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第五話 若気のいたり

 酒の調達にでかけた影たちがワゴンを押して戻ってきた。新しいグラスが配られ、軽くつまめるオードブルがテーブルに並んだ。


 新年まであと一時間ほどだ。さっさとこの上映会を終わりにして父上とお話したい。この機会になんとしてもフランとの婚約を認めてもらうのだ。


 再び照明がすううっと暗くなり、壁の上に映像が映し出される。


——待ってました~

——ピューピュー

——いえーい


全員、出来上がっている。



 赤や黄色に染まった木々が午後の日差しに照らされる庭園の様子から映像は始まった。


 秋色に染まる中庭の風景をバックにタイトルロールが流れてきた。


『☆溺れる王子(R18)☆彡』


 さっきから思っているがあのダサいタイトルはなんなんだ。そしてなんだ?あの、R18って数字は……



 記録玉の撮影者は中庭から生徒会室のある棟に入り、ずんずんと廊下を進んでいる。生徒会室を通り過ぎ……王族専用の談話室のドアが開いた……そして棚の上に記録玉を設置している様子の撮影者



——まさか

——まさかまさか



……撮影者の体で遮られていた視界がひろがると……記録玉には談話室の大きなソファが映っていた。



――ひいいいいいいい


 俺は一気に全身の血の気が引いた。




 この先のシーンを家族全員で鑑賞するなんて無理だ。絶対に無理だ!体当たりでも何でもいい、あの玉を壊さなければ!


 俺は叫び声をあげながら記録玉に向かって突進した。


「やめろおおおおおおお」


 だが、記録玉まであと一歩というところで、影の手によって、まるで暴漢をねじ伏せるかのように床に引き倒された。


「ぎゃん」


 影が俺の腕を後ろに捻り上げ、背中の上にひざを乗せて床に押しつけている。


 倒れたまま俺は叫んだ。


「姉さま! アリア姉さま! 何でも言うことを聞きます! 一生のお願いです! 上映をやめてくださいっ」


 床に倒れたまま必死に懇願したが、母上にジロリと睨まれた。


 怖い。だが、これだけは駄目だ!絶対に無理だ。


「ねえさま!何でも言うことを聞きます。本当に後生ですから!姉さまああああ!!!!!」


「影!バカ息子の口を閉じてちょうだい」


 影が手を振り上げると、しゅるるるっと光の帯が現れて俺の口に巻き付いた。


「むご。むごむごご……」


 続いて体もぐるぐると魔術で縛られ、身動きすることができなくなった。


「うるさいから、そのへんに転がしておきましょうよ」とアリア姉さま。


 俺は口をふさがれ、全身を縛られ、影たちの足元にごろんと転がされた。



——まずいまずいまずい


 これからどういう映像が流れるのか想像するだけで、吐き気がする。どうせなら意識も奪って欲しかった。


「むごーむごごごご」芋虫のように体をくねらせて抗議するが誰も聞いてくれない。




 映像では、俺がフランの手を引いて談話室に入ってくるところが見えた。


フランが俺に泣きながら縋りつく。

俺はフランを抱きしめてその背中を優しくさすった。

恋人たちの美しいワンシーンだった。


『エディ……わたし、わたし、もうどうしていいのかわからない……うぅっ……私を貶める噂話が広がってクラスではもう話をしてくれる人が誰もいないの……全員が私を無視するのよ……』


『なんてことだ……マリエルが手を回しているのか……すまない……俺が守ると言ったのに……』


『私にはエディしかいないのに……私たち一緒にいちゃいけなかったの?……もう会わないほうがいいの?……ううぅ』


『フラン。泣くな。泣かないでくれ。俺には君が必要だ。離れるなんて言わないでくれ』


『エディ……』うるんだ瞳で俺を見つめるフラン。

『フラン……』フランの涙をそっと親指でぬぐうと、フランがぎゅっと体を寄せてきた。

 俺がフランの顔を両手でそっと支えると彼女が瞳を閉じた。もう抗えなかった。


 フランの震える唇にそっと口づけを落とす。一度、二度、三度と繰り返すうちに、口づけは深くなり、お互いに激しく求めあった。


 体の力が抜けたフランを抱きかかえソファに移動すると、『いや、離れないで。エディ』とフランが俺の膝にのってきた。



——むごごごごっごごむごむぐぐっ

 芋虫のように縛られたまま、俺はじたばたと全身で抗議した。やめろ、映像を止めてくれっ。


だが、無情にも記録玉はとまらない。



『こわいの。ひとりにしないで。離さないで』


今度はフランから俺に口づけた。俺の膝をまたぐように覆いかぶさって、情熱的にフランは俺を求めていた。彼女は愛おしそうに俺の目の上、頬、あご、首すじへと口づけた。耳元で彼女の荒い息づかいが聞こえる。


『エディ、あなたが好き。はあっ。すき。愛しているの。はあっ。ちゅ。ちゅう。離れたくないの』

 フランのやわらかい体をぎゅうぎゅうとすり寄せられて、反応した俺の腰が動いてしまう。


『駄目だ。こんなところで、君の純潔を散らすなんてできない』俺が彼女の肩をつかむと、いやいやというようにフランが縋りつく。


『エディ。もし、これが最後だとしても、あなたとの思い出が欲しいの。愛しているの。あなたに愛された思い出がほしいの』

 フランがジャケットをはらりと落として、シャツのボタンに手をかけた。



——むごむごむごごっむうごおおお

俺はばったんばったんとエビのように暴れた


(こんなのはプライバシーの侵害だ。なにより彼女の尊厳を汚している。ここには影たちがいるんだぞ。彼女の肌を他の男にさらすなんて)


——むごごっごごむぎぎぎ

 姉さまに怨念のこもった視線をむけるが、姉さまは意に介さず、ちらっと視線をおくっただけでワイングラスを傾けた。





ソファの上にフランを押し倒すところが映る。フランのはだけた胸が……




——むごごぉおおおお(姉さま!なぜ俺にこんな仕打ちを!)


 俺は体中を魔術の糸で戒められたまま、全身をじったんばったんと床に打ちつけ、血を吐く思いで声をあげた。


——むごむごむごぉおおおお


 すると、ぱっと画面が白く輝き、肌があらわになった部分に霧がかかった。


——むごっ?


 ふたりの裸がまっしろな光に包まれて見えなくなると同時に、睦あうふたりの音声も消えた。だが行為が行われていることははっきりとわかる……




 恥ずかしい映像が流れるままにして、母上が地獄の底から響くような声で言った。

「エドワード、あなたには心底、失望したわ」


「マリエルに申し訳ないわ」とイブ姉さま。


「こんな簡単にハニートラップにかかる馬鹿はいないわよね」とアリア姉さま。


——普通の女がこんな誘い方するわけないだろ

 ぎゃははと影たちが下品な言葉でやじを飛ばし、小声でささやきあいながら、くっくっと笑っているのが後ろから聞こえてくる。





映像が切り替わり、暦の日付が映った。

そしてふたたびソファで抱き合う二人の様子が映る。音はない。かわりに音楽が流れている。


また、暦が変わる。

部屋に入ってすぐにソファに倒れこむ俺たち。


そしてまた別の日付

俺にまたがるフラン……




——ほぼ毎日やんけ

——発情期かな

——殿下は胸フェチっすか

——いや、いれるのはえーて

——あれは接待やな



家族はもう無言だった……


(誰かあの映像を止めてくれっ。本当にやめてくれっ)

俺はやりきれなさに耐えられず、頭をがんがん床に打ちつけた。


 すると、今までずっと黙っていた父上がおずおずと声をあげた。

「エドワードも反省したんじゃないか?そろそろ終わりにしてもいいんじゃないか……」


——むごむごむごぅ(父上!俺の味方は父上だけです)

俺は天の助け!とばかりに、ぶんぶん頭を振って必死で頷いた。


 だが……

「若気のいたりってやつだよ……」と、父上がぽつりとつぶやいたとたん、母上の様子が一変した。


 母上の後ろからぶわっとおどろおどろしい妖気が漂っているように見える。



「あなた……若気のいたりなら、何をしても許されると言うの?」


——父上がごくりと唾を飲んだ


 母上がずいっと父上に顔を寄せて詰め寄る。近い。あれは怖い。


「もしかして、ご自分の黒歴史も、若気のいたりだと反省していらっしゃらなかったのかしら……陛下の黒歴史も公開して娘たちにジャッジしてもらったほうがよいかしら?」


「いやいやいや、はは、そんなことない。そんなことはないぞ」


 父上がうろたえて両手をブンブンふってのけ反った。


「エドワード!しっかり反省しろ」

父上は無情にも敵方にあっさり寝返った。


——むごぉっ

(父上にもあるのかよっ。黒歴史!)



年明けまでに完結したい!


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