6-2
「嘘…そんな」
急にあらいが慌て始める。
「どうしたんだ?」
冷静じゃないのが珍しいと感じる。
「5人…消えた」
「消えたってまさか」
俺はあらいのガラスの羽を確認する。
すると、残りが4枚になってることに気づく。
ということはこの世界に残ってる人間は4人だけ。
そういうことだろう。
「戦いも、そろそろ終わりってことね」
「終わり…」
バトルロイヤルの決着がつく。
それはすなわち、勝者が決まる。
最後の1人が。
あらいは…どういう行動を取るのだろうか。
今まで俺と一緒にやってきたが…最後は裏切って俺を見捨てる?
それとも最後まで助けてくれるのだろうか?
「最後の舞台はあそこ」
あらいは指さす。
そこには巨大なショッピングモールが見えるのだった。
「あそこが…戦いの最後の舞台…」
普通ならば買い物を楽しむ、日常の風景の一部。
しかし今では悍ましい戦場に見えるのだった。
「敵は確実にあそこに居る。
すでに5人は倒されてるけどね」
「ということは実質2人か」
「えぇ、2人とも運や実力が高い人たちだって分かる。
今まで以上に気を引き締めていきましょう」
「あぁ…分かった」
「それで…作戦なんだけど」
あらいは紙の地図を出す。
「どうして、そんなものを」
まるでゲームを企画した側の人間みたいだった。
「今はそんなことどうでもいいじゃない、大事なのは生き残る方法を考える事よ」
「…」
どうでもいいことか?
でも、ここで彼女を怒らせるのは怖い。
敵対するよりも協力関係の方がいいだろう。
ここは黙ってることした。
「私は正面からの戦闘は避けるべきだと思ってる」
「ってことは背後から侵入?」
「いや…敵は背後にも気を配ってると思う」
「なら、どうしたらいいんだ。
空でも飛んで上から侵入するのか?」
「その逆よ、地下から行くの」
「地下?」
「地図を見て」
あらいが指さすところに奇妙なものを見つける。
「これは運河か?」
「外にある自然の運河と繋がってる、
そこから侵入できるはずよ」
「だが、敵もそのことに気づいてるんじゃないのか。
こうして地図に載ってるんだし」
「果たしてそうかしら」
「どういうことだ?」
「スマホの地図を見てみて」
「あぁ…」
スマホの地図を確認する。
GPSと連動させると位置情報でバレると思ったので、
前にスクリーンショットで撮影したもので確認する。
「気づいたでしょ」
「これは…」
スマホの地図にはキャナルが書いてない。
これは1週間以内に撮ったものだ。
いくらなんでも1週間で変更されるとは思えない。
この地図は最新の筈…にも関わらずどうしてないんだ。
「この紙の地図は古い情報なの。
今では使われてないキャナルだから乗ってないって訳」
「なるほど」
確かに、これなら敵の不意をつけそうだ。
情報に差があるのだから有利かもしれない。
「モールの下に物流用の地下トンネルがあって、キャナルを通って船で荷物を運んでいたわ。現在は使われてないけど、水位が低く
通行は可能よ」
「いける気がしてきたな」
「キャナルの名称は旧物流超越江水道線使用で、
自然の運河の名前は超越江よ」
「分かった」
地図と照らし合わせて場所を確認する。
地図上ではモールとちゃんと繋がって見えた。
「行きましょう」
「了解」
俺たちは高架橋へ近づく。
地上の人は車でショッピングモールに行く。
ここに地下もあり、運河が流れてる。
物流として使われた過去があり、
開かれてる場所だった。
「ついたわ」
「ここがキャナル…」
高架橋のお陰で影になっていて見にくい。
侵入にはうってつけだろう。
「外から覗きましょう」
「どうやって?」
「こうやって」
あらいはトンネルの外から双眼鏡を取り出して覗く。
敵から見つかることを警戒して、
構造柱の下に陰がある所から望遠鏡で覗く。
中の様子を確認する。
「どうだ?」
「危険要素は監視カメラだけだと思う」
「水は平気なのか?」
「魚や、ネズミのような生命体は感じられないわ。
それに生活汚染水も流れてないし、無臭ね。
水質は綺麗なモノよ」
あらいが運河に手を伸ばしてすくってみる。
すると、透明感があって手のしわが見えるほどだった。
「なるほど、俺たち以外の人間が居ないから汚れてないのか」
何だか皮肉なものを感じる。
人間が居ないというだけで水が綺麗になるってのは複雑な気分だった。
「監視カメラは双眼鏡で見た感じ6台ほどね。
高速移動は難しそう、これなら通り抜けられるかも」
「行けるのか?」
「私はイケると思う」
「潜水スーツは?」
「無いけど、水が綺麗だし大丈夫だと思う」
「深さは?」
「そうね…1m50cmほどかしら」
あらいが物干し竿を運河に突っ込む。
「なら…平気か?」
歩行が出来そうな程だった。
「準備ができ次第、行きましょう」
「了解」
地下のトンネルを俺たちは進むことを決めた。
夏場だからか、水が気持ちよかった。
透明感もあって不快感がまるでない。
通常、運河は生活排水が流れてることがあり、
とてもじゃないが泳ぎたいと思えないほどの汚さだ。
でも、今回は滅びの世界でのバトルロイヤル。
水がとても綺麗だった。
「ここで遊べたら楽しそうね」
「俺もそう思うよ」
「でも…今はそういう時じゃない」
「分かってるよ」
敵の陣地に入ろうってんだ。
遊んでる時じゃない。
「見て」
あらいが指さす。
「あれは」
俺は天井を確認する。
すると、監視カメラを見つける。
台数は6。
カメラは高速移動が苦手。
映像がブレるため動作がゆっくり。
左側通路に3台(うち左カメラはゆっくり右向きに旋回)
右側通路に3台(うち右カメラはゆっくり左向きに旋回)
中央はカメラなし(または別の死角)
ゆっくり旋回しているため、
カメラ同士の監視範囲に微妙な隙間が出来てる。
その隙間が侵入成功の唯一のチャンスということだ。
俺たちはそれを利用して行こう。
という訳だ。
「私の合図で潜水よ」
「了解」
「…」
あらいが先行する。
監視カメラの動きを注意する。
重なって何処にも逃げ場が無くなる。
その時、あらいが手を挙げて指示する。
「来た」
俺は潜水する。
カメラ旋回音(ウィン…チッ=4回聞くと20秒)
カメラ動作のパターン=20秒で一往復。
望遠鏡を使って撮影されない位置で確認済み。
監視カメラのLEDが光が当たってる部分が撮影エリア。
逆に言えば当たってない部分が隙という訳だ。
10秒ほど潜水できる肺があれば大丈夫。
「ぷはっ」
あらいが潜水から出る。
「ぷはっ」
俺も潜水から出るのだった。
「先…行くわよ」
あらいが段差に足をかけて歩道に降り立つ。
そして梯子に手をかける。
「俺も行く」
あらいがやってたように、
俺も水中から這い上がって梯子を上る算段だった。
ところが、足に何かが引っかかる。
「どうしたの?」
あらいが不思議そうな顔をする。
「足が…引っかかって」
「え!?」
あらいは驚いた顔をする。
「ち、ちくしょう、このままじゃ…」
監視カメラの傍についてる銃と視線が合う。
LEDの光が肩に当たる最悪の想像が頭をよぎる。
「早く!」
あらいに急かされる。
「分かってるよ、でも…」
俺は何に引っかかってるか分からず戸惑う。
足に手を伸ばすと、ヌメリ気があった。
恐らく水草だと思った。
「急いで監視カメラが」
光が俺に当たりそうになる。
「で、でも水草が!」
「お願い…当たって」
あらいはライフルを取り出して、俺の足元に発砲。
その弾丸は強力で水の中を突き進む。
そして、水草を破壊して俺は一瞬の自由を獲得する。
「うおおおおおおっ」
俺は急いで水から這い出て歩道に降り立つ。
「間に合った…みたいね」
あらいは安堵の顔をする。
「はぁ…はぁ…なんとか…な」
俺は息を整えるので精いっぱいだった。
監視カメラに備わってる銃が何処かそっぽを向いたように見えた。彼に嫌われて良かったと心から思う。
「梯子を上りましょう」
「了解」
俺たちは梯子を上って侵入する。
すると、古い物流倉庫に辿り着くのだった。




