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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第2章 狐耳の姫と謀略に踊る
23/40

23:喧嘩両成敗

 スライム関連の頼みをむげには出来ないので、依頼通りにスライムで左腕を作成する。「うおおお、コイツだよ、コイツが欲しかったんだ。ありがてぇ」と興奮したオッサンは、その場で頬ずりして舌で舐め、周囲の人間を例外なくドン引きさせた。さらにバッグから今までに渡したパーツを取り出し、机の上に並べはじめる。


「みんな、見ろよ。これが勇者様より頂いた女体スライムコレクションだ、すげぇだろ……!」


 誰も言葉を発することができない。スライムを提供した僕すらも。

 ……しかし、両腕と乳房があるのに、結合していない状態というのは気持ち悪いな。オッサンのスライムに再度干渉し、全てを統合して結合してやる。

 僕が触手を伸ばし魔力を送り込むと、それぞれのパーツは質量を増加させ、結びついて女性の胸像(頭部なし)を形作った。


「おっ、お……! すげぇ、すげぇ、ダンナは神の使いに違いねぇ」


 ふぅ。と僕は満足したワケだが、オッサン一行に非難の目線を浴びせられた。「あれ、毎回依頼に行くとき持ち歩いてるんですよ。あんなに質量が大きな塊にして、どうしてくれるんですか。とにかく、目立ってしまっているのでギルドを出て馬車が待機している西の街門まで移動しましょう」と小声でエドワードさんが言う。

 すでに依頼を受注していた彼らに先に馬車まで移動してもらい、僕は受付を済ませてから「少しトラブル、先に行ってるから」とアリーゼ宛に伝言を頼んで冒険者ギルドを後にする。


 

 ギルドから出て、外の空気を吸う。エドワードさんたちは先に行ったようで、周囲に喧噪の後はない。

 オッサンがえらい興奮してたらか、僕を待ってるという選択肢はないよなぁ、と苦笑する。人目とか気にせずスライムボディを抱きしめていたからね。流石の僕でもあの境地には至れない。

 自室であればスライムのベッドにスライムの布団、スライムの枕でスライムに包まれて眠ったりしているので、あんまり非難はできない立場だ。どんな形であれスライムを愛している人に牙をむくの抵抗あるし。

 ただ、女の子ならやっぱり生身に限るよね、とは思う。おっと、リエルの暖かみがある感触を思い出して顔がニヤけてしまったゼ。


 ともかく、僕も街門へ向かうことにしよう。

 しばらく留守にすることになるので、今のうちに街の景色を目に焼き付けて――、と思ったが、僕が街に来た回数は5回程度だ。城内で用事が完結していたし、望郷の念と沸くような愛着はない。

 戻ってきたらリエルと一緒に散歩しよう。



 そんなことを考えながら歩き、城門を出たところで、言い争いの声と剣戟の音が聞こえてきた。


「私は、貴様のせいで……屈辱をッ!」

「はン、なにを馬鹿なことを。知ってるんだぜ? テメェがダンナのスライムを盗もうとしていることを」

「そんなもの、盗むまない! 気色の悪いスライム! スライム、そいつのせいで、そいつと貴様のせいで私は!」

「ハッ、コイツの価値が分からない馬鹿が吠えやがる!」


 ……予想だにしない展開が待ち受けていた。

 オッサンと、聖女親衛隊服を着た白髪の少女が大斧とロングソードで打ち合いをしている。

 気色の悪いスライム、とか聞こえてきたので潰してやりたい所だが、『聖女親衛隊服』を着ているので王都側の人間なんだよね。


 顔見知りの門番の方に手を振ると、彼は僕の元に走ってきて解説をしてくれた。


「俺にも原因がわかんなんスけど、サムソンのオッサンが馬車に向かって歩いてたと思ったら、そこの姉さんがいきなり斬りかかったんですよ。で、戦いを止めようにもレベルが高すぎて介入できず。オッサンのパーティはなんか観戦を決め込んでますし、商人連中はどちらが勝つかで賭をやってますし」


 ふむ。エドワードさんを触手を伸ばしてたぐり寄せ、「解説」と手短に用件を頼む。「なんですかコレ、すごい勢いで魔力吸うんですけど、ちょっと勇者様、勘弁してくださいって、話します。話しますから。この触手さっさと解いてください」おっと、「気色の悪い」発言に対する八つ当たりでスライムに力を込めすぎたようだ。「すいません」と言って触手を解除し、エドワードさんの口内に”ドーピングスライムスープ・コンソメ味”を流し込んで魔力の補充をしておく。


「この味はこないだの! クセになりそうですね。あー、っと。サムから聞いた話ですけど、4日前、勇者様からスライムを貰ったサムは、背後に忍び寄る気配に気付いたんです。その女は勇者様を尾行していたようで。『アイツ、ダンナのスライムを狙っているのか? 許せないな。俺が成敗してやる』と交戦したようなんですよ。んで、そのときは激戦のうちに退けたらしいんですけど……2人の会話を聞いていると、今戦ってるのがその女と同一人物らしくて。まぁ、相手は隠密特化のようだし、サムは負けないので俺たちは観戦ですね。アイツは女性を殴るのを嫌がりますから、スタミナ切れを狙って長引きますよ」


 ……はい、すべての謎は解けました。

 王猪の森の時の依頼で、僕の監視役をやっていたのが彼女。それで、宿に行くときに妨害した民間人がオッサンってことか。

 心情的には聖女様の鬼畜責めを受けた監視の女の子に味方したいけど、感情にまかせてオッサンに対峙しているあたりは僕ですら未熟と感じる。

 ここは、勇者の威厳を見せつける意味でも両成敗させてもらうか。


「粘液の混沌よ、束縛せよ」


 僕の呪文と共に、スライムの触手がオッサンと女の子の全身を縛り上げて拘束する。通常なら無言発動で良いのだが、公衆の面前なのでアピールだ。ちょっと格好良い勇者を演出。


「今回の獣都まで同行させて頂くことになっている勇者です。なにやら騒動があったので沈静化させました。彼らの勝負は僕の方で預かります」


 フッ……決まった。これは改心の一撃だろ。格好良いぜ勇者様! そんな歓声が――――


「一網打尽とか、賭が成立しないじゃねぇか」

「勇者様が活躍するとこ初めてみたッスけど、微妙な技ですね……」

「本当に支援特化じゃなかった」

「胴元の総取り? おい返金だろふざけるな」

「正義感気取りか? ったくコレだから勇者なんて存在は」



 ……なにこの反応。


 まぁ、大事なのはオッサンの誤解を解くことだ。僕はオッサンの側に行き、この女性が僕の監視役で、スライムにを狙っているわけではないことを。そして、オッサンが早とちりをしてしまったせいで彼女が聖女様から屈辱的な罰を受けたことを伝える。


「すまんかったな、嬢ちゃん」

「いえ、私も……話をせずに武力で対抗してしまったので」

「それにしても、全身をスライムの触手で縛られるとはまた良いプレイだな」

「なに馬鹿なことを。早くこの気持ち悪いスライムをなんとかし――んッ」


 触手を監視役の口内に侵入させる。必死に抵抗しているがこれはしばらくはこのままで良いだろう。

 オッサンの束縛を解除し、「2人で話があるので」と彼女を触手で持ち上げて、街門沿いの人気がない場所まで移動する。

 

 

 束縛を解除すると「く、くそ、この屈辱、勇者め、勇者ァァ!」と息巻いていたので、身の危険を感じて再度拘束。なんとも頭に血が上りやすい隠密である。大丈夫かこの人。


「まず、キミの名前を教えて貰おうか。名前を知らぬままだと話しにくいし」

「貴様に名乗る名などない」


 そういう態度ならこちらも相応の切り返しをしないといけないよね。僕も結構カッとなるタイプだし、敵対するなら容赦はしない。

 納豆スライム球を生成して彼女の顔面に投げつける。


「い、いや、いや、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい―――」


 何ですかこの反応。想像以上で罪悪感に潰されるんだけど。聖女様はどれほどトラウマになる責め苦を与えたのか。

 スライム以外に行使できる手段がない僕は、この人から事情聴取するのは難しそうです。


 アリーゼ、早く来てくれないなぁ。

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