3-8
それは、この家に来て二日後のことだった。
翌朝のリビングに、ソファーで休む男が居た。
顔にアイマスクをして寝ている。
「敵…?」
あらいが警戒してる。
アサルトライフルを構えて、顔に照準を当ててる。
「初めて見る顔だ、聞いてくる」
もしかして、みやこの協力者だろうか?
彼女に確認をしようとしたが、
その前にあらいに止められる。
「いえ、その必要は無いわ。
直接彼に聞けばいい」
あらいはソファーを蹴飛ばす。
「ひぎゃっ」
男はソファーから落ちる。
そして何事かと思い、アイマスクを外してこちらを見る。
「10秒で答えて、こちらが問いに迷いがあると判断したら殺す。怪しい動きをしたら殺す。気に食わない行動をしたら殺す」
「分かった、答えるよ!」
スーツ姿でガラスの羽が生えた男が両手を挙げて答える。
誠実そうな見た目だった。
「貴方の名前は?」
「七ツ役塔。
苗字がななつやくで、名がとうだ」
「とうね、了解。
それでここに居る理由は?」
「君らもここに居るってことは、あの子の考えに賛同したんだろう?」
「じゃ、貴方も?」
「平和が一番…だもんな」
「レン」
あらいは急に俺の名前を呼ぶ。
「なに?」
俺は答える。
「とうのボディチェックを」
あらいが指示する。
「分かった」
俺は彼の身体を探る。
「優しくしてくれよ…?」
とうは俺のことを観察するような眼で見て来る。
それは何だかとても嫌な感じだった。
「疑ってすまない、だがこれも仕方ないことだと理解してくれ」
「分かってるよ」
「…」
俺はとうの身体をチェックする。
すると驚くべきことに、彼の身体からサブマシンガンが出て来る
「見つかったか」
とうは諦めたような顔をする。
「これは」
紛れもなく人を殺す武器だろう。
「おっと、言っておくが君らだって持ってるじゃないか。
僕だけが特別、武器を持ってるって訳じゃないのは理解してもらえるだろ?」
とうは口早にそんなことを言う。
「そうね、持ってること自体は不自然じゃないわ。
でもね、だからといって放っておくわけにはいかないの」
あらいはサブマシンガンを俺から取り上げる。
そして、地面に落とした。
「何を」
俺が最後の言葉を紡ぐ前に、彼女は動いた。
思い切り踏みつけ、サブマシンガンを破壊する。
何度も何度も踏みつけて、粉々になるまで。
「随分と乱暴だな」
とうは呆れるような声をだす。
「この家では暴力は禁止よ、武器を持ってるのはいけないことなの」
あらいはさも当然ってばかりにそんなことを言う。
「何事ですッ!?」
騒ぎを聞きつけてか、みやこがやってくる。
「みやこさん、僕のことを説明してなかったんですか?」
とうは呆れるように言う。
「それは…ごめんなさい…こんなことになると思わなくて」
みやこは申し訳なさそうにする。
「事情を説明して、でないと私は2人を殺さなければならないの」
あらいはとうとみやこにアサルトライフルを向ける。
殺意は十分、いつでも行けるって感じの雰囲気だ。
「しぃが連れて来たんです。
しぃの考え方を受け入れてくれたから…」
みやこはそう答える。
「僕は彼女の平和的な考え方にとても感動したんだ。
このバトルロイヤルの世界で、手を取り合おうって言うんだからね。それは夢物語かもしれないが、それでも初めから諦めて何もしないより、出来ると信じて動くのはとても前向きな考えだと思ってね。共感できたんだ」
とうは答える。
「私、みやこは信じてもいいかなって思ってる。
でもね、貴方は何か胡散臭いモノを感じるのよ。
足を洗ってないのに、家に押し入る訪問販売員みたいに」
「それは僕も同じだ、みやこさんは信じてもいいって思ったね。でも、いきなり寝てる男を起こして、銃を突きつける女を信用しろと?」
とうの言い分はこうだった。
「待ってください、2人とも喧嘩は駄目ですッ!」
みやこが仲裁に入る。
「だが、落としどころを見つけないと喧嘩は収まりそうにないぞ」
俺は遠くでそんなことを言った。
「僕の要求は決まってる、銃を壊せ」
「…」
あらいは無言になる。
「僕のサブマシンガンを壊したんだ。
平和を訴えようって言うんだからね、持ってるのは変だから壊したい気持ちは理解できるよ。でもね、僕の銃を壊しておいて君は銃を手放さないって言うなら話は違うよね。
それで平和を作れるのかい?」
とうは持論を展開する。
「それは」
あらいは言葉に詰まる。
「君も壊すのが筋ってものじゃないのかい?」
とうは、そう告げる。
「お願いします、あらいちゃん。
しぃのためにも、いや、ここ居る皆のためにも銃を捨てて」
「…」
あらいは何か考えてる様子だった。
「あらい…」
俺はどうしたいいのか分からず戸惑うばかりだった。
「いいわ」
あらいは目の前でアサルトライフルを地面に落として、
踏みつけた。そして粉々にする。
「Nice job」
とうは笑う。
「本当に良かったのか、あらい」
俺は彼女に尋ねる。
「この場はこうする以外ないでしょ」
あらいはやや諦めたような口調だった。
「本当に素晴らしい、平和への気持ちを感じたよ」
とうは拍手を送る。
「ありがとう」
だが、あらいは褒められても嬉しくなさそうだった。
「ところで、相方の君はどうなんだ?」
「俺…?」
「ああ、そうさ。君も参加者なら、武器を持っていても不思議じゃないだろう?」
「そうだな……持ってるよ」
俺は拳銃を取り出した。
「君も…壊してくれるんだろう?」
とうは試すような目でこちらを見てくる。
「…」
俺は無言で、拳銃のマガジンを抜き取り、
親指で弾を一本ずつ、九発、はじき出していった。
「なるほど、そうきたか」
とうは感心したように頷く。
「これでいいだろ?」
俺は弾が完全に排出されたマガジンを見せた。
「問題はなさそうだ」
とうは納得した様子だった。
「ふぅ…」
俺はため息をつく。
「これで僕らは、平和への第一歩を踏み出したんだ。
実に喜ばしいことじゃないか!」
とうは大げさに手を広げる。
「…そうだな」
だが、俺は彼を信じきることができなかった。
みやこは無条件で彼を信じた。
だがとうは、完全に警戒を解いてはいない。
きっと彼の中には、まだ拭えない”闇”があるのだ。
「人は愚かだ…戦いは何も得られない。
失うばかりだというのに…それでも戦いに希望を見出す生き物だ。冷静に考えれば…それがいかに無駄か分かるはずなのに…だから僕は戦わないんだ…無駄だからね」
それが、“とう”という男の哲学なのだろう。
「それじゃ、もういいか」
俺はその場を離れようと体を動かす。
「ちょっと、いいかな」
とうの声がかかる。
「…なんだ?」
俺は振り返った。
「チェンバーの弾は?」
とうはにこにこと笑っていた。
だが…その目は笑っていなかった。
「ほらよ」
俺はスライドを引き、
チャンバーに残っていた最後の一発を排出する。
「Nice job」
とうは満足げに言った。
「さ、さぁ! 仲を深めるためにBBQしましょう!」
みやこは仲を取り持とうと頑張っていた。
「雨だけど?」
あらいは淡々と告げる。
「あぅ」
みやこは黙ってしまう。
「雨じゃ難しいよな」
中庭はボタン1つで天井を閉じることが可能だ。
なので、やろうと思えば出来なくはない。
しかし、煙が充満してしまい良くないだろう。
「そうだ、あれがある!」
みやこは何かを思い出したようで、冷蔵庫に向かう。
すると、あるものを持ってきてくれた。
「鍋?」
両手に抱えたそれは何だろうと俺は中を覗き込む。
「チーズフォンデュ、ですか。
僕は結構好きですよ」
とうはそんな風に言った。
「私も別に嫌いじゃないわ」
あらいが席に着く。
「それならよかったです、皆で楽しみましょう」
テーブルの上にどんと乗せる。
「しかし、このままだと硬いですね」
とうは不満そうだ。
冷蔵庫に入っていたからか、
チーズが固まってるのだろう。
「あれならいいと思う、えーと何だっけか」
俺は名前が出てこない。
「カセットコンロ?」
隣に居たあらいがさっと言葉にする。
「それだ」
俺は指を鳴らす。
「よく、あれで出てきましたね」
みやこが笑う。
「仲が良いんだな」
とうも笑う。
「あはは…」
俺は少し照れくさい気分だった。
「確か、あったと思いますよ。
キッチンの棚を探してみますね」
みやこは棚を漁る。
「僕も探すよ」
とうも探す。
「嬉しい、ですッ」
みやこは笑みを零す。
「これじゃないかな」
とうはカセットコンロを見つける。
「ありがとう、ですッ!」
みやこは礼を伝える。
「見つかって良かった」
とうは微笑む。
「皆さん、見つかりましたよ!」
みやこはテーブルの上にカセットコンロを乗せる。
「僕が点火するよ、爆発しないといいけど」
とうは点火スイッチをひねる。
「怖いことを言わないでくれ」
俺はため息を吐く。
「これで皆、全滅したら面白いわね」
あらいが怖いことを言うのだった。
「あらい君が一番怖いね」
とうは苦笑する。
「あ、つきましたよ」
みやこがそう言うと、
カセットコンロに火がついたのが確認できた。
「食材は何があるんだ?」
俺は尋ねる。
「じゃがいもとか、ソーセージとかありますよ」
みやこは答える。
「それは美味そう」
俺は涎が出てきそうだった。
「これでチーズフォンデュが食べれそうだ」
とうは嬉しそうだった。
「こういうの好きなのね、意外だわ」
あらいが驚く。
「意外そうだったかな」
とうは何の気なしに喋る。
「見た目のイメージで勝手に、健康食とか好きそうだなって思ってね」
あらいはそんなことを言う。
「当たってるよ、サラダチキンとか好きなんだ」
とうはそんなことを言う。
「ごめんなさい、サラダチキンは無くて…。
でも、チキンがあるので作れると思いますが?」
みやこがそんなことを言う。
「あぁ、気にしないでくれ。
チーズフォンデュに不満がある訳じゃないんだ。
ただ、会話のやり取りで何が好きかって話だと思ったから、僕は僕の好きなものを答えただけなんだよ」
とうは否定する。
「そうですか、でも作って欲しかったら言ってください。
作りますから」
みやこはそんなことを言う。
「分かった、その時はお願いするよ」
とうは返事した。
「チーズがもういい感じだぜ」
俺は蓋を開けて中を確認する。
「それじゃー、皆さん、ご一緒に…いただきます」
みやこが音頭を取る。
「いただきます」
俺は手を合わせる。
「いただくわ」
あらいも手を合わせる。
「こういうのは大事だからね」
とうも手を合わせた。
「潔癖の人は、冷蔵庫にチーズが余ってますから後で食べてくださいね」
みやこがそう言った。
そのことに特に誰かが返事することは無く、
チーズフォンデュに皆でがっつくのだった。
「結局のところ、上からかけても味は変わらないんだが、何だか、こうして鍋でつつくと美味く感じるのは何でだろうな」
俺は結構美味いと感じながら食べる。
「皆で食べるからですッ!」
みやこはさも当然って感じで答える。
「人は寂しさを飼いならせない生き物だからね。
だからこうして皆で鍋をつつくことで1人で食べる時よりもうま味を感じるのさ」
とうがそんなことを言う。
「1人でも美味いものは美味いけどね」
あらいは冷静だった。
「ぶっころりを下さい!」
みやこが手を差し出す。
「どうぞ」
俺はブロッコリーの皿を出す。
「ありがとう、ですッ!」
みやこは礼を言った。
「なに、ぶっころりって。ブロッコリーじゃないの?」
あらいは冷静に答える。
「ぶっころりはぶっころりですッ。
地元だとこう呼んでたんですよ~、ローカル何ですかね?」
「多分だけど、みやこだけじゃない?」
あらいはそう答える。
「あはは、なら恥ずかしいです」
みやこは照れくさそうだった。
「みやこ、口開けて」
あらいが指示する。
「こーですか?」
みやこは素直に口を開ける。
「ほら」
あらいはブロッコリーをみやこの口に突っ込む。
「あふ、あふ」
みやこは少し熱そうにする。
「ぶっころり、美味しい?」
あらいが尋ねる。
「ぶっころり、最高です!」
みやこは大きく笑うのだった。




