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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第2章 狐耳の姫と謀略に踊る
34/40

34:最後の晩餐会

 晩餐会と言うと、人生最後の食事というイメージがある。

 救世主が処刑される前夜に、おのれの血肉をパンと葡萄酒に混ぜて弟子達の振る舞うという気が狂った童話の影響だ。


 王都でも晩餐会に呼ばれることはあったし、参加するのが初めてというワケではない僕が何故そんな単語を連想するのか……それは、筋肉隆々の男達が槍を持ってドナドナと僕らを晩餐会場まで護衛しているからだ。


「勇者様よォ……憎い黑竜を倒したってのは聞いてるぜ」

「こんなにヒョロイ身体してんのに、不思議なもんだ」

「良い尻してるしな、確実に可愛がられるタイプなんだが」


 不意に、尻を撫でられた。ぞわぞわと悪寒がして、「ひっ」と情けない声を出してしまう。さらに「良い声してやがる……」とか言われるものだから、玉が収縮する。地獄へ連れて行かれる気分……最後の晩餐。

 人の悪意には馴れてきた今日この頃、純粋な好意が時に悪意を凌駕した恐怖になるとは思いませんでした。



 子供達は筋肉のオッサンたちの容姿を見ただけで怖がってしまったので、オッサンたちが話しかけるのを遠慮している。アリーゼに話しかけようとすると『手が早い変態』の噂を真に受けたメイドさんに邪険にされる。

 つまり、僕だけで3人の筋肉の相手をしなければならないのだ。かなりの苦行である。悪い人なら気持ちを切り替えて楽に対処できるんだけども、オッサンたちは僕に対する噂に惑わされずに紳士に対応してくれるので、邪険にできないのだ。




「この先が、晩餐会のための会場になります。王都の皆様は先程引いたくじの番号のテーブルに着席してください。アリーゼ様は私が直接ご案内します」

「……僕はどうすれば良いですか?」

「勇者様は、そちらの3人と同じテーブルですので一緒に行動してください。警備、よろしくお願いします」


 ん? 警備って何さ。

 何かがおかしいよね、3人と同じテーブルって……


「他国にまで来て不審者の入退場の監視を立候補だもんなぁ、真面目すぎるけど嫌いじゃ無いぜ」

「まぁ、気楽に俺たちと話しながら飯でも摘まもうぜ。酒は飲めないけどな!」


 監視、立候補……そんなのした記憶がないんだけど。王子様の策略か?

 アリーゼに目を向けると、彼女も僕と同じ疑念を感じたようで。


「配下である立場の私が普通に食事をするのに、勇者様が警備をするのはおかしくはないか?」

「アリーゼ様は聞いてないのですか? 王都からの書状に書いてあったのですが……」


 くっ、王子じゃなくて聖女様だったか。

 例の計画を断ったことに対する地味な嫌がらせなのか、何か理由があるのか不明だな……王都の人間は上役と意思疎通もできていない、そう思われるのは良くないので、適当に言い訳しておくのが無難かね。


「僕が姫様に仕事をしてる姿を見せたくて、我が儘言って立候補したんだ。伝えるのを忘れていてすまない。警備と言ってもご飯は食べれるし、形だけだよ。アリーゼは僕の警護なんて忘れて、ゆっくり楽しんで良いから。ただ、悪い男の人には騙されないようにね」

「承知しました。ただ、主様より悪い殿方はいませんから、騙されたりしませんよ。ご安心下さい」


 最後に『男性と喋って欲しくない』という嫉妬心を入れた発言をしたら、アリーゼがそれを拾ってくれた。

 うん、これだけで僕は頑張れるよ。筋肉臭がする空間だって耐えてみせる。



 晩餐会場に入ると、盛大な拍手で迎えられた。

 僕はオッサンたちと同じ入り口側のテーブルに着席。姫様はどうしているかと周囲を見ると……王子が視界に映った。

 窓際の2人掛け席に座って、ワインをグラスの中で回転させる作業に勤しんでいる。他のテーブルは6人掛けなのに、王子のテーブルだけなんで寂しい感じの隔離仕様。本来なら、ここに姫様も座る予定だったのかな?

 肝心の姫様が見当たらないけど……


 そう思っていたら、メイドさんに案内されたアリーゼが王子の対面に座らされる。

 ぐっと、僕の中にある不快指数が上昇するのが分った。


「勇者様、そろそろ始まるぜ、ほら」


 オッサンが顎で壇上を示すので、気持ちを切り替えて視線を視線を向ける。

 そこには冠を被った狐耳の中年男性が、女性を2人連れて起立していた。王様と、妃様(正妻)と第二婦人(側室)だろう。第二婦人のほうは、姫様の母親らしく艶やかな黑髪や、目元がよく似ている。王様とは目の色が一緒で、あとは顎の形とか。


「皆の物、よくぞ集まった。堅苦しい挨拶は抜きにして、存分に楽しんでくれ。さぁ、グラスを持って……乾杯!」


 王様の手短な挨拶に合わせ、テーブルの連中でグラスをガチンとぶつけ合う。

 そのタイミングに合わせたかのように料理が次々と運ばれてきて、テーブルに並べられる。


 まずは1品目、猪バラ肉のジハカ炒め。2品目、魔牛ステーキ。3品目、魔牛汁スープ。4品目、大猪ハンバーグ……なんというか、肉料理ばかりである。獣人は肉を好んで食べると言っても、加減というものがあるだろう。

 野菜については、各テーブルに大きいサラダボウルが配置され、セルフサービス。パンも同様にバスケットから自分で取る仕組みになっている。


 ガツ、ムシャ、モグッ……


 同じテーブルのオッサンたちの食いっぷりが気持ちよすぎて爽快感すら感じる。

 会話なんて一切ない。ニヤッとした笑顔で肉をただひたすらに食べ続ける作業をしている。僕も流儀に従い本気で胃袋に肉を突っ込むのだが、どうしてもペースが負けてしまい悔しい。晩餐10分で胃袋が限界だよ。120%超えて吐き気がするレベルだ。


「おい、勇者様大丈夫か? 無理に俺たちのペースに合わせなくてよかったのによ」

「僕の国の言葉に、『郷に入っては郷に従え』というのがあるんですよ。余所に言ったときはそこのやり方に合わせなさいという意味で」

「なるほどなぁ」

「だけどよ、それだと勇者様は駄目だな。俺たちは腹八分目だけど限界だろ?」

「ぐっ……確かに限界がきてますね、しばらく動けそうにありません」

「それじゃぁ警備失格だぞ。まぁ、お飾り警備なんだから今日は温和してれば良いさ」

「そうさせて貰います。って、うお。背中撫でるならもっと優しくしてくださいよ、ちょっと、尻まで撫でるの止めてください」

「ハッッハッハ。隙だらけだったからついな。勇者様は中性的な顔作りで童顔だからな、気をつけてないと狙われるぜ?」


 頭から胃袋の中身ぶちまけますよ? そう思っていたのが口から出たらしく、オッサンには「悪かった、悪かった」と笑いながら気持ちがこもっていない謝罪をされた。まったく、勘弁してください。

 まぁ、なんだかんだでオッサンたちと馬鹿な会話も悪くない。というか、楽しいから良いんだけど。


 ……それにしても、アリーゼと豚王子は何を話しているんだろう。

 彼女が他の男性と2人掛けのテーブルで向かい合って話している光景を見ると、心穏やかでいられない。






 *


「アリーゼちゃん、久し振りだ。こないだ王都に行ったときは会えなかったからな」

「そうですね」

「今日も、一段と可愛いぞ。そのドレス、胸のシルエットが良くでていて興奮するぞ」

「そうですか。王子は少し太ったのではないですか?」

「そう見えるか。確かにな……今日、悲しい出来事があったせいでストレス太りをしてしまったようだ。それに気付くとはアリーゼちゃん、我のことをよく見てくれているな、後で褒美を取らせてやる」

「いえ、結構です」

「ハッハッハ。遠慮深いのは良いことだ。そう、まるで姉様のよう……しかし、今の姉様は勇者に騙されて汚され、無価値……いや、糞のような存在になってしまった」

「……そうですか」

「そうだとも! 我が与えた恩寵に報いることをしないとは、馬鹿な女だ。糞勇者と糞姉、糞同士お似合いだな」

「……我が国の勇者が糞尿と同価値と仰るのですか」

「そうとも! 黑竜を倒したのも、アリーゼちゃんが力添えをしたからこそだろう。我が勇者と言葉を交わした時間は短いが、彼奴は駄目だ。歴代の勇者の中でも最低であろうな。我にも余裕で劣る力量しかないだろう」

「……」

「そんなヤツの警護をしているアリーゼちゃんが可哀想だ」

「いえ、私より王子の方が可哀想ですよ」

「なんと、心優しい。姉様に裏切られた気持ちを察し、同情してくれるか! 姫騎士アリーゼよ、我の物にならないか? 金もやるし、快楽もたっぷり与えてやるぞ?」

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