校内対抗戦編6
更新は時々。
設定についての突っ込みはご遠慮ください。
"アレクサンドロス"内部に進入した緒神 愛緒は研究員に、連れ去られた子供の居場所を聞きまわった。
そして、D6といわれる区画にいると分かり警備を倒しながら地下へと向かっていた。
建物の構造は側面に全ての階を繋ぐ螺旋階段があり、中央に2機のエレベーターが設けられている。
各階の区画の数はまちまちで、3~5の区画にそれぞれの用途に合わせた部屋などがある。アリの巣のように各区画自体は高低差があるため、エスカレータやムービングウォークなどで移動間を簡易している。
地下6階に到達するとD1~D6と書かれた通路がある。D1~D5までは今までの通路となんら構造の違いはないが、D6はそれとは違うようだ。
「これは…マジックジャマー。ソ連の兵器か…いったいどうやって手に入れたんだ…」
ソ連は兵器の国外輸出を長年禁止している。もちろん、発動させたらそこで魔法を阻害するマジックジャマーも例外ではない。
だとしたらなぜ、日本のこんな魔法研究所にマジックジャマーがあるのか。
しかし、今はそのことに気を止めておく時間はないとD6区画に侵入する緒神 愛緒。
一歩足を踏み入れた途端に発動させていた多重障壁鎧装甲が消える。
「生身でというわけか。面白い!」
彼女は腰辺りに手を回すとホルスターから拳銃を取り出す。ソ連製のトカレフ――。
普段は腰にぶら下がっているだけの飾りのようなものだが、こういう場合のために日ごろから射撃練習は欠かさない。
通路の広さは幅4mで数十m走っても端が見えない。
左右に扉があって開けて中を覗いたら"何か"があった、だが"今は何もない"という感じで入り口正面にはガラスが張られその奥にも部屋があるようだ。
研究員の気配がない。だが、少女はここにいるということが彼女は直感で分かっていた。
8つ目の部屋を覗いたときにようやく少女を見つける。
「よし!無事だな!」
急いで近寄るとガラス越しに見える少女が彼女に気付いた。少女も近づいてくるが大声で叫んでいる。しかし、防音性が高いのか声が聞こえない。
プシュー!という音とともに入り口が2重の隔壁が降り、完全に塞がれてしまう。
「これは!」
その時初めて気付く。彼女が入った部屋はやたらと血が散乱している。今までの部屋も傷や破損した部分があるところもあった。
「この部屋は…檻か!」
少女がいる部屋は檻ではなく外、つまり檻の中を見るための部屋。
すると、唐突にスピーカーから高い男の声が聞こえる。
『やあやあやあやあー侵入者君。おや面白い面を付けているね…夜叉か。
それは君の内心を表したのかな?それとも不安や迷いを消す為のものかな?』
「…………」
完全に無視を決め込む彼女は、ガラスを割ろうと殴ったり撃ったりするが傷一つ付かない。
『無駄だよ~。それは最新の強化ガラスだから衝撃なんかには強い耐性を持ってる。
魔法も使えない、ガラスも割れない…こういうのを万事休すって言うのかな~』
ヘラヘラ笑いながら喋るソレにいよいよ苛立ちを隠せなくなった彼女は、〈F**K!〉と言って続けた。
「必ず捕まえて首をへし折ってやる!覚悟しておけ!」
『おー怖い怖い…ここはひとまず退散するかね。本来ならそこにいる少女も連れて行きたかったんだが――仕方ない。
せめてもの手向けだ、私の子供たちと遊んであげてくれたまえ』
部屋の中央の床にある他と色が違う丸い箇所がサーと開くと、低いモーター音が鳴りカプセルが上がってくる。
カプセルの保護ガラスがスライドして開くと、真っ白な手――人間にしては歪な形をしている。
「ホムンクルス!…じゃない――」
それは人間とホムンクルスを錬金術で混ぜ合わせた生物。
「キメラか!」
すぐにトカレフを2発撃ち込むが、皮膚が硬質化しているようで弾かれる。
歯が8cmの鋭い牙のように飛び出ている口は、閉じられることなく開いている。
残りの弾全てをそこに撃ち込むが効果はないくジリジリと迫り来る。
「魔法が使えれば!」
飛び掛ってくる2mの巨体を避けるとキメラは壁に激突する。しかし、直ぐに体の向きを変えて彼女の方を向くとゆっくり動き出す。
動きは遅いが飛び掛ってきたときの速さは尋常じゃなかったことを考慮し、彼女はトカレフを捨てると軽くウィービングしながらキメラの動きを見極めようとする。
「ググゥゥウ!ガァ!」
鳴き声に合わせて飛び掛ってくるキメラを左へかわすと腹部にブローを叩き込む。が、全く効いてない様子で彼女に向かい続ける。
「化け物め!」
かわして反撃、かわして反撃を繰り返すが徐々に彼女の動きについてくるキメラ。そして、ついに―――。
「グゥアァァ!」
「がはぁ!」
左肩にキメラの左バックブローが入ると室屋の壁に叩きつけられる。ダラリと垂れた彼女の左腕がその威力を表していた。
「肩が…外れたか。――魔法さえ――使えれば!」
のそのそ近づくキメラ。
と、その時――体にずっと感じていた不快感が取り除かれる。
「!……まさか」
すぐさま右手にマナを溜め、イメージ――鋼を砕く、イメージ――全てを弾く、イメージ――万物を貫く。
「パイルバンカー!」
右腕の動きが目で追えないほどのスピードでキメラの腹部に当たると、その体を貫き約一秒後遅れてきた衝撃で全体が吹き飛んだ。
腸がぐしゃぐしゃに散乱したキメラに〈すまんな〉と呟くと少女の方を見る。
そして、彼女は目にした光景に驚愕を露にした。
「何だと……」
約4分前。
"アレクサンドロス"の地上で穴の数を増やしていた《ノーフェイス》のコントラクター"マイン"。
何かを感じ振り向くとそこには、この作戦に参加していないはずの人間がいた。
「お前、夜神…どうしてここにいる?」
作戦に参加している部隊が着ている戦闘服ではなく、いつもの黒スーツに身を包んで立っていたのは夜神 当矢。
「愛は?」
それは緒神 愛緒の愛称。すぐにマインは下に目線をやる。
「下ですか…」
「………」
夜神 当矢は、マインが発動している魔法を見ると彼がどんな任務に当たっているか見当が付き〈手伝いますよ〉と一言。
「無理だ…これは…」
"自分にしかできない"と言おうとしたマインだったが、それを言う前に夜神 当矢が魔法を発動する。
右手を地面の隔壁に向けるとまるで耳鳴りのような音がして、次の瞬間には隔壁に直径3mほどの穴が開いた。
マインは驚愕のあまり〈なんだと!〉といつもは出さない驚きを声で表した。それもそのはず、穴が開いたのは一瞬でまるで消し飛んだかのように見えたからだ。
そして夜神 当矢は〈後は任せます〉と言うとその穴に飛び降りていった。
「なんだったんだ…今の魔法は――」
"アレクサンドロス"内部に入ると夜神 当矢は少し目を見開いた。うじゃうじゃと歩き回る物体。すぐにそれがキメラだと彼は察し、眉を顰めた。
「エイレ・ウサイマウタ・ナトスヒ・サイア・バングラハ・ムヒサイア……プライムフィールドアルター、オメガシフト!」
彼の周りに波動が現れると大気が波打ち髪の毛が逆巻く。
両手にマナが溜まる。
「殲滅する…」
次々と魔法が放たれキメラが駆逐されていく。その時彼の微かに赤く光る右目から雫が頬に流れた。
すべてのキメラを駆逐し、辺りを見渡すと取り残された研究員の遺体も多数ある。
「どうやら、キメラを解き放ったやつがいそうだな」
下への階段を見つけるが、すぐには向かわず別の場所に目線を移す。視野に入ったエレベーターに近づくと右手を突き出す。
「イクスパンジ――」
刹那――その感覚でエレベーターの扉が消え去り、続けてエレベーターの床に穴を開けた。底が見えないエレベーターシャフトを見下ろし。
「プライムフィールドアルター、サードシフト」
そう口ずさむと彼の目が微かに青く瞬き、周りの波動も少し落ち着く。
穴の開いた空間に、まるで空中に足場でもあるかのように立つと速すぎない速度で降下していく。
一番下まで来ると再び扉を消し去る。地下6階にもキメラが複数いて研究員たちを襲っている。
「ひぃぃぃいいい!」「ぎゃぁぁあああ」「助けてくれぇぇええ」と叫んでいる声は彼にも聞こえているだろう。
彼は再び〈オメガシフト〉と唱え激しい波動を放つと、そのキメラたちを駆逐する。
全滅させたキメラを見つめていた彼にキメラに襲われていた研究員が〈助けて〉と血まみれで縋ってきた。
「……………」
右手をそっと伸ばした彼は、手の平をゆっくりと研究員の頭に向ける。その瞬間研究員の顔が青ざめる――。
向けられた手の平がマナを収束し放電しだす。
「や、やめ――」
研究員の男の顔が一瞬にして弾け飛ぶと、それを見ていた他の研究員が悲鳴を上げる。
彼は手に飛び散った血を倒れた男の白衣で拭うと、大声じゃないがそのフロア中に聞こえるボリュームで言った。
「貴様等は……命を弄んだ。彼等を解き放った奴と――同罪だ」
次々と生き残っている研究員を始末していき最後の一人となった。
「あ…お願い、助けて。私、もうここをやめたいと思っていたの……」
その言葉に動きを止める彼は、女性の研究員に耳元で囁いた。
「アンタに助けを求めた人を、……アンタは救ってやったのか?」
「あ…」
何かを話そうとした女は次の瞬間には息絶えた。彼の魔法で心臓部が原型を留めないほどにグシャグシャになっているからだ。
「嘘を吐いても、その性根が腐っていることは隠し切れない」
女の左腕にいつの間にか握られていたメスが音を立てて床に落ちる。
彼は立ち上がりD6と書かれた通路に向かう。
すぐにマジックジャマーが作動していると分かった彼は、D6とD5の間の壁に穴を開け始めた。
一定距離穴を開けると突然マジックジャマーが消える。彼が壁に穴を開けた理由は、"おそらくそこにあるだろう"と踏んでいたマジックジャマーにマナを供給するパイプを破損させる為。
そしてジャマーの消えたD6へと向かおうとしたとき、D5の方角から微かに〈助けて〉と言う声が聞こえた。
「この声は――」
「ホークさん…社長大丈夫っスかね?」
トレーラーの助手席に座る坊主頭にSIXの剃りこみが特徴の《ノーフェイス》のコントラクター"シックス"。
隣でタバコを点しながら運転する鷹城 康助に話しかける。
「………お前に心配されなくても愛ちゃんはヘマしたりしないよ。むしろ、この作戦で国がどう動くか心配してろ」
今回、《ノーフェイス》が襲撃した魔法研究所は日本国魔法省の附属。日本において唯一の国兵四神が属している省である。そのことから鷹城 康助は心配と口にしているのだ。
「魔法省の四神、西の白虎隊といえば暗殺を得意とする部隊。東の青龍隊は豪く強い魔法士がいるって噂だ。
守護警備隊の北の玄武隊が出張ることはないだろうが、南の朱雀隊は諜報を得意とする遊撃部隊らしいしな」
思わずゴクッと、のどを鳴らすシックスは〈だ、大丈夫っスかね俺たち〉と言う。
「最悪は麒麟が動きだすことだがな…」
「へ?何っスか?」
呟く鷹城 康助にシックスが聞き返すが〈なんでもねーよ〉と独り言を隠した。
「まー心配しなくても雪ちゃんが何とかしてくれるさ。なんせ今も内務省を裏で扱き使っているからな」
それを聞いたシックスがまだ不安げな顔で言う。
「じゃー、一番怖いのは水城支部長ってことっスか?」
そう言われた鷹城 康助は現役時代の《ノーフェイス》第2支部の支部長――水城 雪を頭に思い浮かべる。
灰を落とすだけのタバコを灰皿に静かに押し付けて消すと一言ポロっとこぼした。
「そういうことだな…」
2人が水城 雪を噂している間に、トレーラの車内の時計が19時を回っていた。
"アレクサンドロス"地下6階にある実験ようの部屋で強化ガラスの向こうに連れ去られた少女がいる。そして、その横にはここにいない――いてはいけない男が立っている。
「何で!お前が!ここにいる!……当矢!」
緒神 愛緒の声が聞こえない彼は、それが防音のせいと分かるなり右手を彼女に向ける。
瞬きする間に目の前に大きな穴が開くが、消え去った壁の前にいた彼女には一切傷はない。
声を遮るものが無くなったことでもう一度話しかけようとする彼女だったが、それより先に彼に話しかける声があった。
「真夏お兄ちゃん!」
そう呼んで彼に飛びつく少女をやさしく抱き返す。その顔はとても穏やかだった。
「怖かったねツバキ。もう大丈夫だ――」
〈酷いことされなかったか?〉〈うんん、大丈夫〉と囁くように喋る2人を見て、緒神 愛緒は言葉をグッと飲み込んだ。
ツバキは怒っているような顔の彼女を見て〈この人は?〉と彼に聞く。
「この人は俺の――」
ハッとする彼女は彼のこのあとの言葉がとても気になった。
「姉さんだよ。姉さんこの子がいつも話している九重 ツバキだよ」
納得のいかない説明に少しだけイラっとしている彼女だったが、すぐに笑顔を浮かべると〈こんにちはツバキちゃん〉と話しかける。
が、ツバキはサッと彼の後ろに隠れてしまう。
「お姉さん…ツバキを助けてくれて…ありがとうございます」
この瞬間、緒神 愛緒は九重 ツバキを睨みつけた。なぜなら彼女が最も嫌いなことが《一人称が自分の名前である女》だからである。
完全に彼の後ろに隠れる少女は小さい声で〈怖いよ〉と言う。
「大丈夫だよツバキ。姉さんもそんな恐い顔しないで」
2人に落ち着くように言うが埒が明かず已む無く強行手段に出る。
〈帰ろう〉とツバキを抱きかかえると、〈少し目を瞑ってて〉と囁き部屋を後にする。もちろん、緒神 愛緒も後について行くが"アレクサンドロス"地下6階の中央に着いたとき足を止める。
「これは……」
まるで血の海のように足の踏み場も無いほど一帯が真紅に染められていた。
「当…マナカ!お前…」
孤児院に出入りする為の偽名で呼び止めた彼女。
「体は…平気なのか?」
「ああ、大丈夫だよ姉さん」
そう言う彼の目が微かに青く瞬きだす。体が魔法で浮かせると彼は彼女に向けて手を伸ばす。
「お前は!お前――」
そういいながら目からポロポロと涙を流しながら〈馬鹿が!〉と言って抱きついた。
彼女の泣き声に少女も心配して、目を閉じたまま〈大丈夫?〉と聞く。
「大丈夫だよツバキ、姉さんは泣き虫なんだ」
そうして、泣き続ける彼女も抱えてゆっくりと空中を浮遊して地上に向かった。
地上に出るとそこにマインの姿は無く撤退したようだ。一台のタクシーバンから近づいてくる人影がある。
「作戦は完了したようね。愛?あなた泣いてるの」
「泣いてない…」
その人影は水城 雪だった。マインに事情を聞いてここまで来たようだ。
「とにかく撤退よ、警務課が動き出したわあの車に乗って」
九重 ツバキと緒神 愛緒が乗り込んだ後、夜神 当矢の腕を捕まえ引き止めた彼女は耳元で囁いた。
「どうして愛が泣いてるのか…後でちゃんと説明しなさい。どうしてここに来れたのかもね」
帰りの道のり、彼は自分でも気が付かないうちに意識を失っていた。
校内対抗戦を終えた聖徳院高等学校現代魔法科は高速のパーキングエリアでトイレ休憩をとっていた。
帰りのFクラスのバスの中はお祭り騒ぎで、大変な盛り上がりようで学校終わりに"優勝やったね会"をすることが決まり。もちろん主催は安部 朋美。
前回参加しなかった佐藤 幸喜も参加するが、クラスの中で"前より明るくなった"と評判になる。
神夜 紀正も魔法科の教師にやたらと魔法のことを聞かれて、言い訳や説明で疲れているが"主役5人は参加"という安部 朋美の鶴の一声で強制参加が決定。
そんなことがあって、バスの外を中から眺めていたときだった。
彼は何かを見つけ急いで外に出る。その慌てように後ろの席の安部 朋美が走って後を追う。
地面に石が置いてありその下に紙が挟んである。彼女の〈何それ?〉にも答えることなく紙を開いて見る。
中に書いてあったのは"Emergency"の文字。
「エマージェンシー?緊急?」
彼女が文字を後ろから読むと、彼は一言〈すまん〉と言って走り出す。
パーキングの端に向かった彼は、そのまま飛び降りた。慌てて追いかけ覗き込む彼女だが、森というほどに木々があって彼の姿は見つからない。
「障壁で着地したのかな…」
バスに戻った彼女に先に戻っていた朝倉 ネネが話しかける。
「どうしたの?神夜くんは?」
「それがさーなんかよくわからないけど、変な紙に緊急って書いてて。それ見たら急にあそこから飛び降りて行っちゃった」
そう言ってその場所を指した。
「あそこから飛び降りたの?かなり高いよ…」
朝倉 ネネがそう言うと〈魔法で降りたんじゃない?〉と溜め息混じり返す彼女は、メモ代わりのタブレット型携帯端末を取り出して参加者の欄から神夜の名前を消した。
「魔法だ本当に降りたのかな?」
神夜の隣の席に座っていた岡崎が戻ってくると、〈これ〉と言って手にしているものを見せた。
それは神夜 紀正が使っている腕に装着するタイプの簡易パス。
「まさか…ね」
そういった岡崎 啓に苦笑いを浮かべる2人。
それからもう一度3人は、窓の外の彼が飛び降りた場所に目を向ける。
着地するときには、すでに固有詠唱を終わらせてサードシフトと口にしていた。
魔法が体を浮かせて地面に着く前に静止する。そこに現れたのはついさっきバスの中から姿が見えた人物だった。
「緊急とは何だ…スミレ?」
黒のスーツを着てインナーで口元を隠した木下 スミレがそこにはいた。
「これを」
両手でそっと出したのは携帯端末で、すでに誰かと繋がっている様子だった。
それを受け取り耳元に近づけると聞きなれた声が聞こえる。
「やあ、夜神くんかい?僕だよ」
「早乙女さん?どうしたんだ?」
声の主は《ノーフェイス》第一支部の早乙女支部長。淡々と彼に用件を話す。
「実はね、今うちが大隊を組んである作戦を進行中なんだ。それを教えておこうと思ってね」
「大隊?俺は聞いてないぞ…スミレは?」
首を振って否定するスミレ。〈作戦の性質上ね〉と早乙女支部長は続ける。
「作戦内容は拉致された要人の救出だよ…。拉致された人数は全部で47人で全員が子供」
「子供?」
「拉致した機関は魔法研究所。47人の子供は皆――孤児院の子供だ、…これでどうして夜神くんに知らせが無かったか察しが付いただろう?」
彼の血が沸き立つのを目の前で目にするスミレは、そっと手を握り締めると力強く握り返される。
「で…現状は?」
ゆっくり目を閉じると早乙女の"完了"の言葉を待つ。そして〈完了〉と聞こえるがそこで言葉が止まることは無かった。
「と言いたいとこだけど…実は47人のうち、あと1人が救出できていないんだよ。名前は九重――」
「ツバキ…か――」
「そう、今はマインと社長がどこにいるか突き止めて向かっている最中なんだ」
「で…ツバキはどこにいるんですか?」
「魔法研究所"アレクサンドロス"の地下6階だよ。スミレくんに装備も一式渡してある」
そこまで聞いた彼は目を開き、滅多なことでは口にしない言葉を言う。
「早乙女さん…"ありがとう"」
通話を切った彼は手を握り絞めてしまったスミレに〈すまない〉と言うと、さらに〈ありがとう〉と言った。それがうれしすぎてかポロポロ涙を流しだすスミレ。
「俺はすぐに"アレクサンドロス"に向かう。スミレは早乙女さんのところで待っててくれ」
「ここから八王子までは大分距離がありますが…間に合いますか?」
当たり前の疑問を彼に聞くスミレ。すると彼は制服の上着を脱ぎながら答えた。
「俺の飛行魔法の最高時速は光速――時速約4000km。例えスミレが世界中どこにいたって10分で助けに行ける速さだ」
その言葉で彼女は、顔を上げることができなくなるほど感激していた。
着替え終えた彼は、緒神 愛緒の得意魔法――多重障壁鎧装甲を発動させるとゆっくり体を浮かせる。
「行ってくる」
そう言う彼に〈行ってらっしゃい〉と返すと、10mの高さまで徐々に加速しながら昇っていく。
そして、一瞬にして空高く舞い上がり八王子の方角へ飛び去って行った。
面白かったら幸い。
そうでなければ読んで頂いただけで幸いです。