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【更新停止】とげぬきねこ地蔵  作者: 黒作@また休止だっ
長めのおまけ。だらだら後日談
16/20

14.



 こたつに入っても、たった君が目を合わせてくれません。

「…………、」

 わたしが口を開きかけた、それだけの動作でたった君が緊張した気がした。そんな自分をごまかすみたいに、彼はテーブルの真ん中からおせんべいを取る。

『お茶淹れようか』『そのおせんべい美味しいでしょ、お母さんが送ってくれたんだよ』……いつものたわいない会話が、一応浮かぶには浮かぶ。

 でもまあ、やっぱりここは。なるべく体を小さくする。

「……えー、突然過ぎました。ごめんなさいでした」

 たった君、ずいぶんな顔でわたしを見た。おせんべいを口から離して、大きなため息。

「ほんとだよ」

 ほっとしたんだろうか。たった君がおせんべいをかじる。

「でも本気は本気だよ」

 たった君がおせんべいを噴く。驚いたムサシが迷惑そうに鼻を鳴らし、また伏せる。

「やめろよな! いっつもいっつも、俺がなんか食ってるときに変なこと言うだろ!」

「狙ってやってるわけじゃないよ!?」

「狙ってなきゃいいと思ってんのか!」

 お茶を淹れて渡すと、たった君はまだ不満そうにわたしを睨みながらも、受け取ってくれた。いつもよりぬるめに淹れたから、すぐに飲めると思う。たった君は何度か口をつけて、あおって飲み干した。

「で、どうかなあ」

「なにが」

「だから、結婚」

 今度は、飲み干したの見届けてから言ったからね。たった君の顔は結局引きつる。

「てか、吉永こそちゃんと話せよ。俺ら、そういうのじゃないだろ」

 そうだよ、そういうのじゃないよ。

 くちびるを噛む。

「え、泣いてんの!?」

「だってムサシが」

 無理だ。無理だよ先生。わかってたってわからないよ。

「ムサシが死んじゃう」

 病院はつらかった。


 重いまぶた、鼻をすすれば情けない音。

「泣き過ぎ」

「頭痛い。ぼーっとする」

「そりゃそうでしょ」

 べこんと、たった君はわたしが空にしたティッシュの箱をつぶす。

「まあ、わかった。ムサシが死んじゃうと思ったから、結婚したいなんて言い出したわけね」

「……うん」

「入れ込みすぎなんだよ、吉永は。ムサシは俺の犬だって言っただろ」

 呆れたため息。

「ムサシの家族になりたいから結婚して、ムサシが死んだあとはどうすんの」

「わたし、たった君のことも好きだよ」

 明らかに言い方を間違えた。言い繕おうとして、予想済みだとばかりにたった君に首を振られる。

「ムサシが心配なのはわかるよ。でもそれで結婚っておかしいだろ。頭冷やして。吉永だって、本当はわかってるんだろ?」

 彼には珍しい、やさしい口調。

「ムサシが死ぬの、現実に見えちゃったから、びっくりしたんだろ。初めて飼った犬だもんな」

「たった君」

「ちょっと離れたほうがいいよ」

「たった君!」

 必死に首を振る。

「ちがうよ、わたし本当にたった君が好きだよ」

 精一杯言ったつもりだった。でもたった君は、特に表情を動かさず。

「吉永と結婚なんか考えらんないよ」

 声だけが、怒っていた。


 ぽつん、寒空の下をひとり歩く。火照った顔には気持ちいい。心と体はちゃんと寒い。

 振られたんだよねえ? やっぱり。



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