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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第1章 少女と仕組まれた依頼
20/40

20:聖女様は鞭を振るう

 とりあえず、聖女様のスライムで簀巻き状態にして逆さ吊りに。

 リエルが「今なら汚れのない聖女様の衣類をはぎ取り直接おっぱ――」と危険な言動をしていたので、こっちは口に触手を挿入し黙らせ、聖女様の胸部の前に顔が来るように調整し、同じく簀巻き状態で吊り下げる。


 先程の聖女様の話では、既に裏切り者の淘汰、主犯格の捕縛までは時間の問題だと読み取れる。

 食料に関しては、大猪の森で僕が遭遇した獣が少なかったことを考えると、影響があるのかもしれない。だが、『損害賠償』という形で事件が解決した際に補填できるはずだ、ハズ。

 そして、王都に対して今回作った貸しで『隣国の王子と聖女様の結婚を破談にする』のが最終目的だと思われる。


 ……そこに聖女様の私怨が入って王子へのダメージを最大限に与える策略が考え出された訳だが。



 うん、これ僕の出番完全にないね。普通に婚約断れば話は終わりだ。

 聖女様が起きる前に、スライムでストレス解消用のサンドバッグを生成しておくことにしよう。


 硬度的には、僕の部屋のベッドと同じで良いか、さっき蹴りを入れていた感覚的に。だが、これだけだと円柱状で適度な堅さのスライムを生成したと言うだけで芸がないな。殴ったら表面のスライムが飛び散るようにしよう。

 サンドバックの通例として、色は赤が基本だけど、返り血みたいで嫌だしな……まぁ、聖女様からは血塗られた感じがするし別に問題ないか。


 条件設定をし、スライム・サンドバッグを生成。

 自分で殴って、蹴って、粘液が正常に飛び散ることを確認。飛び散った粘液は魔力を通すことによりサンドバッグへ還元再生。ついでなので抱きしめて感触を味わい、頬ずりをして完成度の高さを自画自賛した。

 これ、殴るより抱きしめた方が癒やし効果でストレス解消されるよなぁ。まぁ、そのへんは聖女様がこのサンドバッグでスライムの良さに目覚めたあたりで徐々に布教していけば良いだろう。


 作業を済まし、聖女様を起こそうと簀巻きを視界にいれると――、リエルの瞳孔が大きく開かれて涙も出て、呼吸が荒くなっていることに気付いた。

 あまりの体調の変化に吃驚し、僕は慌ててリエルを束縛しているスライムを解除する。


「ゴメン、リエ「酷いですご主人様、生殺しですよ生殺し。目の前に桃源郷があるのに触れることができないもどかしさ! 本気で抵抗したんですけど、このスライム魔力を吸って堅くなるし、対処できなくて、ご主人様は凄いと思いつつも歯が立たない自分の実力が悔しくて、うぅ……」」


 ……これは、慰めた方が良い流れなのだろうか。僕にはわかりません。

 かと言って聖女様のを揉ませるワケにもいかないし、代わりにスライムでも揉ませる……そうか!


「リエル、僕の胸に飛び込んでおいで」

「ご主人様は、平坦じゃないですか-。私は巨乳が良いんです、ご主人様の胸板はそれはそれで癒されるんですが、今求めている物は――――」


 抱きしめた、リエルを。”僕の巨乳”で。

 そう、スライムで自分の胸部に弾力ある膨らみを作ったのだ。大きさは聖女様を想定したDサイズ。「おほぉ」と言いながらリエルは僕の胸に顔を埋めてぐりぐりしている。


「どうだい?」

「良い、すごく良いですよ。スライム凄いです! ギルドで話し合いの時に触らせて貰ったヤツはなんだか物足りなかったんですけど、こうして、人間の胸にある状態で形状が似せてあると満足感がたまりません! はぁー。んっ。ご主人様の臭いもするし幸せですー」


 彼女が変態性癖でも受け止める度量ぐらい僕にもあるのさ。心中は複雑だけど。

 僕に感覚のフィードバックがないからリエルを抱きしめているけど抱きしめていない感じで、非常にもどかしい。


「ふう……満足しました。でも、こうしていると普通にご主人様に抱きしめて欲しくなってしまいます。おっぱい好きなのは趣味の範囲なので、やっぱり、男性としてのご主人様が、欲しいですから」


 可愛すぎるリエルを男性の胸板で抱きしめて、どちらともなく甘い口づけを交わす。

 リエルの味が僕の口内に広がり、それをさらに求めるため、舌を這わす。負けじとリエルも僕の味を求めるため舌を動かし「んっ、ちゅ……」とお互いに搾取する。僕の心は彼女で一杯になり―――



「勇者様、リエル。人様の部屋で盛るのは止めて欲しいのですけど」


 聖女様の凍てつく声で現実に戻された。

 リエルと一緒に頭を下げて「申し訳ありませんでした!」と謝ると「ッ、謝罪も同じタイミングとは仲が良いことで」と嫌みを言われる。

 起こさない限りしばらく昏倒している威力に調整してあるのに、復帰が早すぎます……


「わたくしが糞豚王子の支配欲で汚れた目で辱めを受け、まだ子供だし、下手に断ると国交に支障が出るため断固とした拒否ができず、無理矢理婚約者候補にされてストレスをためている時によくもまぁ……しかし、スライムで簀巻きにされていたのは幸運でしたね。いくら温厚なわたくしでもここまで舐めたことをされれば手が出てしまいますから。尤もー、手が出なくとも<魔眼>は使えますけど、ホホホホホ」


 言われた瞬間、股間に衝撃を受け「――――――ッ」僕は悶絶した。

 魅了状態となったリエルに、蹴られたのだ。「あああ、ご主人様、違うんです、違う、ああ」ガン、と、地面を這いつくばる僕にリエルの足が打ち下ろされる。「いや、嫌、いやだいやだ、嫌です」ぷに、ぷに、ぷに、ぷに、ぷに。


 操られたリエルは四方八方から殴る蹴るの物理攻撃をさせてくるが、その都度スライムで防いでやる。

 威力を配慮した甘蹴りだったので、股間のダメージもそれ程ではないし心理的余裕もあるが……問題なのは「ごめんなさい、ごめんなさい」と僕に謝り続けるリエルの声で、顔は涙に濡れて罪悪感が半端なく沸いてくる。

 聖女様が満足するまでそのままにしておくか。とも思っていたんだけど、リエルが限界そうだったので、スライムで無理矢理意識を奪って攻撃を止めさせる。

 倒れたリエルは、僕謹製のスライムベッドを作って寝かせておこう。



「意識を残して身体だけ動かすとは容赦が無いですね、聖女様。僕らにも配慮が無かった自覚があるので強くは言いませんが……趣味が悪いと言わざるを得ませんよ?」

「勇者様と一緒にリエルを呼び出したのは説教目的でしたからね。エフィル様も城内の人間も子供のリエルには甘いので、私は鞭役をしなくてはいけないので良いタイミングでしたから、憂さ晴らしついでに」

「最後のが本音の気がしますが……リエルが何かしたのですか? 今回の事件に気付くことになった契機で、褒められることはあっても罰せられることはないと思いますが」

「いえ、罰せられる要因は十分ありますわ。本来なら禁錮刑でもおかしくないですからね、わたくしの戯れに付き合わせることぐらい許してください。納得がいかないと思うので、一応説明しておきますが……」


 疑問を感じていた僕に、聖女様が解説をはじめる。


「まず、勇者監視の任を受けていたにも関わらず途中で意識を離していること。すでに、この時点でリエルに与えられた監視任務は失敗と言えましょう」

「それは、僕がギルドでオッサンとの話を聞かせたくなかったので意識を奪ったからで……」

「奪われてしまったのが問題なのです。さらには、このリエルが気を失っている最中に勇者様がやった奇行が問題になりました。黄金のおっ……下品で品位を下げるスライムはなんですか? 民草にあっという間に『勇者は変態』と噂が流れましたよ」

「周囲の期待に応じて作りだした黄金スライムは評判上昇に一役買ったと思うのですが……」

「なっていません。親しみやすい、というイメージは構築されたかもしれませんが。威厳がまったくありませんよ。次に、大猪の森へ行く際、勇者が倒れたが放置して独断専行した件。防御魔術がかけてあったと報告はありましたが、完全に悪手としか言えません。リエルの肉体強化なら勇者様を担いで森へ向かい、結界の異常だけ確認してすぐさま引き返すのが最善でした」

「あれは、首輪の制約に配慮が足りなかった僕が原因で……」

「問題にしているのは、対処です。何度も言いますが、リエルは勇者様の監視で付き添いをしていたのです。あとは、会議中にスライムを揉んで会話に参加しなかったこと。聞いたときにわたくしは絶句しましたよ、勇者様ならともかく……それに、宿泊する際に、内通者が潜んでいる可能性がある施設に勇者様を宿泊させたことですね。アリーゼが金銭を自ら多めに渡したというのに、なんで意図を組んで民間の高級宿に泊まらないのか。考えなしにも程があります」

「あれでは分からないですって。僕もリエルの服代を余分にくれたんだと思いましたから」

「民間で暮らしていた勇者様と違い、リエルは幼少の頃よりエフィル様に鍛えられてきた人間です。できなくてはならないコトの基準が違うのですよ。おそらく、何かあれば力尽くで解決するクセがついてしまっているので思考が単調になっているのだと思いますが……戦闘力だけなら、城内でも上から数えた方が圧倒的に早いですから。だが、精神的にはまだまだ未熟。私の魔眼に抵抗できないのが良い証拠です。勇者様なんて、魔力干渉なしの精神力だけでねじ伏せますのに情けない……ですよね、リエル。魔眼の効果を解いたので身動きできますよ」



 ―――やられた。本当にこの聖女様は性格が悪い。

 これ、僕に説明するように見せかけてリエルに聞かせていたのか。初めから、だよなぁ。

 スライムで意識を刈り取ったつもりだったけど、おそらく魔眼の支配で強制覚醒されてただろう。


 悔しくて、涙を堪えているリエルを慰めようとして。


「大丈夫、でずから。……聖女様。自分の非は認めて改善する努力はしますけど、最愛の人を足蹴にさせた恨みは忘れません。禁錮刑にしてくれなかったこと、恨みます。私への用件は済んだと思うので、先に退室させてもらいます」


「リエル、待ちなさい。最後にひとつ。勇者様とアナタが大猪討伐の依頼を選ばせたのは、わたくしです。Cランクの中では一番好条件に設定しましたし、それでも選ばなかった場合を踏まえ、ギルド職員から『勇者様の力試し』ということで無理矢理受注させるよう根回しをしてありました。つまり、アナタは規定されていた仕事を最低限こなしただけで、褒められる要素は何もなかったということ、お忘れ無きよう」


 慈悲のない聖女様の言葉。

 リエルが走って部屋を出て行く背中を、僕は見送ることしかできなかった。

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