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5-1 死者が泊まるホテル

俺は豪邸に戻る。

押し入れに隠した彼女の布団を開ける。

敵に見つからないように隠してたのだ。

「何処に…行ってたのよ」

あらいは恨めしそうに見て来る。

まだ体調が悪いのか、

言葉を話すのが辛そうだ。

「戦ってた」

俺は短く、さも当然とばかりに事実を伝える。

「ガラスの羽が10枚…勝った…のね」

あらいは俺の背中を見て言った。

「あぁ、出ないと帰ってきてないだろ?」

「1人で…戦うのは…止めて」

「でも、お前は動けなかったじゃないか」

あらいは銃弾で撃たれて意識を失っていた。治療は施したから、死ぬわけでは無いだろうが安静にしてた方がいいのは確かだ。

「それでも…私を叩き起こしてでも…呼んで…1人は絶対に…ダメ」

「あらい…」

「でも…帰ってきてくれて…嬉しい」

「起きて早々悪いんだが、ここを離れよう」

「どうして?」

「敵は倒したんだが…俺に仲間が居るってバレてる。もし…向こうにも仲間が居るならここを襲撃するかも」

「分かったわ」

「歩けるか?」

俺は肩を貸そうとする。

しかし手を払いのける。

「いらない…1人で…歩ける」

「あらい…」

「具体的な場所は決まってるの?」

「いや、それはちょっと」

「なら、私が決めても?」

「何処か、良い場所があるのか?」

「ホテルよ…」

「了解」

俺たちはホテルに向かった。

歩いて行ける距離で、なんなく着くことが出来た。

「ついたわ」

「ここは…」

それは、都会のど真ん中に我こそはと言わんばかりの自信を漂わせながら、堂々とそびえ立っていた。

外観は洋風で、洗練された現代的なデザインがひときわ目を引く。まるで客室の窓から富士山を一望できるかのような高さを誇るその建物は、圧倒的な存在感を放っていた。それは、一種の“城”と言っていいだろう。

「入りましょう」

あらいは何の躊躇いもなく進む。

それはまるで友達の家に行くみたいな気軽さだった。

「おいおい…」

俺は戸惑いながらも進む。

あらいの後をついて行くのだった。

エントランスに足を踏み入れると、頭上には豪華なシャンデリアが煌びやかに輝き、訪れる人々を優雅に迎え入れてくれる。

足元に目をやると、黒曜石のタイルが一面に敷き詰められており、その深く光沢のある質感が、空間に重厚な趣と冷ややかな静けさを添えている。

「どう?」

あらいは両手を広げてみせる。

「驚いたな、こんな場所を知ってたのか」

「えぇ」

「だが、目立つんじゃないか?」

「問題ないわ、これだけ大きいもの。

こちらを見つけるのは手間でしょ。

大きいホテルなら、広すぎて監視が分散されているし、目立たずに潜伏しやすい。

相手が少人数なら、効率よく動き回るには場所が広すぎて追いづらいし、

隠れる場所や逃げ道も多いから、一時的に安全を確保しやすい。

相手は数人なんだから、そのことはガラスの羽を見れば明らかだし」

「なるほど」

あらいの言い分は納得できた。

「だから今日はここに泊まるわ」

「ここに…」

俺は辺りを見渡す。

ロビーには高級感あふれるフェイクファーのソファが整然と並び、受付をしている間、家族や友人がゆったりとくつろげるスペースも、腕時計を外せるほどの贅沢な余裕をもって設けられていた。

「サインを書いておくわ」

あらいはサインを書く。

これは無駄な行為と言える。

この世界に俺たち以外の人は居ないのだからサインしなくても勝手に止まればいい話だ、でも彼女は律儀にサインしていた。

「本当に泊ってるみたいだな」

「出来れば…もっと違う時に来たかった…」

「え?」

「何でもないわ、先に行きましょう」

「あぁ…」

あらいの反応は何だか引っかかるものだった。でも、それは俺には知りえないものだった。

「エレベーターの方に向かいましょう。

まさかとは思うけど階段で行く?」

あらいは非常階段を指さす。

「それは遠慮したいな」

外観でも分かる通り、ここの建物は高そうだ。あれを階段で行くのはアスリートの人向けだろう。

「それじゃ、エレベーターで行きましょう」

「もちろん」

「ボタン押すわね」

「あぁ」

俺たちはボタンを押して待つ。

そして来たので乗り込む。

エレベーターに足を踏み入れた瞬間、そこはまるで別世界だった。

灯りは落とされ、ムードが漂っている。

ボタンにはⅠ、Ⅱ、Ⅲといったローマ数字が刻まれ、無機質さを感じさせない遊び心が添えられていた。

さらに、内部にはモニターが設置され、悠々と泳ぐ熱帯魚の映像が静かに流れている。

ハープのBGMがゆったりと耳に届き、空間全体を優雅で穏やかな雰囲気で包み込んでいた。

エレベーターが上昇する際の駆動音はまったく聞こえず、揺れもほとんど感じられなかった。

こうした細やかな配慮から、客の不安を一切感じさせないというホテルの姿勢が伝わってきた。

「とても綺麗ね」

「そうかな、俺は寂しい気がするけど」

「どうして?」

「ここには人が居ないだろ、

魚だけの楽園が広がってるんだからさ」

「確かにね」

そんな話をしてる間に10階に辿り着く。

扉が静かに開き、俺たちは足を踏み入れた。

青いライトに照らされ、目に優しい柔らかな光が広がる。

廊下にはふかふかとした絨毯が敷かれていて、歩き疲れないよう細やかな配慮が感じられた。

廊下の隅に置かれた壺からは、イソギンチャクの模型が鮮やかにはみ出している。

造花も添えられ、華やかでありながらもどこか落ち着いた印象を与えていた。

壁には魚たちの絵画が飾られており、まるで海の中にいるかのような錯覚を覚えさせた。

「何だか暗いな」

俺はそんな風に感じた。

「私達、深海の中に居るみたい」

隣に居た彼女はそんなことを言う。

「不思議な感じがするよ、こんなホテルに泊まっていいのかってさ」

「いいじゃない、どうせこの世界には誰も居ないんだもの。いつ、私たちも死ぬか分からないんだから多少、悪いことをしても贅沢をしましょう?」

「そうだな」

「部屋はカードキーよ」

「開けて貰っても?」

「えぇ」

あらいはぴっとカードを当てる。

そして、客室の扉を開いた。

すると、そこには想像を超える空間が広がっていた。

中心にはキングサイズのウォーターベッドが据えられ、そのフォルムはまるで貝殻の中で眠るような優雅さを感じさせる。

ベッドサイドにはスワロフスキーの魚が飾られ、部屋全体が海をモチーフにデザインされていることに気づかされる。

「凄いな、別世界だ」

普段ならばこんな場所に出入りすることは出来ない。もしかしたら、一生入ることの出来ない世界だ。でも、今日は俺は入ることが出来た。

「外を見て」

「外?」

彼女に言われるまま、俺は窓の外を覗き込む。すると、目の前には都会のパノラマが広がり、そのあまりの高さに思わず足元がすくむ。まるで宙に浮かんでいるかのような浮遊感に包まれた。

「どう?」

「なんだか怖いな、思わず落ちてしまいそうで」

「ふふ、大丈夫、落ちても受け止めてあげるから」

「ここから落ちたら2人とも死んじゃうよ」

「それもそうね、でも愛する2人が一緒に死ぬなんてロマンチックじゃない?」

「あ…愛してるって」

俺は顔が赤くなる。

彼女はそんなことを平気で言うものだから俺は照れくさかった。

「冗談よ」

彼女はくすくす笑う。

「なんだ…冗談か」

俺は落ち込む。

落ち込む?まるで本当だったら良かったみたいじゃないか。俺は彼女に惹かれてるのだろうか?

「見て、テレビもあるわ」

「本当だ」

壁掛けのテレビは、地上波からネット配信の動画まで幅広く対応しており、どんな好みにも応えてくれそうだ。もちろん、ゲーム用などにも使っても問題はない。

とても滅びた世界とは思えないほどの充実っぷりだ。

「メイク動画、料理なんても見れるわね」

「この世界は本当に滅びてるのか?」

「どうしたの急に」

「いや…なんだかおかしいなって思って」

「そう?」

「だって、可笑しいだろ。人類が滅んだのならば…電子機器が全て止まっていても可笑しくないのに…こうして全て生きてるんだ…まるで戦いの舞台に招待されたみたいじゃないか」

「どうかしら?」

あらいの言い方はなんだかはぐらかしてるような気がした。真実に触れたくないって言ってるように思える。

「本当は君は何か知ってるんじゃないのか?」

俺は確信に迫ることを言う。

「仮に知ってたとしても…それを言う意味がある?」

「どういことだ?」

「仮に…この世界が招待されたものだとしても…結局は変わらないでしょ。戦うことには変わりない、違う?」

「それは…そうだが」

「私は初めから決まってる、この戦いに勝つって…あなたは生きたくないの?」

「生きたいさ…だが真実を隠されてる気がするのは気分が良くない」

「真実に向かおうとすれば、いずれたどり着けるわ…今はただ何も考えず前に進みましょう…余計な事を考えたら…死ぬかもしれないのだから」

「分かったよ」

彼女はどうしても教えてはくれなさそうだ。だが、何時の日か確実に教えてもらわねばならない。その日が来るのを俺は待つことに決めた。





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