ける。
「リンドールはハンスとは会ったことある?」
「あ、、、はい。初めてお会いしたのは2年前、ハンス王子が転生されてすぐです。」
「まだ隠れサモンドだった時ね。」
「はい。その時に私は王子がサモンドになられた事に気づいてしまって、、」
「ええ?!!リンドールは2年前からハンスがサモンドって知ってたの!?」
「実は、、すいません。。」
フィーネに続き、ハンスがサモンドだと知っていた人がいた。
「あと、ハンス王子に魔術を教えたのも私です。」
「えーーー!?ハンスの師匠ってこと?」
「師匠だなんて!そんなおこがましいです!!」
リンドールが首をブンブンと振る。
「ギルバートはリンドールが魔術を教えたって知ってた?」
私はギルバートに聞く。
「うん。王子の魔術修行の話をした時にね。お世話係のアルクから、ハンスはリンドールから魔術を習ったって聞いたんだ。」
へー。アルクも知ってたんだ。
「知らなかった、、、」
「話す機会がなかっただけでしょ。リサとリンドールは今までほとんど接点が無かったわけだし。」
「まぁそうね。それで、リンドールはどういう経緯でハンスがサモンドだって知ったの?」
「ハンス王子の具合が悪いようだから診てくれって王宮から実家の病院に連絡が入ったんです。
私はその時ノースルに住んでたんですけど、流行病でうちの病院が忙しくて、ヘルプで王都に帰ってて。王宮にも私が行ってくれって言われたんです。」
「へー。偶然ハンスを診ることになったのね。」
「はい。それで、ハンス王子に治癒魔法をかけている時に、どうも王子の目線が魔力の動きとリンクしてるなって思って。」
「あっさりバレたのね。」
「ええ、その日がハンス王子が転生した日なんですが、魔力も見慣れてなかったし、本当に具合が悪かったみたいで、見えてない演技する余裕もなかったって。」
「転生当日だったんだ!」
「はい。具合が悪かったのも転生の影響で。私もそうだったのですが、やはり何十年分の別の記憶が一気に入ってくると、、」
「僕も動けなかったなー。体に異常があるわけじゃないから、治癒魔法も使えないしね。」
「そうなんです!結局ハンス王子の頭痛も自分の頭痛も治せなかったんですよ。ヒーラーなのに!」
「転移者にはわからない辛さだわ。それで、そこからハンスに魔術を教えることになったの?」
「はい。剣士のサモンドが覚えられる攻撃と治癒魔法は両方とも初級なので、私でも教えられましたので。」
「そうだったのね。秘密を共有した間柄で、師弟関係でもあるのに、ハンス、私と紗奈が転移してきたことについては何も言わなかったのね。」
「、、、はい。皆さんにサモンドと打ち明ける前も後も、ハンス王子とお話しする機会は何度かあったのですが、特に何も、、。
まぁ、そこまで話せるような間柄では無かったといえばそれまでなんですが、、」
「んー、家族に話すのもタイミングを見てからって話だし、ハンスなりに話すタイミングを考えてたんじゃないかしら。」
「ですかね、、、」
「秘密にしたかったのか、後で話すつもりだったのかは知らないけど、それをあっさりアルクがバラしちゃったわけだ。」
ギルバートが寝ているアルクを見た。
「酔っ払い、、。それにしても、アルク、少ししか飲んでないのに、、」
お酒を一杯飲み切る前にダウンしたのだ。
お酒、弱すぎるだろ。
「あの大きさのドラゴンを斬るのに大量に魔力を消費したんだ。疲れてるんだろ。」
ギルバートが言った。
「え?聖剣って、魔力消費するの?!あ、ほんとだ。かなり減ってる。」
枯渇とまでは行かないが、かなり疲労感はあるだろうと言う量だ。
「普段は使わないけど、ドラゴンとかゾンビとか、聖の属性を使わないと倒せない敵の時は消費するね。ほら、今日のドラゴン、大きかったから。
でもこれくらいでへばってらたらダメだよね。魔王の討伐には相当の魔力を使う。アルクにもっと魔力を増やす鍛錬させないと。」
ギルバートが言った。
「アルクさん自身の魔力総量を増やさなくても、もし私とサナさん、ヒーラー2人で魔王討伐に参加できれば、かなり魔力回復できますよ!」
リンドールが言った。
「2人行ければね。サナが10歳になるまであと4年。それまでに魔王が復活しなければいいが。」
、、、復活すれば良いが。
「ああ、あと、魔術師も、候補を再検討しないとね。」
「候補の再検討?」
何の?誰の?
私は死ぬつもりも妊娠するつもり無いぞ?
「昔話したと思うけど、代打候補だよ。勇者以外は替えが効く。能力は劣るけどね。過去の魔王討伐パーティは、勇者1、剣士2、魔術師2、ヒーラー1、索敵1なんだ。
今回はサナが賢者素質だったからか、ヒーラーと魔術師が多いけど。取り敢えず10歳縛りにしたとき、現時点で魔術師と剣士が1人ずつ足りないだろ?」
勇者(1): アルク
剣士(2): エマ、ハンス
魔術師(2): 私、紗奈、凪紗
ヒーラー(1): 紗奈、リンドール
索敵(1): レオ
この中で、10歳未満のハンス、紗奈、凪紗が討伐パーティ候補から外れると、剣士と魔術師が1人ずつ足りない。
「もしエマに何かあったり、ハンスが10歳になる前に復活してしまったら、剣士の代打はエドガーだ。これは本人から立候補してきたって昔話を聞いたでしょ?まぁ、ハンスは10歳縛り無く行くつもりみたいだけど、それについては王妃が難色を示してる。」
「息子だから当然ね。」
「そこは親子で話し合ってもらわないとね。それに、代打のエドガーよりも弱いんじゃ話にならない。行きたいなら説得と鍛錬を頑張れってとこだ。」
「剣士に関してはハンスの頑張り次第ってことね。」
「うん。で、もしサナやナギサが10歳になる前に復活してしまったら、元の代打はイシリオンとスーリオンだった。でも王女様と結婚することで、代打から外れた。」
「もう冒険者も辞めてるものね。」
「それで今は魔術師代打は僕にしてあるけど、僕はレオに何かあった時の索敵代打にもなってるし、のろまな僕じゃ頼りないでしょ?
ヒーラーもリンドールが入ったが、リンドールにだってこの先何があるかわからないからね。魔術師とヒーラー両方とも、代打候補を挙げないといけない。」
レオは、私たちがスラムに来た時、死刑執行人に見えたと言った。
きっと、候補になる人はそう言う気持ちになるのだろう。
「リサとしては、複雑な心境だろうけどね。家族全員サモンドだ。」
「ええ、、候補になる人には悪いけど、早く魔王が復活して、別の人にならないかって思ってるわ。」
誰だって家族を危険に晒したくない。
百歩譲って、元大人のハンスは良い。
でもまだ6歳の紗奈や、1歳の凪紗を魔王討伐に向かわせたくはない。
「あの、私、、今まで、魔王復活って。正直、どこか他人事だったんですよ。復活しても、アルクさん達が討伐してくれる。ダメならダメで、エルフの里に避難すれば良いって。」
リンドールが言った。
「サモンドになって、、、こんな重圧を皆さん背負っていたのかって気づいて、反省しました。まだ幼い自分の子供を討伐に行かせたくないって思うのは当然です。
リサさんがそう思っていること、誰も咎めないと思います。少なくとも、候補になるだろうエルフ達は、2人のお子さんの何倍も生きて来たんですから、、受け入れてくれますよ。」
「僕もそう思う。気兼ねなく任せればいいよ。」
2人が言った。
そう言われても、心苦しさは変わらない。
もう、魔王自体が復活しなければいい。