5-8
そこは食堂エリアだった。
バイキング形式の豊富な料理と、
鮮やかな装飾の鶴が出迎えてくれた。
フルーツで出来ており、
カットの技術の高さを伺える。
「見てると腹が減って来るな」
俺はそんなことを言う。
「用心しましょう、敵が潜んでるかもしれないから」
「あぁ」
カートに乗った俺はあらいに押される。
足が動かせないので銃だけ構えてる。
「しま…」
あらいが足元で何かを踏んだ。
俺の視線の先には、潰れたバナナがあった。
バナナにはロープが巻きつけられている。
踏んだ衝撃でそれがピンと張り、
天井へと巻き上げられていく。
すると次の瞬間、釘が飛んでくる。
「うわあああああっ」
俺は足が動けないのでどうしようもなかった。
「ちっ」
あらいはカートを蹴飛ばす。
そして反動で自分は後ろに飛ぶ。
「まずは…お前からだ!」
スーツ姿の女が飛びかかってきた。
一見すると普通のOLのようだが、
その手には鋭く光るナイフがあった。
「私は…負けない!」
あらいは銃でナイフを防ぐ。
「…悪く思わないで。
貴方たちに…恨みはない。
ただ…生き残るには誰かを倒すしかないの。
自分は…幸せになるんだ」
女は自分自身に言い聞かせるように、
震える声でつぶやいた。
その目は必死で、でもどこか痛々しかった。
名前も知らない彼女の背中に、
俺は何か切なさを感じた。
「このっ!」
だが、それとは別に俺も死ぬ気は無い。
記憶もなく途方に暮れていた俺。
そんな俺に手を差し伸べたあらいのためにも死ねない。
彼女と共に生きると決めた。
だから俺は即座に反応し、カートから射撃。
弾は敵の肩を正確に撃ち抜いた。
「あぐっ…!」
ナイフが地面に転がり落ちる。
女は痛みに顔をしかめながらも、
すぐに撤退していった。
「ありがとう、私の判断ミスで迷惑かけたのに」
あらいが礼を伝える。
「気にしないでくれ」
「レン…」
あらいが安堵の笑みを見せる。
その笑顔だけで、
今までの苦労が報われた気がした。
誰かのために何かができた。
そんな実感が胸に残るのは、
初めてだったかもしれない。
「あらい…見てくれ」
「あれは…」
敵の血は、まるでグレーテルとヘンゼルが森に落としたパンくずのように道しるべになっていた。
「追いかけたら敵に辿り着けるかも?」
「そうね、逃げたってことは弱ってる証拠。
追いかけて追い詰めましょう」
「あぁ」
あらいがカートを押して向かう。
「これは…」
思わぬ問題に出くわす。
それは敵が階段で行ってる点だ。
「どうする?」
俺は足の火傷があって移動は困難。
カートに乗ってるので会談は無理なのでは?
そう思ったのだ。
「待ってて」
あらいは何処かへ移動する。
しばらくすると、リネン室から布団を持ってきた。
「どうするんだ?」
「許してね」
「え?」
布団を階段につける。
そして、俺をカートから降ろす。
「大丈夫、私も一緒だから」
「マジかよ!」
あらいは俺を抱きかかえながら階段を転がる。
13段ほどの高さから一気に転げ落ちる。
「くっ」
「あああああっ」
景色が目まぐるしく変わる。
ようやく4階へたどり着く。
「平気?」
「だいじょう…ぶ…おえっ」
俺は気持ち悪くて吐き気がする。
「ごめんなさい、他に方法が思いつかなくて」
「君は…何だか平気そうだ…」
「三半規管が強いのかも、昔やった遊びでバットぐるぐる強かったし」
「そうか…俺はまっすぐ歩けなかったよ」
「体調悪い所申し訳ないけど、
急いで進みましょう。敵を追い詰めないと」
「分かった…乗せてくれ」
「そうするわ」
あらいは再度、俺をカートに乗せる。
そして、4階の廊下へたどり着くのだった。
「血を辿ろう」
「えぇ、そうね」
そこを辿ると医療室へ。
中は乱雑になってる。
包帯を切った後や薬の箱が開けられてる。
恐らく、ここで敵は治療したんだろう。
「ついでにレンに効く火傷に効く薬を探すわ」
「ありがとう」
「これなんていいかも」
軟膏を見つける。
馬油と書かれていた。
「塗ってあげるわ」
あらいは意地悪そうな笑みをしてる。
そして、手にべっとりと軟膏をつける。
「い、いいよ別に…」
何だか照れくささを感じたのだ。
「今更照れるの?」
あらいは呆れていた。
「いいじゃんか…そういうもんなんだよ」
「そう?まぁ塗るわ」
あらいは気にしないで塗る。
「…」
俺は視線をそらし、心の中で苦笑いした。
彼女は心象風景に映った存在のように俺のことを男として意識してないように見えた。
そんな思いが胸をざわつかせた。
「これで良し」
あらいは上からガーゼと包帯を巻く。
「完璧だよ、ありがとう」
「まだ終わってないわ…最後に包帯を切らないと。
あれ?」
「どうしたんだ?」
「ハサミが無いわ」
あらいは不安そうな顔をする。
「何処かに落としたんだろ」
医務室にあって当然だと思ってた。
でも、無いのはしょうがない。
「そう…なのかな」
なにか引っかかるのかもしれない。
でも、それを言葉にできない感じだった。
「口でいいよ、気にしないし」
「そうね、無いからしょうがないわね」
口で包帯を切るあらいの横顔に、
一瞬だけ緊張の影が走った。
いつもの軽やかな動きとは違う、
戦場で生き抜くための顔。
その一瞬を俺は見逃さなかった。
「ありがとうな、助かった」
「どういたしまして…それじゃ出ましょう」
「分かった」
俺たちは廊下に出る。
すると、ハサミが飛んで来た。
「危ない!」
俺は足が動かないので上半身の筋肉だけを使って何とかあらいの盾になるように抱き着いた。
次の瞬間、背中に鋭い痛みが走る。
冷たい刃が肌を突き刺し、
熱い血が背中を伝った。
「レン!」
あらいが叫ぶ。
「ぐあっ」
そのまま地面に倒れこむ。
「このっ!」
あらいはライフルを発砲。
しかし敵に命中せず逃げられる。
「敵も…しぶといな」
「レン、平気?」
「大丈夫だ」
ハサミの傷は大したことが無い。
多分、投げて当てたから傷が浅いんだろうと思った。
「良かった」
あらいは安心した顔をする。
「絆創膏…張ってくれ」
「分かったわ」
医務室に再度戻って絆創膏を張る。
そして追跡を再開する。
「敵は治療したから血で追いかけるのは難しそうだ」
「そうね…ん?」
あいらは考える仕草をする。
するとマップを見つけた。
3階を見てる。
「いい案が浮かんだか?」
「おびき寄せられるかも」
あらいは言った。
「?」
俺はハテナマークを浮かべる。
階段で3階へ移動するのだった。




