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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第1章 少女と仕組まれた依頼
11/40

11:秘密の共有なんかしたりして

「それにしても、今回はリエルに格好悪いところを見られてしまったなぁ。首輪に絞められて意識を落としたり……鼻水とか涎とかその他いっぱい出てたよね。幻滅しないでとは言わないから、黙秘してくれるとすごい嬉しい」

「私は、そんなこと全然気にしませんよ! 師匠に関わると酷い目に遭うなんて日常ですから。もちろん、黙ってますから安心してください。私と勇者様だけの秘密ですもんね」


 にへへー、とリエルは笑う。

 この少女は、どれだけエフィルさんの鬼畜の所行を耐えてきたのだろうか。同情すらしないレベルで日常と感じてしまっているのがおそろしい。


「それに、勇者様の秘密だけ握るわけにはいかないので、私の恥ずかしい話だっていっぱい聞かせちゃいますよ。聞きたいですよね、聞きたいですよね? もぉ仕方が無いなー、勇者様は。こんなこと話すのは、勇者様だけなんですから! 他の人には話しませんよ? 秘密ですよ」


 嬉々としながら自分の痴態を話す彼女は、完全に―――本当にありがとうございました。



 *


 依頼から戻り、町に入る際に大量の憲兵に取り囲まれた。

 生首を持つ僕と、血まみれで巨大な大猪を持つ少女が談笑しなら近づいてくる光景は異常だったらしい。


 そこで、「勇者様が仕事をして、その帰りであるだろう光景が信じられません」だの「重いモノを子供に持たせる勇者様は平常運行だろ」だの、好き勝手に色々言われた。

 兵士たちが一様にショックを受けていたのはリエルの存在で「宮廷魔術師殿の弟子なのに、人格が破綻してない普通の存在だと思われていた女の子ッスよ? それが勇者様という変態と血まみれの姿で笑って話をしている光景、絶望を覚えない憲兵なんていませんよ。さらになんスか? あの巨大な大猪、普通の3倍近くありますよね。何で平然とした顔で背負っているんですか。絶対俺たち憲兵連中よりも強いッスよ。」と言うことだ。

 うん、僕も彼女のコトをマジ天使だと思っていた過去があるからその気持ちはわかる。


「そういえば、勇者様のスライムって血とかも食べられるんスよね。リエルちゃんの服を奇麗にしてあげたら良いじゃないですか、気が利かない男ですねー。あのまま城内に連れて行ったら、間違いなく姫騎士様に鉄拳制裁されるッスよ」

「いや、それはさすがに僕でもわかってるよ。わかってるけど……」


「私が断りましたから。この血、結構な魔力と呪いを含んでますので、ローブに染みたまましばらく置いておけば化けるかもしれません。呪いをねじ伏せれば、狂化された防具になるんですよ。楽しみですよね―」

「……と言うことなんだ」


「…………なんか、すいません。勇者様もいろいろ大変なんスね。」

「いや、僕のほうこそ、なんかごめん」


 憲兵さんは互いに謝り合い、二人で空を見上げた。夕焼け雲が広がっている。

 リエルは、そんな僕らを見て、何をしているんだ、という風に首をかしげていた。


 ともかく、今のリエルの格好では町中を歩かせるわけにいかないというのは同意なので。

 憲兵の仮眠室、着替えを借りて着替えさせてもらった。年齢を考えれば当然なんだけど、彼女に合うような服はやっぱりなくて、一番小さいサイズの憲兵服の手足の裾を折り曲げて着ることになった。

 このまま町中を歩かせれば、憲兵のイメージアップになるのかな、ある意味……。


「ゆ、勇者様。下着はそのままですから安心して下さい」


 そう耳打ちされたけど、僕には何を安心すれば良いのかわからないよ。



 大猪をクエスト依頼先の精肉店へ渡し、「依頼された量より少ないですが、この件に関してはギルドより後日報告がいきます」とお茶を濁す作業を完了させる。

 そのまま流れるようにギルドに報告に行くと、そこには何故かアリーゼが。


「エフィル様が、首輪の異常を感知しましたので。首輪の制約にかかった人間はどうやら逃げずに町へ戻ってくるようですし、ギルドに来た所で尋問でも……と思っていたのですが、まさか勇者様だったとは。さすがですね勇者様」


 と、こちらが聞くよりも先に事情を説明してくれた。

 ギルドの人に「勇者が依頼を受けた」ことを聞いていただろうにこの言い方。アリーゼさん冷たいです。


「それで、その布きれに巻かれている禍々しいものなんですか?」


 僕は何も感じないけど、やはり実力者はわかるものなのか。

 これには、ミストベアの頭部と右手、リエルが着ていた血まみれのローブがくるんである。憲兵さんの「そんなもの持って歩いたら、普通の子供にはトラウマですよ」という指摘を考慮して、布で包んで隠していたのだ。


「【大猪の森】で異常があったんだけど、その原因がこの中身ってトコ」


 ってことで、僕より詳しく説明できるであろうリエルに会話を引き継ぐように目線で促す。

 そのリエルは、目線でアリーゼに何かを伝えようとするが上手くいかず、「むむむ」と唸っている。結局、僕が「普通の人に聞かれたくない話なので、別室を用意して欲しい。と言うことをリエルは伝えようとしているんだと思う、多分」ということをアリーゼの耳元で囁いた。

 その際に「息が臭い」と小さな声が聞こえたのは気のせいだと思っておこう。僕の自意識過剰による幻聴だよね!



 ギルド長の私室に通され、偉い人数人を含みお話タイム。

 今日の出来事を包み隠さず伝えると、「他国からの侵略の可能性が」「宮廷魔術師殿を恨んでいる輩の」と、難しい話が始まったので、僕はスライムを作り、両手で揉んで癒されていた。

 同じように手持ちぶさたにしているリエルに渡すと、彼女も取り憑かれたようにスライムを揉み続けた。良い傾向だ。スライムを苦手としていた女の子はもういないね、立派になってお兄さんは嬉しいです……


 こうして僕らがスライムを揉んでいる間に話は終わり「勇者様、荷物は私は運んでおきます。この後、城内で会議が開かれると思いますが、邪魔なので適当に外泊をお願いします。リエルは、そのまま勇者様の監視を継続してください。お金は私が個人的に渡しますので。参加すると疎まれる、参加しないと文句を言われる状況ですが……今回は名誉の負傷をしたので安静にさせている、と言っておきますので。明日の昼頃までは絶対に王城へ戻ってこないように」ということで、本日は外泊することになりました。


 僕は、こっちの世界へ来てから初めて王城以外で夜を過ごすことになるので、すごく楽しみです。

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