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勇者様はスライムが好き  作者: 秋水舞依
第0章 粘菌が好きな勇者様
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01:勇者様は実験をする

 僕は、1ヶ月前まで日本で平凡な高校生をやっていた。

 好きなものはスライム。RPGの序盤に雑魚モンスターとして登場したり、女性の衣類だけを溶かしてしまう……の元ネタ?現実にあるヤツ。アルコールとホウ酸を混ぜて作られたゲル状のアレだ。ひんやりねっとりする感触が中毒になるよね。


 そんな僕が何をしているかと言うと、『勇者様』である。

 自分の部屋でスライムと戯れている最中に、前触れ無く異世界に召還されたのだ。


 今、思い返しても召還された時は大変だった。

 なんせ、全裸だったからだ。節電を五月蠅く言われる昨今の環境。自室で扇風機だけ付けて全裸、またはパンツ1枚だけというのは、大抵の高校生に共通していることだと思う。


 なんの感覚もなしに自室から聖女様の祈り部屋に転移した僕。状況を把握する前に当然の様にパニックになり、落ち着かせようと手を差し出してくれた聖女様の顔面に持っていたスライムを投擲。周囲の騎士に武器を向けられる。

 死を覚悟した僕は、「せめて最後まで足掻こう」と自分を鼓舞し、なけなしの力を振り絞ろうとしたら―――


 出たのだ。

 身体から、全身からスライムが。


 その瞬間、僕は悟った。「なんだ夢か」と。

 夢ならなんでもできるよね、と思い、身体から生やした無数のスライム触手でその空間にいた人間を全て拘束。


 剣を持った人が切り裂くも、即座に再生するので効果なし。

 魔法使いの人がスライムに炎を矢を放つが、スライムは魔力を吸収して―――増える。


 ……増えすぎた。

 

 スライムはあっという間に部屋の面積最大まで膨張し、窓やドアを突き破って外へと流れていく。

 その現象の収め方を僕は分からず、大量のスライムの存在を感動しつつ見守ることしかできなかったが「この気持ち悪い粘液は魔力を吸います!」と聖女様が言ったので「スライムを気持ち悪いとは、この素人が!」と聖女様の口に触手を突っ込んで沈黙させた。


 その瞬間、僕の横っ腹を剣が貫通し、激痛で意識を失って…………





「これは失敗かなぁ」


 それから色々あり、召喚された異世界にも馴染んで、今は”汚物をスライムに食べさせる実験”を執り行っている。

 なんでかって、この世界には水洗トイレがない。くみ取り式のぼっとん便所だからだ。糞尿は肥料にせずに焼却処分していると言うし、それならばとその場で奇麗にできる方法を試行錯誤しているのだ。


 で、何故汚物を食べているのがスライムかと言うと、僕の能力に関係している。


 異世界に召還された際に身についた<魔法生物生成>というスキル。

 この能力で生み出すスライムは、”僕が指定した対象のみを捕食させることができる”のだ。他にも、魔法を吸収したり、堅くなったり、良い臭いにしたり、触手にして伸ばしたり……と、かなりの汎用性を持っている。何より、スライム好きの自分にとっては、いつでもどこでもどれだけでもスライムを作って触り放題なのがたまらない。

 だが、汎用だけど万能というワケでもなくて。スライムが汚物を食べてくれるまでは問題ないんだけど、臭いが消えない。というか、圧縮されて臭さが増加している気がする。


 実験を行っているのは、城内にある自分の部屋。本来なら現場でやるようなコトなのだが、この実験は一度失敗して大きなトラブルを起こしており「勇者よ、この試みは以降、凍結とする」と、王様直々に釘をさされているのだ。


 前回の失敗……濁して言えば、うんこを食べたスライムが爆発的に増加して、僕の住んでいる区画が大変なことになった。


 僕のスライムは、捕食した対象の魔力を食べる性質を持っている。戦闘時には魔法を食べて、そのまま巨大化して敵を押しつぶしたり、なぎ払ったりと大活躍する特性であるが……そのときばかりはマイナスに働いてしまったというワケだ。

 ただ、少量の魔力で莫大な増殖はしないので、聖女様あたりの魔力が高い人間の汚物を取り込んでしまったからだと考えている。もちろん、今回のスライムは”魔力を吸ったら硬化する”という特性を与えて、同様の失敗をしないように対策を講じてある改良版なので問題ないが。


 ドン! ドン! ドン!


 ノックの音が聞こえる、強く叩きすぎだろうコレ。誰だろう。


「勇者様、部屋におられますか!」

「アリーゼ、そんなに大声をださなくても聞こえるよ。今、取り込み中なんだ。用事があるならドア越しに用件を言ってくれ」


 この声の主はアリーゼという僕と同い年の女性で、守護騎士……という名の監視役をやっている。短めの金髪に、紫色の瞳を持つ美人さんで、さらには面倒見の良いまじめな性格という清廉潔白を地で行く人だ。白い鎧を着込んだ潔白な装いから『姫騎士』と呼ばれ、その名に恥じない戦闘能力を持つため、城内の人間だけではなく、民草からも慕われている。

 しかしながら、僕は少々苦手だったりするのだが。理由は単純、彼女が僕が召還された時に腹を突き刺した張本人だからだ。

 

 苦手になったのは他にも理由がある。

 ここに来て、すぐの頃だったろうか。アリーゼの許可なく兵士の訓練に混じって、揉まれてボロボロになり説教されたことがある。そのときに僕の頭を軽くチョップして「心配したんですから……」と言うので、その姿を見て思わず「可愛いなぁ」と呟いたのが何かの琴線に触れてしまったようで。少々……いや、かなり僕への態度が冷たくなり何かにつけて怒られることが多くなったからだ。そんな彼女との立場的な関係上、長い時間を一緒に過ごすために空気が詰まってしまう時がたまにあるので……うん。

 アリーゼは美人なので役得だし、職務外だと吃驚するほど優しいので、嫌なわけではなく、好ましいんだが……男心も色々と複雑なんですよ。

 ただ、今は怒られる場面なので純粋に非常に気が重いワケだがね。


「部屋から漏れる異臭はなんですか」


 問いかける声に殺気がのっており、僕の口から「ひっ」と情けない声が漏れた。外部に臭いが漏れているので、誤魔化すのは不可能だろう。ともかく、アリーゼを部屋に入れてこの実験の有用性を説き伏せることによって説教の規模を縮小させることに努めよう。



「―――ということで、前回の失敗点は改善されており、今回の実験は安全なのです」

「安全なのです。ではありません。はい、正座してください」


 怒られました。そして正座入りました。座布団は当然ありません。


「まったく、この実験は王直々に中止の要請がされていたハズですが」

「ハハハ、歩みを止めるのは愚者のすることさ。実験に失敗は付きもの。それだけ臭いが漏れるのは想定外というか」


「見積もりが甘いです。何より、なんで私に相談してから実験を開始しないのですか」

「反対されると思ったし……」

「ええ、反対しますとも。勇者様は、自分が『変態勇者』とか『粘液勇者』とか、城内で呼ばれているのを知っていますか?」

「知ってるよ。あとは、『スライムにいか欲情しない』とか言われてる。どっからそんな噂が流れたのかわかんないけど。まぁ、城内の人間にスライムを布教することによってこのあたりの評判は改善していきたいね。『粘液勇者』は格好良いのでアリーゼの『姫騎士』みたいに二つ名にしても良いと思ってるけど」

「…………」


 スライム好きにおいて、『粘液』というのは誉れの称号のようなものだろう。異世界から来た勇者、粘液使い……いや、粘液術士というほうが響きが良いな。そんなことを考えると、思わず顔がニヤけてしまう。


「勇者様の感性にはまったくもって驚くばかりです。あなたが気にしていないなら、余所からの目線に配慮する必要もありませんか……」

「うん。アリーゼやエフィルさんみたいに実力者ほど自分の目で見て評価を決めたがるし。対外的に何か必要な時は聖女様が暗躍すると思うからそんなに気にしなくても大丈夫でしょ」

「確かに、そうかもしれません。ただ、私も勇者様のことは変態だと思っていることをお忘れ無きよう」


「なん、だと……」


 

 僕が絶望にうちひしがれていると「早く片付けてください」と容赦なく促され「今後、無断で実験を行いません」と確約させるという徹底。アリーゼさんは今日も厳しいです。

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