彼女のアドレス。
その後の進展は無かった。
僕がいけない。彼女を避けていた。メールアドレスすら交換出来ない。
一度、そのチャンスが巡ってきたのだが、断りを入れてしまった。
僕は元々ケータイ電話を所有していなかった。友達も少なく、ネットは家のパソコンで十分だし、誰かとEメールだなんて面倒でしたくない。なので、要らないと思っていた。
だが、僕は放浪グセがあるというか、まっすぐに家に帰らない。
誰かと遊んでいるわけでない。電車通学で高校へと通っていたのだが、その帰り道、電車に乗らずに、ずっと歩いて帰ったりしていた。2,3時間平気で歩き続け、暗くなって帰り着く、そして、疲れ果てて、勉強もせずに寝る。そんなどうしようもない生活を送っていた。
そんな何処にいるかよく分からない僕に、親はケータイを与えた。要は監視道具だ。
どこにいるか把握するためである。
まあ、もっぱら電源をオフにしていたため、あまり効果はなかったが。
また、使い過ぎないようにと、料金設定もされていたため、すぐに上限いっぱいとなり使用不可となった。たしかわずか5000円ほどであった気がする。
本当に、すぐに使えないようになるのか確かめたく、わざとずっと音楽をダウンロードしてみた。そうするとすぐに、使えなくなった。1日で使えなくなり、その月はガラクタでしかなかった。
話を戻そう。僕が彼女とメールアドレスを交換できるチャンスが訪れたのは、ケータイを買った次の日が、弓道部の試合の時であった。
買ったばかりのケータイは一応一番新しい機種であったため、女の子たちが珍しがり、その時ばかりは異様に人気者であった。よく分からないが、女の子たち全員に囲まれ、そして、使い方を丁寧に教えてもらい、また、お菓子やジュースもくれ、なんだかキャバクラ並に接待された。
そんな謎の待遇のせいで、他の男どもは面白いわけがなく、遠くから睨まれていた。
そんな中、彼女はやはりあまり僕へと近づいてくれなかった。
あの日の、僕の冷たいこんにちは。が原因だ。笑顔は向けてくれることがあるのだが、どこか以前のような優しさがない。
女の子たちがメールアドレス入れてあげるね、といって、ぼくのケータイにみんなアドレスを登録してくれた。
女の子のアドレスがいっぱい増えてよかったねて、優しく笑ってくれて、ああ、女の子ってこんな優しい生き物だったんだて初めてその時知った。いままで冷たく接してきてゴメンナサイ。とこの時は感じた。
あの子のアドレスが知りたいと僕がその子に目を向けてみると、他の男と話していた。
その場に近づき、どう話しかけようか、考えあぐねていると、男が「この子にもアドレスを教えてもらいなよ」と言ってきた。
彼女はその言葉を聞くと、急にうつむき、会話から外れたというか、聞こえてないようなフリをした。
僕にはそれが拒絶に見えてしまい「んー、まあ、いいかな。。。」と思わず断った。彼女は僕のその言葉を聞くと、どこかに行ってしまった。聞こえていたのか、聞こえてなかったのか分からない感じだったが、多分、聞こえていたきがする。
男には「いいのかよ」とツッコまれたが、もう遅かった。
一度、断ってしまったからには、もうきけない。
最大の失態を犯してしまった。




