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第4話 勇者の力と勇者の覚悟と

 一馬とコヨリは窓から見て、ドアを壊そうとする牛のようなモンスターを確認する。何度も角で攻撃されているため、ドアの耐久力は限界に近き、角で穴が開き、さらに何度も体当たりをしてきた。

「キラーバッファローなの」


 焦げ茶色の体で黒い頭部。角はカーブをしながら、頭を下げると真っ直ぐ前に向いていた。日本の牧場にいる牛よりも二回りは大きく、戦闘的で体が大きいにもかかわらず、動きが速かった。

「こいつ強いのか?」

「普通の人間が一対一で戦ったら勝てないの。でも勇者や魔法使いなら話は別なの」


 一馬はどう戦うかを考えたが、自分は今どれくらい強くなったのかわからないため、本来のビビリな性格が出てしまい脚が震える。

 剣を構えながらも、ドアに近づく勇気が出なかった。だけどもうすぐドアが壊されて、キラーバッファローが中に入ってくる。ドアが部屋に突き飛ばされた。


 一馬はドアが飛んできてビックリしながらも、自慢の反射神経でかわした。勢いよく突進してくるキラーバッファローは、間近で見るだけでも恐怖心が芽生えるのに、自分に向かってきたため、とにかくよけようと思った。

 一馬が右にサッと跳ぶと、キラーバッファローは勢いを止められずに、壁まで走り続けた。キラーバッファローの角が壁にめり込み、建物がグラッと揺れた。


「カズマ様。頑張ってください」

「はい。頑張ります」

 怖かったもののリリネに応援され勇気が出た。

 壁に刺さった角を抜くのに少し時間がかかったが、キラーバッファローは一馬に狙いを定め再び突進した。


 持ち前の反射神経で突進をかわし、そのまま横から剣で切り裂いていく。キラーバッファローは顔から胴体に深い傷を作った。低い声で痛みを訴えるが、動く余裕がなくなったところを、剣を振り下ろして右前脚に剣を刺す。最後の一撃として、背中に思いっきり剣を振り下ろした。


「倒したか?」

 動かなくなったように見えた。だけど止めを刺したのかは、初めての一馬にはわからなかった。

「たぶんもう動かないの。浅い呼吸はしてるけど、時間の問題なの」

 一馬はコヨリの言葉にホッと胸をなで下ろした。


「外にいるのを倒してきます」

「頑張ってください」

 リリネの応援が本当に心強かった。一馬は自分だけじゃ勇気が出なかった。

 勇者の力は今までの自分の体とは思えないほど速く動き、ものすごいスキルで剣を操る。それは剣を振るときの力強さと、剣さばきの技術から感じた。


 次々と人々を襲うキラーバッファローを倒していく。一馬は自分が求めていたのはこれだと実感した。格好良くて、人の役に立ち、人から求められる。

 四匹のキラーバッファローに囲まれた。最初に突進してきたキラーバッファローをジャンプでかわして、真上に来たタイミングで、背中に剣を突き刺した。


 二匹目と三匹目が前と後ろから同時に来た。一馬は剣を強く握り水平に持って、勢いよく上半身を捻った一撃を決め、勢いよく血が飛び出た。一馬はその回転を後ろの気配を意識しつつスピードを調節していた。タイミング良くもう一匹も回転の一撃で倒した。

 残った一匹は逃げ出してしまったが、追いかけると思ったよりも速く走り、跳躍とともに剣を振り下ろして倒す。


「僕は強い!」

 確信した一馬は襲われてる街の人を探して助けていく。

 コヨリも別の場所で魔法を使って戦っていた。この調子でいけばあと十分くらいで、だいたい倒せるんじゃないかと思った。


「カズマ様!」

 リリネがキラーバッファローに追われていた。懸命に走っているリリネに、もう少しで追いつきそうになった。

「今助けに行きます」


 急いでリリネの方に向かったが、家の影からもキラーバッファローが現れた。勢いのまま剣を振るったが、角から黒いエネルギーを集め、一馬に向かって撃ってきた。スレスレで左にかわして、一旦後ろへ跳んだ。

「こいつ魔法を使うの?」

 周りには答えてくれる仲間はいない。今まではタイミングよく倒したため、魔法を使わなかっただけかもしれない。


 走り出そうとしたときに足に軽い痛みを感じた。咄嗟にかわしたときに足を捻ってしまったようだ。だけど気にしている余裕はない。

 目の前のキラーバッファローを倒すよりも、リリネを助ける方が先だと思い、リリネの方に向かった。しかし走っていたリリネに、キラーバッファローが角を突き刺す直前だった。


「危ない!」

 一馬は勢いよく飛び、剣を伸したが届く距離ではなかった。

「イッ!」

 足の痛みで叫ぶ一馬。

 ゲームならHPの数字が下がるだけだが、足に痛みが出て、速く走れる状況じゃなくなった。


「ハッ!」

 さっきまで聞こえなかった女性の声が聞こえたかと思うと、リリネの前にいるキラーバッファローを竜巻で吹き飛ばした。

「勇者ならこの程度で諦めてはいけませんよ」

 丁寧に話す声は女性だった。


「ア、アリル様!」

 リリネが驚きの声をあげた。

「そこの勇者。戦うのです!」

「だけど右足に痛みが走って、まともに歩けないんです」

 苦渋の表情を浮かべて一馬はそう伝えた。


 アリルと呼ばれた女性の勇者は、一馬の話しを聞いても、構わずに戦いに戻った。もう一人の勇者も女性で、コンビネーション攻撃が見事だった。

 よく見ると、もう一人の勇者が前衛で戦いつつ、隙を見計らって後衛のアリルが攻撃を決めていくスタイルだった。


 この戦い方は二人で組んでいること。そして敵の数が少ないから出来るんだと一馬は思った。何十匹と倒した自分はよく頑張ったと自分に言い聞かした。

「助けてくれた女性の勇者様は、アリル様と言います。この世界のお姫様なんですが、伝説の本に選ばれ、必死に修行をされて、あんなにお強くなりました」


「姫が戦ってもいいのか?」

「伝説の本に選ばれたものが、勇者になることになっています。アリル様よりもカズマ様の方が珍しいパターンですよ」

 リリネに言われて、別の世界から来たことを自覚して否定できなかった。日本の漫画やアニメ、ライトノベルによくあるパターンとはいっても、別の世界から人間を連れてくる方が、レアに決まっている。


「もう一人の前衛で戦っているのが、ルカナ様です。ルカナ様は勇者になるために、子供の頃から修行していたそうです」

 それを聞き、たしかにアリルよりも動きが一段上に見えた。

「キャッ!」

 隣にいたリリネが叫んだ。


 そこには牛の獣人がいた。キラーバッファローを人間のように立たせて、原始人が来ているような毛皮の服を着ていた。

 牛の獣人はリリネの首に腕を回し赤い宝石を出した。

「怪我人は引っ込んでろ」

 剣を左手に持ち替え、牛の獣人に突き刺そうとしたが、先に蹴りをお見舞いされてしまい、一馬は倒れて転がってしまった。


「魔力をいただくぜ」

 赤い宝石が輝くと、リリネの胸から赤い光が現れて、吸い取られていく。それまでもがいて逃げようと試みていたリリネだが、魔力を吸収され始めると、動けなくなってしまった。

「そばにいながら何をやってるんですか!」


 アリルの声が胸を突き刺す。一馬自身悔しい気持ちが強く、何も出来ない自分に不甲斐なさを感じている。

「やめなさい!」

「人質がいるのに剣で攻撃とは、思いっきりがいいな」

 牛の獣人はリリネの首に腕を回したまま、アリルの攻撃をよけていたが、正確で素早い攻撃の連続に、このままではよけきれないと判断した。


「今日のところは一旦引き上げるぞ」

 牛の獣人の一声でキラーバッファロー達は逃げていく。

 リリネはしゃがみながら荒い呼吸をしていた。

「大丈夫ですか?」

 アリルは優しく尋ねた。背中をさすり心配そうな眼差しを向ける。


「首が少し絞められてたので。少し魔力を奪われました」

「このくらいなら、ゆっくり休めば回復するでしょう。今日は早く寝てください」

 アリルはリリネに優しく微笑んだ。そして倒れたままの一馬の方へ来た。

「この国を護る気があるのですか?」

 一馬は言葉の意味がわからなかった。一生懸命戦い、多くの人を助けて、多くのモンスター倒した。なのに何故今怒られているのかがわからなかった。


「僕はあなたが来る前にいっぱい倒しました。いっぱい人を助けました」

「ではこの方があのまま魔力を奪われていて、助けられましたか?」

「アリル様。カズマ様は一生懸命戦ってくれました。そんな言い方はやめてください」

 リリネがアリルの方に来て訴える。

「とりあえず勝ったんだし、ガミガミ言うのはやめようよ」

 剣を鞘に入れながら、ルカナが止めに入る。


「一生懸命ならいいわけではありません。今回勝てたとはいえ、怪我人がいなかったかは、まだわかりません。家などはたくさん壊れています。この街を復興させるにはどれくらいの期間がかかるかわからないのですよ」

 元々姫だったため、アリルはただモンスター倒せば良いという考えではなかった。


「もう一度訊きます。あなたはこの国を護る気がありますか? ないなら勇者をやめてください」

 一馬は悔し涙を流した。

 頑張ってもダメなのか。心の中で何度もその言葉が繰り返された。

「わかりました。勇者をやめます」


 俯いたまま一馬は呟くと、剣と鎧が消え、一馬の手には本が握られていた。

「コヨリ。この本返す」

「でも勇者の資格を持ってるの……」

「ごめん。俺日本に帰るよ」

 コヨリはアリルの顔を伺う。


「その方の元いた世界に帰して差し上げてください」

 アリルの言葉を聞き、コヨリは魔法を使って、一馬を部屋に戻した。

 一馬は赤い光に包まれ、さっきと同じように瞬間移動した。しかしワクワクする気持ちはなく、俯きながら目を擦って、涙を拭き続けていた。

「本置いておくなの。この本を持ってあたしを呼んでくれたら、魔法であたしの心に話しかけられるの」


「無駄だと思うよ」

「置いておくなの。あたしは信じてるからなの」

 コヨリが帰ってから、一馬は靴下を脱いで足がどうなっているか確認した。足を痛めたが、血は出てないし、少し赤い程度だった。湿布を貼っておけば良いと判断した。


 部屋を出て救急箱から湿布を出した。そこに由梨がやってきた。

「お兄ちゃん。さっきの子は誰?」

 由梨がコヨリのことを訊いてきた。

「魔法使いだよ」

 誤魔化そうと思ったけど、そんな余裕はなかった。


「魔法使い!」

 由梨の嬉しそうな声が響いた。

「赤い光に包まれていなくなってたもんね。どこ行ってたの?」

「異世界で勇者になった」

「うらやましいな」


 由梨はすぐに信じた。普通信じるのかと疑問に思ったが、自分が消える瞬間を見たため、信じたのだと推測した。

 部屋に行き足に湿布を貼った。

「勇者なんて良いものじゃないよ」

「お兄ちゃんまた何か言われたの? お兄ちゃんはすぐ落ち込んじゃうけど、頑張り屋さんなのわかってるよ」


 座っていた一馬をギュッと抱きしめた。由梨の胸が一馬の頬にあたる。

「ゆ、由梨!」

「ちょっとは元気になった?」

「バ、バカ!」

 真っ赤になった一馬は大声で否定した。


「あたしはね、お兄ちゃんに元気でいてほしいんだ。もう大丈夫?」

「さ、最初から大丈夫だよ」

 一馬は大声で言い返す。

「良かった。今度はあたしにも魔法使いの子に会わせてね」

 由梨は手を振って部屋から出て行った。一馬は頬に手を当てて、由梨のいた場所を呆然と見つめていた。


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