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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第2章 狐耳の姫と謀略に踊る
24/40

24:人間サンドバック

「勇者様、遅れて申し訳ありません。なにかトラブルもあったようで……」


 アリーゼが僕の方に歩いてきて、スライムで身動きが取れなくしてある女性の存在に気付いて停止。

 説明を求める視線を促してきたので、オッサンと騒ぎを起こした経緯を適度に誤魔化しつつ伝えると「今回ばかりは勇者様は悪くありませんね、しかし『雲隠れ』の隠形を見破るとは。『天割る豪腕』のサムソンといえば、その筋の変態で有名な男ですが実力も確かなようですね」と感心する。

 この女性、どうやら『雲隠れ』の称号を持つ有名人……と言っても顔は割れていないのだが、今回は僕の監視ではなく馬車が出発する前の不審人物・商品の確認に駆り出されていたらしい。


「ですので、不審人物ではありません。拘束を解除してやって貰えますか?」

「了解」


 促されてスライムを解除し、雲隠れさんの身体を自由にしてやる。すると、彼女はすぐさま僕から距離を取った。その距離およそ10m、少々過剰ではないですか。どうやら、完全にトラウマ対象になってしまったようです。


「積荷・商隊・護衛の人間共に異常はありませんでした。私の任務はここまで。あとは姫騎士殿に引き継ぎます」

「承知した」

「それと、一応感謝しておきます」


 そう言うと、雲隠れさんは僕の意識から外れて知らぬ間に消えた。これが隠形か。視界に入っていたのに何処に行ったのかはまったく分らなかったよ。


「……感謝とは、何のことでしょう?」

「あー、雲隠れさんの情けないエピソードを省いてアリーゼに説明したことかな。聞きたければ移動中にでも話すよ」

「いえ、別に話したいことがありますので……」


 そんなやりとりをし、馬車に戻って隊列に加わる。何故だか僕ら国家組みが先頭を勤める謎配置だ。

 貴族の人たちいるのに問題ないのかなー、と思い天幕を覗いてみると、「やはりボクらが優雅に先頭を進まないとな」「商人の馬車に遅れをとるなどあってはなりません」と2人の男女が主張して、他の4人が黙りな感じだった。

 なるほどな。黙りな子たちは不安だろうし、一応フォローしておくか。


「少年少女、僕が馬車を護衛することになる勇者だ。よろしく。尤も、何かあればアリーゼが一刀両断してくれるので安心してくれ」

「あなた、私を誰だと思っていますの? 言葉遣いに気をつけなさい」

「そうだ、ボクらは侯爵家の―――」


 めんどくさいのでスライムで口を塞いだ。「んごぉ」「むぐぅ」と言っているが気にしない。


「一応言っておくけど、キミらのご両親は僕はお互いに敬語で話す程度の立場はあります。で、他の4人は心配してると思うけど、安全面については安心して欲しい。そうだな、誰か上級魔法使える人はいる?」


 聞くと、4人とも手を挙げた。僕より年下なのに優秀だ。

 上級魔法とは、試行するのに一定以上の魔力を消費するもののことを言って、国の兵士に抜擢された人間でも使えるのは半分程度。血統と努力の成せる技だろう。

 それで美女美男なんだから、この国でもかなり選べる側の人間だろうに、お見合い結婚とは……


「オッケー。じゃぁ、全員移動する前に外へ出て」


 外に出すと「もうすぐ出発ですよ」とアリーゼに注意されるが「ちょっとだけ、あとアリーゼも協力して」と彼女にも馬から降りてもらう。


「これから、僕がスライムで全身を覆って防御します。それに、キミら全員で攻撃を仕掛けてきてくれ。どれだけ強いか見せてあげる」


 貴族の子達は躊躇しているようだけど、アリーゼが「おもいっきりやっても大丈夫ですよ」と言うので、おそるおそる火球を作り、僕にぶち当てる。当然無傷。僕はマッスルポーズで健在をアピール。

 それにイラッときたのか、今度は別のお嬢さんが四方八方から氷柱で射貫こうとするが、これも耐え抜く。



 そんなこんなでサンドバックをやっていると、目敏くオッサンたちのパーティもやってきて「勇者の結界を破れたら金一封」という企画が始まり、僕はされるがままに殴られ、斬り付けられ、吹き飛ばされた。

 しかし、この程度は王城で兵士の訓練に付き合うときに比べれば生やさしい。アイツらは協力して魔法を詠唱したり、空中で物理コンボを決めに来るからね。防げるから平気なんだけど心臓には悪いのは間違いない。


「すげぇぜ、ダンナ。俺の斧を軽々防ぎやがる。かなり本気でやったんだが……」

「本当に、心が折れる。勇者様を過小評価していたぜ」

「バケモノじゃないのか……」

「勇者様すごいです! これなら道中も安心です」


 うん、珍しく高評価された。


「勇者様、最後は私がいかせてもらいます」


 アリーゼはそう言うと、腰から剣を抜き魔力を集中させる。彼女の身体に白い魔力が纏われ、それが徐々に剣に収縮していく。

 いかん、非常に嫌な予感がする。普通の魔力とアレは性質が違う。喰らったらマズいと本能が警戒を呼びかける。「ちょっと、アリーゼまっ」と言うのも間に合わず―――、


 防御した僕の両腕はバターのように切り裂かれた。



 ぼとり。と腕が地面に落ちる。周囲に沈黙が満ちる。僕には激痛が走る。

 アリーゼが僕に駆け寄ってこようとするが―――


「はーい、金一封は我らが姫騎士が頂戴となりました、おめでとうございます!」


 と、元気な声をだして取り繕った。そして切断面から触手を伸ばし、斬り落ちた両腕を接続。さらなる痛みが僕を襲うが、表情に出さないように。アリーゼに目配せで「来るな」と念押しする。


 それから、アリーゼに金一封(エドワードさんの自費)が付与され、「やっぱり姫騎士殿は最強だぜ!」「情け無用だけどそれが良い」とアリーゼが祝福される。

 彼女は顔面蒼白で、なんとか平常心を保とうとしているる状態だが周囲はテンションが高く気付かない。その様子に僕は安心。アリーゼは真面目すぎるから「守護対象を己が傷つけてしまうとは、切腹します」ぐらい言いかねない。場が落ち着いてしまうと困るのだ。

 ボロが出る前に、と。僕が纏っていたのと同じスライムを馬車全体に纏わせ「姫騎士殿クラスの攻撃を受けない限りは僕のスライムは敗れません」と喧伝。さらには、「この治療用のスライムを使えば、先程の傷程度は治ってしまいます。今ならお値段たったの100万G」と囃し立て、そのままの勢いで出発までなんとか押し切った。


 いざ、獣都へ!



 ……なんだけど、御者に座っているアリーゼの空気がすごく重いです。

 無言だし一緒の空間にいるのがツライ。かと言って1人にするのも心配で、隣に座る僕の胃は痛むばかり。


 獣都までは、まだ長い。旅は今、始まったばかりなのだ。くっ……

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