朝起きたら、庭がネコのフンだらけになっていた
※しいなここみ様主催『朝起きたら……企画』参加作品です。
朝起きたら、庭がネコのフンだらけになっていた。
えっ、何だこれは──!?
俺は言葉を失ったまま、パジャマ姿の妻と困惑した顔を見合わせた。
団地住まいから、念願の一戸建てに転居して3年。実際に住んでみると、憧れていた頃には気づかなかったマイナス面も色々見えてきた。
まず、何と言っても虫が多い。庭の花を目当てにチョウやハチがやってくるし、それを狙ってクモがあちこちに巣を張る。
そして、もうひとつが野良ネコによるフン害。数か月に一度くらいの頻度だが、ネコのフンが庭に残されているのだ。
まあ、そんなに回数は多くないので、たまたま通りすがりにやられてしまったのだろうと、これまであまり対策は取ってこなかった。
だが、今朝の光景はあまりにひどい。何十匹ものネコが集まったかのように、そこここにフンが残され、花壇の花もだいぶ踏み荒らされている。
それこそご近所中の野良ネコが集まって、ウチの庭で月見の宴でも開いたんじゃないかという惨状だ。
そういえば、このごろ近所で妙に野良ネコが増えたような気はしていた。
これは、早急に対策を講じないとマズいかもしれない。
朝食を食べてから、まずはフンの片付け。ウチの自治体では可燃ゴミで出せるので、二重にしたゴミ袋にまとめて、ゴミステーションまで持っていく。
そして、近所のホームセンターが開く時間を待って、対策グッズを買いに妻と出かけた。
ネコ除けには、大きく分けてふたつのやり方がある。ネコが嫌がる臭いを出す忌避剤を撒くか、超音波を発する装置を置くか、だ。
いや、あれだけの被害だ。もう両方やった方がいいんじゃないだろうか。
そんなことを話し合いながら、売り場の園芸コーナーに向かったんだけど──。
『……どういうこと?』
なぜかネコ対策グッズは完全に品切れだった。ネズミやカラス用の対策グッズは普通に並んでいるのに。
あと2軒ほど他のホームセンターにも行ってみたが、やはり売り切れだ。
「これはどういう現象なんだ?」
「うーん──あっ、あの店員さん、ご近所の奥さんだわ。何か知らないか聞いてみる!」
妻が聞いてきたところによると──。
どうやら、事態は俺たちが思っている以上に深刻だったらしい。
──隣の町内に『ネコばあさん』『ネコばばぁ』などと呼ばれる独居老人がいた。
近所の野良ネコを集めて勝手に餌付けしたり、家にはネコが出入りするのも自由にしているなどでほぼ『ネコ屋敷』と化しており、ご近所さんにはとても迷惑がられていたそうだ。
先日、そのばあさんがぽっくり逝ってしまった。するとその家を相続した親族は、殺虫剤などで家の中のネコたちを追っ払い、あっという間に家を壊して更地にしてしまったのだ。
ボロ家を維持するより、その方が売るにも再利用するにもやりやすいからだろうけど。
そして、行き場を失った大量の野良ネコたちは、新たな居場所を求めてご近所を徘徊しているんだとか。
俺と妻は急いで車を走らせ、ネコ対策グッズを求めてより遠くのホームセンターを廻った。
──マズいマズいマズいっ!!
これだけ売り切れが続くということは、もうご近所さんのほとんどがネコ対策を済ませているに違いない。
ウチはご近所づきあいを面倒くさがって疎かにしていたので、情報が回ってこなかったのだろう。
もし、このままウチだけが何の対策もしないうちに、野良ネコたちに自分たちの縄張りだと認識されてしまったら──!?
夕方。隣の県まで足を延ばし、十数軒回ってようやく目的の品をゲットした俺たちは、疲労困憊で家に辿り着いた。
だが、休んでいる暇などない。すぐにでも対策を講じなければ!
俺は家の前の道路で車を一旦止め、バックでガレージに入れようとしたんだが──。
「うわ、ガレージにネコがあんなにたむろしてる!」
「見て! 庭にも屋根の上にも、ネコがあんなに!?」
何十匹どころじゃない。ウチの敷地を埋め尽くすほどの大量のネコがひしめき合い、俺たちをじっと見ているのだ。近くにいるネコたちは毛を逆立て、威嚇の声をあげ始めている。
──これって、今から忌避剤を撒いても効果あるのか? いや、それ以前に、庭に近づくことすらできないんじゃないのか!?
わ、我が家がネコに乗っ取られてしまった!!
そうこうするうちに、一匹の大柄な三毛ネコがボンネットに乗り、フロントガラス越しに威嚇してきた。爪を立て、フロントガラスの俺の顔のあたりを何度もひっかいてくる。
俺はとっさにワイパー・レバーを操作した。吹き出すウォッシャー液とワイパーの動きに驚いたのか、そのネコがボンネットの横にあわてて飛び降りる。
今だっ!
俺は車を急発進させた。手ごたえはないので、たぶん轢いてはいないはずだ。
とにかく、ここから離れなきゃ危険だ。
俺は、真っ青な顔でガタガタ震えてる妻の手を握りながら、片手で車を走らせた。
ええと、とりあえずしばらくは、妻の実家に避難させてもらうとして──。
でも、これって保健所とか警察に電話したところで、どうにかなるんだろうか……?
ちょっと企画の意図とはズレてるかも。
いやね、猫に恨みがあるとか猫嫌いというわけじゃないんですよ。ただ、ちょっとフンガイする出来事があったもので……(^^;