08:キミは疲れていたんだよ
ギルドでの騒動を収縮させた僕は、部屋の隅に寝かせていたリエルを起こすことにした。
オッサンたちと話していた時間は30分もないので、立ちくらみを起こして倒れたとでも言っておけば良いだろう。
回復スライムを生成し、リエルの口内に流し込む。
「あぅ……」
寝ぼけ眼で僕を見て、首をかしげるリエルが微笑ましいね。
「勇者、様。……私、何をしていたんでしたっけ。大柄の人たちと勇者様が話をしていた記憶はあるのですが……」
「リエルはその最中に倒れてしまったんだ。昨日はエフィルさんに色々されて疲れていたんだろうね」
「そうですか。申し訳ないです」
そう言いながら照れた顔で頬をポリポリとする仕草は愛嬌がある。僕は、彼女の頭をポンポンと叩き撫でしておいた。
あ、ほっぺたに回復スライムの残りがついてるな、勿体ない。リエルの口元に就いてる粘液を指先で拭い、自分の口の中に入れる。その瞬間、爽やかな甘み、白色乳酸菌飲料の味がひろがる。良い、良いね、回復スライムは身体にピースな味がするね。あぁ、今現在の僕の表情は”恍惚”というのが相応しい笑みになっているだろう。
自らが作り出したスライムだけど、無駄に中毒性が高いから困るんだよね。このスライムが美味に仕上がりすぎたせいで、異世界に来てから日が浅い頃はワザと怪我をして摂取していたぐらいだ。
「ゆゆゆゆう、勇者様、にゃ、なにをやってるんですか!?」
リエルの視線が前後左右にせわしなく動き、僕の肩をゆさゆさと揺する。顔はまっ赤になって蒸気している。しまった、これは恋人でも無ければNGなシュチエーションだった。マズイ、コレは良くない。
女の子に対して紳士じゃなかった。背中に冷や汗がでるが、どうしようもない。あまりのスライムの魅力にそんな倫理観は吹き飛んで、気が付いたら口に含んでしまっていたのだ……くっ、スライムが至高の存在なのが悪いね、勢いで誤魔化すしかないね。
「えっと、リエルが倒れた後にね、回復スライムを飲ませたんだ。それが口元に付いてたから取っただけ。僕たち二人の仲だから気にしない、それ、元気元気元気ー!」
リエルの頭を両腕で掴み、ぐるんぐるんと脳味噌をシェイクさせる。「あうあうあうー」と言っているが問題なし。これだけ回転させておけば思考能力を低下させることができるだろう。
うん、たぶん僕の顔も赤くなってる、間違いなく。年上の威厳がなくなるので、そんな顔はあまり直視して欲しくない、いかんいかんいかんいかんよいかん。
シェイクする手を止め、頭をゆっくりと撫で、ほっぺたをムニムニと触り、「リエル、落ち着いた?」と聞けば、「はい」と、少し朱に染まった頬に、眩しいの笑顔で応えてくれた。
なにこの天使。僕が無理に気絶させたからこの状況が生まれているワケで、正直心苦しい。
エフィルさんのリエルに対する扱いを聞く限り、僕がやったことなんて”かえって免疫が付く”レベルなんだけど、自分に降りかかってくる罪の意識が半端ない。
YESロリータ、NOタッチ。駄目じゃん、僕アウトに引っかかってしまうよ、うおおお。
そんな僕の苦悩が顔から溢れ出していたのか、リエルは僕の頭をナデナデしてくれた。うおおおおおお。
「さぁ、勇者様。本日こなす依頼を決めましょう! 私はCランクのギルドカードを持っていますから、割と依頼の選択肢は幅広いですよ」
「……うん、パパパパっと仕事して、エフィルさんにお土産を買って帰らないとね」
「はい、そうです。師匠は食い意地はってますから、食べ物かお酒なら何でも喜びますよ」
どちらともなく、ニッカリと笑い、依頼掲示板に向かって歩き出す。
この時点で、ここがギルドで、周囲の目があって、僕たち2人が見られていることに気付いた。猛烈に恥ずかしい。