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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
最終幕 日常はそれとなく続く
40/40

40:温泉旅行(最終回)

 同郷の少年が、日本に戻ってから、さらに半年が経過した。

 この間に、エフィルさんが居候から家族になったり、エドワードさんの結婚式の二次会でオッサンが全裸になって通報されたり、再開した豚王子がガチムチ男色の好青年になっていたりと様々なイベントがあったが省略する。


 今日は、これから温泉へと出かける。以前からリエルと計画していた、王都を離れての宿泊付きの旅行だ。

 本来ならもっと早く行く予定だったのだが、各々が王都内で重要な役職であったりするためなかなか都合が付かなかったのだ。


 リエルは魔法の先生業務を放置して『修行』という名目で出かけた前科があるので『任感を感じるように』かなり厳しめに聖女様によってスケジュールが組まれていた。(僕からの進言でもある)

 アリーゼは、仕事中にイチャイチャしすぎるということで守護騎士を解雇されて聖女様の親衛隊に逆戻り。

 メリアは外交の仕事をするようになり、獣都とこっちを往復したりで留守率が高い。

 僕は件の運び屋に加え、ダンジョン経営のためにモンスターを捕獲したり、内装を拡張したり……それに関連してエフィルさんも設計やら、宝の配置やら、システム構築やらに忙しかった。


 この”ダンジョン経営”とは、以前に討伐した『暴漆竜トルネギオス』が住んでいた場所を再利用したものだ。

 僕が自分の知識と異世界との齟齬を確認するため日本のファンタジーをアリーゼに聞かせたことがあり、それが聖女様に報告されていたらしく「丁度良い、ダンジョン経営やりましょう」と軽いノリでダンジョン作成が始まったのだ。

 この計画は、国営ダンジョンマイスターと僕がプロジェクト名を名付け聖女様が舵を取り―――――


「主様、お待たせしました」

「勤務お疲れ。強行軍でごめんね」

「お気になさらずに。私も楽しみですから、初めての家族旅行」


 夜勤明けのアリーゼが自宅に戻ってきた。温泉に行くのが楽しみなようで笑顔が爛々と輝いている。

 とても可愛かったので、軽くハグをして唇を重ねる。


「じゃぁ、アリーゼが着替えたら早速出かけよう。みんなは、道中の食料を買って先に城門まで行ってるってさ」

「はい、わかりました」



 アリーゼがメイド服に着替えるのを待ち、一緒に城門まで歩く。

 服装の理由は「主様の守護騎士としてお仕えできなくなったので、せめて仕事がない時間はメイドとしてお仕えしたく存じます」と、アリーゼの世話役嗜好が発揮された結果である。

 リエルも、それに習ってメイド服が私服のローテーションに混ざっていたりする。夜はかなりの確立で着る。

 僕も木曜日は執事服を着て料理をしたりするので……格好から役割に入る気持ちは理解できるね、楽しいんだよ。


「兄さん、お姉様、おっそいー、寂しかったんだから」

「ごめんごめん、これでもアリーゼの勤務終わってすぐ来たんだよ……って、リエルとエフィルさんは?」

「2人とも、せっかくなので修行がてらに肉体強化して自走して行くって。おかげで荷物と一緒に城門でぼっちだよ」

「それは災難でしたね」


 メリアは「あーん、お姉様ぁ」とアリーゼの胸に飛び込んで、よしよしと頭を撫でて貰っている。

 僕は手持ちぶさただったので、メリアの頭を撫でるアリーゼの頭を撫でる。


「ありがと、姉様。孤独が癒やされたよ。じゃぁ、2人とも私の背中に乗ってね」

「了解」「了解しました」


 メリアの背中に飛び乗り、もふもふと毛並みの感触を存分に味わう。黒くて綺麗な毛並みは、スライムにはない要素だ。

 僕も知ったのは最近だけど、メリアは先祖返りだとかで獣化できる。しかも守護獣クラスの全長10m程度はある黒狼に。

 維持に魔力をドカ食いするので獣都にいた頃は使う機会がなかったそうだが、現時は天然魔力貯蔵庫の聖女様が外交に出るときの馬車代わりに酷使されているらしい。

 聖女様は魔力代演をしてメリアの負担を庇っているらしいが、僕の場合は定期的に口から回復スライム&ドーピンスライムを流し込み酷使させる作業をするしかない。


「はい、出発進行」


 黒狐は、地を駆ける。

 先行していた2人を追い付き、何故かリレー競争が始まり怒濤の勢いで温泉へ。

 途中で茶屋に寄ったり、茶屋に寄ったり、茶屋に寄ったりして風情も楽しみました。若さ故の胃袋ですよ。



 *


 周囲を山々に囲まれ、食獣花や凶暴な魔物が生息するエルフの森。

 その奥にある、秘境と呼ばれる温泉地帯。僕らはそこで湯船に浸かっていた。


「……ふぅ」

「極楽ですねー」


 エフィルさんの胸にもたれ掛かり、右腕をアリーゼに挟まれ、左腕をメリアに。そんな僕にリエルがもたれ掛かり、グランドクロスフォーメーション。

 大自然の中で全てを解放し終え、温泉の気持ちよさも相まって全員が快楽で頬が染まって恍惚とした表情をしている。


「たまには、外でこうやってのんびりするのも良いですね」

「……わしにはとても激しかったように感じられたのじゃが」

「師匠に同意です。お姉様は感度良いですからねー」

「今日も可愛かったですよ、お姉様」


「主様、皆が私を虐めます」

「アリーゼが可愛いから悪い」


 普段は『お姉様』と慕われるアリーゼは、全員から可愛がられる。

 営みの最中はせめぎ合うのだけど、事後でヘニャっている時は弱者となる。余韻が長くて隙が多いからだ。

 うん、非常に良いことなんだけどね。良いからこそ虐めたくなるんだけどね。


「フッ……、湯浴みに来てみれば珍しい客がいるな。半魔王」


 声の先を見ると、白髪巨乳の美しい女性が佇んでいた。全裸で。

 エフィルさんの結界で一部エリアを強制貸し切り状態にしていたというのに、無粋な客だ。

 ……スッキリ疲れて賢者になっていなければ危なかっただろう、けしからん。


「白竜の姫君、久しいの。家族旅行の最中だから何処か別の場所へ移ってくれるとありがたいのじゃが」

「貴様に家族、だと……もしや、そこの冴えない男が旦那とでも言うのか。それに、何だ。久々に会った友にその言いぐさ。我とて傷つくぞ」

「愛しの旦那様の魅力がわからんか……耄碌したの」

「ッ! 我はまだ268歳、貴様より年下だ!」


 見知らぬ全裸さんから殺気が放たれる。

 反射的にリエルが全裸さんとの距離を積め、首筋に手刀を。アリーゼは目の前に良い尻を向け壁に。メリアは僕と一緒に「ひっ」となり、エフィルさんは微動だにしなかった。


「……この程度の殺気で恐怖するとは、まったくもって――――」


 ズバァ!


 喋ろうとしていた全裸さんの動脈をリエルが容赦なく切り裂いた。

 僕とエフィルさんの方をチラッと向いて「褒めて下さい」という視線を送る所が流石です。


「ちょ、リエル何やってるの。すいません、すぐに傷を塞ぎますから――――」

「放置して大丈夫ですよ。この人、白竜ですからこんな傷はすぐに再生しちゃいます。冗談の範囲内です」

「……そうだな」


 全裸さんは生暖かい視線をリエルに向け、額にデコピンをする。

 リエルは、水面に6回程バウンドして陸に打ち上げられて「やちゃった」とエフィルさんの様子を伺う。相変わらず無駄に余裕があるなぁ。やられるよりも師匠に怒られることを心配するのが本当に。


「気絶させるつもりだったのだが、頑丈だな」

「わしの弟子じゃからの。猪突猛進なのが偶に傷じゃが……リエル、あとでお説教じゃからの」

「師匠ォ~」


「では、次は私ですね」

「頑張って、お姉様!」


 無駄に息巻いているアリーゼを見て、僕とエフィルさんは溜息を吐く。彼女も、強敵と相まみえると燃えるタイプだ。

 先程のリエルの一件を見て、「私も胸を借りよう」とでも内心思っているんだと思う……なんとも申し訳ない。


 アリーゼが魔力で薄い刃の片手剣を生成する。以前、僕の両腕を切断した魔法の超強化版『聖剣ウスバカゲロウ』。

 この剣は触れた断面を浄化することにより存在を洗うアリーゼの固有魔法、格好良く言えば『奥義』だ。命名は僕。

 編み出された経緯が僕の『硬化スライムを切断したかったから』と、不本意極まりないのだけども、その威力は驚異。エフィルさんから見ても恐ろしい魔法で、アリーゼのような小娘(年齢的な意味で)が使えて良いものではないらしい。

 それを、手加減無用で全裸さんに振るうアリーゼ。このあたりは聖女様の教育が行き届いている。「容赦するな」と。


 全裸さんは慌てた表情で剣を回避し、アリーゼの額にデコピンをして意識を奪った。

 吹っ飛ばされるアリーゼを触手を伸ばして掴み、「介抱よろしく」とリエルのほうへ運んでやる。すると、リエルは何を思ったのか無抵抗なアリーゼの胸を揉み始めた。


「たまには無抵抗なのも良いですね」

「リ、リエルちゃん。お姉様を介抱しないと」

「気絶してるだけなので大丈夫ですよ。お姉様は伊達じゃない。そしてこの弾力も、良いですねぇー」


 メリアは慌ててアリーゼの元に寄り、頭を膝に乗せて額を撫でる。

 リエルはそんなことはおかまいなしにアリーゼの胸を一心不乱に揉み続ける。


「……貴様の弟子は頭がイカレているんじゃないか? あと、さっきの女の攻撃はなんだ。まともに直撃したら我ら竜族かて一刀両断されて死ぬぞ、冗談ではない」

「前者は同意じゃ。此奴、勇者殿と一緒におるときは頭がお花畑になるからのぉ。後者に関しては『使えるべき主を見つけた女性は誰でもこれくらい強くなるのです』と本人は言っておったぞ」

「その男が使えるべき主、と……信じられんな」

「勇者殿は基本的に覇気が不足しておるかなのぉ。じゃが、抜けた感じなのに『やるときはやる』のが素敵じゃぞ」

「ふむ。では、試してやろう」


 うおお、褒められてテレるね。

 しかし、試されるか……暴力的なのは嫌なんだけど――――


 ぱぁん。


 そう思っテいたr、僕の頭部がはじk飛んだ。べちゃん、べちゃnと温泉の中に肉片が沈む。

 メrアが顔面蒼白で「ひっ」と悲鳴を上げるが、リエルは気nすrうことなくアリーゼの胸を揉んでいる。

 エフィルさんh……『ニヤr』としたひょうジyを浮かべていr。


 どん、どん、思考が、いしキがkえて―――






「いやぁ、ホワイトドラゴンは強敵でしたね」


 再生した。

 頭部を破壊されたぐらいで死ぬと思ったら大間違いですよ。


 アリーゼの『聖剣ウスバカゲロウ』の威力実験で身体を真っ二つにされて死にかけるイベントを経験して、僕はスライムになったからね、肉体特性が。聖女様に伝えると労働が過酷になる気がするので、家族以外には黙ってるけど。

 あの時はアリーゼが自己嫌悪で病んでしまって諭すのが大変だったなぁ。


 まぁ、そんな具合で肉片が少しでも残っていれば周囲の魔力を吸ったり何かを捕食したりして再生するのなんて余裕ですよ。


 困惑している全裸さんを、水面から密かに進行させていた触手で拘束し、そのまま少し”喰べてやる”

 やられっぱなしというのは癪なのでね。白竜種の魔力は美味しいなぁ。


「や、やめろ。我を喰らうというのか、よ、汚される。た、助け、エフィル、我を助けよ!」

「冴えない男に嬲られる気分はどうじゃ?」

「いや、い、いや、いやっ……」

「全裸さんの肉片を少し貰って、今晩はドラゴンステーキでも食べようか」

「良いのぉ。ほれ、白竜の姫君よ。人間化を解いて尻尾を供物に捧げるのじゃ」



 ――――こうして、今日も1日が平和に過ぎて行く。

 勇者として召喚された僕が平和を満喫して良い物かと思うこともあるが、この世界は基本平和だから別に良いよね。



 『 勇者様はスライムが好き 』 お わ り 。

40話と区切りが良かったので、唐突な感じもありますが最終回です。

最後まで読んで頂いてありがとうございました。


なお、白竜さんの肉は10kgを聖剣ウスバカゲロウで剥ぎ取り、勇者様のスライムで埋めて回復されるという鬼畜イベントを経て夕飯のオカズに追加されました。

その後、白竜さんは『初めて我を屈服させた人間』と勇者様を気にし始め、「我の肉を毎日食わしてやる」と尊大なプロポーズを慣行してするのでした。


≪2/4追記≫

冬の童話2013の企画で、白竜さんのその後を書いてみました。

良ければ、シリーズ一覧から『勇者様はドラゴンを喰らう 』を御覧ください。


≪Maid Butler Online≫

次回作として、連載開始しました。

本作39話で日本に戻っていった少年が大人になって作成したVRMMOで、本作の世界感をベースにしています。

ジャンルはファンタジーになっていますがコメディ路線なので、続けて貰えると嬉しいです。

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