116話 転移者 レオン -後編-
引き続きレオの回想です
女の家に住まわせてもらうようになった。
代償として、毎日2人に治癒魔法をかけてやった。
家で薬草をより効果的に使う方法を研究した。
金が無かったから、女を商業ギルドに行かせて、
開発した調合で特許を取って、当面の軍資金にした。
俺がスラムを仕切り出したのもその頃だ。
軍資金で研究所兼診療所を作った。
回診もするようになった。
少しばかりお金をもらってな。
金ができたから、情報集めだ。
王都の図書館に通ってみたり、スラムの奴らに集めてもらったり、酒場や情報屋も使った。
この世界や王都の事についてはそこで調べ尽くした。
お前らの事もだ。
上級治癒魔法でエイズが治るかもしれない。
上級治癒魔法が使えるヒーラーは王都に4人いる。
うち2人はエルフの病院の医師、
うち1人は王都エルフパーティ兼、勇者と同じパーティの冒険者、
うち1人は幼いサモンド。
1人だけエルフの病院で治癒してもらって、完治できるか確認して、エイズの件は一旦保留にした。
サモンドである事をバラすかバラさないか天秤にかけた。
バラすメリットは
ヒーラーが手に入る。
デメリットは
魔王討伐に行かなくてはならない
バラさないメリットは
魔王討伐に行かなくて済む
デメリットは
無い
せいぜいバレないように、常に魔力探知を全開にしておかなきゃいけないくらいだ。
俺の初級治癒だけでも病気の進行自体は抑えられてたからな。誰もエイズじゃ死なない。
薬草の研究が進めば、いつか病気に打ち勝つ薬ができるかも知れないってな。
ただ、一つ、コンドームの開発だけはしておきたかった。
製品化されるまで嗅ぎつけられなければ良かったんだけどな。
どのルートからか知らないが、お前らの所にサンプルが回ったのが最大の失敗だ。
で、昨日、お前らに見つかった時、お前らの性格を魔力で見て、今日の作戦に切り替えた。
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「後は今日お前らが聞いた通りだ。
診療所に患者を集め、ここで待てば良いと伝え、家を空っぽにして、お前らのせいでここを出て行くとスラムの奴らに宣言して、お前らが来るのを待っただけだ。」
「一つ気になったんだが、、」
「なんだ?勇者。」
「俺たちを診療所に案内した男は『毎日ここで人が死んでいく』って言っていた。
だが、今のお前の話だと、お前が来てから、病気で死んだ人はいないってことだよな。」
アルクが言った。
「ああ。いないな。ちなみにその男は今日俺が仕込んだ唯一の仕掛け人だ。」
「え!?」
「俺はあいつの動きを指示していた。ただ、スラムの現状の誇張はあいつのアドリブだ。俺が来る前までは実際、毎日死んでたみたいだからな。
あと、あの男がエルフの病院で病気を完治させた奴で、俺を助けてくれた女の旦那だ。俺が使ってたあの家もそいつの家だ。」
「女の方は?」
「今日、お前に治療してもらった患者の1人だ。今はもう家に家財を戻して、2人で仲良くシてんじゃねぇか?」
「石を投げてきた少年は?」
「あれはただの正義感溢れる少年だ。へへっ。実にいい演出してくれた。」
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真相はわかったが、なんだかまだ色々裏がある気がする。
「ねえ、アルクから見てレオはどんな性格に見える?」
アルクの魔力性格診断だ。
「人をからかうのが大好きな嘘つき男。」
「ははっ。よく当たってるよ。さすが勇者だ。」
レオが笑いながら言った。
「他には?」
「義理堅く、責任感があり、優しい所もある。」
「からかうのが好きな嘘つき男の割合は?」
「8割。」
「はははっ、そうかも知れねぇな。」
「、、、なら、今の話もどこまでが本当かわからないわね。」
「魔術師は疑り深いな。俺は無駄な嘘はつかない主義だ。この話が嘘であって、俺にはなんのメリットもねぇ。」
「確かに、、」
「っていうかさ、結局、ゴムの開発も、スラム内のエイズの感染拡大を防ぐためにやったんでしょ?良い奴じゃない。」
エマが言った。
「ゴムの開発は俺のためだ。俺が気兼ねなく女どもとヤりたかっただけだ。」
レオはニヤリと笑いながら言った。
「子供の前でそう言うこと言わないで。」
私が怒る。
「ん?アルクパパ、なーにー?」
アルクが既に、寝ている紗奈の耳を塞いでいた。