05:淫魔は人を堕落させる
※今回の話で下品なネタがあります。
「よぉ、坊主。息災か?」
「あぁ、オッサンも元気そうだな」
馴れ馴れしい筋肉、それがオッサンの第一印象だった。話してみると、彼はAランクの冒険者で『天割る豪腕』の称号を持つ自称腕利き、名前をサムソンと名乗った。
今回は、募集要項に書いた『粘液スキーな人』という部分に反応して話しかけてきたそうだ。
僕はゲル状だけど固形を保っている程度の質感がたまらない健全な青年だが、オッサンは形状を保ってないけどドロリとした食感のヨダレが大好きな変態らしい。依頼で儲けたお金は『神秘のヴェール』という淫魔が経営している風俗店で大部分を使用していると公言する、欲望に忠実な男だ。それをまだ子供である僕に胸を張って言うのだから、大変困ったものである。なんだろうねこの変態トーク。
淫魔という種族のことをよく知らない僕が質問すると、彼は嬉々として歴史や背景を語ってくれた。
要約すれば、唾液は人間と違い、とろみがあってローションの様な感触。人を誘惑するフェロモンを纏っており、長時間一緒にいるだけで絶頂へと導く。その最中で魔力を吸飲し、人間を堕とし依存させるらしい。
本来、食事をするだけなら人間に掌をかざして魔力を吸い取るだけの作業をすれば良いので、人間を絶頂に導くのはサービス精神からということだ。どうみても魔力を吸い取られるのが嫌な人間に対する撒き餌です、本当にありがとうございました。
さらに金銭まで徴収するとは、ボロい商売だ。さすが、人間に寄り添っても悪魔である。
ただ、この淫魔という種族、僕のスライムとは相性が悪い。魔力を吸われることで、スライムは干からびてしまうのだ。
ローションの唾液という要素は健全な少年である僕を興奮させるのに十分な破壊力を持つが、スライムの敵とならば相容れることはないだろう。淫魔が巣くう地域には立ち入らないようにしないとな。
スライムの天敵について良い情報が聞けた僕が、今度はオッサンにスライムの良さを語る。
アリーゼにも話したことがあることなので、内容については割愛しようか。で、この最中に「淫魔の肌よりも良い感触のものはこの世に存在しない」とオッサンが強固に主張し、激しい言い争いになったんだ。つい、カッとなった僕はおっぱい型のスライムを生成し、オッサンに向かって放り投げたんだ。
「揉んで見ろ、そいつは極上の感触のハズだ」
そう、格好を付けた台詞を吐いてね。
オッサンは一瞬怪訝な表情をしたが、僕のスライムをニギニギしたと思うと、ネチョォとした気持ち悪い笑みを浮かべるのだ。
「坊主、すまなかったな。俺が言いすぎた。少し揉んだだけだってのにこの感触……恐ろしい名器だぜ、コイツはよォ。所で相談だ。このスライムでできた球体、金を払うからコイツをもう一房売ってはくれねぇか」
「勇者様」
不意に、アリーゼが困ったような声で僕のことを呼ぶ。
これからオッサンがスライムの魅力に墜ちる所だというのにどうしたのだろうか。話の内容にわかりにくい部分は無かったと思うけど。
「内容が酷すぎて女性に聞かせる話ではない気がするのですが」
「多少は酷い気がするけど……ここから始まる僕のスライム無双の前座としては最適だと思うんだよ」
「それも聞きたくな……あっ、勇者様、そういえばギルドで冒険者カードをお作りになったのですよね、見せて貰って良いですか?」
「……うん、これが僕の冒険者カードだ!」
少し話題転換が露骨な気がしたが、どうしても話したい話題ではない。
まったく、自分からギルドでの話を聞きに来ておいて姫騎士様にも困ったものだ。
僕は、アリーゼに冒険者カードを預ける。黄金色に輝くVIPなカードだ。
カードの色は、本人の魔力要素を反映して染まるので、本来なら赤、緑、白、青、紫のどれからしい。勇者という存在は例外で、すべての神の加護を受けたということで成金カラーになるとのことだ。元の世界ではクレジットカードを所持したことがない僕が、異世界で金色のカードを所持することになるなんて不思議な話である。
……アリーゼは、まじまじと僕のカードを眺めている。そんな、見るような項目はなかった気がするけど。何か、変な部分があったのだろうか。
「どうしたの? 何か変な部分があった?」
「いえ……さすがは、色々と、勇者様らしいと思っただけです」
乾いた笑いと共に、彼女は僕にカードを返却する。あの表情、間違いなく駄目な部分があったのだろう。昼間に散々見たカードの内容だが、再度自分でも確認してみる。
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名前:千鳥雷蔵
称号:異世界の狂人
職業:勇者
武器:--
戦闘スタイル:粘液全方位殲滅型
戦闘評価:S級
ギルドランク:G
クエスト受注回数:0
ギルドポイント
所持:0
累計:0
本人記載欄>>
スライムが好きです、よろしくお願いします。
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……特筆すべきも無い、普通の状態だよなぁ。本人記載欄以外はギルドの水晶に手をかざした時に自動登録されるようなので、自分に不都合な点があっても修正することができないんだけども。
「記載欄は、通常は戦闘スタイルについての掘り下げですね。自己紹介は不要ですよ」
なん、だと……アリーゼの指摘を受け、僕はとても悲しい気持ちになりました。これ、本当なら3行ぐらいで長々と書こうと悩んだんだけど、愛が重すぎると引かれると思って悩みに悩んで、極限までシンプルに書いた自己紹介なのに。
さらに追加で指摘をされたのだが、依頼を受けることなく帰ってきてしまったこと。
聖女様が「ギルドで依頼を受けてこい」と言ったのは公務の一環で、世間への顔見せ、勇者の力量をアピールする狙いこそが主目的だったので、守護騎士であり、民草に有名な彼女は同行しなかったのだ。
それなのに関わらず、ギルドの2Fでオッサンと長時間変態話をするだけで満足して戻ってきた本日の活動はよろしくないと言うことで、後日、改めて依頼を受注するように念を押された。「スライムの布教は成功したんだけど」と言ったらアリーゼに可愛そうなものを見るような目を向けられました。心が痛かったです。
あと、後日依頼を受ける際は、お弟子さんが監修するようアリーゼからお願いしておくそうです。