6-5
監視室のモニターが破壊されており火花が散ってる。
部屋は薄暗い。
壊れたモニターからの光源が頼り。
その時だった。
扉がきぃと軋む音が聞こえる。
「誰だ!」
俺は思わず振り向く。
すると扉の隙間から誰かが覗いてることに気づく。
視線が一瞬合う。
あまりにも冷静過ぎて人とは思えない目だった。
「…」
覗いた相手は沈黙。
その時に走る足音がする。
その人物は逃げたと思われる。
追いかけようかと思ったその時。
突然アナウンスが流れる。
恐らく放送室からだった。
なのでハッキング技術は不要。
「遠野あらい…居るんだろ?」
それは名指しだった。
「誰?」
「君をイベント会場に招待するよ…言っておくが逃げても無駄だよ…君たちの動きは把握してるからね…そうそう…彼氏君も一緒に来なよ…それじゃ…楽しみに待ってる」
ぶつっと一方的に切断される。
「俺は別に彼氏って訳じゃないんだがな」
名前だけはあらいの元恋人だからか、
敵は勘違いしたのかもしれない。
「…」
あらいは何か考え込むしぐさをする。
「何か思い当たるのか?」
「いいえ、何も。
でも名指しってことは向こうにとっては重要なんでしょうね」
「どうする、無視するか?」
「私は行くつもりよ」
「どうしてだ?」
「指名されたのだから恐らく罠が仕掛けられてる。しかしそれを予測して別の場所に行く。
けれど逆に別の場所に罠の可能性があるわ。
なら敢えて指定された場所に行った方が罠があると警戒できるから安全性が上がるのでは?」
あらいはそう考えたらしい。
「考えすぎじゃないのか?」
「前にも言ったでしょ…」
「無駄を重ねることで安全性を上げる…だろ?」
「そう、覚えたのね」
「君一人じゃ心配だ、俺も行く」
「いきなり二人同時に顔を見せることは無いわ。後ろから隠れて援護して」
「敵にバレてるんじゃないのか?」
「バレてるからこそ有効なの。
私が1人で来たら、レンが隠れてるって思うでしょ。だから迂闊に動けない…相手も様子見ると思うの」
「なるほどね」
「もう一人の敵は放っておく?」
あらいに尋ねられる。
「俺は放っておく気で居る」
「どうして?」
「敵の狙いが分断にある可能性がある。
だったら敢えてあらいに同行した方がいいと俺は思った」
「貴方がその考えなら私は受け入れるわ」
「作戦は決まったな」
「えぇ、向かいましょう」
俺たちは招待された舞台に行くのだった。
それは嫌いな人間から招待状を貰うようなものだったが行かない訳にはいかない。
逃げることは決して悪ではない。
だが、今は戦うべきなのだと思ったから。
イベント会場に向かう。
「俺は背後に隠れてる」
俺は座席に隠れてショットガンを構える。
「そうして」
あらいがコツコツと階段を下りて舞台に近づく。
すると、そこでは弦楽器の音が聞こえる。
会場の上でワルツを踊ってるドレスの女性が。
女性は貴族の恰好をした男性を抱きかかえて踊る。
あらいはワルツの演奏が終わるのを待つ。
音が止む。
演奏終了したのだろう。
「待ちわびた」
ドレスの女性はとあらいを見て笑う。
「どうして私を名指ししたの?」
「うふ…うふふふ…」
ドレスの女は笑う。
「なに?」
あらいは少し不機嫌そうだった。
「彼に…見覚えはある?」
ドレスの女は一緒に踊ってた男の顔を見せる。
するとそこには腐敗したゾンビの顔になった男が。
「これは…酷いわ」
あらいは思わず鼻を抑えていた。
ドレスの女はゾンビと踊っていた。
なんという異常性だろうか。
「お前に殺されたんだ!」
ドレスの女は怒りが思わず口から溢れる。
「さぁ…覚えが無いわ」
敵が熱くなってるのに対して、あらいは冷たく言い放つのだった。
「お前がやったんだ、ワナは絶対に許さない!」
ステージと観客席の照明が光り輝く。
戦闘開始。
そんな言葉が浮かんで来た。
ドレスの女はゾンビ男を寝かせた後、
ドレスの女はライトマシンガンを取り出す。
フワフワドレスに背中にガラスの羽という可愛らしい恰好からは想像できない程醜悪なモノを持っていた。
女性の手では持つのは無理な筈だ。
にも関わらず、まるで小説を持ち上げるように簡単に振り回す。
そして、ライトマシンガンを客席に向けて発砲。
「ちっ」
あらいは舌打ちをして走りだす。
その時に俺はドレスの女にショットガンで発砲。
しかしドレスの女に命中しない。
「なんでだ?」
「うふふ…そんな所に隠れてたんだ…でも…届かないよ」
ドレスの女は柔らかく微笑む。
「盾を仕込んでいたって訳」
あらいが声を出す。
「正解よ…あらいちゃん」
ドレスの女は笑う。
「そうか…あれは音響反響板か」
透明な音響反響板で、防弾仕様なんだろう。
素材はアクリルで出来てる。
遠めだと何も見えないが、
近くだと分かるのだろう。
透けて見えるがわずかに歪む。
反響版はステージと客席の境目に設置されてる。
照明を使ったのは単に戦闘を派手にする理由では無かった。
これが理由なんだろう。
グレア現象で反響版を見えにくくするためだろう。
「死んじゃえ、彼氏君」
ドレスの女は俺に照準を合わせる。
「不味いな」
俺も逃げようと走る準備をする。
「させない」
あらいはスナイパーライフル(アイアンサイト)を発砲
しかし反響版に防がれる。
「うふふ…当たらないわ…お馬鹿さん」
ドレスの女は当たらないと得意げだった。
「あらい…こんな敵…どうすれば」
「何処かに隙がある筈よ」
「隙って一体どこに…」
「はっ」
あらいはあることに気づいたのか目がカッと開く。
次の瞬間不敵に笑う。
「うふふ…このまま2人とも死んじゃえ」
ドレスの女はマシンガンを構える。
「死ぬのは貴方よ」
あらいは照準を相手の頭に構える。
「無駄なのに…」
ドレス女は不敵に笑う。
「どうかしらね」
あらいは銃を発砲する。
そしてボルトアクションを行い次の弾丸を装填する。
「何処に撃ってるのかしら」
「次は…当てる」
あらいは再度放つ。
すると、今度は命中する。
「なん…で…」
ドレスの女はステージ上で倒れるのだった。
「どうして」
俺はドレスの女と同じように不思議な気分だった。
今まで反響版が盾になって当たらなかったのに。
「反響版を壁にしたとしても敵は撃ってる。
この矛盾を紐解くと1つの答えが出たわ。
それは銃を撃つ場所だけは穴をあける必要があるってこと。
その穴を狙って撃てば敵に届くという理屈よ」
「だが…そんな正確に分かるのか。
こんな透明の壁なのに」
「見て」
「あれは」
敵の返り血でくっくりと十字の隙間が見える。
あの小さな隙間を撃ったのだろう。
「例えば壁を4つ並べた時に十字の隙間が出来る。
そこから敵は銃を撃っていたのよ」
「どうして気づいた?」
今でこそ返り血がついてはっきり見えるが、
あの段階ではまだついてなかった。
つまりはほぼ透明だったのだ。
「透明な防弾反響板はあくまで…高透過。
完全に光を通すわけではない。
素材表面で微妙な散乱や屈折が生じる。
そのため背後への照明がわずかに減衰する。
それに対しパネルとパネルの間にある…隙間。
これは遮る物がない。
だから光が直線的に強く差し込む。
反響板の隙間部分の光だけが強くなるって訳。
その結果まわりよりも明るくなるのが見えた。
光の強弱によって隙間の形が浮かび上がる。
私にはスリット状のラインが見えたのよ」
「そう…だったのか」
あらいはかなり注意してみていたのだろう。
俺にはさっぱりだった。
「がはっ…そんなことが…」
ドレスの女はまだ生きてる。
足を撃たれただけで死んでないと分かる
だが…苦しそうだった。
あらいは近づいて強引に反響版を外す。
「あれは…恋人?」
あらいは尋ねる。
「そうよ…愛し合ってたんだから…ワナは…このゲームに参加するとき…軽い気持ちだった…それこそ…大学のサークルに入るみたいにね…でも…実際は殺し合いで…悲しみに満ちたものだった…最初に…貴方がアダルトショップで倒した男が…ワナの恋人だった…あの時に復讐すれば良かった…でも怖くて隠れてた…軽い気持ちだったのにどうして…こんなことにって…でも…時間が経つにつれて…悲しみよりも…怒りが湧いてきた…そう…あらいちゃんにね…うふふ…ワナってば…馬鹿ね…結局のところ勝てないんだもん」
「貴方は何処か私と似てるわ」
「似てる…?」
「恋人のために戦うのは同じってこと。
なにかが違えば…私は貴方と同じになってた」
「そう…そういうことだったの」
「ねぇ、名前を教えて」
あらいは尋ねる。
「ワナは…光歌すみれ…彼の名前は…早川…信…二」
「ありがとう」
あらいは止めを刺す。
光歌すみれは絶命するのだった。
すると、不思議なもので後を追うように
2人は灰となって消える。
ガラスの羽が3枚になった。
「2人は…天国に行けたのだろうか」
「さぁね、地獄かも」
「冷静なのか…冷たいだけなのか」
「私は善人って訳じゃないからね」
あらいとそんなやりとりをするのだった。




