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街を歩いてると、不思議なことに気づく。
それは人の気配がまるでないからだ。
「何か聞きたそうな顔ね」
「ここは駅前だ、どっちかと言えば人が賑わってる側の方だろう」
「そうね」
「にも関わらず、人の気配ってのがまるで感じないんだが」
辺りを見渡しても、歩いてるのは俺たちだけ。
他の動植物は生きてるが、人間だけが排除されたようなそんな印象を受ける。
「それはここが戦いの舞台だからよ」
「戦いの舞台?」
「殺戮エデン、それがここの名前」
「さつりく…えでん…」
俺は繰り返すように呟く。
「バトルロイヤルって聞いたことあるでしょう」
「生き残りをかけたデスゲーム。
どうしてそんなものに、俺は参加する意思はないぞ」
「レンの意思はどうでもいいの」
「どうでもいいって、そんなの人権侵害だろう」
「向こうはそういうのを気にしないでしょ」
「そんなのって」
俺という存在が雑に扱われてる気がして不愉快だった。
「もう、ゲームは始まってるの」
「だ・・・だったら可笑しいじゃないか」
「何が?」
「君は銃を持っていて、俺は銃を持ってない。
そんなの不公平じゃないか」
「確かにそうね」
「だろう、だったら戦いに参加したい訳じゃないが武器を与えてくれたって良いじゃないか」
「そこで叫んでみたら、銃を下さいって」
「それは」
俺は黙ってしまう。
そんな馬鹿馬鹿しいことが出来ないからだ。
敵に見つかるかもしれないし、
第一、誰に向かって叫べと言うのだ。
俺はこのゲームの企画者の顔すら知らないのに。
「いいこと、人生においても同じ。
全ての人間が平等に権利が与えられてる訳じゃない。
不思議なもので与えられるのは成功へのチャンスを与えられるけれど、その一方で成功のチャンスを与えられない人がいる」
「銃がチャンスだって言いたいのか?」
「そうね」
「…」
俺はチャンスが与えられなかった側の人間ってことだろう。
だから銃が与えられなかった。
ゲームの主催者は俺が死ぬことを望んでるのかもしれない。
「でも、運がいいわ」
「どうしてだよ、銃が与えられなかったのに」
「だって、私が協力してあげてるじゃない。
それは運がいいんじゃない?」
「…そうかもしれない」
武器を持ってない俺を仲間として引き入れてくれたのは運が良いのかもしれない。ただ、何のメリットも無しに受け入れてくれるとも思えないが。その理由が分からないから一緒に居る怖さもある、でも、現段階で言えば彼女は俺に利用価値を感じていて、今の所は生かしてもらってる。彼女の思惑さえ理解できれば俺はそのタイミングで逆に裏切るってのも1つの手だ。生き残ることを考えたら、それも1つの案だろう。だけど、そのことを逆に悟られたら俺は間違えなく殺されるだろう。銃が無いのだから。
「レンは運がいいわ、とってもね」
あらいはにこッと笑う。
「そういえば少し気になるんだが」
「なに?」
「俺たちは何処に向ってるんだ?」
「ついてくれば分かるわ」
「ついてくればって場所は教えてくれないのか?」
「…」
あらいは黙り込む。
それ以上は聞くなってことか。
俺は銃を持ってないので従うしかないだろう。
黙ってついていくことにした。