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はじまり。

僕は誰かに愛されるたびにゴメンナサイと思っていた。

なぜ、数多くの男性がいる中で、僕なんかに興味を持ってくれたのか。

何のとりえもなく、顔もかっこよくなく、話も下手であり、非社交的だ。

スポーツに興味がなく、テレビの話も出来ない。

何もない。何も無い。


こう考えていた。なので、なぜだろうかと。きっとどうせ、すぐに僕のことは嫌いになる。

どうせそうに決まっている。ならば、早く嫌いになってもらいたい。あとから離れられるのは辛いから。

そう、女々しい、どうしようもない屑な事を考えて、わざと冷たくあしらうようにしていた。

その結果、当然だが、すぐに距離を置かれる。昨日までの笑顔は嘘であるかのように、ぎこちない表情をこちらに向け、挨拶だけで済まされる。ああ、ほらね。ほらね。その様子に安心していつもの日常に僕は帰る。


しかし、そうでは無い子がいた。

同じ、弓道部に所属する、身長の高い、ショートヘアの女の子。いつも笑顔で、肌が白く、皆のアイドルであった。あの子と付き合いたいと言う男は割りといた。

そんな子が自分に興味を持ってくれた。よく分からないが、何かと僕の体に触れてくることが多かった。さりげなく、手を触ってきたり、寄りかかってきたり、なぜだかいつもそばにいた。

ああ、これは好きということなのだろうか。好きになってくれたのだろうか?さて、なにを話せばいいのか。どう仲良くなればいいのか。いままで、いかに早く嫌われようかと考えて女性と接してきたばかりに、仲良くなり方が分からない。別段それまでその子に興味が無かったのだが、好意を持ってくれてるとわかると、好きになってしまった。そして、良好な関係をもたせようという方向で思考しているのに、僕にはその頭がない!!


ああ、これはまたしてもゴメンナサイ。か。せっかく好きになってくれたのに、何の為にもならない、僕なんかでゴメンナサイ。と。


ある日のこと、早く弓道場へと訪れた僕は、まだ電気がついてない暗がりの中、弓道具の準備に取り掛かった。いつもゆっくりと向かうため、誰かしらが、先に明かりをつけてくれているため、スイッチの場所が分からない。電気一つ、つけられない。

その暗がりのせいで、僕は矢の束を箱からぶちまけてしまった。ああ、やってしまった。僕は床に這いつくばって矢を拾い始めた。その四つん這いになった僕の背中というかお尻の辺りを、何者かが軽く、ゆっくりと撫でる様に踏みつけてきた。思わず叫びそうになったが、声を呑み振り向いた。

そこにはあの子がいた。僕の好きなあの子がいた。淫靡な笑みに見えた。本当はいつも通りの笑顔であったのだが、僕の心にはそう見えた。

胸が高鳴り、上ずった声が出そうになったため、わざと、冷たくあしらってしまった。

「こんにちは。」それだけ目も合わせずに言うと、また矢に手を伸ばした。

彼女は僕の対応に、同じように冷たい声で小さく「こんにちは」と言い、さっさと準備に行ってしまった。

ああ、やらかしてしまった。僕は彼女の期待に答えられなかった。いや、答え方が分からなかった。極度の緊張を伴っていたために頭がいつもより更に麻痺していた。


本当はここでもっと仲良くなりたかった。仲を一気に深めたかった。もう取り戻せない事をその時悟った。

何かがズレ、そのままこの関係はもう戻らないと感じた。





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