潜在的マスク
掲載日:2026/03/25
「おい外せよ!」
遠藤さんは、入学してから一度もマスクを外したことがない。
飯を食うときだってトイレに駆け込んで、合唱祭のときもマスクのまま歌っていた。
俺たち“陽キャ”は、遠藤さんの素顔を見たがっている。
「はーずーせ!はーずーせー!」
洋介……。
流石にもうやめたほうがいいんじゃないか、とは口が裂けても言えない。
俺は陽キャでいたい。
「なんだ玲斗、お前やらねーのか」
「や……やるよ」
押さえ込め!お前は腕をやれ!
洋介の指示通り、俺は右腕を押さえ込む。
ひっくり返ったカエルみたいになった遠藤さんの口元に洋介が手を伸ばして、マスクを剥がそうとしたその時。
遠藤さんが吐いた。
「きったな!死ねよ!」
反射的に俺ら陽キャたちが手を離して、遠藤さんは廊下へ飛び出てどこかへ逃げてしまった。
「顔まできもいのに吐くとかまじきもじゃん」
洋介、言いすぎだ。
そう言えたら、俺はこんな、“陽キャ”とかいう幼稚なマスクを被ったグループにはいなかったんだと思う。
吐瀉物の臭いに、俺たちは教室から追い出されるように廊下へ逃げた。
「おい玲斗、お前、遠藤のゲボ片付けろよ」
「わ……わかったよ」
物を吐くかのように言って、俺は掃除用具入れに向かった。




