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オールバレバレバレンタインデー

掲載日:2026/02/22

オレは今、引き出しにあった一通の手紙に(いざな)われて約束の地に向かっている。

「放課後に校舎裏で待ってます。」

書かれているのはたったそれだけだった。

いつもであれば差出人の名すら書かれていないこんな手紙など、己の目を疑い、鼻で笑い、引き裂いている。

しかし、2月14日という名の魔法がそうはさせなかった。

故に、仕方なく、本当に仕方なく向かっているわけである。


たどり着くと、そこには艶やかな黒のロングヘアーに負けない可憐な顔立ちの子が待っていた。

なるほど、彼女こそがオレにチョコをくれる選ばれし存在らしい。


「…!来てくれたんだね。」


どうやら同学年の男子による狡猾な罠ではないようだ。


「どうしても直接渡したくて。まわりくどいことしちゃってごめんね?」


しかし油断は禁物だ。卑劣なドッキリの可能性がある。

普通の人間であれば判別に時間を要してしまうところだが、力を授かっているオレであれば話は別だ。


オレは特別な(まなこ)を持っている。眼で見たモノの過去の情報を、数珠繋ぎのように見ることができるのだ。


例を挙げるなら、昼に食べた弁当を見ると、作ってくれた母の様子、その母と連絡していた祖母の様子、その祖母と親しく話していた者の様子…のように見ることができる。まあ、超ガバガバな連想ゲームのような感じだ。


学生でありながら社長になれたり、数々の社会の闇を暴いたり。いくつもの利を授けてくれたこの眼をオレは

千利眼(せんりがん)』と呼んでいる。決して、目を休めると美味しいお茶を見極める能力が宿るわけではない。


話が少し逸れてしまったが、さっそく使わせてもらおう。

彼女には申し訳ないが…千利眼!!!



――――――――――――――――――――――――


これは…家でチョコレートを作っている様子だな。とても一生懸命に作ってくれている。とりあえずドッキリではなく、異物が入っているというわけではなさそうだ。

しかし、オレは用心深いオトコ。悪いがもう少しだけ探らせてもらうとしよう。



いくつかの情報を追っていく中で、あるモノが目に止まった。


「………はい、はい。承りました。では、この時刻に彼にチョコレートを渡せばよろしいのですね?」


どうやらチョコを渡してきた彼女は『バレンタイン代行サービス』で雇われた人間らしい。そんなサービスが存在していたとは。しかし、誰が一体何のためにこんなことを。もしや、千利眼を持つオレへの挑戦状…?そこそこ探ってしまっているが、この情報を見てしまった以上ここで捜査を止めるわけにもいかない。



より深く調べていくと、なんとこのバレンタイン代行サービスはオレの子会社からの依頼であることが判明した。アイツら…なんて面倒なことをしてくれたんだ。後でキツく言っておかねば。



どうせここまで見てしまったのだ。もう最後の情報を見てしまってもいいだろう。

オレは、自分の会社の社長室の情報を覗いた。

「…というわけで、オレがバレンタインデーに女子からチョコをもらえるように手筈してくれ。くれぐれも、ややこしい段階は踏んでくれるなよ。」


――――――――――――――――――――――――



千利眼を持ってから、情報を深く追ううちに知りたくないものまで知ってしまうようになった。

オレが金を持っている噂を聞きつけ告白してきた子。

学校で孤立しがちなオレをからかうためにドッキリを仕掛けた子。

スパイ活動で毒入りチョコによって暗殺を謀った子。

何度それらに出会い失望したことか。

しかし、それらの壁がますます本命チョコへの欲望を煽ったのだった。


そうしてオレは思いついたのだ。オレのことを異性として好いていて、信頼できる存在にチョコを渡して貰えば良いではないか、と。


バレンタインが自作自演だと再確認するのはプライドが傷つく。

そして、関係ない人間のプライバシーを除きすぎるのは、オレのポリシーに反する。

それらの理由からあまり千利眼を使って相手の情報を追いすぎなくても良いように部下に依頼したはずだったのだが…

おそらく伝達ミスでこのようなことになってしまったのだろう。それともオレが探りすぎだったのか………


「…ねえ、どうしたの?私の思い、受け取ってくれるかな…?」


しかし、彼女に罪はなく、サービスとはいえチョコをオレのために真剣に作ってくれたのは本当だ。


「…………………………………………メッッッッッッッッチャ嬉しいです!ありがとうございます!!!!!」


来年こそ本命チョコをもらえるよう、好意と信頼を魅力で補うために、自分を磨くようにしてみるか…。



オレは受け取った(うす)ーーーいハート型のチョコを、食べやすいように真っ二つに折ってから、込み上げる思いを抑えるために勢いよく一口で済ましたのだった。

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