第6話 一生懸命以上のパワーで君を護るよ
一馬とコヨリがバトランチリックに来ると、キラーバッファローに街が襲われていた。
一馬は急いで伝説の本を出した。自然にページが開き、一馬に黄金の光で、勇者の剣とよりを装備させた。
「どんどん倒していくの」
「うん」
一馬とコヨリはキラーバッファローを倒していく。湿布が効いたのか走っても問題はなかった。
近くにいるキラーバファローを全て倒して突き進むと、アリムは牛獣人と戦っていた。
「昨日の威勢はどこにいった?」
「威勢じゃない。この国を護る」
「言うだけなら簡単だよな。死ぬ前に名前ぐらい名乗ってやるよ。俺はゴンゴーだ」
昨日はアリルの剣に手も足も出なかったゴンゴーは、動きが速くなっている。素早いアリルの剣が、読まれているようにスイスイとかわされてしまう。
「どういうこと?」
「ちょっとだけレベルを上げてもらっただけだ。こっちにもいろんな魔法を使える奴がいるんだよ」
睨みつけて歯を食いしばるアリル。
「昨日寝てた勇者が来たか。痛い目に遭いたくなかったら帰るんだな。今の俺は昨日の俺よりも強いからな」
アリルを殴り飛ばして大笑いする。
「僕も昨日よりは強くなってるはず」
「そこはもっと強めに言った方が格好良いの」
「僕は昨日よりも強くなってる!」
一馬が言い直すとゴンゴーは大笑いした。
「何しに来たんですか?」
アリルが倒れた状態から立ち上がって訊いてきた。
「もちろんこの国を護るために来たんだよ」
「すぐに諦める奴に、あいつは倒せない」
一馬は言葉で何を言っても無駄だと思い、剣を構えてゴンゴーに向かっていく。
「やろうってのか?」
一馬が振り下ろした剣は読まれていて、サッとかわされた。横に回り込まれた一馬は、右腕を殴られた。
「ウッ!」
痛みに声を漏らしたものの、一馬は斜めに剣を振り下ろした。
「何ッ!」
倒れなかったどころか、攻撃を仕掛けてきたことに驚くが、余裕でかわすゴンゴー。
「気合いで踏ん張ったのは褒めてやる。でも何発耐えられるかな?」
一馬は右腕をさする。
「何発でも耐えてみせるよ!」
「無理をしてはいけません。あたくしが今から戦います。あなたはザコを倒してください」
アリルが横に来た。
一馬は周りを見ると、コヨリとルカナがキラーバッファローを倒していた。ルカナを狙い突進をしたキラーバッファローは、ルカナにかわされて大木を倒してしまった。少なくともザコではない。
「僕は勇者だから。一生懸命以上のパワーでこの国を護るよ」
一馬は再び剣を振り下ろす。さっきと同じようにかわされたが、今度は左によけられたのを読んだ。振り下ろした剣は直角に曲がり、ゴンゴーに向かっていく。
「おっと」
今度は後ろに跳んでかわされた。
「少しは昨日より強くなったみたいだな」
睨み合っていると、リリネさんがキラーバッファローから逃げて僕の方へ来た。一馬は素早く動き、キラーバッファローが気付いたときには、首を斬り落とした。
「リリネさん。ここは危険です」
「でもドアが壊れたから。お店の奥が家だったんです」
「そ、そうなんですか……」
一馬がガックリうなだれた瞬間だった。ゴンゴーがリリネを抱いて行ってしまった。
「昨日と同じことを繰り替え」
アリルは怒ったが、一馬の反応速度は速く、ゴンゴーの背中に剣を突き刺すところだった。だが振り返ったゴンゴーは、角からエネルギーを集め、一馬の剣に向けて撃った。あまりの威力に一馬は剣を落としてしまう。
「まだまだだ!」
一馬は落とした剣の柄を蹴り上げ、剣がクルクルと回転しながら上がっていく。目の前に来たタイミングで柄を握った。
「これでどうだ!」
「あまい!」
ゴンゴーは一馬の右手を蹴る。一馬は苦渋の表情を浮かべながらも、歯を食いしばって剣を離さなかった。
「耐えてみせる!」
一馬は昨日を思い出す。足の痛みで思うように動けなくて、戦えなかった。今も右手から腕にかけて痛みが走っている。何もしなくても痛いのに、動かすとさらに痛みが増していく。それでも一馬は右手に力を込める。
「うりゃー!」
「遅い!」
痛みに耐えて攻撃しても、動きが遅くなってしまった。ゴンゴーは左腕でリリネを抱きながらもかわしている。
「お前が耐えても、この程度のスピードじゃ俺を倒せないぜ」
しかしアリルがゴンゴーを攻撃した。
「抱いたままでもあたくしの攻撃をよけきれるかしら?」
「よけなくてもいいんだよ」
「キャッ!」
振り下ろされた剣に向かって、リリネが盾のように動かされた。
「卑怯です!」
「俺達は卑怯な戦い方をするのを知ってるだろ?」
そう言いながら昨日のように、赤い宝石を出した。赤い宝石が輝くと、リリネの魔力を吸収し始めた。
「リリネさんを助けるんだ!」
「カズマ様!」
「リリネさん。僕は一生懸命以上のパワーで君を護るよ!」
一馬は右腕の痛みに耐えながら剣を振り下ろした。一馬はギリギリで剣を止める。一馬に向かってリリネを出したため、アリルが赤い宝石を攻撃した。
「何ッ!」
リリネから吸い始めた魔力は、赤い宝石が粉々に壊れたため、リリネの体に戻っていった。ゴンゴーは驚きで力が少し抜けたようだった。リリネはこのチャンスを見逃がさなかった。ゴンゴーの腕に手をあてた。
「黒焦げになりなさい」
リリネの魔法は料理に使う程度で、強力な炎を生み出すことは出来ない。だがリリネの手からは確実に熱が生まれていた。その熱は鉄板のような熱さを生み出し、ゴンゴーの腕を黒焦げにした。
「アチッ!」
リリネを抱き抱えていた腕は、火傷で完全に力が抜けた。リリネは一馬の後ろへ身を隠すように逃げた。
「この女が!」
怒りを爆発させたが、一馬とアリルが同時に攻撃を仕掛けた。
「あたくしの攻撃をよけ続けられるかしら?」
「動きが速くなった俺をなめるな!」
「さらに僕の攻撃も加わってもかわせるかな」
「お前の攻撃は遅いんだよ」
アリルの素早い攻撃をかわし続けていたが、一馬の攻撃は右腕の痛みによって、素早くは動かせないため、攻撃をしてもほぼ無意味に等しい状態だった。
「万が一のときのことは考えておくもんだな」
アリルの剣をかわして、蹴りを決めたゴンゴーは、ポケットから赤い宝石を出した。一馬は攻撃をしていたため、リリネから離れてしまった。
「魔法の宝石よ。あの女の所にいた瞬間魔力を奪い取れ」
赤い宝石をポケットにしまい、まるで闘牛のようになり突進していく。
「今スピードが一番速いのは俺だ」
一馬は走っても追いつけないのは確実だと思った。
「あたれー!」
剣を投げつけ叫んだ。
ゴンゴーは振り返り、少し横に動いて剣をかわした。
「アイデアは良かったな。でもそんなに大きな声で叫べば、よけられるんだよ」
ゴンゴーがリリネの前に来た瞬間、赤い宝石が輝きリリネの魔力を吸い取ろうとした。
しかし一馬の狙いは剣で攻撃することじゃなかった。
「これでもくらえ」
「カズマ様!」
一馬はクラウチングスタートで走り出した。昨日の戦いで一馬は自分の動きの速さが高くなっているのに気付いた。剣を投げて一瞬でも動きが遅くなれば追いつけると判断したのだ。そして最後に勢いを利用した跳び蹴りをぶちかました。
「何だと……!」
ゴンゴーはコロコロと転がっていく。
「もう一度言うね。一生懸命以上のパワーで君を護るよ」
リリネは嬉しさのあまり涙を流した。
「大切なものを投げるな」
アリルは一馬の剣を拾ってきた。
「すいません」
「だけど、あなたの本気はわかりました」
「えっ?」
「昨日は言いすぎました」
深く頭を下げるアリル。
「そ、そんな。アリルさんが言ったことは正しくて。昨日の言葉があったからこそ、もっと本気を出さなきゃと思ったんです」
一馬が剣を受け取って、慌てて説明する。
「とにかく今はあいつを倒しましょう」
蹴られた勢いでゴンゴーは壁に勢いよく叩きつけられた。かなりのダメージらしく、起き上がれない状態だった。
「一緒に攻撃しましょう」
「はい」
二人同時に剣を振り下ろしてゴンゴーに止めを刺した。
「やったー」
動かなくなったのを確認し、両手を上げて喜ぶ一馬。隣のアリルは右手を出していた。
「いろいろすみませんでした。あなたは立派な勇者です」
「ありがとうございます」
アリルの手を握り、握手をする一馬。
「おーい。こっちは全部倒したよ」
「魔法でモンスター反応は確認したの。この街にはもうモンスターはいないの」
「やることやったし、打ち上げしよう」
ニカッと笑うルカナ。
「あなた、またお酒を飲む気ですか?」
「そのために生きてるんじゃん」
「ほどほどにしててくださいね」
アリルは少し心配な表情でルカナに忠告した。
「もし良かったらうちのお店に来ませんか。ドアが壊れた状態ですが、良い牛肉がいっぱい入ったんで」
「ハハッ。肉か。ガッツリ食えそうだな」
ルカナは嬉しそうにリリネの店に向かって歩き出した。みんなはルカナに続いて歩き出す。勝利の余韻に浸る勇者達の顔は、笑顔に満ちていた。
最初にやりたかった話しはここで一区切りになります。しばらくはギャグやラブコメ回を書きつつ、また数話にわたる話を書こうと思います。応援してくれている方、読んでくれている方々ありがとうございます。