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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第2章 狐耳の姫と謀略に踊る
31/40

31:脱衣はサービス

 姫様に案内されたのは、6人掛けのテーブルと椅子が置いてあるだけのシンプルな部屋。少人数で会議をするために利用する部屋で、防音効果のある分厚い壁に、魔力を流すだけで硬化するように予め陣が組み入れてある。王都でもおなじみの建築方法だ。


「じゃぁ、まずは予備知識の確認からということで。姫様はスライムについてどれくらい知ってる?」

「……まじめな質問タイムだった気がしたのですけど」

「それは些事だから、後回しにしよう」


 そんな僕の様子を見て、姫様は苦笑しつつも、嬉しそうに狐耳をピクピクさせる。


「スライムについては、詳しくはないかな。聖女様から少し聞いたぐらい。でもね、そこで興味をもって育ててみたから魅力はわかるよ。自生しているスライムをプランターに移して栽培してみたんだけど……すごく可愛いの! 私が魔力を注ぐとぷるぷる揺れるし、触るとぷりんぷりんしてやみつきになるし!」

「あの触り心地はたまらんよね! そこまで個性がでるとは愛情込めて育ててるなー。僕は交雑種を育ててるから、そこまで性質特化したスライムにならないんだよなぁ」

「え、スライムって種類とかあるの?」

「お、知らないのか。おっけー説明する。っと言っても庭師のじいさんからの受け売りなんだけどね。僕の魔力で擬似的に生成したものを触って貰えばわかりやすいか」


 机の上にスライムを何種類か生成し、お姫様に直接触ってもらいながら説明を開始。興味津々、といった感じで尻尾をフリフリしながら聞いてくれるので話のが楽しくなってくるね。こんな良い反応エフィルさん以来だよ。


「では、まずは軟体種、これは姫様の育ててるヤツだね。ひたすらに柔らかいのが特徴で、無理に引っ張ると千切れる」

「千切って良い? 恐くて自分のでは試せなかったんだよね……うわ、ぶちんとなるんだ」

「たまらんでしょ。破片をくっつけて放置しておけば元に戻るけど、再生するのにスライムに残存している魔力を使うから体積が減るから遊ぶときはそこだけ注意だね」

「手塩に育てたうちの子でこれはできないなー、小さくなってしまうなんてとんでもない」

「魔力通せば大きくなるよ?」

「それは勇者さんの親和性が高いからだよ。私は全力で魔力を注いでも質量がほんのすこーし増えるぐらいだから」

「なんと。庭師のじいさんも普通にやってたから誰でもできるものだと思ってた」

「王宮の庭師に雇われるような人は植物類全般と親和性が高い人だから、私のような素養のない狐人には真似できないよ」

「なるほどねー。次は中央にある交雑種、適度に柔らかくてよく伸びる」

「ふむふむ。私が育てはじめた時の状態よりも柔らかいし、伸びるね。両手広げても……おお、平気だ。あ、でも垂れてきた」

「僕の世界で一般的に流通していたスライムはコレだから、愛着があるんだよね」


 そんな感じで、2人でスライムトークを楽しんだ。

 姫様に粘着種を紹介した時は苦手だなぁ、という反応をされたのでショック療法として顔面に投げつけてネチョネチョさせたが、無事に「結構良いかんじかも」と思ってくれるまでに適応してくれたようだ。

 他にも吸着種と硬質種を紹介したけど、両方ともお気に召してくれたようで何より。

 触ったり、揉んだり、話したりで心地よい時間が流れる。





 *


「これは極楽だねぇ」

「でしょ、天然水だって目じゃないから」


 そして、現在。心地よさは身体を包み込んでいた―――、スライム風呂である。


 姫様に素晴らしさを語ったところ、すぐにでも入浴したいと言うので室内に展開したのだ。防音部屋なので完全密封空間、隙間から漏れたりしないので安心である。

 服装については、お互いに下着姿まで脱衣している。姫様がいきなり脱ぎだして白くてフリルが付いたロイヤルな感じの下着姿を披露したのには吃驚したが、「旦那様候補ですから、少しだけサービス」てなコトで、アリーゼとリエルに内心でゴメンナサイをしつつ、サービスシーンを目に焼き付けておいた。推定Eの魅力に耐えきれなかったんだ……


 僕としてはその『旦那』となることを拒否しに来たワケだけども、せっかくの雰囲気を盛り下げるのはアレなので、あとで伝えれば良いだろう。「ほら、勇者さんも脱いで」とパンツ1枚にされたのでお相子だし。

 それに、白濁の濁り湯風スライムなので浸かれば見えないい安心仕様です。サービスタイムは部屋をスライムで満たすまでの、ほんの10秒にも満たない時間でしたよ、ええ。



「肌の汚れも吸収してくれるし、これはスライム様々だねー。勇者さん、これはお金を取れちゃうレベルだよ」

「うん、そう思うよね。だからうちの聖女様にも打診したんだけど、見事に断られてさぁ」

「なんと! 聖女様の慧眼は曇ったかぁ。あの人から聞いてた勇者さんの印象も全然違って知性的な感じだし」

「過大評価だって。スライムのことだからここまで語れるけど、あとは凡人だよ、変態でもないけど。それに……」

「それに?」


「いんや、なんでもない」

「何ー? 言いかけて途中で止めるのは反則だよ」

「フッ……これは姫様には聞かせられない話なのさ。国家機密ってヤツですよ」

「むむむ、機密と言われると掘り出したくなってくる、勇者さん意地が悪い!」

「ごめん、意地悪したつもりはないけど、本当に言えないことなんだ……漏れそうになったけど」


 うん、言えないよね。「聖女様があなたを辱めて傀儡にするための一環で僕のことをネガティブキャンペーンしてました」なんてのは。

 先程の謁見の時にはコノヤローと思ったんだけど、よく考えると『嫁ぐ相手は最低の変態勇者→そこから救い出した聖女様は神』という流れに誘導するための策略だったんだと思う。

 よって、聖女様の慧眼は曇ったワケではなく、絶好調だったということ。

 スライムに関しては、”白濁聖女”の件があるから目が曇ってしまうのも仕方ないし。

 予定外なのは、私怨を全面に押し出しすぎて、僕がその作戦に反対してご破算になったことなんだけだからね……



「それなら力尽くで吐かせてあげる、それ!」


 姫様は手で水鉄砲を作り、スライムを僕の顔面へと放出する。

 ねばっとした感触が広がって気持ちよくなり、自然と顔がニヤけてしまう。だけど、不意打ちを仕掛けるような娘には容赦なしで対抗しないとね。

 パチン、と。格好を付けて指をならし、触手で姫様の頭を掴んで風呂のスライムにドボンとつけ込んでやる。


「フフフ、この空間で僕に逆らうとは愚か者め」

「んぅ……むぐぅ……ちょ、勇者さん、手加減ぼぼぼ」


 抵抗して浮上しようとしたのでさらに沈めてやる。実はこの風呂スライム、僕が全身を浸かるために改良に改良をかさねているので、鼻に入っても口に入っても空気として分解され呼吸ができるようになっているという超仕様である。

 安全だし、姫様がそれに気付くまで虐めてあげようか。


 僕は姫様のほうに近づいていき、触手を解除。浮上して「ハァー、ハァ……勇者さん、容赦なさすぎ――――」そう言いかけた彼女をさらに沈める。「もごぉ、ごぽぉ」と喋りながら抵抗しているが、それは無意味さ。

 フフフ、無礼講、無礼講。お、抵抗が終わった。仕掛けに気付いたようだ。

 姫様の腕をスライムの中から引っ張り出し、「ゴメン、ちょっと虐めすぎて――――」そう言おうとしていたところで、入り口の扉が開いた。

 その勢いでスライムが部屋の外へ流出、一緒になって僕と姫様も部屋の外へ流される。どうやら、鍵をするのを忘れていたようだ。なんとか取り繕わないとな。


 そう思って立ち上がり、扉を開けた犯人を捜すと、王子様が呆然と立ち尽くしていて。

 白濁色のスライムにまみれたパンツ1枚の僕に、下着姿でハァハァと呼吸をすている姫様。この状況は、もしや……



 ――――『豚姉陵辱計画』、始動。

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