闇夜に踊る
今日もぼくは横笛を構え吹き鳴らすんだ
飛び切り奇妙なF-mollを
ぼくが足を踏み鳴らし 帽子の先を揺らせば
周りに集まってくる 沢山の子供たち
この街にも、再び自由が戻ってきた
十五年前に起きた出来事で
この街が失ってしまった自由
「街で音楽を鳴らすこと、歌うこと」
「深夜に外を出歩くこと」
この街が自ら手放した自由が
付点四分のD-mollを
高らかに吹き鳴らす
弾ける手拍子の音
熱に浮かされたような目で
強い拍手をする子供たち
時に手を取り時に輪になって
僕の横笛に耳を傾けている
夢の見られなくなった大人になんか聞こえない
ぼくの奇妙な短調に
ただ一人、夢を見ることのできた大人は
十五年前に出会ったぼくの義父
ぼくを闇夜から連れ出してくれた人
あれからもう十五年が経って
ぼくは大人になってしまった
「いつかぼくにも聞こえなくなるのかな」
怯えたように尋ねたぼくに
「俺の子だから、大丈夫」
と、滑稽な顔で笑ってくれた義父は
今どこにいるのか分からないけれど
もしも もう一度会うことができたら
「おかげさまで今でも聞こえているよ」
と、笑ってみたいんだ
本当の父と母なんかよりも大切なことを教えてくれた
体中にあざを作っていたぼくに優しくしてくれた
世界で一番大切な義父に
次は次はとせがむ子供たちに
最後に吹いてやったのは素敵なF-mollのラプソディー
lentoでゆっくり進んだりallegloで速く進んだり
曲の動きに合わせて、手拍子も変化していく
ラプソディ――――狂想曲
ぼくを」闇夜から連れ出したのも
この曲だった
ぼくがその足を前へ、前へと進めると
子供たちも僕についてくる
今夜
僕は再び子供たちを闇夜から連れ出そうとしている
恵まれない子供たちのために
義父がそうしていたように
今日もぼくは
闇夜に踊る。