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転移ママの異世界奮闘記  作者: 平館 あや
プロローグ
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プロローグ

平凡な人生だった。


専門学校を卒業し、ウェブデザイナーとしてWEB制作会社に就職。

そこで出会った別部署の先輩と社内恋愛の末、結婚、妊娠した。


平凡だった。


ここまでは。


ーーーー


私と旦那が勤めていた会社は、制作会社にありがちなブラック企業。

残業徹夜は当たり前。

それでも、このような会社はこの業界では珍しくない。

若いうちは修行と思って勤め、スキルアップしたら条件の良い会社に転職すればいい。業界の常識だ。


故に社員の入れ替わりがはげしい。

採用しても採用しても成長したらすぐ退職していくような会社。

平均年齢は若く、ママさんどころか、既婚者も少ない。


結婚する前は良かった。

納期前の徹夜も皆んなで集まれば合宿感覚。

団結力があり、大きな仕事の後は飲み会、休日は皆んなでバーベキューとかするくらい仲が良かった。



でも、結婚、そして妊娠後、私は会社にいられなくなった。

原因はマタハラだった。


元々、旦那との社内恋愛は秘密だった。

そして旦那は女性社員に人気があった。

突然の結婚報告に、女性陣の何人かから反感をかった。

でも仕事さえきちんとしていれば嫉妬はすぐ収まった。


妊娠は違った。


つわりが酷く、何度か休んだ。

それでも無理を押して出勤すると、私が休んだことで大変だったと文句を言われた。

申し訳なく思い残業を繰り返すと、今度は無理が祟って切迫流産で入院となった。


幸い子供は無事だったが、私が入院したことで同僚達にさらに負担がかかり、しばらく徹夜が続いたそうだ。

私の退院後にかけられた言葉は優しかった。


「流産しちゃったんですね。。残念です。。」


でも、その言葉は間違っている。

切迫流産は流産ではない。

流産しかかっている状態であって、流れてはいない。

そして、私の子供は無事だった。

独身が多いから仕方がない。妊娠出産に対する知識が無いのだ。


相変わらずつわりは酷く、また切迫流産で入院も困るので、定時で帰宅できる分量に仕事を調整してもらうと、また同僚から文句を言われた。



「なんで妊娠なんてしたんだ」



その言葉に私は絶望した。

まるで、お腹の子を殺せと言われた気がしたのだ。


私は退職した。




旦那は私が退職する頃には管理職になっていた。

責任ある立場と私の妊娠。

出世は会社が旦那を辞めさせないための手段だったのかもしれない。


出世したと言っても給与はさほど変わらない。

それどころか、申し訳程度の見込み残業代も入らなくなったので、減ったとも言える。

子供を、妻を、養わなければならない。

部下を見捨てることもできない。


旦那は辞めるに辞められない状況になっていた。


この時、『辞める』という選択ができていれば、、、




子供が産まれた。

女の子だった。

よく、女の子は父親に似ると言われるが、私の小さい頃によく似ていた。


旦那は仕事で出産に立ち会えなかったことを申し訳なさそうにしていたが、気にしていない。

自分の勤めていた会社だ。会社の状況はよくわかっている。


出産後、旦那の帰宅は基本、22時以降〜時々終電。

旦那が帰る時間はほぼ子供は寝ていたので、

朝のわずかな時間だけ愛娘とふれあい、出勤。

管理職になった旦那が頑張ったらしく、社内制度が少しだけ整えられて、休日は確保され、徹夜はほぼなくなっていた。


私は会社を辞めてからフリーランスのデザイナーとして自宅で仕事を始めていた。

あんなに酷かったつわりも、会社を辞めた後ピタリと治った。

精神的なものがつわりを酷くしていたのか、それとも、ただ時期的なものか。


産後2ヶ月から少しずつ復帰、育児をしながらだが、ここしばらくは毎月家賃程度は稼げるようになっていた。


今年、娘が幼稚園に入り、さあ仕事を増やすぞ!と意気込み始めた頃、

旦那は大きな仕事が入ったと言って、徹夜が復活、休日も徐々に仕事に蝕まれていった。


週7勤務、徹夜あり。完全なる社畜。

そんな生活がしばらく続いた、娘の4歳の誕生日の朝。



旦那が死んだ。


ーーーー


旦那が死んだ。

心筋梗塞だった。

瞬時に過労死だと思った。


娘の誕生日こそは早く帰るから!

と、仕事のペースをあげていた。無理しすぎたのだ。


その日も徹夜で仕事をしていた。

一人だったらしい。

朝、出勤してきた社員が、パソコンの前で息をしていない旦那を発見した。


そこからの記憶はほとんどない。

目の前で何かがせわしなく動いている。そんな感じだ。


会社の人が何人か来た。

社長が謝った。

正直、何を話していたのか覚えていない。

ただ土下座されているのをぼーっと見ていた。

私の元同僚と辞めた当時新人だった子数人も一緒に来た。その人達も何やら謝っていたようだった。

何も聞こえない。



目の前で起きていることが入って来ない。

ただただ自分への後悔ばかりが襲ってきた。


仕事を辞めさせていれば

私が仕事を手伝えてれば

もっと休ませてあげてれば

誕生日だからと無理させなければ

子供を産まなければ

結婚しなければ

付き合わなければ

私と出会わなければ



朦朧としていた。

両親の声も、友達の声も、

誰の声も耳に届かなかった。



ただ一人、娘の声だけが、

娘の優しい声だけが、耳に強く響いてきた。


「ママ!はーちゃん、よんちゃいのおねえちゃんだたら、ママのとと、だっこちてあげるね!」


そういうと、娘は私の背中に抱きついてきた。

娘に背中を包まれてさらに泣いた。



棺の前でいつまでも泣いていた。

気づくと娘は、私の膝の上で寝ていた。

そして私もいつの間にかまた眠っていた。



そして、次に目が覚めたとき、

森の中にいた。



娘と二人で。


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