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第7話 ルカナの暴走

 ゴクゴクと音をたてて、美味しそうにビールを一気飲みするルカナ。飲みきると手の甲で口元を拭いた。

「プハー。うまいんだな。これが」

 隣に座っていたコヨリは、ルカナを見て真似を始めた。オレンジジュースを一気飲みして、ゴクゴクと音を立てる。同じように飲んだ後には、手の甲で口元を拭いた。


「プハー。うまいんだな。これなの」

 語尾は自分流の言い方にこだわりがあるようだった。

「ルカナさん。お行儀が悪いからやめてください」

「そんな堅苦しい飲み方してらんないから」

「あたくしはちゃんとしつけを受けてますので、堅苦しいなんて思いませんよ」


 ジョッキをドンとテーブルに置くルカナ。

「ちゃんとしたしつけなんて受けてないから。あたしは子供の頃から、剣を振り回してた。モンスター倒して、その肉を自分で焼いて食ってたから。今さらお行儀欲なんて言われても無理なの」


 アリルの言葉を真っ正面から否定した。アリルとルカナの視線が交わる。火花が散っているように見えた一馬は、喧嘩にならないか心配したが、そこにリリネが料理を運んできた。鼻歌を歌うリリネは楽しそうだった。

「みなさんステーキはお好きですか?」

「ステーキ大好物!」


 ルカナはすでにナイフとフォークを持っている。食べ物ですぐに気持ちが変わるようだった。アリルとの険悪な雰囲気は一瞬で消えた。

 しかし最初に置かれたのは一馬にだった。順番に置かれていき、最後に置かれたのがルカナだった。調理場から一番遠いため、仕方ないと判断した。


「いっただきまーす」

 ルカナだけが食べ始める。他のみんなはルカナの方を見て、調理場に戻ったためナイフとフォークにすら手をつけていなかった。

「うまい。ステーキ最高!」

「リリネさんも一緒に食べましょう」


 一馬はリリネが調理場に戻って、中々テーブルの方に来ないので呼びに行った。リリネは切った肉に手をかざして、魔法をかけていた。用意した材料を同じお皿に入れて魔法をかけると、数秒後完成した料理として出来上がっていた。

「すごい。魔法で料理ってこんな風に出来るんですね」

「あたしよりもみなさんの方がすごいですよ。コヨリちゃんなんて大きな炎を出せますし。あたしが火を出しても掌サイズですから」


 自分には魔法使いの才能はないと言い、苦笑して料理を続けるリリネ。だけど一馬はそんな言い方をして欲しくなかった。

「リリネさんは魔法で料理を作るっていう才能があるじゃないですか。魔法使いは強い魔法を使ってモンスター倒す。それ以外の、美味しい料理で人を喜ばすって道にたどり着いたリリネさんは素敵ですよ」


「素敵だなんて、そんな……」

 褒められ慣れていないように、リリネは顔を赤らめて、照れたように一馬から視線をそらした。

「カズマ様にそう言ってもらえると、今までのあたしの人生は間違ってなかったんだなって思えて嬉しいです」


 少し心を落ち着けてから、一馬に笑顔を向けたリリネ。清々しいその表情には、余計な謙遜などは一切なかった。

「もうちょっと料理があるんで、少し待っててくださいね」

 一馬はそれを聞きお皿を見る。かなりの量がお皿にのっていて、食べるのは結構大変だなと思った。


「でもさすがに量多くない?」

 ローストビーフとビーフストロガノフも完成して、テーブルに持っていくリリネ。リリネは一馬にキラキラとした視線を向けながら話す。

「カズマ様は男性ですし、勇者様には体力をつけていただかないと」

 ローストビーフとビーフストロガノフは一馬の前にだけ置かれた。それを見たルカナは、即座に文句を言った。


「ねえ何で一馬にだけなの?」

 ルカナはすでにステーキを食べ終わり、次の料理を楽しみにしていた。

「カズマ様は助けてくださったので、いっぱい食べて欲しいんです」

「それってずるくない?」

 ルカナは頬を膨らませた。


「僕はステーキだけで十分なんで、ルカナさんどうぞ」

 一馬は普通に一人前食べれば充分お腹いっぱいになるため、ルカナの方にお皿を運ぼうとして持ち上げた。

「カズマ様のために作ったのに……」

 リリネの悲しそうな顔を見て、ローストビーフのお皿を持って止まる一馬。

「えっ?」


「カズマ様はあたしを助けてくれたお方です。あたしにとっては、勇者の中の勇者なんです」

 そう言われると食べないわけにはいかないと思ってきた一馬だけど、ルカナがお肉を一枚取った。

「もーらい」

 驚く一馬とリリネ。ため息をつくアリル。黙々とステーキを食べ続けるコヨリ。


「こんなこと言ってると冷めちゃうじゃん。早く食べようよ」

「せっかくカズマ様のために作ったのに……」

 泣きそうになるリリネを見て、一馬は慌てて食べ始めた。

「このローストビーフ美味しいね」

 一馬は本当に美味しいと思って言ってるのに、励まそうとしているため、どこか嘘っぽくなってしまった。


「リリネってさ、一馬のこと好きなの?」

 面白そうに目を輝かせて質問するルカナ。

「そ、そんなわけないじゃないですか。命の恩人にお礼をするのは当然じゃないですか」

「ようし。一馬あたしとキスしよう」

「は?」

 一馬は訳がわからなかった。


「一生懸命戦う一馬を見てたら、いい男に見えてきたんだよ」

 一馬はドキドキしてきた。

 ルカナはがさつなイメージがあるものの、悪い人には思えなかった。そして改めて顔を見ると、結構美人に見える。

 一馬は無意識にルカナの唇を見つめていた。

 一馬の視線に気付いたリリネは叫んだ。


「ダメです。絶対にダメです」

 ルカナは大笑いした。

「冗談だよ。好きなら好きって言いなよ。あとで後悔しても遅いってことがあるんだしさ」

 ため息をついてから、アリルは話し始める。

「ルカナさん。お行儀が悪いのは大目に見ますけど、人の気持ちをもて遊ぶのは良くありませんよ」


「何が?」

 アリルは一馬に視線を向けて、ルカナはそれに従い一馬を見る。一馬はルカナの言葉によって、顔を真っ赤にしていた。

「ぼ、僕だって冗談だと思ってましたよ」

 一馬は必死にそう言うが、アリルには見抜かれていた。


「顔真っ赤だし、声がめっちゃ大きくなってるし、本気で受け取ってたようにしか見えないよ」

 一馬は何も言い返せなかった。最後の抵抗をした一馬だけど、ルカナの言葉にぐうの音も出なかった。

 ルカナがビールを飲もうとしたが、アリルが止めた。


「もうお酒はダメですよ」

「えっ?」

「ルカナさんがお酒を飲むと、ろくなことがないと思ってましたけど、一馬さんとリリネさんを見てください」

 一馬とリリネは二人とも俯き、何かに負けてしまい、やる気がなくなったような状態だった。


「ありゃま。意気消沈だね」

「他人事じゃありませんよ。こんなときにまたモンスターが攻めてきたら、一馬さんは戦えませんし、ルカナさんは酔っ払いですから」

「誰が酔っ払いよ」

 ルカナは食い気味に突っ込みを入れた。


「大丈夫なの」

 アリルとルカナが一触即発になったとき、いつものトーンでコヨリが話し出した。

「これを食べれば元気が出るの」

 コヨリがポケットから出したのは、チョコレートパイだった。

「これは何ですか?」


「日本のお菓子のチョコレートパイなの」

「お菓子が何かの役に立つんですか?」

「これを半分こにして、二人に食べさせるの」

 コヨリの言葉を聞いた一馬は、何とか微笑んで、余裕を見せる。子供にまで気を遣わせたくはなかった。


「大丈夫だよ。それより何個持ってきてるの?」

「あたしも大丈夫です。お礼をしなきゃって気持ちが強くて、勘違いされました。これからは気をつけます」

 一馬とリリネは大丈夫と言い、チョコレートパイを食べなかった。

「じゃああたしがもーらい」


「ルカナが食べちゃダメなの」

「二人がいらないって言うんだからいいじゃん」

 ルカナはチョコレートパイの包みを開けて食べ始めた。

「このお菓子超美味しい。日本のお菓子ってすごく美味しいんだね」

 食べ終わったルカナは急に立ち上がった。

「なんだかわからないけど、めちゃくちゃ元気出てきた」


 腕をブンブン回して、脚を上げて準備運動を始めた。

「ちょっと街の外にモンスターがいないかパトロールしてくる」

「お酒を飲んでパトロールなんてやめましょう」

 アリルの言葉も聞かずに、ルカナは走って飛び出した。

「あのチョコレートパイには、元気になる魔法がかかってたの。今頃ルカナは走り回ってると思うの……」


「コヨリさん。あなたは悪くないのよ。人の食べ物を取っちゃうルカナさんが悪いんです」

 その夜ルカナがモンスターに向かって剣を交えるときの「ディアー!」などの声が街まで響いて、街の人々の睡眠を妨害した。

 街の人々はモンスターを倒してくれるのはありがたいと思いつつ、どんだけ声が大きいんだよ思っていた。

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