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目覚め(11月10日) ①

11月10日


「…ーい」

何か聞こえる。


「おーい、生きてる~?」

僕を呼ぶ気だるげな声。僕に話しかける女子なんていたっけ?そんな疑問符はすぐに眠気に押し潰された。

僕のぼんやりとした意識の中では今、理性と睡魔が死闘を繰り広げている。


「あきしかくーん、数学の課題~」

この瞬間、理性が睡魔に強烈なボディブローを食らわせ勝利した。


理性の勝因は2つある。

1つ目は名前、僕は"あきしか"なんて苗字ではない。人の名前を間違えるとは失礼な奴だ。まあそれはいいだろう。

問題は2つ目の"課題"である。コレの提出の有無は成績に大きく影響する。


そうしてようやく僕は机に突っ伏していた顔を上げた。


すると僕に話しかけたと思われる女子と共に、見慣れた野郎の顔があった。


僕が口を開くと同時に彼は喋りだした。


「おいおい、いくらコイツが影薄いからって名前間違えんのは失礼だぜ。"あきしか"じゃなくて"あいか"だ、秋鹿(あいか)響也(きょうや)だ」


この失礼な奴は吠木(ほえぎ)(しょう)

小学校からの腐れ縁だ。


翔は笑いながら続ける。

「まあコイツの名前ちゃんと覚えてんのは俺くらいなもんか、ハハッ」

彼はいつもこうだ。何かにつけて僕を(けな)してくる。


「あっ…ごめんね、秋鹿(あいか)くん」

彼女は気まずそうに言った。


別に彼女に怒りは無い。言いたいことはだいたい奴が言ってくれたので僕は最低限の言葉で返す。

「別にいいよ」

僕は鞄から青いノートを引っ張りだし彼女に差し出す。


「はーい、確かに受け取りましたー」

大量のノートを抱えた彼女はスタスタと歩いていった。


このしょうもないやりとりを終えた僕はあることに気がついた。


(あれ?僕、あの子の顔も名前も知らねーや)

そりゃそうだ。この高校に入って半年以上経つがクラスのほとんどと口を利いたことがない。


(こんな僕にわざわざ謝るなんてな)

教室を出ていく彼女の背中を見ると、少しだけ不憫に思えた。

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