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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第2章 狐耳の姫と謀略に踊る
27/40

27:今後の方針を話し合う

 ドラゴンというのは、大抵は巣穴に籠もりダンジョンを経営していたりする。さらには個体としても非常に強力で、数も多くはないため爪先から尻尾、さらには血までお金になる金銭価値が高いモンスターである。放置して行くにはさすがに勿体ないし、かといって獣都まで持って行ける量ではない。ユニコーンの力では牽引できないのだ。

 そんなワケで、今後の方針を話し合うことになった。


「勇者様が良いなら、私たちの商会に卸して欲しいのですが」

「んー、難しいですね。聖女様が利益至上主義者ですから。おそらく竜種の強力な装備が城兵以外に大量に出回るのは嫌がります。外部の人間には良い顔しかしていないので想像しにくいと思いますが……」


 商人たちとしては、今の積荷を捨ててでもトルネギオスを持ち帰りたい。利益が欲しい。僕としては聖女様のご機嫌を取っておきたいのと、今運んでいる積荷を放り投げることによって獣都の商人との関係を壊して欲しくない。

 そんなことを長々と話し合った。終着点としてはこんな感じである。


 ・商人さんたちは一度王都へ戻り、トルネギオス搬入の準備

 ・オッサンたちはこの場に残り、血の臭いに釣られてくる魔物からの防衛

 ・聖女様へ暴漆竜トルネギオスを納品し、余剰な部分は商人さんたちに優先的に卸すように

 ・僕ら王都派遣組みは『トルネギオスの首』を持って獣都へ行き、連れ添った商人さんたちの馬車が壊滅したことにする

 ・貴族の皆様には竜鱗1枚を口止め料にプレゼント(アリーゼによって瘴気払い済)


 完全に悪巧みである。普段は固いアリーゼも「討伐したのは私たちですし、竜鱗の剣くらいは報償で支給されますよね!」と賛成を示してくれた。多額の恩賞を求めず、自分の装備……しかも剣だけしか望まない所がさすがである。僕はまぁ、吸血スライムで希少価値の高い血を吸い尽くした件で何か言われると思うので、何も望まない。竜鱗数枚をコッソリ剥いで着服するぐらいの横着はしたけどね。

 あと、吸血スライムについては自分の魔力に還元しようと思ったんだけど、エフィルさんが実験に使いそうなので伝言を頼むことにした。一般の職人に聖女様が依頼するとは思えないので、おそらく彼女が全て解体を任されることになるだろう。

 トルネギオスの瘴気を吸ったおかげで魔力もほぼ全開だったので、還元しても余剰の魔力は体外に溢れてしまうという理由もある。


「派手に立ち回っていましたが、残りの魔力は大丈夫ですか? 積荷に回復薬の予備があるので必要なら譲りますが……」

「あ、まったく減ってないので大丈夫です」

「勇者様は……本当に規格外で。さすがは変態勇者と呼ばれるだけのことはありますね」

「その呼び名は戦闘におけるソレじゃなくて、プライベートが変態だからだぜ」

「ええ、勇者様は普段スライムはぁはぁ言ってるただの変態ですから、そっちの意味ですね。私の魔力も勇者様に補給して貰っていますので、残量に問題はありません」


 ……少し格好良い所を見せたと思ったらコレだから困る。名誉に拘りなんてないから問題ないけどさ。



 そんなこんなをして、各自行動開始。

 僕らは獣都へ向かい馬車を走らせる。破損を装って天幕の上部を吹き飛ばしてあるので、数時間前とは違い貴族の子たちが話しかけてくる。「他に大物を倒したエピソードはないのですか?」「俺にもあの黒くて格好いい防御魔法使えるようになりますか?」「私、姫騎士様のお嫁さんになりたいです」などと、年齢的にはリエルより少し下~僕と同年齢ぐらいなのだが、皆元気でテンションが高い。初めてドラゴンを見て、テンションがハイになっているのだろう。

 黑スライムを生成して、「みんな、コレでも揉んで落ち着くんだ」と渡してみたけど「うわ、気持ち悪いですね」「戦闘中、勇者様の全身を覆っていたのはこれなんですか? 僕、これなら使えなくても良いや、格好悪いし」などと非礼な発言をしたので、恒例のように鎮静作用のあるスライムを投げて全員の意識を刈り取った。

 正直、今はスライム云々以前にアリーゼと2人で話したいという感情が強かったからだけど。彼女も気持ちは同じようで、僕の行動をとがめない。


「改めまして、お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした。勇者様、私の活躍を御覧頂けましたか?」

「うん、格好良くて素敵だったよ。アリーゼがいてくれたおかげで、僕も上手く立ち回れたし。誰にも被害がなくて大勝だった」

「す、素敵ですか……勇者様も、その、格好良かったですよ」

「アリーゼもようやくスライムの素晴らしさが骨身に染みたようだね。僕のハンプティ・ダンプティは―――」

「そ、そういう意味ではなくてですね、ひとりの人間として格好良いと言う意味で、その……」


「うお、あ、ありがとう。美人に褒められると男冥利に尽きるね、ハハハハハ」


 本当にね。顔を赤くしてが俯きながら言うのだから、かなりの破壊力がある。タイミング良く風が僕らを撫でて、アリーゼの金色の髪が乱れ、無駄に色っぽい感じだし。反射的に彼女の口元に付いた髪を払ってしまったので、ついでに髪に手を入れて整えてやる。そうしたら、アリーゼも僕の髪の毛を同じように整えてくれた。


「あの、私は口説かれてる状態だったり、するのですか? じ、自意識過剰だったらすいません」


 そういう意図はない。アリーゼが可愛いのは僕から見た客観的事実であるワケだし。リエルと良い関係になって、女の子を褒めることに慣れてしまった僕の発言に配慮がなかった。

 彼女以外に言うことじゃないよな。なんだかんだでアリーゼと一緒なのは居心地が良いので、自制心が緩くなってしまったようだ。しかしこれ、どう切り返したもんか……

 僕が沈黙を保っていると、アリーゼはか細い声で「すいません」と謝るものだから、なおさら対処に困るし。なんとか口を開いて話題転換を計らなければ――


「そういえばさ、出発の時に『話したいことがありますので』とか言ってたよね。アレって何だったの?」

「そ、それは、勇者様とリエルの立場の最終確認をしておこうと……あまり、というか、かなり聞きたくない話なのですが」


 なるほど。守護騎士として側にいるアリーゼは色々と気を遣わなければならないのか。僕は仲良くなったことに対する一連の説明をし、少女とスライムにしか興味がないという誤解を解く。

 そして、リエルの希望によって『ご主人様と愛人』という関係になっていることに対して念を押して説明した。「洗脳しただろ」と言われると凹むからね。


「―――と言うのが、大体のあらましかな」

「そう、ですか……」


 僕の話を聞いたアリーゼは、一段落付いたことに深呼吸する。それに釣られて僕も深呼吸し、何故かユニコーンまで「むふー」と鼻から息を吐き出すので、2人で「可愛いやつよのー」と尻を撫でてやった。

 それが鬱陶しかったのか尻尾でペシペシと対抗してきて、そんな様子が面白くて僕とアリーゼは笑う。




「勇者様は、トルネギオスと戦う前に『立場に矜持があるのなら』という話をされました。確かに、私は守護騎士という立場があって、仕事に矜持を持っています。でも、それは……聖女様に命令されたからという理由ではなく、勇者様の側にいられるからという理由です。初めは、好きでもない男性に仕えるのが嫌でした。でも、勇者様と数日過ごした頃にはもう気にならなくなって、親衛隊を解雇され給料も立場も低いものとなりましたが、今の生活のほうが楽しいと感じるようになってきて」


 話し始めたアリーゼの瞳には涙が浮かんでいて。僕が口を挟もうとすると「最後まで言わせて下さい」と制止させられる。


「リエルと依頼に出かけると決まったときは、何故私が一緒では駄目なのかと聖女様に抗議しました。……そして、トドメは今朝、『リエルと付き合ってる』と言われたときです。あぁ、私はこの人が好きになってたんだって、そこで気付きました。悔しかったです。私が一番近くにいたハズなのに、少し目を離した隙に、私ではない女性が隣にいることになって。でも、気付いたのが遅すぎて、どうしようもなくて……2人が別れれば良いのに、そう思ってしまい自己嫌悪して。せめて、守護騎士としての任務を全うしようと思ったら、勇者様に傷を負わせるという失態。それを励ましてもらい、『普通に喋ってくれる友人で』と言われたときは複雑で。でも、必要とされていることが嬉しくて―――、先程、髪に触れて貰った時は、もう、すごく嬉しくて。勇者様に求めて頂ける、女性として評価されている―――、そんな風に勘違いしてしまって……勝手に落胆して。そして、今。気持ちを抑えることができずにいて」


 僕の両手が、アリーゼの手で握られる、つよく、強く。彼女がさらに勇気を振り絞ろうとしているのが分ったので、その両手を握りかえしてやる。負けないぐらい、強く。そして、続きを喋ろうとした唇を塞ぐ。

 驚いたようで、「んっ」と身体を硬直させたアリーゼだが、すぐさま貪るように、僕の口内に舌を侵入させる。離さないように、手に握る力を強くして。その技巧は拙くて、僕が初めての男性だと実感させる。それがたまらなく興奮を誘い、場所を忘れて彼女を押し倒そうになる。


「アリーゼ……僕は、キミに側にいて欲しい。僕だけの女になって欲しい」

「でも、勇者様には……私は、今だけのお情けを頂ければそれで、それで満足ですので」


 そう言ってくれた彼女の唇に、啄むように口吻をする。

 今だけなんて、僕が満足できない。アリーゼが愛おしい。彼女が欲しい。


「告白を聞いて、キミを他の誰かに渡したくないと思った。男の我が儘だ。リエルと一緒に、僕のものにしたい。誰にも渡さない。正室だとか、側室だとか区別するつもりはない。平等に愛する。だから―――」

「……はい。私は、もう、身も心もあなたのものです。あなた以外に考えられません。だから、私を愛してください。私も精一杯尽くします。大好きです―――」

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