約束の相手?
「ちょっと待って!!」
青空の広がる屋上に可愛らしい声が響く。でも、その声音は今までの彼女からは聞いたことのないほどに荒々しかった。
「柊さん…?」
「あら、いましたのね…」
僕と九条さんが柊さんに視線を向けると、彼女の顔はどんどん赤らんでいく。
「いや、その、ついてきたとかじゃなくて、偶然、たまたま、思いがけず、図らずも見かけちゃっただけだからね!?」
「あっ、そうなんだ…」
よくそんなに類義語出てくるよなあ…と感心していると、
「ところで、『ちょっと待って』とはなんのことです?」と九条さんが聞く。冷静だ。
「それは、その…」
と、急に歯切れが悪くなる。何か言いづらいことでもあるのだろうか。というか、さっきよりもさらに顔が赤いけど…
「そう、そうなのですね。」
何やら九条さんは納得したらしい。
「まあ、今は別に急がなくてもいいですわね。この話は落ち着いてからにしましょう。ただ…」
晴太の胸のあたりに何かが軽くぶつかる。そこには九条さんがいた。これって、抱きつかれてる…!?
「ちょっ…何して…!?」
「晴太さんは私の旦那さんですから♡」
「何か段階進んでない!?」
柊さんの目が死んでる!あんな姿見た事ないんだけど!
と、そのときケータイの着信音が鳴る。どうやら九条さんのものらしい。
「あら、もうお迎えが来ましたのね。」
高校までお迎えとは九条さんはお嬢様なのだろうか。とにかく、この状況から助けられたことに安堵する。
「では、また明日お会いしましょう!」
九条さんは朗らかに言いながら屋上を出ていった。残された僕と柊さんの間に妙な沈黙が生まれる。
「あの…ハル君…」
口を開いたのは柊さんだった。口をモゴモゴさせている。
「なっ、何かな…」
「えっと、その…」
上目遣いで見上げてくる柊さんは何か言いたげで恥じらう様子がとても可愛らしい。
この雰囲気、柊さんの態度。これって、まさか…もしかして…?
柊さんが大きく息を吸い込む。
「か、帰ろっか!?」
晴太の淡い期待はその一言で砕かれた。
「そ、そうだね…」
本来ラッキーなイベントの憧れの人との帰路は特に会話もなく気まずいままになってしまった。
こうして、晴太の高校二年生の初日は修羅場となって幕を閉じた。