3-4
廃屋の中。
そこは電気が通ってない家だった。
探せば電気が通ってる家もあるだろうが、
無い家の方が良かった。
夜中に灯りが漏れたら明らかに変だからだ。
それに、電気を使えばメーターが動く。
どこで敵に見つかるか分からないと思ってのことだった。
「少し…暗いな」
我慢しなければならないのは分かってるが、
つい口にしてしまう。
「つける?」
あらいはさも当然って感じで聞いて来る。
「いや。いいよ、敵に見つかるだろ?」
「あんまり強いとね、でも工夫すれば平気よ」
「工夫」
「ほら、こうやって」
あらいはカーテンを閉める。
「なるほど遮光カーテンか」
これならある程度の光は隠すことが可能だ。
「見て」
あらいはロウソクをつける。
「綺麗だ」
「バカ…」
あらいは顔を少し赤くする。
「どうしてだよ」
「何でもないわ」
あらいはそっぽ向く。
「?」
俺は良く分からなかった。
「もう、寝ましょう」
「そうだね」
夜も遅くなってきたし、いいかなって思ったのだ。
「どうぞ、先に寝て」
あらいは提案する。
「先に寝てって…あらいはどうするんだよ」
「起きてるに決まってるわ」
「交代ってこと?」
「いいえ、私だけがずっと起きてるわ」
「身体に悪いよ」
「でも、貴方に負担をかけたくない」
「気にしないから寝なよ、せっかく2人居るんだ。
その長所を生かして交代で休もう、じゃないと持たないよ」
「…分かったわ…じゃあ君が寝たら3時間後に起こすわ」
「うん」
約束を取り付けた。
「…」
あらいは銃を持って壁に寄りかかってる。
いつでも撃てるって雰囲気だった。
どうみても異常で、普通ならばこんな人が目の前に居たら落ち着かない筈なのに何故か妙な安心感が俺の中にあった。
「ねぇ、あらい」
「なに?」
「ありがとう、俺と一緒に居てくれて」
「何を急に」
「何故だか、伝えたくて」
「変な人、私が裏切るかもしれないのに」
「君は俺を裏切らない気がする、何故かそう思える」
「気の所為よ」
「そうかな」
「そうよ、前は裏切りの天才って皮肉を言われたことがあったもの」
「それは昔の君の話?」
「えぇ」
「でも、それはきっと理由があったんだ。
それは裏切らなければ叶えられないほど重要な事なんだ」
「どうかしらね、案外、恋人のためにとか、
大したことない理由かもよ?」
「そうとは思えない、君は賢くて強い人だ。
己のために動かない筈」
「さぁ…ね」
あらいは遠くを見つめる。
はぐらかして真実を教える気は無さそうだった。
「あらい…」
「眠れないの?」
「いや、そういうことでは」
「来て、抱きしめてあげる。
そうすれば安心して眠れるでしょ」
「い、いいよ別に」
何だか子供の反抗期みたいなこと言ってる。
俺は布団を被って眠る。
「おやすみ、レン」
あらいはふっとロウソクの灯りを消した。
本当は戦場において不要な動作だったのかもしれない。
でも、俺の我儘を聞いてくれてつけたのだと分かった。
今は私だけになるから必要ない。
きっと、そう感じたのだろう。
ロウソクを消した瞬間、そのことが理解できた。
翌朝になる、
「ん…」
朝日が昇ってる。
遮光カーテンの隙間から光が漏れ出る。
それで気づいたのだ。
「おはよう、レン」
あらいは昨日と変わらない位置で銃を構えていた。
「俺…どれくらい寝てた?」
「3時間くらいかしら」
「嘘だ」
「嘘じゃないわ」
「3時間なら、深夜の筈だよ」
「そうかしら」
「ずっと起きてたのか?」
「朝方なのよ」
「無理は駄目だ」
「無理はしてないわ」
「でも」
「貴方が起きたのならば、もう充分よ。
行きましょう」
「…」
本当に大丈夫なのだろうか?
何だか彼女の行動は何処か常軌を逸してる気がした。
”消えてもいい”
そんな風に思えた。
「双眼鏡を持って見張りましょう」
「あ…あぁ…」
俺は言われるがまま公園に居るであろう、
みやこを監視する。
昨日と変わらず公園で平和を訴えてる。
プラカードには武器を捨てましょうと書いてある。
「どう?」
あらいが聞いて来る。
「どうも何も、昨日と同じ。
平和活動をしてるだけだよ」
「そう」
「彼女はやっぱり敵とは思えない」
「私は確信を得ない、だから今日は協力者が接近してこないか見てたい」
「分かった、俺が見てるから休んでていいよ」
「休みたくなったらそうさせてもらうわ」
「…」
強いのはいいんだけど、隙が無いのも困りものだ。
全く休む気配がない。
大丈夫なのだろうか?
「ほら、見張ってくれるんでしょ」
「あぁ…」
俺は監視を続ける。
と言っても、昨日と大差ない。
焼き肉の準備をして、煙を出して人を誘う。
そして平和を訴える。
昨日と違うのは客が一切来ない点だろうか?
「どう?」
「全く、変化なし」
「そう」
「警戒し過ぎなだけに思えて来たな」
「…」
さすがにあらいもそんな気がしてきたのだろう。
違うとはプライドが邪魔して言えないが、
本心ではそう思ってるので言葉に出来ないんだと感じた。
「俺…行くわ」
「レン?」
あらいは心配そうな目を向けて来る。
「じゃあね」
俺は家を飛び出して行ってみる。
「レン!」
あらいに捕まえられそうになるが、俺は捕まえられることなくみやこの元へ向かう。
公園に向かうと、彼女はとても嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あぁ~。昨日の方ですね」
みやこはプラカードを持って出迎えてくれる。
「順調?」
「そうですね~人が来ないので順調…とは言えないですッ…でも…諦めませんよ~しぃは」
「一緒に待つよ」
俺はそう言うと、宝石を見つけた少女のように目を輝かせていた。
「わぁ~…とっても…とっても嬉しいですッ!」
「そんなに喜ぶことか?」
「嬉しいですッ、だってしぃの考えが証明されたも同然じゃないですか」
「証明されたって大げさな、まだ俺だけだろ?」
「0に何をかけても0ですが、1ならば、可能性があるってことですッ!」
「みやこ…」
「さぁ、煙をばんばん出しましょう」
「あぁ」
きっとあらいは遠くで見てるんだろう。
呆れる彼女の顔が浮かんできそうだ。
あらいは近づくことなく俺たちだけで勧誘を行う。
けれど、結局夕方になっても人が来ることは無かった。
「残念ですけど、悪くない気分ですッ」
みやこの顔は晴れやかだった。
「そうか」
「さて、片づけをしないと」
「手伝うよ」
「ありがたいです、あっ」
みやこは何かを思い出したように呟く。
「どうしたの?」
「昨日と同じで家に帰りますか?
それともしぃの家に来てみますか?」
「行くよ、そこに運べばいいんだろ?」
「はいッ!」
みやこは嬉しそうな顔をする。
手伝いの甲斐がある。
「よいしょっと」
俺はBBQセットを持って歩く。
「ここから近いので大丈夫ですよ」
「そうなんだ」
「だから何度も運べるんですよぉ」
「それならいっそ、家で招待してもいいんじゃないのか?」
「段階を踏んだ方が信頼を積み重ねた感じが出ていいかと」
「…」
そういう所は頭が回るな。
心理テクニックの1つだろう。
相手に実感を与えるってことだ。
例えるならば、友達の女性が家にいきなり招いてくれるよりも、付き合って恋人になってから家に招いてくれた方が信頼してくれたんだと嬉しくなるようなものだ。
達成感とも言い換えて言いだろう。
そうすることで距離が近くなったと感じる。
ということだ。
人と仲良くなるためのテクニックだろうと俺は思う。
「それじゃー、ついて来て下さい」
みやこはダンボールを持って移動する。
俺は彼女についていく。
きっとあらいも後ろからついてくるんだろうな。
そんなことを考えながら、みやこの家に行くのだった。




