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婚約破棄された悪役令嬢エリシアは、国を救った代償に貴方を忘れました。  作者: テラトンパンチ
過去編

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26/32

マリアも前世の記憶を持っていた

(マリアside)

 私がこの世界の正体に気づいたのは、十歳の誕生日だった。

 理由は単純だ、前世の夢を見た。

 夢の中でこれは前世の記憶だと気づいた。


 目が覚めた時、私は泣いていた。

 理由は二つあった。

 友人のことを思い出して、泣いた。

 そして自分がいる世界の正体に気づいて、泣いた。

 『聖女と七つの誓約』。

 私は、そのゲームのヒロインだ。


 前世の私は、そのゲームを三周した。

 一周目は普通にプレイした。

 二周目は全ルートを攻略した。

 三周目は、なぜか悪役令嬢エリシアのことが気になって、彼女の動向ばかり追った。

 エリシアは、嫌いではなかった。

 傲慢で冷たい悪役令嬢。でも、どこか哀れで。


 もし違う選択ができたなら、という気持ちがずっとあった。

 まさか、その悪役令嬢と同じ世界に転生するとは。

 しかも、ヒロインとして。


 転入初日。

 学院の廊下で、エリシアを見た。

 金の髪と、翡翠の瞳、そして完璧な令嬢の顔。

 ゲームの立ち絵と同じだと思った。

 でも立ち絵とは違うところがあった。


 目が、違う。

 画面越しに見ていた目より、ずっと深い。

 何かを知っている目、何かを決めている目。


 ゲームの中のエリシアには、どこか哀れさがあった。

 愛されたくて、でも方法が分からなくて、破滅していく哀れさ。

 でも今日見た目には、それがなかった。

 代わりに静かな覚悟があった。

 廊下で目が合った時。

 向こうから会釈してきた。

 私は会釈を返しながら、頭の中で考えていた。


 この人は、何かを知っている。


 翌朝。

 食堂で一人でいたら、エリシアが来た。

 悪役令嬢が、自分から近づいてくるとは思っていなかった。

 話しかけられた。

 本の話や魔法の話をした。

 「様もいらない」と言われた時、少し笑えた。


 そして。

 「昨日廊下で目が合った時、あなたの目が気になって」

 「何かを知っている目をしていた」

 「私の目と、似ていると思った」

 心臓が跳ねた。

 やっぱりこの人は、知っている。


 午後。

 図書室に向かったのは、衝動だった。

 確認しなければならなかった。


 エリシアが一人で本を読んでいた。

 隣に座ったが何から話せばいいか分からなかった。

 でも黙っていても仕方がない。

「エリシアさんは」

「なに」

「この世界が、ゲームだって知っていますか」

 エリシアは本のページから目を上げなかった。

 少しの沈黙の後。

 本を閉じた。


「知っている」

 一言だった。

 その一言で、私は泣きそうになった。

 泣かなかった。

 堪えた。

 でも、胸の奥で何かが溶けた気がした。

 一人じゃなかった。

 この世界で、一人じゃなかった。


 話が進むにつれて、分かってきた。

 エリシアは、最初から知っていた。

 十歳から一人で準備してきた‥黒蝕を止めるために。

 禁術を使うつもりだと言った時。

 私は止めたかった。

 でも‥止めることができなかった。


 なぜなら。

 エリシアの目が、本物だったから。

 覚悟を決めた目、怖いのに進もうとする目。


 一人で全部背負って、それでも折れない目。

 ゲームの中のエリシアとは、全然違う。

 この人は()()()()ではない。

 ずっと前から、そうではなかったのだと思う。


「あなたのことも、できれば守りたい」

 言ってしまった。

 言うつもりはなかった。

 でも、口から出ていた。

 エリシアが、少し目を細めた。

「なぜ?」

「あなたは最初から、一人で全部背負ってきた。それが分かって」

 それから。


「同じ記憶を持つ者として、そのまま見ていられない」

 エリシアは少し黙った。

 それから、笑った。

 小さく、でも本物の笑顔で。

「ありがとう」


 その言葉が私には。

 ずっと待っていた言葉のように聞こえた。

 この人は、ずっと一人でいた。

 誰にも言えなかった、誰にも頼れなかった。

 「ありがとう」を言える相手が、いなかった。


 それが今日。

 初めて言えた。

 その瞬間を、私は図書室の静かな空気の中で、ずっと覚えていようと思った。


 図書室を出た後。

 一人で廊下を歩きながら、考えた。

 私はヒロインポジションだ。

 修正力が、私を中心に動いている。

 エリシアを排除しようとする力が、私を通して働いている。

 それが嫌だった。

 転生した時から、ずっと嫌だった。

 私は誰かを傷つけたくない。

 誰かの不幸の上に、自分の幸せを積み上げたくない。

 でも、ゲームはそういう構造だ。


 悪役令嬢が踏みにじられて、ヒロインが救われる。

 そのシナリオが、嫌いだった。

 だから逸脱しようと思っていた。

 でも、一人では限界があった。

 修正力は強い。

 私がどう動こうとしても、世界が元の軌道に戻そうとする。

 でも今日、エリシアに会って。

 少し変わった気がした。

 この人はずっと前から一人で逸脱し続けていた。

 それが、世界を少しずつ変えていた。

 だとすれば二人なら、もっと変えられるのではないだろうか。


 寮に戻る前に、空を見上げた。

 夕方の空が、オレンジに染まっている。

 綺麗だった。

 前世では、こんな風に空を見上げることが少なかった。

 忙しくて、疲れていて。

 いつも下を向いていた。


 今世では、たまに空を見る。

 平民の暮らしは大変だったが空だけは、毎日見ることができた。

 そして今は、魔法学院の生徒だ。

 エリシアという、同じ記憶を持つ人がいる。

 リュカという、明るいクラスメートがいる。

 クレアという、笑顔の優しい令嬢がいる。

 良い世界だ、と思った。

 例え黒蝕が来るとしても。


 エリシアが禁術を使うとしても。

 今この瞬間は、良い世界だ。

「……諦めません」

 空に向かって、小さく言った。

 エリシアに言った言葉を、もう一度。


 自分に向かっても、言った。

 私は諦めない。

 エリシアが一人で全部背負うことを。

 黙って見ていることを。

 諦めない。


 翌日。

 昼食の時間。

 エリシアとクレアとリュカが並んでいるテーブルに、少し離れた場所から声をかけた。

「あの……隣、いいですか」

 三人が振り向いた。

 リュカがすぐに笑顔になった。

「もちろん!昨日転入してきた子だよね。俺、リュカ。よろしく」

「マリアです。よろしくお願いします」

 クレアも笑顔で頷いた。

「私、クレアです。こちらこそ」


 エリシアは、少し間を置いてから。

「来たわね」

 と言った。

 それだけだった。

 でもその一言の中に、昨日の続きがあった気がした。

 私は頷き席に座った。


 リュカがすぐに話しかけてきた。

 クレアが笑いながらフォローした。

 エリシアは静かに紅茶を飲んでいた。

 でも時々視線が来た、確認するような。


 でも、温かい視線。

 私はその視線に、少し慣れながら。

 食事をした。

 テーブルが、少し賑やかになった。

 それが良かった。

 この世界で生きることが今日少しだけ良くなった気がした。


(エリシアside)

 マリアが席に来た。


 リュカがすぐに場を作った。

 クレアが笑顔で迎えた。

 私は紅茶を飲んだ。


 テーブルが四人になった。

 賑やかでうるさい、とは思った。

 でも窓の外の空が、昨日より少し明るく見えた。


 気のせいかもしれない。

 でも気のせいでもいい。

評価、ブックマークぜひよろしくお願いします。

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