3-1「これから人が死ぬ家」
レンview~
ネットカフェの一室で、名前の分からない男が居た。
彼のことを知ることに意味は無いだろう。
もうすでに、灰となって消えたのだから。
これでガラスの羽は13枚。
「勝った…のか…」
俺は初の勝利に実感が湧かずに、
その場に座り込んでしまう。
「そうね」
あらいは冷静だった。
「…」
「どうしたの?」
俺の目線が気になったのだろう。
「君にとっては些細な事か?」
「何のこと?」
「分かるだろ、人を殺すってことさ」
「…」
「最初の一回に、今回で2回目。
罪悪感は無いのか?」
「無いわ」
あらいは断言する。
「人を殺してるんだろ、
なにかは感じないのか?」
「それじゃ、黙って殺されろって言うの?」
「それは」
「この議論に答えは無いわ。
生きるために悪になるしかないのが人なの」
「…」
実際に俺が殺した訳じゃないのに、
避難するのは違う…のかもしれない。
俺はそれ以上は言えなかった。
「なにあれ」
あらいは何かに気づいたようだ。
ビル5階ほどの窓から外を眺める。
あらいにつられて、俺も外を覗いてみる。
「あれは…」
上空に煙が立ち上ってる。
バトルロイヤルの世界では可笑しい。
普通ならば煙は嫌なはずだ。
だって、敵に見つかるかもしれないのに。
「罠かもしれない」
「どうするんだ?」
「貴方はどうしたい?」
「俺は…」
戦闘を避けるべきか、叩くべきか。
「前にも行ったと思うけど、
私は貴方の意見を尊重したうえで、
最大限勝利を手にする方法を模索するわ。
でも、大事なのは貴方の意見が何かってこと。ちゃんと言葉にして欲しい。
でないと、私は動けない」
「行って…みたい…」
「どうして、そう思ったの?」
「あれはもしかしたら助けて欲しいって合図なのかもしれない。このバトルロイヤルの世界で本当ならば煙ってのは可笑しいことなんだ、でも、それでも、そうしてるってことは助けて欲しいんじゃないかな…空腹とか…傷だらけで動けないとかさ」
「罠かもしれないわ、それでもいい?」
「ごめん、付き合ってくれる?」
「OK」
「あらい」
「でも、条件があるわ」
「なに?」
「私の後ろに構えていて」
「どうしてさ」
「私が先行して確かめる、次にあなたが背後から援護して」
「あらい…君は…どうして俺のことを庇うような真似をするんだ?」
「さぁ…気のせいじゃない?」
あらいは誤魔化すような顔をする。
「俺は前に…君と会ってるんじゃないのか?…記憶を失う前に」
「黙ってついてきて」
「あらい…」
俺はそれ以上は何も言えなかった。
小さいけれど、確実に強い意思が彼女の中にあると感じたからだった。
「鞄の中に土嚢を詰めて、50口径のライフルは防げないかもしれないけど、小銃程度なら防げると思うわ」
「分かった」
俺は田んぼにある土嚢を取って来て、鞄の中に詰めていく。これで多少なりとも防弾性能が上がったと思う。
「行きましょう」
「あぁ」
俺たちはネットカフェから出て、煙が立ち上る方へ向かったのだった。
そこは公園だった。
俺たちは遠くの茂みに隠れて様子を見る。
「…」
あらいは双眼鏡で公園を覗く。
「どう?」
「1人しか居ないわ」
「武器は?」
「プラカード」
「え?」
「だから、プラカードよ」
「それは武器じゃないだろう」
「私もそう思うわ、でもね。
他に持ってるものは無さそうなの」
「何で言い切れるんだ?」
「見ればわかるわ」
あらいに双眼鏡を借りる。
そして、俺も覗いてみる。
「あれは…」
あろうことか、プラカードを持ってるのは若い女性だった。恰好は頭にネットを被っていて、これも良く分からないが、それ以上に何故かビキニ姿で、プラカードには平和と書かれていた。厚着をしていたら、ポケットに銃を忍ばせてるかもしれない。そう、感じるがビキニでは隠しようがない。武器は持って無さそうだ。
「近くに武器を隠し持ってるかも。
例えば茂みの中に銃があるとか」
「持ってないんじゃないか、根拠は無いが」
「それは危険だわ」
「でも」
俺は直感だが敵ではないと思えた。
「先に私が行くわ」
あらいが先行する。
「分かった」
俺は茂みに隠れたまま拳銃を構える。
「…!」
「…」
あらいとビキニの女性が話し合いをしてる。
遠くに居るからか、何を言ってるかは分からない。
「…?」
「…」
あらいはこっちに来いとアピールしてる。
何となく無害そうだと分かった。
俺は顔を出して接近する。
「戦いを止めましょう!」
ビキニの女はそんなことを言ってくる。
「なんでそんなことを言うんだ?」
俺は戸惑う。
バトルロイヤルの世界でこんな子がいるとは。
「まずは自己紹介ですね。
しぃの名前は霊堂みやこって言います。
よろしくです」
彼女は手を差し出す。
「あぁ、どうも…」
俺は握手する。
「なんでそんなことを言うんだ、って問いに答えましょう。それはですね、平和が一番、だからですッ!」
みやこは力強く訴える。
「はぁ」
俺は同意するべきか迷う。
「銃を持って戦う何て野蛮です。
そんなことをしなくても人は手と手を取り合って仲良くなれる、しぃはそう信じてるのですッ!」
みやこはその場でくるくる回って、そんなことを言う。
「そう言って背後から、撃つんじゃないの?」
あらいがそんなことを言う。
「違います、誓ってそんなことはしぃはしないですッ!」
「レン、銃を向けておいて。
変な動きをしたら撃って」
「あ…あぁ…」
俺は拳銃を構えてみやこに向ける。
「いいですよ~。どんどん疑ってください。
その分、反動で信じて貰ったら凄いんですッ」
みやこは物怖じしない雰囲気だった。
「…」
あらいは徹底的に身体をまさぐる。
「あん、何だかちょっとエッチですッ」
みやこは悶える。
「黙ってて」
あらいは冷静に対処する。
「はい…」
みやこは少し落ち込んでいた。
冗談がウケなかったからかもしれない。
「周囲も探してみるわ」
あらいは茂みを探る。
「うふふ…いくら探しても見つかりませんよ。
ねぇ…恋人さん?」
みやこは俺の方を見て言ってくるので、
恐らく俺の事だろうと思って返事する。
「恋人…って誰のことだ?」
俺は尋ねる。
「あら、違うんですか?」
みやこは驚いた顔をする。
「別に…そういう間柄じゃない。
俺たちは単なる共闘関係を結んだだけの昨日今日の間柄だ」
俺は淡々と答える。
「その割には、随分と信頼し合ってるように見えますが?」
みやこは確信めいたことを言う。
「俺は別に信頼してない」
「それだったらどうしてしぃにだけ銃を向けるんですか?」
みやこに鋭いことを言われる。
「それは」
俺は答えに詰まる。
「だって、本当に信じてないのならば帽子の子を視線から外さないようにするべきでしょ。
それなのに、どうしてしぃにだけ向けるんです?」
「…」
確かにそうだ。
怪しいのは何もみやこだけに限った話ではない。
あらいだって怪しいんだ。
「それはやっぱり信頼してるんですッ!」
「う、うるさい」
俺は銃をちらつかせて脅す。
「うふふ…貴方にしぃは殺せない」
「どうして言い切れる」
「目が優しいですッ」
「俺は優しくなんか…」
すでに2人を見殺しにしてるんだ。
その事実を伝えたら、きっとみやこは幻滅する。
「話は終わった?」
あらいが戻ってくる。
「はいですッ」
みやこはにこッと笑う。
「…」
俺は何だか情けない気分だった。
すでに2人を見殺しにしてるのに、
まだ戦うということに迷ってるのだから。
「私なりに徹底的に調べたわ。
土の中も掘り返したり、茂みの中も探した。
木の中も隠してるんじゃないかって思ったけど無かった。公園の遊具にもそれらしいものが見つからなかった。武器がないってのは信じていいかも」
あらいはそう結論付けたようだった。
「しぃのことを信じた?」
「俺は少し信じていいって思ったかも」
甘いかもしれないが、
そう思えた。
「私はまだ信じるって決断はできない」
けれどあらいは警戒心を解く気は無さそうだった。
「んふふ…いいんですッ…しぃは…戦わない選択をしてもらうだけで十分ですッ!」
しぃはにこッと笑う。
その顔はとても邪悪とは思えなかった。