2-2
いろいろとリュックにモノを積め終わる。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
俺たちはコンビニから出る。
自動ドアを潜り抜けて、外に出た瞬間。
なにかが通り抜ける。
「えっ」
あらいのベレー帽が吹き飛ぶ。
「何処から…」
俺は周囲を見渡す。
「危ない!」
あらいは急いで俺のことを引っ張って、
コンビニ内に隠れる。
「一体何が」
「伏せて、出来る限り外から見えない位置に」
「あ…あぁ…」
あらいに言われる通り俺は隠れる。
「敵に見られたのね、やられたわ」
「あらい、それ」
俺は指さす。
彼女の手には穴の開いた帽子が握られてる。
「北側ね」
「いや、俺はただ穴開いて被れないって思って」
ファッションとして変になるのではとどうでもいいことを気にしてしまう。
恐らく心理学で言う所の楽観的バイアスが働いてるのかもしれないと思った。
俺はこのバトルロイヤルをまだ何処か他人事と思ってる節がある。いい加減、当事者だと気づけ。
理性では分かってるが本能でついていかない。
「あぁ、そっち?」
あらいは苦笑する。
「それにしても北ってどういうことだ?」
「帽子の穴は後ろに裂けているでしょ、
だから、北方向からだと推測したの」
「敵はわざと外した?それとも偶然?」
「偶然だと思うわ」
「根拠は?」
「本来ならば頭を貫通してたと思う。
でも、私は運よく生きてる。何故か?
それは恐らく、敵は熱の計算を忘れたの」
「熱の計算?」
「アスファルトの熱が上昇気流を発生させて、
弾が僅かに上昇。お陰で私は死なずに済んだって訳」
「なるほど」
筋は通ってると思う。
普通の人間ならば、
銃を構えた時に、敵に向かって撃つ。
それで終わりの筈だ。
それが普通の筈だ。
しかし、プロならばその弾が何故、どうやって敵に当たるのかを計算して撃つ。
「敵は確かに失敗した。でもね、どんなに馬鹿でも修正を加える筈よ。次は確実に当てて来ると思う」
「外は危険か」
「敵との距離は700m~1kmだと推測」
「何故?」
「スナイパーライフルの射程距離がそれぐらいだから」
「近くからの射撃では?」
「拳銃や機関銃とは思えない」
「何で言い切れる」
やけに自信がある口ぶりだったから変に思って。
「近くならば発砲音が聞こえても可笑しくない。
それに近くまで来てるのならば、
弾を数発撃ちこんだ方が命中率が上がる筈。
にも関わらず弾丸は1発だけ。
アサルトライフルや、サブマシンガンとは思えない。という事は、敵の中で確信があった時に射撃してると思う方が自然。そんな戦い方をするのはスナイパーライフルを武器に持つ人間でしょ?
よって遠くからの射撃と推測したわ」
「でもどこから?」
「恐らくあそこからの射撃だと思う」
あらいは断言する。
「あそこ?」
「コンビニには周辺の地図が置いてあるはずよ」
「これか?」
店員だけが入れるカウンターに入るとすぐに見つかった。
「敵の位置は恐らくここ」
彼女はレジカウンターに身を隠しながら指をさす。
そこは、何の変哲もない雑居ビル。
だが、あらいには敵の巣に見えるのだろう
「ここからどうやっていく?
そもそも戦うのか?逃げるって選択肢もあると思うが」
この戦いがバトルロイヤルならば、
無理して戦わないのも1つの選択肢だと思った。
別の人間同士が争って数が減ってから戦った方が合理的だろ思ったのだ。
「…」
けれど、あらいは予想外の行動を取る。
「何してるの?」
俺の問いに答えるよりも先に動いてる。
「ちょっと見てて」
あらいは、スマホの自撮り棒にペットボトルをガムテープで固定してる。
「何してるんだ?」
俺は不思議に思う
「よいしょっと」
あらいははペットボトルを何やら釣りのルアーのように動かす。目の前に物体がやってきたからか、扉のセンサーが反応して自動扉が開く。
そして、ペットボトルだけが外に出る。
外に晒されたことで太陽の光を受ける。
そのお陰でペットボトルの中の水は光を反射してキラリと光る。
「一体何を」
「しっ」
あらいに指で口を押えられる。
黙って見てろってことだろう。
俺は言われた通り黙って観察する。
すると、風を切るような音が聞こえる。
”ヒュン!”
2発目の弾丸が飛んでくる。
弾がペットボトルに命中。
鋭い破裂音と共に、ペットボトルが弾け飛ぶ。
破損したペットボトルから水しぶきが飛び散る。
地面とぶつかり、こーんと乾いた音。
「煽ったのか?」
光を反射させて敵の射撃を煽ったと思った。
「敵は自分の射撃に自信があるんだわ。
そして先ほどの熱の計算を忘れたことを再修正。
今度は確実に当てて来た。
恐らく相手は笑ってる。
”ほら見ろ、俺は天才だ”
って言うという風にね。
「驚いたなMBTIでもやったのか?」
俺はあらいが理知的で驚く。
「賢く見える?」
あらいは俺に褒めて貰えて嬉しそうだった。