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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説集

高橋少年の頭と胃、体に全く優しくない日常。

作者: gkzy

アクセスしていただき誠にありがとうございます。本作は作者がない頭を絞り捻って生み出したギャグコメとなります。自信作とまでいかなくても、中々に良く仕上がったかなと自負しています。

 「どうすればいいと思う?」


 「さあ?そんなこと言われてもねぇ~。」


 「さあ?…じゃないよ!こっちは真剣なんだよ!もう~!!」


 「はぁ~。」


 「溜息をつきたいのはこっちだよ!もう少しは真剣に!ねぇ!聞いてる?」


 とある高校のとある日の放課後のとある教室で一組の男女が机に向き合って何やら揉めていた。といっても、男子は興奮して早口になっていく女子にいい加減な態度で相槌あいづちを適当に打ち返しているだけであり、それが気に食わない女子はますますヒートアップしているだけなのだが。


 そう、今面倒臭そうに女子の話に耳を傾けている男子こそ、この物語の主人公かも知れない高橋たかはしれんである。

 まぁ、要は俺のことだ。物語といっても飽くまで俺の一方的な視点であり、普通に考えて俺は主人公なんてキャラじゃない。でも、俺は俺であって、他の人では俺の代わりなんてできやしない。それが高校生活において「どこにでもいそうなモブ男」なんて評価されていようともだ。


 まぁ、話は戻して、俺は今目の前の女子から相談を受けている。名前は桜坂さくらざかかなで。学年でも美少女として有名であり、彼女にハートを射抜かれ告白する男子が毎日絶えなかった。まあ、今では目に見えてごっそりと減ってしまったが。というのも、彼女には既に彼氏がいるのが明るみになったからだ。というより、毎日懲りずにくるラブレターやら愛の告白者やらに辟易へきえきした彼女が公然の場で明かしたと言う方が正しい。

 それで、件の彼氏というのが俺…………の悪友で幼馴染でもある梅田うめだ恭輔きょうすけという奴である。なお、相談内容もその彼氏に関することなのだが、正直いい加減飽きた。


 実は、彼女に相談されるのは今日が初めてではない。むしろ、彼氏である恭輔から受ける相談事の数と合わせると、高校を入学して半年もたたないうちに五十件を超すのはどう見てもおかしい。

 勿論、親友である恭輔やその彼女である奏さんの相談事であれば快く受けていたさ。合計で十回を超すまでは…。

 考えてみても欲しい。毎日毎日、故意にやっていることを疑うぐらいに交代で俺の元にやってきては、彼氏・彼女の愚痴をこぼすことに始まり、最後には惚気話で締めていく様を。

 肉体的・精神的耐久値が高い俺だからこそ半年保っているが、並の人間なら胸やけどころか発狂物である。何が楽しくて惚気を毎日毎日浴びせられなきゃならんのだ!というわけで実家に帰らせていただきます。


 「ああ!どこに行くのよ!まだ話は…。」


 「あのなぁ、二日に一遍、相談事があるって言うくせに、結局俺に愚痴やら惚気話やらを聞かせては終わってんじゃないか!」


 「あはははは、いやぁ、確かに今までそうだったんだけど…、今回は割と真面目にヤバいの!」


 「……………。」


 「本当なの!こんな事、蓮君にしか言えなくて…。お願いだから聞いて!」


 「…はぁ~、で何なのさ?」


 大概俺も何やかんやで話を聞こうとするのだから、馬鹿もいい所である。


 「ありがとう!…実はね、恭君の様子がね、変なの。」


 「あいつが変なのは今に始まったことではないだろう?」


 俺はサラッと毒を混ぜる。日頃のお返しというやつだ。直接的な攻撃ではないが。


 「うーんと、そういう事じゃなくてね。…なんかね、とても怖いの。それになんか…重いっていうのかな?」


 「?」


 「愛ってやつが。」


 その言葉を聞いた途端、俺は机に突っ伏した。聞こうとした俺はどうしようもない馬鹿だった。


 「ほ、本当よ!」


 このセリフに対する俺の回答はジト目を送ることである。


 「いや、本当なんだって!何故か私の行く先々に彼が偶然を装って必ずいるの。この前なんて友達と郊外のアウトレットに買い物に行ったら、入口で出くわして、結局その日は友達と別れて急遽デートに為っちゃったの。それだけじゃないの。休みの日なんか、出かければ必ずデート。家に居れば押しかけられて、夜までお話コース。どう見たってこれって…」


 ああ、それは完全に…


 「か~な~で!こんなところにいたのか。探したよ。一緒に帰ろう。」


 話の途中でまさかのご本人の登場である。満面の笑みを浮かべて、両手を広げて彼女に抱き着こうとしているが、俺はすぐに気付いた。目が笑ってない…。

 あかん、これはあかんやつだ。完全に病んでいやがる。

 しかし、おかしい。俺はこいつの相談という名の愛の語りを昨日まで聞いてきたが全くそういう素振りをみせなかったぞ?


 俺が恭輔の変わり様に驚いている間にこのバカップル共は押し悶着もんちゃくを繰り広げていて、奏さんが恭輔の手を振り払うと口を開いた。


 「この際だからはっきり言わせてもらうけどね、恭君。最近、私に付きまとうの、やめてちょうだい!」


 「何を言っているのさ?彼氏が愛しのハニーにベッタリなのは当然のことじゃないか。……それとも何かな?彼氏である僕が彼女である奏にベタベタするのは嫌なのかい?」


 にっこりと笑顔で問いかけているのに、何故関係のない俺まで背中に冷や汗を流しているのだろうか?やはり、甘いマスクを被ったその笑顔の中で特に浮き彫りになっている焦点の定まっていない目が見えるせいだろうか?

 因みに恭輔は大のイケメンである。また、奏さんと恭輔は学校内どころかここら辺一帯では誰も(ただし、俺は除く。)がうらやむ美男美女カップルであることも述べておく。


 「そうじゃないわ。私が言いたいのは人のプライベートまで足を踏み入れないでほしいということなの。要はプライバシーぐらいは守って!それはどんなに親しい関係であっても、いいえ、親しい関係だからこそ守られるべきものでしょう。ここ最近のあなたはデリカシーなさ過ぎよ!」


 「…人のことを深く知ろうとする行為のどこが悪いのさ!」


 「だから、限度っていうものが!」


 「僕はただ君の事をもっと知りたいと思ったまでだ!広く、深く、より奥まで、君の全てを愛すために僕は!…なのに、それを拒むなんて…。さては僕に知られたくないやましいことがあるんだな!そうなんだな!!」


 「そんなものあるわけないじゃない!あなたこそ、私のことを信用してないの?」


 「信用してるさ。だからこそ疚しいことが無ければ、別に痛くも痒くもないのに、あんなこと言うなんておかしいのさ。」


 「それはあなたが私に信用してないあかしにもなるんだけど…。信じられないわ。どうして?彼女を本当に信用しているならこんなことしないはずだわ!」


 「いや、だから!」


 「いいえ、あなたは!」


 2人が手を出しそうな険悪な雰囲気になり始めたあたりで手拍子が鳴らされる。まぁ、鳴らしたのは俺だが。


 「はいはい、二人とも落ち着こうか。」


 「あ?!…蓮か…。何だよ。邪魔をするのなら、その相手が君であっても容赦はしないぞ!」


 「まぁ、まずは落ち着けよ。お互いに悪口になりつつあるぞ。そんなんじゃ、折角ここまで仲良く来た仲なのに、勿体無いだろう。」


 「何を言っているんだ!僕は…!?!?」


 まだ何か文句ありげな奴が一人いたので、鋭く尖った鉛筆をそのアホの眼球のギリギリ手前で寸止めした。序でに逃げられないように胸倉も掴んでおく。


 「何度も言わすなよ…。一つ確認なんだが、このまま眼球を突き刺して人間が最も情報を受信する視覚を奪うことで奏さんのことを何でも知りたいという衝動を止めてもらうか、このまま落ち着いて彼女と事の経緯いきさつを話し、そのうえで彼女と腹を割って話すことで円満な解決を図るのだったらどっちがいい、恭輔?」


 狂乱ヤンデレ状態の恭輔も流石に肝が冷えたのか、顔を青ざめて言った。


 「……是非とも、後者でお願いします。」


 「よろしい。」


 俺はそっと恭輔を離すと鉛筆を仕舞った。奏さんに椅子に腰かけるよう促そうと思って見てみれば、目が合った途端に顔を青ざめてしきりにごめんなさいと謝ってきた。そんなに怖がらなくても…。





 「それで、恭輔はどうして異常なまでに奏さんに執着しているんだ?」


 ようやくお互いが落ち着いたところで、俺の同伴の元、今回の件における真実の解明に向けて話し合いを始めた。まず、落ち着いたとはいえ、恭輔の行動を非難はしない。キレられて病み状態をぶり返されても困るし、何よりそれでは一歩も前に進まない。なので、最初は理由を聞くことにする。


 「僕が奏ともっと一緒に居たいと思ったからだ。」


 「じゃあ、更に聞くがそう思った理由は?」


 「な、なにを言っているんだ?ぼ、僕はただ…。」


 「まぁ、お前のことだ。大方、テレビとかで浮気に関する情報聞いて居ても立っても居られなくなって行動に移したといったところだろう。」


 「…な、なんで、わかったんだ…!」


 「お前と俺は今年で何年の付き合いになると思っているんだよ…。大概のことならわかるし、行動パターンだって読めるぐらいには長い付き合いだってのに…。」


 「……………。」


 「お前は優しくて素直でいい奴なんだが、愚直すぎるのが玉に瑕だよな。信じるなら普通は身近にいる奏さんだろう。」


 「……すまん。僕が間違っていた。君の言う通りだ。…奏!本当にごめんなさい!僕は、僕はあの番組を見て急に不安になったんだ。」


 「そう……。」


 「本当にごめん!謝って済むようなことではないけど本当にごめん!ただ、本当に君の事が好きだったんだ!!」


 「……別に怒ってないよ。」


 「え?」


 「私はただ強引すぎるのが嫌だっただけよ。…でも、それも私のことが好きだから、やっちゃったんでしょう?なら、許すも何もないよ。」


 「…!!ありがとう、奏!!大好きだ!!!」


 これで一件落着っぽいな。俺も何やかんやで間を取り持ったりするのだから救いようのないお人好しだが、毎度毎度似たような面倒臭い問題を起こしてはラブラブになって解決するこいつらのバカップル振りのどうしようも無さを見ると、今回ばかりは報われないに格下げしても良いと思う。


 「奏!好きだーーーー!!」


 「もう!恭君の馬鹿…。恥ずかしいじゃない!…でも、私も好きだよ。」


 …ご馳走様。でも、一つだけいいだろうか?

 ちょっと食べ過ぎたみたいなので、トイレに行って(心の)キャパに貯まったもの吐き出してきていいか?








 さて、学園一の美男美女バカップルのドタバタも終わったところで、俺は現在くだんのパカップルとともに校門まで歩いている最中である。

 当然、道中でも甘々な会話を隣で聞かされウンザリしているところだが、いつものこととして割り切れるのは我ながら大したものだと思う。


 「しかし、蓮には毎度世話になりっぱなしだな。そうだ!今度、この三人で遊園地に行こうか!」


 「それ、いいね!恭君、いいこと言うね!是非ともそうしようよ!」


 恭輔が唐突に勧誘を始めたので、内容を聞いて間髪を入れずに俺は答えた。


 「それだけは勘弁してくれ…。」


 「「え?なんで?」」


 「ラブラブすぎて他のバカップルでさえ胸やけを起こさせる甘い雰囲気を作るお前らのすぐ傍に居たら、本当に惨めさと甘い雰囲気に当てられて死んじまう。」


 「「酷!そこまで僕(私)たちラブラブしてないよ!!」」


 どの口が言うか。今度、動画撮って送り付けたろうか。…やっぱやめよう。いちゃらぶ具合が加速しそうだ。


 「ははは、まぁ、半分は冗談だから気にするな。」


 「「半分?!あと半分は!?」」


 「本気。」


 「「酷い!!」」


 「ところで、恭輔。さっきのは魂胆こんたんが見え見えの透け透けだ。どうせ、この誘いも礼と詫びを兼ねているんだろう?」


 「…はぁ、本当に蓮には照れ隠しが通用しないね。参ったな~。」


 「何年の付き合いになると思っているんだ。」


 「…十一年と三カ月にあと五日ぐらいかな。」


 「真面目に返すな!」


 「はは、まぁ、君は普段からそういう奴だとわかっているんだけどね。結構普段から僕や奏が迷惑をかけているからね。」


 「わかっているなら、お前ら、少しは遠慮しろ。」


 「ははは、…………夕日が綺麗だ。」


 「あはは、…………そうだね。綺麗だね。」


 「お前ら、目を逸らすな!」


 こうやっていつもは帰るのだが、今日はふと奏さんがつぶやく。


 「……羨ましいな。」


 「「何が?」」


 俺と恭輔は顔を見合わせると彼女に問いかけた。


 「そのね、蓮君が羨ましいと思ったの。」


 「どうして?」


 「恭君と長い付き合いしてきたおかげで恭君の考えていることがわかるのが良いなって思ったの。」


 「そうか?お前らもこの調子でいけば長い付き合いになりそうだけどな。」


 「…ない人の気持ちを分かってほしいな。」


 「え?」


 「ううん、何となくそう思ったの…。でも、蓮君がそう言うなら私たちは本当に長く付き合うことになりそうだね。」


 気のせい…か?一瞬、奏さんの目が光点を失って俺を見た気がするんだが…。


 「止してよ。照れるじゃないか、ハニー。」


 「ウフフ、照れるダーリン、可愛いな。」


 うん、気のせいだな。てか、もうお前らだけで帰ってくれ。


 「…うん?ねぇ、あそこにいるの、篠原さんかな?」


 「あれ?本当だね。篠原さんだ。」


 「誰か待っているのか?」


 「「さぁ?」」


 俺たちが歩きながら学校のマドンナ、篠原さんが校門前でたたずんでいる理由について話しながら歩いていると、俺たちが校門に近づいていることに気付いた篠原さんがこっちに近づいて来た。


 「こ、こんにちは。高橋君に桜坂さんと梅田君、ちょっといいですか?」


 まさか俺たちに用事があるとは思わなかったので、声掛けられて面食らったが、俺たちは顔を見合わせると奏さんが対応してくれた。


 「うん、いいよ。何の用かな?」


 「ああ、えっと、実は用があるのは高橋君なんです。少々長くなるので、お二人には申し訳ないんですけど、高橋君お借りしていいですか?あと、高橋君もお時間ありますか?」


 「だって。私たちは別に構わないよ。ダーリンもそうでしょう?」


 「そうだね。今日も三人で帰るだけだったから構わないよ。蓮は?」


 「ああ、すぐに家帰るほどの用事なんかないし、いいぞ。」


 「あ、ありがとうございます。」


 「じゃあ、僕らは二人で仲良く帰らせていただくよ。」


 「そうだね。仲良く帰りましょう。」


 (蓮!ついに君にも春の兆しが来たみたいだね。それも相手は学校のマドンナだね。)


 (うるせぇ。余計なお世話だ。てか、何もかもそういう方向にもっていこうとするな、この花畑男。お前こそ、変なことやらかして奏さんの機嫌損ねるなよ。)


 (ひどいな~。まぁ、こっちは気にするなって。頑張ってよ。)


 「じゃあ、また明日、蓮!」


 「また明日ね、蓮君!」


 「おう!また明日な!」


 篠原さんの用事に付き合うために、バカップルの二人と校門で別れ、そして篠原さんと向き合う。


 「それで俺に用事があるみたいだけど何かな?」


 「えっとですね。実は…。」


 彼女が話し始める辺りで、突如真っ黒な車が校門前の俺たちのすぐそばに停まった。ベンツ?


 「高橋君には大事な用があるんだけど、ここでは話せないから場所を移してもらうわ。」


 俺は篠原さんの口調が少し変わったことが気になって彼女を見ると、俺の首元に何かが篠原さんによって押し付けられていた。これは…?


 「ついでに、暴れられると困るから少し寝ていてちょうだい。」


 彼女がそういった途端、俺の体に電流が走ったような痺れが体中を巡った。いや、実際に電撃が体を襲ったのだ。俺の首に押し付けられたもの、これは、スタンガン…!

 俺は薄れゆく意識の中、彼女が普段では見せないあやしい雰囲気を纏わせて、倒れゆく俺を抱きしめるのを見た。そして、おそらくすぐそばの黒いベンツに運ばれるのを感じながら意識を失った。





 篠原しのはら かえで。彼女は中学の時から一緒のクラスメイトで、見た目は清楚で可憐な人である。性格は少し天然が入っているが基本的におしとやかで微笑みを絶やさない。勉学、運動ともに上の下程度、人に優しい気質も相まって、有名雑誌のモデルも務める奏さんと並び立つ美少女として学年でも有名であり、現在でも彼氏がいることが知られている奏さんとは違い告白者が後を絶たない。どうも、告白しに行き、見事玉砕した奴の話によると、魔性の笑顔にやられてしまったとのことだ。実際、篠原さんは笑うと大輪の華が咲いたようなという比喩が良く似合う。もっとも、中学の頃は恭輔とよくつるんで楽しんでいたためか、魔力に当てられることもなく、高校に入ってからは恋愛成分は供給過多なので、彼女には微塵みじんも興味はなく、話す事も滅多になかった。俺とのしたる接点もない彼女がどうして俺を拉致したのか。普段の篠原さんからは考えられない行動に俺は混乱している。


 俺は現在ザ・和風といった感じの部屋の真ん中に敷かれた敷布団の上に寝ていた状態から上体だけ起こして蟀谷こめかみを押さえている。とにかく、ここは何処だ?

 俺が現状を把握するために周りを見渡していると、突如ふすまが開き、和服姿の篠原さんが入ってきた。


 「お目覚めになりましたか?蓮様。」


 そして、俺の目の前までやってくると正座で真正面に座ってきた。和服姿が綺麗で動作が美しい。


 「…ああ、お陰様でな。てか、ここは何処なんだ?それにどうして篠原さんがスタンガンを俺に使ったのか。あと、……。」


 「まあまあ、おっしゃりたいことは山ほどございましょうが、そんなにご質問されましてもお答えしかねます。聞きたいことはしっかりお答えいたしますので、一度落ち着かれてはいかがですか?」


 …確かに状況が全く掴めないからといって騒いだところで物事は進展しないが、拉致した人が目の前にいるのに落ち着けと言われるのは納得がいかない。…しかし、逆にいえば、目の前にさらってきた本人がいるわけで、スタンガンを巧妙に使いこなし、人を平然とかどわかす奴が間近にいる危険性を考えると、やはり大人しく言うことに従うのがベストだろう。それに折角質問にはしっかり答えてくれると言うのなら、聞けることを聞き出した方が断然有益だろう。


 そうやって、しばし考えて返事した。


 「解せない部分は多いが、話がこじれても仕方ない。落ち着いたから、話せるものは話してくれるか?」


 「はい。もとよりそのつもりでございます。まずは、少々特殊な事情があったとはいえ、蓮様に物騒なものを使用した件に関しては心よりお詫びさせていただきます。」


 彼女はそういうと綺麗な土下座で頭を下げてきた。


 「い、いや、頭は上げて良いからそれよりここに拉致してきた理由とかを話してくれ。」


 まさか、攫ってきて土下座されるとは思わなかったから、普段から頭を下げられることに慣れていないこともあって慌ててしまった。実際に悪いのは全面的にそっちなのに…。


 「ありがとうございます。では、まず、ここは私の住む家でございます。」


 「え?」


 「そして、私が蓮様を強引に連れてきたのは、私の家柄に少々問題がありまして、人によって誘われても拒絶する可能性が否めなかったためです。」


 「…えーと、ここが篠原さんの家なのはひとまず置いておくとして、人を拉致しなければならない家柄って…。」


 「たいへん申し上げにくいのですが、私の家、篠原家は俗にいうヤクザと呼ばれる家系でございます。」


 なるほど。この後はバラされて内臓を高く売り飛ばされるわけですね、はい。…母上、連れ去られた挙句バラバラにされ知らぬ人の元へ内臓を高く売られてしまう不肖の息子をどうかお許しください。


 「せめて痛くないようお願いします。」


 「…なんとなく想像はつきました。一応断っておきますが、篠原家は確かにヤクザですが現在脱法ハーブを含める薬物の入手・販売や人身売買といった非合法な取引等は断じて行っておりません。」


 え?そうなの?


 「現在の篠原家の主な収入は貿易、株取引、為替といった物であり、そんな危ないものに手を出さずとも六本木ヒルズの隣に同格のビルを建設することが容易い程度には儲けと蓄えがございます。」


 凄!想像つかねぇーよ!


 「ですので、邪推をせずにご安心ください。」


 お、おう。スケールがでかいことをさらっと言われてなんか落ち着いちまったよ…。


 「でも、なら俺はどうして拉致されたんだ?」


 「今からご説明いたします。実は、現在我が篠原家で大変重要で切羽詰った出来事がおきまして、それの解決のために蓮様にお越し願い頂いたわけなのです。」


 「俺、ただの一般庶民でヤクザのいざこざを解決できるような人間じゃないはずなんだけど…。それにさっきから思っていたんだけど、なんで俺を呼ぶとき『蓮様』ってかしこまった言い方するんだ?」


 「それら全て纏めてお話しさせていただきます。まず、理解を深めていただくため、今回の騒動とそれに至るまでの経緯をお話しします。

 まず、我が篠原家はクリーンな資金を使用しているとはいえ、元々はヤクザであり、ここら一帯を島として取り仕切っていました。…勿論、取り仕切ると言うのは島で起きる祭りやイベントに資金提供を行ったり、時には用心棒、実行委員として参加することですから勘違いしないでください。取り敢えず、そうして我が篠原家は代々暮らしてきました。ところが、約五年前ほどに我々の基盤であるこの島に食い込んでくる連中が現れてきました。我々とてヤクザであり、島の行事には積極的に支援してきた誇りもあり、島を荒らす連中を追い出そうと動きました。相手はどうやらアメリカから引っ越してきた大物のマフィアたちのようで、悔しいことに資金力、武器や戦闘員の質、戦術、どれをとっても我々と互角でした。そうして、一進一退の攻防ができるだけ堅気の方々に影響がないように配慮しながら戦ってきたのですが、先日ついに警察の方からこれ以上庇うことはできないと言われたことと日々消耗し、倒れていく部下たちを見るに堪えかねた両当主による会談の元、この抗争は一時休戦となりました。」


 この街の水面下での出来事をさらっと暴露された…。てか、全く知らなかったぞ。警察やマスコミとの強いパイプがありそうだな。


 「しかし、決着がつかなかったことに両家の大幹部を初めとする武闘派がくすぶりを感じており、つい一昨昨日さきおとといほど、ちょっとした揉め事からあわや最終決戦までに突入するほどの争い事が起きました。流石に全員が納得しないまま強引に終わらせるのも両家にとって良いものにならないと判断し、一昨日の夜両家のめぼしい者全て集まり、それぞれが意見を出し合った結果…。」


 両家の幹部たちですらお互いに納得する、俺を必要とする解決方法は…?


 「『両家の長女はどちらが嫁にしたいか』というお題の勝負で決着をつけることに満場一致で決まりました。」


 なるほど。『両家の長女はどちらが嫁にしたいか』か。なかなか、おもし…。って、


 「なんでそうなる?!てか、俺が拉致られる意味は!?」


 「つまり、篠原家の長女、私こと篠原楓と相手の長女であれば、男はどっちを嫁にしたいかという事なのですが、問題一つありまして。これに関して両家に関わりのない第三者の存在が必要ということに気付いたのですが、適任者が周りにおりませんでした。しかし、騒乱を好まない穏健派ですら、血で手を汚すことを厭わないので、どうも明らかに血を見るような提案しか浮かばず、ようやく武力を使わずに穏便に両家が納得できる案を出したことで、多少強引でも押し通すべきだと両家の見解が一致し、今回蓮様を拉致…お連れしてきたわけです。」


 …え?選ばれた理由ってそれだけ?そもそも、誘拐は犯罪であり拉致られた俺の心情は穏やかではないし、最後隠しきれていないからな。こら、篠原さん。人が目を向けた途端、目を逸らすな。


 「はぁ、じゃあ、俺は単に第三者として偶々選ばれてここに連れて来られたわけか。」


 「…一つ、訂正させていただくなら、蓮様以外の誰でもよかったわけではありません。」


 「え?」


 「まず、恋人や許嫁のいない方、また篠原家や相手に因縁、或いは私や相手の娘に恋慕の感情がない方が大前提となりますので、特定しやすい我が校の中から選別を行いました。当然、嫁の選択ですから女性は省きました。そして、男子では私にラブレターを送った者、告白を行った者を省き、残った者も両家の使いや調査機関を使って入念に調べた結果、我が校の男子のうち、五名ほどしか選考で残りませんでした。そして、相手の長女のファンであるかどうかや同性愛主義でないかで最終選考を行った結果、蓮様が両家にとって間違いなく第三者であるということになったのです。」


 組織力高すぎないか?昨日の今日で全校生徒(男子に限る)約300名の内情を調べ上げたと言うのか…。色々言いたいことはあるが、それよりマフィアの長女のファンってどういう事だろうか?聞きたいことだらけだが、聞いたら最後、後には戻れない気がするからスルーしよう。


 「す、すごいな。で、でも、ほら、やっぱ、何か見落としとかあるかもしれないし、そんな急に決めなくても…。」


 「いえ、ご心配なさらなくても結構です。不備があれば…、」


 そういって、篠原さんは言葉を区切ると、笑顔で首を掻っ切る仕草をした。


 「うちとマフィアの数名がこうなるだけですから。」


 首になるって意味だよな?決して首と胴が泣き別れするという意味じゃないよな?満面の笑みで言わないで!


 「因みに、その場合、俺はどうなるんですかね?」


 「別にどうもしませんよ。ちょっとした口止め料と念のために監視を付けるだけですから。」


 とニコニコとした表情で篠原さんはおっしゃった。

 怖!!笑顔で言う内容じゃないよな!?

 それに、監視が付くということは俺が何かしらの不利益な行動をした場合、危険にさらされるという裏返しだよな!!


 俺が今後の身の危険について考え、結果がどうも自分によろしくなさそうな事態に転がりかけていることに身を震わせていると、篠原さんはいつの間にか俺の上体を倒し、俺にのしかかってきて、超至近距離で顔を合わせてきた。

 俺は何が起きているかわからないまま、篠原さんの為すがままに押し倒され、漸く自分が何をされているのか気付いた。


 「な、なにを、し、しているんだ。篠原さん。」


 「フフフ、別に何もしておりません。ただ少しばかり、顔を近づけているだけですから。」


 いや、めっちゃ近いんですけど!?下手したら、マウストゥマウスのキスが出来そうなまで近いですよ!

 俺はパニックになって篠原さんから離れようとするが、どこにそんな力が有るのか、篠原さんは華奢きゃしゃな体とは裏腹に俺を完全に抑え込んでいた。


 「駄目です。それ以上動くなら、あなたの唇、貪りますよ?」


 俺はこの時、この言葉によって完全に篠原さんに呑み込まれた。思考はフリーズし、目は篠原さんに完全に釘づけとなってしまった。篠原さんは動きが完全停止した俺を見て、満足そうに微笑むと両腕を俺の首の後ろに回して俺の頭をホールドし、額を俺の額に合わせてくっ付けてきた。顔は依然近いまま、俺は彼女から目を背けることすら許されない状態へ追い込まれてしまった。

 正直に言うと、こんなに異性の顔を間近に見たのは初めてだ。それに、普段学校で見るのと違って、今の篠原さんは艶やかだ。間近に対面するとよりそれをはっきり意識させられる。トロンと潤んだ目、すらっと筋が通った細く高い鼻、薄紅の柔らかそうな唇、ほんのり紅潮した頬など、間近に見るとその顔に吸い込まれそうな感覚が湧き上がる。


 俺が顔を更に近づける篠原さんを前に微動だにしない状態が出来上がり、何も考えられない状況になったとき、突如襖が勢いよく開かれ大きな音を立てた。

 驚いて振り向こうとしたが、いかんせん、篠原さんに頭を固定されたままである。篠原さんが腕を離してから遅れて襖の方へ顔を向ける。見ると何処か見覚えのある美少女がこちらを睨みながら歩み寄り、背筋が凍るような低い声で篠原さんに声を投げかけた。


 「随分と舐めた真似してくれるじゃない。勝負が始まるまで、対象の接触は禁止じゃなかったかしら?」


 その言葉に対して篠原さんは舌打ちをすると立ち上がって、これまた寒心に堪えない目が笑ってない笑顔で謝罪した。


 「申し訳ありません。少々強引な手段でお連れしたためか、酷く混乱していらっしゃったので、落ち着かせようとしただけです。しかし、言葉だけでは些か不十分のようでしたので、人肌の温もりを使おうとした矢先、あなた様が来て誤解されるような形になってしまいました。別に勝負に対しては公平に挑むつもりですので、ご安心くださいませ。」


 色々と突っ込みたいところはあるけど、そしたら自分もただじゃ済まないような気がしてならないので、口を噤む。それよりも、いきなり入ってきた人もそうだが、篠原さんの豹変ぶりが今はただただ怖い。俺はこれからどうなるんだろう。


 「…ふん、やっぱり、ヤクザの家の子だけあって、油断も隙も在りはしないわ。ただ、自己紹介だけはさせてもらうけどいいかしら?」


 「ええ、勿論です。いくら芸能界で有名でテレビ出演を何回もしていようとも公平を期すためにどうぞ、私にお構いなくしていただいてくださいな。」


 「あら、それは誠にありがたいお話ね。では、遠慮なくさせていただきますわ。」


 彼女はそういうと、俺の方へやってきて、自己紹介を始めた。


 「突然、お邪魔して申し訳なかったわ。さぞ、どこかのヤクザ娘のせいで随分と疲れているように見えるわ。」


 彼女はさっきまでとは異なる満面の笑みを浮かべて話し始める。だが、出始めが篠原さんの非難からなので、当然篠原さんは怖い笑顔で彼女の背を見ている。

 しかし、彼女は本当にどこかで見たことがあるような気がする。誰だっけ?


 「さて、自己紹介の方だけど、私の顔を見たことがあるって表情を見る限り、今回の調査は申し分なさそうね。私の名前は大野おおの紅葉もみじといえばわかるかしら?」


 大野紅葉…。あ!


 「出てきたみたいね。そう、私はあの大野紅葉よ。どう?本物の芸能人に会えた感想は?」


 大野紅葉。彼女は今や日本で知らぬ人はいないと言われるほどの人気絶頂期にいる女優である。また、モデル、グラビアアイドルも兼任しており、少し前までは人気アイドルグループ(中学生で構成)にも在籍していた経歴もある。数々のドラマやCM、或いは映画に出る一方で、バラエティなどのゲスト出演も果たしており、また、歌手としても人気アイドルグループを抜いて週間、月間、年間シングル売り上げ枚数を一位で飾るなど芸能界では引っ張りダコの大物芸能人に高校一年生でありながら成り上がった人物である。そう、俺や篠原さんと同い年でありながら、本来なら俺如きが直接お目にかかることは希少であり、まして目の前で自己紹介されるなど信じられないほどの超大物芸能人である。

 勿論、彼女が成り上がれた理由には、様々な要因がある。まず、美貌。西洋系のハーフらしく、金髪碧眼で中学生になった頃から大人顔負けの肉体美を持ち、モデル、アイドルにスカウトされ、一躍人気に。その後、中三辺りからグラビアにも出演。次に、アイドル活動中に飛びぬけた演技力と歌唱力を買われて、女優、歌手デビュー。さらに、マネージャーが間違えて引き受けたクイズ番組にほぼ飛び入り参加で優勝し知性派としての個性も見せつけ、最後にその活躍に目を付けたテレビ局からのバラエティのオファーを承諾し、ゲスト出演をして場を盛り上げ、番組終了後にテレビ局に次回の出演をもう一度彼女にお願いするクレームが殺到し、その番組のレギュラーにまでのし上がった伝説まである。

 才色兼備。顔良し、容姿良し、頭脳良し、性格良し、器量良しと五拍子揃っていて、彼女は非の打ち所がないのだ。俺には一生縁のない人物のはずで、ましてこんな場所で邂逅かいこうすることが信じられない。

 因みに、なぜこんなにも詳しいのかというと、俺のクラスにいる信者ファンに耳にタコができるくらいに聞かされてきたからと言わせてもらう。

 とにかく、俺は彼女に釘づけになってしまった。いや、呆然としているというべきか。


 「へぇー、私がどれ程大物か、知っているみたいね。まぁ、無理もないわ。…そこの女から聞かされたと思うけど、今回彼女と戦うことになっているのは私だから。」


 「え?」


 「当然でしょ?じゃなきゃ、こんなところに大物女優である私が来ると思う?先に言っておくけど、表では女優やっているけど、裏というか私の実家はマフィアやっているから、私はそこの長女として生まれたの。そして、今回の騒動に決着ケリをつけるために、家の看板と期待を背負ってここに来たわ。」


 「はぁ…。」


 「…ねぇ、本当にこの男大丈夫?私、色んな意味で心配になってきたのだけれど…。」


 「…まぁ、第三者として彼以上の適任者は今のところいませんし、そんなに不安でしたら、さっさと尻尾巻いて帰ればよろしいのではないでしょうか。」


 「あら、随分と挑発的な言い回しね。言っておくけど、ここまで来て今更引く気はサラサラないわ。それに今回は別に誰でもいいわ。きちんとした勝敗が付くのならね。それよりもあなたの方こそ大丈夫かしら?相手わたしは世間を賑わす女優よ。結果はわかりきっているのに、これ以上戦うなんて無謀もいい所じゃないかしら?」


 「フフフ、あなたこそ随分と勝気なご様子ですね。勝負する前から結果を自分の都合のいい方に考えてしまうと痛い思いをするのはこの世の定めですよ。」


 「へぇー、私はてっきり勝算がないから、さっきみたいなこすい真似をしてきたと思ったわ。なにやら、私に勝てる方法でもあるのかしら?」


 「我が篠原家は負け戦をしないという家訓がございます。負け戦になるのならば、我々は潔く引きますよ。」


 「フーン、つまり、それは私に勝てるという事ね。随分と舐められたものね。後悔しないよう、精々頑張るといいわ。まぁ、今更何やっても遅いけど。」


 どうしてだろう。彼女たちの会話を聞いていると、兎に角胃がキリキリと痛み始めるのは。俺は無事に明日を迎えることができるのだろうか?


 「…あら、もう時間ね。お母さまたちも待っているでしょうし、もう行きません?」


 「本当ですね。流石に母たちを待たせてまで、言い争いしている場合ではありませんね。」


 「では、行きましょう。龍虎の間へ。」


 「そうですね。では、蓮様、私とともに参りましょう。」


 「え?」


 腹黒い話し合いが終わったと思えば、なんで急に移動?


 「この決戦は我が家の決闘部屋、『龍虎の間』で行われる予定ですので、こちらへ。」






 というわけで、やってまいりました!龍虎の間へ!

 部屋は豪華絢爛。龍虎の間は今まで通ってきた和室とは一線を画す、金細工がふんだんに使われ、全体的に黒いのに輝いて見える大部屋です。そして、部屋の真ん中を境に一方は見るからにジャパニーズマフィアの方々、もう片方にはアメリカンマフィアの面々が互いに睨み合いを繰り広げております。そして、その目線は到着した我々に向けられ、特にワタクシ、高橋蓮の方へ両陣営から言葉にできないほどの圧力となって送られております。


 …………現実逃避はいい加減やめよう。不毛だ。

 でも、こんな雰囲気の中、俺を真ん中に連れて行かないで。彼らの目線だけで心臓が止まりそう。


 俺たちは部屋の真ん中に着くと、篠原さんはヤクザの方に、大野さんはマフィアの方に、俺から数歩離れた。いや、頼むから一人にしないで。双方からの目線が痛いほど突き刺さる。これぞ、針の筵に座る気分!…いや、マジ勘弁してください。


 俺が両陣営からほとばしる殺意を満遍なく身に受けている最中さなか、俺から離れた彼女たち二人に各陣営より近づく影があった。ヤクザ側は厳つい強面のおっさんとおっとりした垂れ目美人さん、マフィア側は体格がゴツイけどパッと見優しそうなおっさんと釣り目の言動がキツそうな美人さんが出てきた。


 そして、おっさんたちが話を切り出した。


 「さて、賓客も来たし、とっととおっぱじめますか!」


 「そうダネ。コノママ睨み合いを続けてモらちが明きマセン。ゲストも来たことですシ、始めマショウ。」


 「というわけだ、坊主!どっちを嫁にしたい?」


 …え?前置もなくいきなり本番突入ですか?!いや、概要は既に聞いたけどさぁ…。でも、なんか、こう、もう少し配慮してほしいというか、気を回してほしいというかねぇ~、こんなさっきよりも凄みを増した人たちに囲まれてどちらか選ばされるとかどんな拷問ですかと聞きたいわけですよ、ええ。


 「いやぁ、そのですね、なんて言うか、あのー、ええっと、まぁ、うーん…。」


 「で、どっちなんだ?早よ決めんかい!」


 そんなに急かされても、出ないというか、出したくても出せない。まず、急かしてくるヤクザのおっさん(暫定篠原家当主兼篠原さんのお父さん)の蟀谷こめかみが小刻みに動いているのは丸わかりだし、マフィアのおっさん(暫定大野家当主兼大野さんのお父さん)はニコニコと笑っているが見ると思わず後退りしてしまうほどの気迫が溢れ出ている。あれですよね。自分の娘を選ばなかったら…、というくだりですよね。

 選ばれる当の本人たちも、こっちのこと凄く見ているし、その奥にいる方々からの、まるで我らのお嬢様を選ばなかったらどうなるか分かってんだろうなと言わんばかりの、殺意ねつの籠った視線も感じる。


 「どうした、坊主?早よ決めろ言うとるんだが…。」


 「まあまあ、あなた。そんなに急かしても彼はまごつくだけで結論は出ませんよ。ねぇ、坊や。」


 「そうよ。彼にガン飛ばしても委縮するだけで、結果は出ないわ。そもそも、彼が堅気なのを忘れたのかしら?」


 俺が決めあぐねれば決めあぐねるほど、両陣営からの圧力プレッシャーが強まる中、助け舟を出してくれたのは両家の奥様方(暫定)だった。


 「そもそも、あなたはせっかち過ぎですよ。勝手に連れて来られた挙句、嫁さんを早く決めろと言って睨むなんて失礼過ぎるわ。あなたたちも睨むのは止しなさいな。」


 「全く、フロックス、あなたもそうやって脅さないの。みっともないわよ。これは両家が取り決めた公平な紛争解決手段。あなたたちもプレッシャーはかけない。」


 「す、すまん。」


 「Oh,I'm sorry! コレはナントモ失礼なコトをしましター。」


 「「「「すいやせんでした、姐さん!!」」」」


 「「「「Yes, Mom!!」」」」


 すぐさま、そういった圧力プレッシャーがなくなったのを感じ取った俺はほっと息を吐いた。しかし、彼女2人とも家の中で強い権力を持っているようだ。まさか、男性陣が皆言う通りになるなんて、まず間違いなく両家共に尻に敷かれているに違いない。


 「それじゃあ、坊や。紹介が遅れたわね。私は篠原しのはらあかねと言います。この篠原家を取り仕切っていますので、何卒宜しくお願いしますね。」


 「次は私ね。私は大野おおの皐月さつきって言うわ。彼女同様、私も大野家を取り仕切っているから、何かあれば言ってちょうだい。」


 ん?

 んん?!

 今、聞き捨てならないことを言われた気がする。


 「で、序でに、この人は私の夫である篠原しのはら竜胆りんどう。ちょっと怖い顔しているけど根は凄く優しいから安心してくださいな。」


 「この人は私の夫よ。名前はフロックス=オグバーン。色々訳あって夫婦別姓だけど、籍には入れているわ。この人は怒らせなきゃ大丈夫だから。」


 奥様方が前に出て見えないことをいいことに俺を睨みつける彼らを見てそう言われても説得力皆無なんだ

が…。てか、それよりも気になったのが、今さっき、お互いに自分が家の当主だと言っていた事なんだが。もしかして、もしかしなくても、両家は共に女当主というまさしく男を尻に敷いている体制なのか?


 「ところで、私はこの篠原家の当主になってから十数年経つの。娘を生んでからすぐに就いたわけなんだけれども、多忙でも娘を目一杯可愛がってきたわけで、今でも自慢の娘なの。……泣かせたらどうなるかわかるわよね?」


 「あら、奇遇ね。私も当主になってからも、娘には時間の許す限り愛情を注ぎこんできたわ。おかげで、目に入れても痛くないくらいに可愛い愛娘なの。実はああ見えて、家族や味方想いでとっても優しくて。……悲しませるようなことをしたらただでは置かないわ。」


 事態は急展開し、だいぶ悪化した。彼女たちは自己紹介を終えると同時に、俺に近づくと脅しを放った。それも笑顔で。俺の脳は言動が一致しない彼女たちの脅迫を理解できない(したくないとも言う)らしく、俺は数秒ほど間抜け面を晒していたと思う。だが、現実は残酷だ。時がたてば、嫌でも彼女たちのセリフは頭で反芻はんすうされる。そして、意味を理解できた俺は、同時に状況が詰んだことも理解した。八方塞がり、四面楚歌、絶体絶命、万事休す、そんな言葉が脳裏をぎり、心なしか走馬燈でさえも見え始めたような気がする俺を無情且つ非情にも彼女たちは追い詰める。


 「それでどっちがいいの?勿論、楓よね?…因みにどっちも嫁にしたいは御法度よ。」


 「私たちはあなたがこっちを選んでくれることを信じているわ。…腑抜けな答えがお望みではないのはわかるわね。」


 笑顔で睨みあうという器用な顔芸をしつつ、自分の娘を強要しながらさりげなく俺の選択肢を狭めてくるというこれまた器用な口上で、常人である俺が失神しないように肩を揺さぶってくる両家の当主たちや穴を開くほどこっちを見る嫁候補者二名に殺気を隠すことなくガンを飛ばす両家の親父さん方+構成員たちに囲まれ、追い詰められた俺が出した答えは…、


 「……も…………だ。」


 「「え?今、なんて?」」


 「どっちも!!お断りだ!!!!」




 両方とも選ばないというものだった。




 打算や策があるわけではない。むしろ、無策、無謀…というより追い詰められ過ぎてショートした頭で出した結論がどちらもいらないというもの。はっきり言おう。自暴自棄やけくそである。

 当然、この場は静寂に包まれた。皆、俺が何を言ったのか、この場の状況を呑み込めずにアホ面を曝している。さっきの俺みたいに。

 だが、少ししたら俺の言った言葉を理解して、そのアホ面を各々の怒顔に変えた。

 竜胆さんは顔の至る所に青筋を立てて、唸り声をあげている。多分、怒鳴り散らしたいところだが、怒りのボルテージが急激に上がり過ぎて空回っているところなのだろう。フロックスさんに関しては、一見変わらず威圧感が半端ない状態でいるが、良く見ればニコニコした顔が真顔になっているし、おでこ辺りには怒筋どすじが二、三個張り付いている。楓さんは、一旦能面のようにすっかり表情が抜け落ち、それから顔を引き攣らせ青筋を数本入れている。紅葉さんはまるでごみを見るような凍てつくような眼をしつつ、怒筋が顔の所々で見える。後ろに控える両家の構成員の皆様もより怖い顔になったり、武器を取ったりする人がいて中々にヤバい状況だ。

 中でも恐ろしいのが両家の当主たちだ。茜さんは凄くいい笑顔なのだが、どす黒いオーラを垂れ流し、背後からは出刃包丁を持った般若が見え隠れしている。一方で、皐月さんは絶対零度の眼差しをこちらに向け、その背中からはオーガらしきものが血の付いた大型サバイバルナイフを舐めてこちらを窺っている。

 俺はこんな危険な状態に曝されても動じていなかった。むしろ、楓さんと紅葉さんの怒り模様がそれぞれ両親から継承していることを発見して笑いがこみあげてきているぐらいだ。多分だが、迫られたときに気絶できずにいたせいで、恐怖という感情がキャパオーバーし過ぎて受容部分が麻痺しているのだろう。

 こんなことを考えているうちに、怒りのボルテージがマックスになって一部の面子が動きかけたが、両家の当主が手で彼らを制した。随分とお怒りのようだが、完全に理性を飛ばしたわけではないようだ。


 「一応聞くけど、両方とも嫌だと言ったわよね?」


 「どうしてか教えてちょうだい。」


 彼女たちは表情を変えることなく俺に尋ねてきた。申し開きだけは聞き入れてくれるようだ。命乞いは突っ撥ねる気満々だけど。

 俺も今更自分の言ったことを撤回する気もないし、実際に彼女たち二人を嫁にしたいとも思わないからそんなに圧力を掛けなくても話すさ。


 「俺が楓さんも紅葉さんも嫁にいらないと言った理由は簡単だ。無理!!実家がヤクザとかマフィアとか絶対無理!!今日の騒動からよりそう思ったよ。楓さんや紅葉さんがいくら綺麗で可愛くてもこんなことを平気で巻き込んで挙句の果てに脅迫を行う怖い家族ができると思うと結婚は無理!!というわけで、ごめんなさい!!」


 俺は頭を下げつつ、えもしれぬ達成感を味わっていた。

 俺は言った。言ってやったんだ!!とても怖いこいつらを前に臆することなく自分の意見を言ってやった!!

 まぁ、確かに、二秒後ぐらいに一斉に襲われて瀕死になった後、東京湾にコンクリート漬けにされて沈められるかもしれないけど、もとより後に引けないことを承知で言ったんだ。我が人生に一片の悔いなし。

 俺はこの後の流れに身を委ねようとゆっくりと目を閉じた。









 が、待てども待てども、この静寂が打ち破られる気配はなく、怪訝に思った俺はこっそり目を開けて様子を窺うと…。


 「私、実家が原因で振られたの…。そんな…。」


 「両方とも断る理由が両方とも物騒な家族を抱えているから…。」


 「いや、楓ちゃんは悪くないわよ。悪いのは…、グフッ!」


 「えっと、落ち込まないで、紅葉。ほら、彼があなたを断ったのは私たちが…、カハッ!」


 「茜ーーーー!!!気をしっかり持て!!傷はまだ浅いぞ!!」


 「Satsuki!! Oh my god!! What happened!? Please be strong!! Medic!!!」


 混沌とした情景が繰り広げられていた。

 両家のご令嬢二人は虚ろな目でぶつぶつと何か呟いているし、それを慰めようとした両家の当主たちが言葉をかけている途中で血を吐き出しているし、それを見た両家の婿さん方がまるで戦争映画で見るような台詞を吐いて慌てふためいている。所々から、「俺たちのせいでお嬢様に黒星が…」とか「Jesus!!」とか聞こえてくる。


 俺はこの有り様を見て思った。逃げるなら今じゃね?…思い立ったが吉日。

 というわけで、俺はひっそりと騒動の中心から離れていき、上手く襖の前までに誰にも気づかれることなく辿り着くことができた。運がいいことに、この騒ぎを聞きつけたからなのか、襖が勢いよく開き、女中(?)さんたちが雪崩れ込んできた。俺は彼女たちに巻き込まれないように脇に避けつつ、一瞬の隙を見逃さず外へ逃れ出た。そして、そのままあの部屋に連れて来られる途中で見た玄関へダッシュで着く。幸いなことに俺の靴と鞄があったから即行で履いて、持って、勢いよく屋敷から飛び出る。


 辺りは既に真っ暗で、でも、庭園内は明かりがあってそこそこに明るかった。走っている途中で気付いたが正面門は固く閉じられていて、屋敷自体も結構高めの塀で囲まれていた。なので、俺は周辺を見渡して、鞄を抱きかかえて塀の近くにある大きな岩へ加速して近づく。ただ、この大きな岩は自分の跳躍力だけでは飛び乗れないので、その手前にある小さい石と中ぐらいの石をホップ、ステップとテンポ良く踏んで飛び乗っていく。お分かりだとは思うが、三段跳びである。


 そして、見事に大きな岩の上へ飛び乗り、全力でジャンプと念じて蹴り上げる。ジャンプ力は塀の高さより少し高いぐらい。このまま掴まって攀じ登っていくしかなさそうだが、塀の屋根とは決まって掴みにくい構造をしているものだ。ほら、つるっつるの瓦が斜めを向いて俺を待ち構えている。だから、俺は敢えて最初から掴もうとはしなかった。岩を蹴り上げたとき、俺は屋根に対して背面を向けるように体を回転させた。そう、俺は屋根の頂上を高跳びのバーに見立てて背面飛びを敢行するつもりだ。


 俺の視界がスローモーションのように流れ始める。頭が俺の跳躍最大点を通過する。それは間違いなく塀の屋根を上回っており、順に背中、尻、脚が通過していく。

 俺はあの恐怖の館から逃げ出すことに成功したんだ。俺は諸手を挙げて高跳びで新記録をレコードした陸上選手みたいに万歳をしながら着地をしたい気分ではあったが、ぐっとその気持ちを堪える。ここは陸上競技場ではなく、住宅地であるし、下にはふわっふわのマットではなく、とても固いコンクリートが待ち構えている。もし、万歳のまま着地すれば、背中や腰を強打して悶絶しているところに連中が俺をあっさり捕縛するだろう。


 間抜けにも程がある。


 そういうわけで、脚が通り過ぎた後、強引に体を捻じり、鞄を放り投げつつ、その動作で振り上げた両手を塀の屋根に全力で叩き付け落下角度を緩やかな方へ変えた後、体育の柔道で習った受身を使って地面に接触した後、慣性の法則に従ってコンクリ道路の上をゴロゴロと転がっていった。そして、ダメージがないか確認した後、俺はガッツポーズをしてその場を全力で離れた。


 どうにか屋敷を脱出した俺は僥倖にも十分ほど走った先に駅を発見し、自分の家から三駅分しか離れていないことを確認して慌てて切符を買い、丁度発車間際の電車に乗り込むことに成功した。

 結局、電車の中でへたり込んで奇妙に見られたが、無事に家へ帰れた。

 安心して緊張が解けたせいか、玄関で倒れてそのままつくばっていたのだが、母親に叩き起こされしぶしぶ風呂に入り、どうにか自分の部屋のベットに辿り着いて意識を手放した。









 で、今、教室にいるわけだが、今朝は特に何もなかった。いや、本当は昨日のことを考えると学校には行きたくなくて、布団に潜って過ごそうと横になっていたところ、母親に力づくで起こされた。


 「今日はお腹と頭が頭痛で…」


 とか、


 「学校には行きたくないでござる!!」


 とか、仕舞いには、


 「起こされるなら妹が良い!!」


 などと自分でもよくわからないことを叫びながら必死に抵抗していたが、結局、


 「お前は妹がいないだろうが!!この!!バカ息子!!!」


 と言われて、母は掛け布団を取られないようにしがみついていた俺ごと掛け布団を地面に叩き付けた。痛みで布団を手放した瞬間、手繰たくられて持っていかれたので、母が視界からいなくなって負け惜しみに、


 「今からでも作りゃいいじゃん。」


 と言ったら、気づけば壁にめり込んで10分ぐらい気絶していた。今週一番の不可思議な現象である。因みに、右脇腹が異常に疼くのだが関係あるのだろうか?


 実は大差ない俺の朝の日常はさておき、そのあと歯磨いて、飯食って、着替えて登校したわけだが、道中明らかにけられていた。物影から視線を感じて振り返れば昨日の連中がいるわけである。どうも、手を出す感じがなかったので、無視して学校まで登校してきたというのが今朝のあらすじである。

 HRが近い今でも篠原さんはいないし、昨日のことを考えるとこのまま来ないでほしいところだが…。

 そういえば、いないと言えば恭輔の野郎もいない。俺に連絡もしないで休むとは結構珍しい。何もなければいいんだが…。


 そんなこんなでHRまであと五分を切ったとき、篠原さんは登場した。俺を初めクラスメイト全員(特に男子)が彼女に目を奪われた。一見、普段と変わりないように見えるが、雰囲気がいつもと異なる。何というか、艶やかなのだ。よく見れば、ナチュラルメイクを施し、いつもやや野暮ったく結っていた髪を下ろし、お淑やかで可憐な笑みとは異なる見る者全てを虜にしてしまうような妖美な微笑みを携えている。そう、彼女は普段の清楚な感じではなく、妖艶な雰囲気を纏っているのだ。その雰囲気に当てられたせいか、隠れ篠原信者が鼻を押さえて膝を着く。鼻血が止まらないようだ。わかるよ。昨日見た俺ですら目を離せないのだから、初めて見る人たちにとって今の彼女は毒にも等しい。

 そんな彼女は俺を見つけるとこっちへ歩み寄ってきた。そして、俺の目の前まで来ると鞄から俺のスマートフォンを取り出し爆弾を降下していった。


 「蓮様、これが昨日私の家に置き忘れていました。連絡できないと私が困るので、次からは忘れないでください。」


 俺は唖然とする。いつの間に…?道理で今朝いくら探しても出てこないわけだ。だが、今はそれどころではない。篠原さんは一体何を企んでいる?俺は彼女とスマホを交互に見る。

 一方でクラス内は騒然となっていた。女子たちはゴシップを見つけたようなキラキラした目で俺と篠原さんを交互に見るし、男子たち、特に篠原信者の連中はまるで親の仇でも見るような眼差しを俺に浴びせかけてくる。そして、近くにいた女子が興味津々という態度で篠原さんに俺との関係を尋ねた。


 「も、もしかして、楓さんって高橋君と付き合っているの?」


 俺は冷や汗を流しながら篠原さんを見る。篠原さんも俺を見て小悪魔的な笑みを浮かべると、突如俺の腕に抱き着いてそれはもういい笑顔で更なる爆弾をばら撒いた。


 「はい!私と蓮様は付き合っています!」


 クラス内は大きく二つの反応に分かれた。一つは主に女子で最上の噂の種を聞けて大興奮している状態。もう一つは主に男子で最悪の事実を突き付けられて膝から崩れ落ちていく状態。中には血涙を流し、俺を睨んでくる者までいて恐怖を感じる。だが、これではまだ地獄は終わらない。質問していた女子がさらに踏み込んできたのだ。


 「な、な、馴れ初めは?ど、どこまで関係は進んでいるの?」


 あんた、案外古い言葉使うね。普通はきっかけとかじゃないのか?…じゃなくて、どうしてこうなった!

 俺はこの状況を作り出した張本人を睨む。しかし、当の本人は俺の様子を窺っているくせに知らん顔してにこやかに爆弾を逐次投下し始めた。


 「実はお付き合いをさせていただくことになったのは昨日からなんです。前々から告白していたんですが、中々受け入れてもらえなくて。でも、ようやく昨日五回目の告白でこの気持ちが本物だということに気付いてもらえて、私の告白に頷いてくれたんです。そして、そのまま私の家に来ていただいて…、その後は…うん。」


 学校のマドンナの熱愛暴露に女子たちは大盛り上がり。学園一の美女の熱烈なアプローチが存在し、それが実るというだけでも十分話のタネとして事欠かないのに、まさかの2人の距離の大接近を示唆する告白。噂大好き、おしゃべり超大好きという性を持っている女子たちが反応しないわけなく、中には携帯を取り出して何か〈間違いなくSNS)に打ち込み始める者までいる始末だ。対照的に、男子たちはお通夜のような雰囲気に包まれている。皆目が死んでおり、OTZとなっている者もいれば、呪詛を吐き出す者もいる。クラスをこんな状態にした篠原さんは顔を赤らめて顔を手で覆っている。何て演技力だ…!間違いなく、篠原さんは昨日のことを根に持っているに違いない。

 こういう事をして俺を追い込んできた篠原さんに腰が引けた状態になるとそれに気が付いた篠原さんが俺の腕を軽く引っ張り潤んだ目で俺を見上げてきた。

 その様子を見た女子たちはさらに盛り上がるが、俺はその情欲的なまでに潤んだ瞳の奥に純然たる明確な意思を持っていることに気が付いて戦慄した。


 ゼ ッ タ イ ニ ニ ガ サ ナ イ

 カ ク ゴ シ ロ 


 そう言われた気がした。俺が固まって身動きしなくなったのを確認した篠原さんは畳み掛けることにしたらしく、上気した顔で嬉しそうな表情をしつつ、体をもじもじして話し始めた。


 「実はこのお付き合いもただの恋愛交際ではないんです。」


 このセリフに女子も男子も注目する。まだ何か追い詰めるネタがあるのかと俺も恐怖を浮かべた瞳を彼女に向ける。


 「とある前提をおいた交際なんです。そう、私と蓮様はけっk……。」


 だが、神はあまりにも不憫な俺に手を差し伸べることにしたらしい。HRのチャイムが鳴ると同時に担任が入ってきたのだ。そして、騒がしいクラスに一言。


 「席に着け。」


 この一言がどれ程有り難いことか。確かに、ただの引き延ばしであるかもしれないが、ワンクッション置くだけでも話は変わる。何より自分で考える時間を取れるのは大きい。たった五分間で俺の脳が処理落ちしそうなぐらいの目まぐるしい急展開だったからな。一回、状況の整理を……。


 「唐突だが、このクラスに新しいクラスメイトが在籍することになった。いわゆる転校生って奴だ。…入ってきなさい。」


 ほう、転校生ですか。珍しい時期に来たものだ。しかし、今日は話題に事欠かないだろうな。マドンナのゴシップに転校生の存在、せめて人の興味が半分でも転校生の方に向いてくれればいいんだが。

 俺は目を閉じて、頭の中を整理中だった。だからこそ、気づかなかったのだ。転校生すら俺に関連していることに。


 「えーと、みんなも顔は見たことあるだろう。何せ、今話題の大物芸能人だからな。じゃあ、挨拶を頼むよ。」


 「はい。」


 凄い転入生が入ってきたな。これなら、むしろゴシップに関する興味が薄れる可能性が高いじゃないか!神は俺を見捨ててはいなかった。…ところで、この声を俺は結構最近で聞いた気がするんだけど気のせいだよな。


 「先生、ありがとうございます。それでは、皆さん、おはようございます。本日この高校へ転入することになった大野紅葉です。皆さん大半が知っておられると思いますが、私は芸能人として活動しています。仕事の都合で学校に顔を見せられないことも多々あると思いますがよろしくお願いします。」


 硬直。俺の脳がストップした。


 「あと、一つだけ言わせてください。私がこの高校へ転入した理由なのですが、実は私はある人を追ってここまで来ました。」


 俺の頭がこれ以上の情報を拾いたくないと拒否し始めている。わかっている。わかっているから、もうそれ以上、俺を苦しめないで…。


 「そこの高橋蓮君と結婚を前提としたお付き合いをさせていただいております。愛しの彼となるべく一緒に居たくて、我慢できずに転入してしまいました。この点もよろしくお願いします。」


 ああ、神よ。私が一体何をしたというのですか?


 俺は思考のために閉じていたはずなのにいつの間にか現実を直視しないために閉じていた目を恐る恐る開ける。驚愕の表情を向けるクラスメイト達が光景として映し出され、まるで先を越されたと言わんばかりに苦虫をかみつぶしたような顔をする篠原さんが目に入り、そして、最後に教壇の上でにっこりとした笑顔でこちらを見る大野さんが見えた。


 「蓮君!来ちゃいました!!」


 最後にえへっ!と言わんばかりのぶりっ子を演じる(それが様になっているから余計に手が負えない)大野さんに俺は一瞬心が折れかけた。周りでは、男子がまた膝から崩れ落ちている。酷い奴なんか血を吐き出して卒倒している。で、周りの奴に「田中ーー!!おい、しっかりしろ!!だ、誰か、医者を!!」とか言われて介抱されている。よく見たら、俺に大野紅葉の魅力を詳しく解説していた信者の田中だった。あのやり取り、既視感デジャヴが半端ないが気のせいだということにして、まずどう切り抜けるか、パンクしそうな頭を回転させる。


 だから、俺は見落としていた。これで終わるはずがないということに。


 「待ちなさい!その話は嘘よ!」


 突如、凛とした声が響く。篠原さんだ。まさか、俺を助けるために…。


 「結婚を前提としたお付き合いというけれど、それは私と蓮様が合意の上でしています。だから、その話はありえません。」


 ですよねー。期待は微塵もしてませんでした。むしろ、拍車をかけているし。合意も何も、拒否したはずなんだけどなー。


 「それはおかしいですね?蓮君は私のフィアンセのはずですが。」


 「いいえ。蓮様は私の許婚いいなずけのはずよ。」


 やばい。このままだと俺は美女二人から迫られる羨ましい奴ではなく、二人をたらしこんだクズとして学校の連中に認定される。


 「ま、待ってほしい。俺は昨日お前らを振っ……。」


 「「蓮様(蓮君)は黙ってて(黙ってなさい)!!」


 「はい。」


 しまった…。二人の剣幕の凄さに碌に話すことなく俺はシャットアウトされた。この二人が話せば話すほど事実が歪み捻じれ拗れていく。俺はこの場の最適解を模索する。


 諦めて受け入れるしかない ←理性の声明

 諦めて受け入れるべきだ ←本能の判断

 諦めて受け入れなさい ←天使の囁き

 諦めて受け入れろ ←悪魔の唆し


 折角無理やりにでもバリエーション増やしたのにまさかの満場一致!?…だが、彼ら(?)の言う通り、この状況を打破できるものなど存在しない。つまり…、詰んだ。よし、逃げよう!三十六計逃げるに如かず!俺がいない間に万事解決してました作戦でいこう!


 俺の頭の中で悪化を阻止する努力なしで事態が好転するはずがないと警告が大音量で鳴らされるが…、無視!俺の手にはもう負えないのだから、事態の収拾は諦める。でも、現実は受け入れない。逃避万歳!!


 俺は頭の中(だけ)で理論を正当化すると、全力でドアに向かい走り始めた。口論がヒートアップしていた二人は逃げ出した俺に気付くのに一瞬遅れ、口論に気を取られていたクラスメイトたちも彼女たちが視線を俺に向けたときに、俺の行動に気付いた。

 だが、もう遅い。彼女らが俺を捕まえるために動き始めたとき、俺は既にドアに手をかけて出ようとしているところで、どう足掻いても俺の逃走は成功する。…するはずだったんだ。


 俺がドアを開け、廊下を駆け始めたとき誰かと正面衝突したようだ。俺とそいつは腰を強かに打って、互いに腰を擦っている。で、俺が相手を見ると、髪はぼさぼさで顔はやつれ、目の下にクマができているが普段から見知った顔があった。


 「恭輔?」


 「蓮?」


 俺とぶつかった相手は恭輔だった。何故かボロボロになって酷い有り様をしているが間違いなく恭輔だった。しかし、普段から美容や身だしなみを気にしている恭輔を知っている分、今の姿には違和感を覚える。遅刻してきたとしても、この酷い状態はあり得ない。こいつの格好から察するに、まるで一晩中形振なりふり構わず逃げ延びてきたような随分憔悴しょうすいした姿というのが印象としてぴったり当て嵌まる気がする。リアル鬼ごっこでもしてきたのか?

 そんな自分の立場を忘れた呑気な観察をしていると、恭輔は俺と見るや否や怯えた顔をして俺にしがみ付いてきた。


 「た、助けてくれ、蓮!こ、殺される!」


 そして、助けを求めてきた。


 「は?」


 ただ、物騒なことを言ってきたので、俺は一度思考がフリーズしてこう言った。


 「え?誰に?」


 恭輔は既に泣きそうな顔になりながら叫んだ。


 「か、奏!奏に殺されそうなんだ!!」


 後ろからクラスメイトたちが追い付いてきたようだが、恭輔のただならぬ雰囲気に戸惑いを見せている。俺も恭輔の言葉に困惑している。取り敢えず、恭輔に事情を聴こうとして気付いた。悪鬼羅刹あっきらせつのような恐ろしい怪物がこちらに近づいていることに。それは悪魔の如き形相をした奏さんだった。右手にはバチバチとスパークする警棒型のスタンガンが握られている。


 「きょーくん、見ーつけた!!」


 「ヒッ!!き、来たー!!」


 「そこで待っててね。今ならまだ一発で仕留めるから!」


 恭輔!一体何をしたんだ!えらい物騒なことになっているんだが!

 俺が恭輔を見るとガタガタと震えながら俺に後で話すから助けてと言わんばかりに強く俺に抱き着いていた。


 「んー?そこにいるのは蓮君かー。で、恭輔と随分と仲良くくっ付いているけど、やっぱり二人はそういう仲だったんだねー。」


 待て。そういう関係ってなんだ。俺だってひっつかれたくてひっつかれているわけじゃない。第一、好き好んで男にくっつかれたい性分はしていない。どうせなら、女性に…。じゃなくてだな、まずそうだとしても、何故奏さんは俺を標的として見定めているんですか?危ないので、俺にバチバチ言っている銃口を向けるのはやめましょう。

 奏さんのなくあふれる殺気を向けられ、俺は思わず後退り始める。


 「殺す!」


 「恭輔!!」


 「ヒッ!!」


 スタンガンの銃口を俺に向けながらこっちへ歩いてきた奏さんはある程度距離が縮まると突如短く吠えて突撃してきた。俺はそれをすぐさま察知して恭輔に声をかけて脱兎だっとの如く駆けだす。後ろから凶器を持った奏さんが不気味な笑い声をあげながら追いかけてくる。クラスメイトたちは俺たちが走り出すと同時にモーセが海を割ったかのように真っ二つに分かれて俺たちを避けたので、俺たちはすんなりと包囲網から脱出できたわけだが…。世の中、そんな甘くない。


 「アハハハ!!毎度毎度思っていたけど、恭輔は私よりも蓮君の方が大好きで仕方ないみたいだよね!!事あるごとに蓮君蓮君!!話すたびに蓮君蓮君!!携帯のメール履歴も着信履歴も私よりも蓮君が多いし!!これって浮気と判断してもおかしくないよね!!」


 「「いや、おかしいから?!」」


 恭輔と台詞が被った。どうやら奏さんは冷静な判断もできていないようだ。何が悲しくてこんな奴と浮気しなきゃいけないのか。やるとしても普通逆だろう。(絶対にやらないが。)


 「おい、恭輔!!今後、俺から半径50メートルぐらい離れて暮らせ!!俺は同性に興味を持つ変態とは一緒に居たくない!!」


 「酷い!!そもそも、誤解だ!!性別の垣根を超えた性癖は断じて僕は持ってない!!」


 「てか、お前、なんであんなに奏さんを怒らせたんだ。一体何をした!!答えによってはお前を貢ぎ物にすることもやぶさかではないぞ!!」


 「やっぱり酷い!!奏の怒りもまた誤解だ!僕は無実だ!!」


 「嘘だ!!!昨日、カラオケ行った時、何時までもトイレから戻ってこないから見に行けば、女の子たちに迫られて鼻の下伸ばしていたくせに!!」


 よし、こんなクズ見捨てよう。


 「ま、待ってくれ!本当に誤解だ!!僕は確かに彼女たちに迫られていたけど、ちゃんと彼女がいるから断っていたんだ。ただ、彼女たちがしつこく言い寄ってきていたところを奏が…、うぉ!!」


 言い訳をしている恭輔に奏さんからの一突き。恭輔は擦れ擦れでそれを躱す。そして、奏さんが吠える。


 「黙れ!!!だったら、無視してさっさと戻ってくるとか方法はいくらでもあったのに!!結局、何時までもあの女たちに良いようにされている時点で悪い気分ではなかったでしょう!!」


 なるほど、一理ある。やっぱり、見捨てよう。


 「た、頼む!見捨てないでくれ、蓮!!」


 「うるせぇ!!さっさと貞操奪われて既成事実でも作られていろ!!」


 「い、いや、その程度で済む勢いじゃないよな!!」


 「…そうだな。一生監禁生活かもしれないが生きているだけマシだろう!なぁ、奏さん!!」


 「アハハハ!!あと、二度と逃げられないように両手足切断してあげる!!」


 「いっそのこと死んだほうがマシだったよ!畜生!」


 「さぁ!さっさと捕まって、俺の安寧を取り戻すための人柱となれ、恭輔!!」


 「ふざけんな!!」


 「アハハハハハハハ!!!」

 

 こんなことを大声で話していたせいだろうか、或いは一晩中逃げ回って疲労が溜まっていたせいだろうか、はたまたその両方だろうか。恭輔は突如足をもつれさせるとこけた。そう、こけた。


 俺は当然見捨てた。


 「蓮ーーー!!置いていかないでくれーー!!」


 悲痛な叫び声が後ろから聞こえてきた。俺が振り返ってみたとき、戦友は悪魔に背中に乗られ、凶器を首に突き付けられようとしていた。


 「恭君、ずっとずっと一緒だよ。そう、ずっとずっとずっと…………。」


 俺は再び前を向いて全力で駆けていった。そうした直後に断末魔の叫び声が聞こえた。恭輔、お前のことは忘れない。末永く幸せにな。




 俺は屋上まで来てベンチでぐったりと腰掛けている。今後、マフィアの娘二人から逃れながら、どうやって過ごしていくのか。それしか考えていない。

 恭輔?誰それ?そんな悪友止まり程度の男の事考えている暇があったら、一刻も早く俺の平穏な生活を崩しに来た二人をどうするのか考えるのに時間を割く。

 しかし、本当にこれからどうしようか…。打つ手がない。ああ、今後の事考えていたら頭が痛い。ストレスで胃に穴が開きそうだ。考えれば考えるほど憂鬱になってきた。マジでどうしよう…。


 俺がブルーな思考に嵌りかけている時、屋上のドアが開いた。今は一限前。昼休みならまだしもたった10分程度の休み時間にやってくる奴が一体どういう奴か気になって俺は扉の方へ目を向けた。


 「げっ!?」


 扉から現れたのは俺の悩みの種である大野紅葉と篠原楓の二人だった。どうやら、二人は俺の居場所が既に分かっていたようで、慌てて隠れようとした俺の元へ迷いなくやってきた。俺は隠れることを諦めて三白眼で睨むが、2人ともどこ吹く風と言わんばかりに俺の傍までやってきた。


 「「「…………。」」」


 やってきたのはいいが何故か押し黙ったまま、俺のことを見る二人。仕方なく俺は尋ねたかったことを聞く。


 「この学校に元から通っている篠原さんはともかく、何故大野さんはここに転校してきたんだ?それも二人ともあんな誤解しか生まないような発言と行動をしてまで。昨日の勝負は申し訳ないがあれが答えだ。続けるなら他を当たってくれ。」


 「「…………。」」


 それでも二人は沈黙を貫く。話す事が何もないのなら、ここにいる意味はない。俺はまた変なことをされる前にここを立ち去ることにした。


 「答えられることがないのなら、それでいい。ただ、教える気がないなら俺に二度とかかわるな。今朝の件は昨日の復讐ってことにして流すからもう変な助長はするな。じゃあな。」


 俺は彼女たちから背を向けて扉へ向かう。さて、これからどうやってクラスや他に伝わってしまった噂の誤解を払拭していくべきか。俺は歩きながらそれについて考えていた。


 「……、一つ誤解をしているようですから訂正させてもらいますね。」


 突然の掛け声。俺は声がした方へ振り向いた。


 「いつ、勝負が終わったと言いましたか?」


 「は?」


 「両家の勝負はまだ終わっていません。」


 声の主は篠原さんだった。彼女は凛としたたたずまいでこちらを見ている。その眼光は力強く、思わず後退りしてしまうほどに。


 「い、いや、だから俺は昨日二人とも選ばなかった。確かにお前らの勝負は決着を付けられないが少なからず俺はお役御免だろう?また、別の第三者でも連れて決めればいいだろう?」


 俺は負けじと返す。その言葉に対して返しを入れたのは大野さんだった。


 「何か勘違いしているようだけど、あなたはまだ審判の役を降りていないわよ。」


 「?いや、俺は…。」


 俺の言葉を大野さんは強引に遮る。


 「いや、降りさせないというべきかしらね。そもそも、あなたは答えを出したと言ったけれども、今回のテーマは『結婚相手に相応しいのは≪どちら≫か』というものよ。あんな結論、無効よ。」


 「なっ?!」


 「それに結婚ってルックスや御家柄、金の有無だけで決まるものかしら?」


 「…!まさか!」


 「そのまさかよ。まだ私たちには勝負していない項目が幾多もあるわ。それらを終わらせずにして、あなたを審判席から逃がすわけにはいかないの。」


 ふざけるな!と言いたいところだが、生憎そのことを口に出すことはできなかった。大野さんもまた毅然とした態度をとり、鋭い視線を俺に向けていて、俺はそれを見た瞬間喉まで出かかっていた言葉を呑み込んでしまった。


 「マフィアは舐められてはいけないの。一介の男子高校生に求婚して断られるなんて家の評判にも響くし、何より私自身が屈辱的だわ。」


 「その点に関してはヤクザも同じです。私にも家の名にも傷をつけた以上責任は取って頂かないと困りますから。逃がしませんよ?」


 こっちが押し黙ったのを見て、二人は話しながら俺に近寄ってくる。俺は冷や汗を流しながらもその場から一歩も動くことは叶わなかった。そして、ついに彼女たちは俺の目の前に立つと俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。


 「まず、学校中に蓮様と私の関係を見せつけておきましょう。私に告白して来る人たちを減らしておかないと困りますので。」


 「フン、蓮君はあなたではなく私との関係を学校の皆に見せつけるべきだわ。いつの間にかできているファンクラブの連中に対する牽制にもなるし。」


 「くっ、お前らの勝手な計画に巻き込むな!!俺は…降りる!あと、腕を…組むと称して…腕の…関節を…極めるな!!イダダダダ!!」


 この二人!俺が逃げられないように両腕の関節を極めてきた。猛烈に痛い!!


 「さあ、行きましょう。蓮様!」


 「行こうか、蓮君!」


 「くそっ!離せ!俺は行かないぞ!!イデデデ。バッ!それ以上極めるな!!外れる!!」


 「…それ以上騒ぐようであれば、折りますよ?」

 「往生際が悪いわね。外すわよ?」


 彼女たちは脅しでないことを証明するかのように腕をきつく締めあげてくる。


 「わ、わかった。わかったからそれ以上は!」


 俺は脂汗あぶらあせにじませながら、ギブアップ宣言をする。腕の拘束はそれで緩くなったが解かれることなく、二人に導かれるように階段へ連れていかれる。俺は項垂れながら、ふと思う。


 これ、フード被っていたら、まさしくニュースで見る逮捕・連行現場じゃねぇ?


 俺としては絞首台へ近づいていく死刑囚と言った方が気分として一番近いかもしれないが。

 何はともあれ、俺は明日からの学校生活で必須になるものを考えておく。

 まず、頭痛薬。あと、一応胃薬。他には…、男どもにリンチされかねないから、怪我したときのために包帯は必要だな。後は入用になってから手に入れよう。



 こうして、俺こと高橋蓮の頭痛薬と胃薬、包帯が欠かせない生活が始まることになる。


















 誰か変わってくれ…。


最後まで読んでいただきありがとうございます。三万字ほど読んでいただいた後で恐縮ですが、できれば感想の方をお伝えいただければ幸いです。また、よろしければ評価をしていただけると大変ありがたいです。

もし、文中に誤字脱字等があればそれも併せてお伝えいただけると助かります。ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても、面白かったです。 特にどこがとかは言えないのですが、僕個人としてはこういう感じの話等は好きなので面白かったです。出来れば、この続きを見ないなと思いました。連載にして書いてくれると嬉し…
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