6-3
「ついたわね」
「ここが…」
俺たちは地下倉庫内に潜入する。
すでに敵の陣地に入ったと思っていいだろう。
「用心して灯りはつけないでおきましょう」
「了解」
月明かりを頼りに警戒。
ハエの音も聞こえない程の静寂。
「居なそうね」
「そうみたいだな」
辺りを探索したが、敵の気配は感じなかった。
誰も居ないと分かり、俺は安堵した。
「このままだと水滴が落ちて、大変だわ」
「そうだな」
地下の運河から来たので服が濡れてる。
ぽたり、ぽたりと水が雫になって地面と演奏してるような気がした。
「…」
後ろから衣擦れの音が。
「何して…っと」
俺は振り返る。
あらいが服を脱ぎ始めたからだ。
「見てもいいのに」
あらいはそんなことを言ってくる。
「人前で肌を晒すなよ…そういうのは恋人の前でだけにしてくれ」
「そうね、そうするわ」
「ったく…」
夏場の30度だから寒くないだろう。
あらいは、人前で肌を晒すのに抵抗が無い?
俺は不思議に思う(慣れてる?)
あらいは何処か余裕そう。
俺だけか…照れくさいのは。
大人の男だったら女の裸ぐらいで狼狽えないのが普通なんだろう。
でも、俺は記憶が無いから初めて見た気がする。
どれだけ経験があっても狼狽えてしまうだろう。
「ねぇ」
あらいは話しかけて来る。
「終わったのか…ってまだじゃないか」
俺は振り返ろうとしたが、下着姿だったので驚く。
「そんなに恥ずかしがることないのに」
あらいは微笑む。
「裸族め」
あらいは恥じらいの一つも見せなかった。
まるでそれが当たり前の行為に見えた。
それは戦場で生き残るために冷静で行動してるだけ?
それとも…誰かの前で同じようにしてきたのか?
「貴方も脱がないとダメよ」
「どうして俺も」
「だって絞らないと、水滴が落ちて敵の目印になるわ」
「確かに…君の言う通りだ」
「ほら、脱がないと」
「俺一人で十分だよ」
1人で服を絞ろうとする。
この音ひとつで命を落とすかもしれない。
なのに、肌を晒すことの方が先に頭を占めていた。
俺は人として…いや、兵士として未熟なのかもしれない。
「ダメよ、自分一人でやろうとしても案外絞り切れないんだから」
「って言ってもな」
「ほら、恥ずかしがってないでやりましょう」
あらいがすっと近づいて来る。
「分かったよ」
香水の甘い香りする。
俺は彼女にドキドキしっぱなしだった。
女の色香に弱いなと自分自身呆れてしまう。
「せーの」
「っしょ」
2人で絞ると水が沢山出るのだった。
「ほら、凄い出た」
得意げに見えた。
「お前の言う通りだったよ」
俺は感謝を伝える。
「これでばっちりね」
俺たちは服を着直す。
水気が切れて重くなかった。
「動きやすくなった」
着替え終えた俺たちは、しばらくその場で息を整えた。
滴る水音も、もう聞こえない。
再び、静寂が戻ってくる。
舞台に上がる前、蝶ネクタイを直すような仕草。
その静けさの裏に、一滴程度の違和感が混じっていた。
「これでモールに入れるわ、行きましょう」
「あぁ」
俺たちはドアノブに手をかけた。
そのときだった。
例えるならば、砂時計の砂が落ちるぐらいの小さな音。
何かが軋むような音がした。
その音を聞き俺たちは呼吸が止まる。
2人の目が合う。
大丈夫なのか?
その言葉が過ったけれど、
引き返す訳にはいかない。
それでも俺たちは、ドアノブを捻るのだった。
モール1階。
モールの中はエアコンが効いてる。
外は夏場30度ほどなのに、
モールの中は少し寒いくらいだった。
器械音以外は何も聞こえない。
銃撃戦があったのか、至る所が破壊されていた。
「何だか不気味ね」
あらいがそんなことを言う。
モールの白い床には破片と、
ガラスの欠片が散乱。
冷たい人工灯が静かにそれを照らし、
戦闘後の凄惨な現場を表していた。
「俺にはそう思えない、敵が居なくて安心するよ」
「本当に居ないかしら」
俺はあらいの言葉に少し戸惑う。
「どういうことだ?」
「見て」
「あれは…」
フードコートエリアにワイヤーを発見する。
「どう見ても罠ね」
「危ないな」
「触れなければ大丈夫だと思うけど…」
「気にしてもしょうがない、進もう」
「大丈夫かな」
「平気だって、踏むとナイフとか釘が飛んでくるんだろ。
なら跨げば平気だよ…ワイヤーにさえ触れなければ大丈夫」
俺はゆっくりと足を上げる。
「ちょっと待って…動くのはまだ」
「平気だって」
俺は慎重にワイヤーを跨いだ。
けれど…そのときだった。
跨いだ後に赤外線センサーに接触した。
婦人服売り場のマネキンの目が赤く輝く。
「レン!」
あらいは叫ぶ。
「もしかして…俺やっちゃいました?」
ミスをしたかと思った。
しかし何も起きない。
「罠…じゃない?」
あらいは困惑する。
「はは…見掛け倒しだな…脅かせやがって」
罠は失敗作だと、高を括っていた。
だが、違った。
次の瞬間、マネキンの口元が笑う。
その不気味な笑みは生命からかけ離れたものを感じる。
マネキンの口が開き、フォークが湧いた。
きりきりと音を立てながら、フォークが少しずつ前に。
そして、銃弾を思わせるほどの…。
いや、それ以上の速度で、空気を裂いて飛んで来た。
時が止まったかのように世界がゆっくりに見えた。
「死なせるものか!」
あらいは俺を押し飛ばす。
フォークの回避に成功。
フォークは勢いが良く壁に突き刺さる。
「助かった…ありがとう」
俺は感謝を伝える。
でも、その声はかすれていた。
命が手元から零れなかった感覚が、
まだ胸の奥を締めつけていた。
「いいの、助けたかったから」
あらいは素っ気ない感じで言う。
俺は彼女の傍に行こうと思った。
だが、その時だった。
突如、金属が擦れ合う耳障りな音が響いた。
がしゃーん。
彼女の持つ瞳の輝きが見えなくなった。
分厚いシャッターが落ちて重い音がする。
「あらい、生きてるか!?」
俺たちは分断される。
心配になって声を出す。
「私は平気、そっちは無事なの?」
あらいは俺を心配する声が。
「大丈夫だ」
俺は自分の無事を伝える。
「シャッターが降りたタイミングが完璧すぎる」
あらいはそんなことを言う。
「どういうことだ?」
「恐らく…誰かが見てる」
「そんな」
「マネキンの時もそうだったけど、
タイミングが良過ぎる、見てないと出来ないと思う」
「…」
彼女の言い分は説得力がある。
「この!」
あらいは見えないが、恐らく殴るか蹴るかしたのだろう。
派手な音がしたから分かった。
しかし壊れそうにない。
シャッターの壁は分厚かった。
「どうするんだ、これ…壊せるのか?」
「多分、無理ね」
「じゃあ、どうするんだよ」
「再会する場所を探しましょう。
2階へ行けば会えるもの」
「だけど…別行動するのは不安だ」
「大丈夫、必ず会えるわ」
彼女の言葉はとても力強いモノだった。
あらいの足音が遠くなっていく。
俺は1人で行動することに。
このまま立ち止まれないと覚悟を決める。
2階への階段を探すのだった。




