2-5
あらいはバレないように移動を開始する。
作戦は俺がどれだけ目立てるかだ。
自分が最高のインフルエンサーだと思え。
俺の言葉には世界が耳を傾けると。
そうやって思い込むことで、
自分の言葉に自信をつける。
「バリケードに隠れて狙うなんて卑怯だと思わないか?」
俺は煽る。
しかし相手は無視。
いつまでそうやって無視し続けられるかな。
敵が傍に居るんだ、銃は俺の方に向けてるよな?
あらいview~
「急がないと」
絶対に彼を死なせるわけにいかない。
そのために私は戦うんだ。
この場に来たのには意味がある。
これは2度と訪れることのないチャンス。
だからこそモノにしなければならない。
失敗する気はない。
私は急いで屋上へ移動する。
そして、先ほどコンビニでくすねた縄を自分の腰に結ぶ。
”きゅっ”と縛る音が。
屋上のフェンスの支柱にカラビナで固定。
”かちっ”と何かがハマった音が聞こえる。
よしっと思う。
準備はOK、私はレンにメッセージを送る。
レンview~
「来た」
あらいからOKのメッセージがスマホに。
ポケットに忍ばせてある。
バイブレーションが腰に響く。
メッセージが来たと感じる。
スマホの画面を見ないのは俺が敵を見失うことを恐れての事だった。
さてと…やるか…一か八かだが。
上手く行ってくれよ?
鈴木陽太view~
この身の名前は鈴木陽太。
年齢は27歳で、
身長は182cm、体重は58kg。
性別は男性だ。
武器はボルトアクションライフル。
10発しかないから、考えて撃つ必要がある。
しかし1km離れた所から撃てるのはメリットだ。
この武器を選んだ甲斐がある。
性格はナルシストだと自負してる。
自分をカッコいいと思う事の何処が悪いのかが分からないからだ。
座右の銘は
完全無欠の、
十全十美
理想完全、
完美無瑕
全て同じ意味で要は
完璧ってこと。
何が完璧って、この身がである。
見た目はヴィジュアル系の恰好にガラスの羽。
それがこの身の姿だった。
この身こそが最高にカッコいい。
だから生き残るのはこの身だ。
職業はプロゲーマー。
見た目が地味な奴らよりも、派手な見た目をしてるから結構印象に残ってもらいやすくお陰でチャンネル登録者数100万人は超えてる。
まぁ、人類の上位クラスだと言っても過言ではない。
だからこそ、このバトルロイヤルで負けるわけにはいかない。
世界中のファンがこの身を待ってるのだから。
生き残るべきは…この身だ!
スナイパーのスコープを覗き込む。
「あいつ…何をやってるんだ?」
それは戦場では奇妙な光景だった。
「…」
敵のスウェット男は不思議な動きをする。
立ち上がって開けた場所へ。
缶コーヒーをポケットから出すのだった。
指で開けてぷしゅという空気の音が。
珈琲の香りが部屋に広がるり、椅子に座りこんだ。
何をするのかと思えば漫画を読み始めるではないか。
紙が擦れる音が聞こえる。
「何故あんなことを」
ここは戦場だ、普通ならば敵に姿をさらさない。
漫画のバリケードに隠れるのが普通だ。
その余裕は何処から来る?
誘ってる?いや戦いを諦めて降参か?
この身は完璧主義だ。
それは環境の変化に敏感であることを自負してる。
理想と違うってことはそれは”ありえない”ことだからだ。
だから、一瞬の隙が出来てしまったのは避けれなかった。
「はあああああっ!」
ダンボールで塞がれた窓ガラスを割って侵入してくる女が居た。
外から明かりが入ってくる。
薄暗い部屋が一気に輝きに満ちた場所に。
「あらい!」
敵の男が叫ぶ。
彼女はあらい…というのか。
この身の…2番目に美しい女性だった。
窓を突き破ってこの身の目の前に現れる。
「さようなら」
彼女は手に持った消防斧を振り上げる。
そして、この身に打ち込んできた。
「この身が…この身が…負けるはずが…ッ」
ゲームの世界では負けたことが無かった。
だから、リアルでも負けることは無いと何処か、
己惚れていた。
だが、気づいたときにはもう、遅かった。
敗北。
その言葉が身に染みる。
この身は…。
ゲームの世界で負けたことの無い天才だった。
この身は完璧だと思っていた。
誰もが敬い、誰もが見上げる存在。
そしてこの身は全てを見下す存在だった。
天上の存在。
穢れなき、美しい、完璧な存在。
この身が鏡に映るそれは
”ミロのヴィーナス”を思わせる存在だった。
この身こそが彫刻のような存在だと信じて疑わなかった。
だが、完璧を壊す存在が目の前に現れた。
それは両手を持ったミロのヴィーナスを思わせる女性だった。手には消防斧を握られていて、
俺に向って振り下ろそうとしてくるのだった。
反撃をしようと思った。
でも、撃てなかった。
ここで反撃してしまえばこの身が完ぺきではないと認めてしまう気がして。
だって、そうだろ?
完璧を追い求めて籠城をしたのにも関わらず、
何一つ不自由のない世界を作り上げたと自負した。
この身の城を作り上げたと1人喜んでいた。
でも、その城があっさりと壊された。
目の前の少女に。
あぁ…そうか…彼女にミロのヴィーナスを感じていたのは勘違いだ。
ミロのヴィーナスに両手がついたと感じた、
だから完璧が失われたのだと気づいた。
鏡とは瞳だ。
映っていたのは…この身だから。
この身に両手がついていたから完璧が失われたのだと気づかされてしまった。